ゼータと上総   作:空也真朋

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36話 翔んで紅の姉妹

 あのソ連の女衛士たちは、西側の間で【紅の姉妹】と呼ばれているそうだ。

 姉のクリスカ・ビャーチェノワ。

 妹のイーニァ・シェスチナ。

 

 名字がちがうので血はつながっていないのかもしれないが、二人ともよく似ていることと、本当の姉妹のようにいつもいっしょにいることからそう呼ばれているそうだ。

 秘密主義のソ連らしく彼女らの詳しいことは何もわからないが、訓練などを垣間見た者の話では相当のスゴ腕らしい。

 オレはその妹、イーニァがやけに気になっている。

 

 「まさか………ねぇ。あり得ないはずですが」

 

 オレの呟きに、脇に置いてある丸型ロボが反応した。

 

 「どうしたの? さっきから集中ができていないけど」

 

 「ハロ!? いましゃべっちゃダメでしょう! 篁さんに聞かれてしまいますわ」

 

 現在オレと白銀は基地の端の演習場にて、篁さんの指揮のもと互いのガンダムの機動確認中。

 実はこのアラスカの任務中はオレ達は篁さんの指揮下にはいっているのだ。

 演習の段取りなんかも彼女がやってくれている。

 つまり彼女は指揮官として常にこちらをモニターしているのだ。

 

 「大丈夫。ゼータのコクピット内の声はボクが外に出すものを選別できるから。それより何か気になっているの?」

 

 「ええ。実は”紅の姉妹”の妹の方なのですが。”共感”を感じたような気がしたのです」

 

 「それってニュータイプ同士が近寄るとおきるアレ?」

 

 ハマーンが屋敷に忍び込んだジュドーを感じたアレだったり、アムロが「シャアか!」とか言ったりしたときのソレだ。

 

 「つまりイーニァ(あの子)もニュータイプかもしれません。ですが………」

 

 「ですが?」

 

 「ニュータイプは人類が宇宙に進出する過程で進化してなった存在。この世界の人間が進化する必然性はないはずです。であるなら、あの子はいったいどのようにして?」

 

 「謎だね。けどいまは演習に集中しよう。考えれば謎が解けるわけもなし。ボクたちに答えを知る術があるわけでもなし」

 

 ………………そうだな。何よりいまは篁さんが見ている。

 昔、彼女に『虫唾が走りますわね。あなた達の関係。さんざんぶら下がって甘やかし放題。見るに堪えませんわ』なんてキツいセリフを言った手前……………

 いやいやオレは言ってない。そんな冷酷なセリフ!

 

 「たしかに今は任務中でしたわね。それに万一ですが、あのタリサ(おサル)が撮影任務を問題なく遂行できた場合。こっちはそれ以上の成果をたたき出さないと気が済みませんわ!」

 

 「すっかり女だねぇ。ま、あれでもこのユーコン基地のテストパイロット。つまり衛士のエリートだ。撮影任務の半日くらい……………」

 

 

 ピーーッ

 

 そのとき緊急通信がはいった。νガンダムの白銀からだ。

 

 『篁中尉、上総、上空十時の方向だ!』

 

 白銀に言われるまでもなく、すでにその方位からの異変は感じ取れてはいた。

 が、実際見てみると驚愕した。

 

 ――――――「な、なんですの!?」

 

 『バカな! マナンダル少尉!?』

 

 そこには二機の戦術機が猛スピードでこちらに飛行してきていたのだ。

 それは撮影任務をしているはずのタリサ(おサル)F-15・ACTV(アクティブ)とソ連のチェルミナートル。

 それらがもつれるように格闘機動(ドッグファイト)をしながらこちらへ向かっている。

 

 追われるF-15・ACTV(アクティブ)は高度なきりもみのような急速回避運動をとり続け、その動きは衛士の技量の高さをうかがわせる。本当に腕だけはいいな、あのサルは。

 

 されどそれを追うチェルミナートル。

 それほどの動きを見せるF-15・ACTV(アクティブ)に対し、なんと常に背後をとり続けている。

 まさに、それは通常ではあり得ないほどの技量。

 

 ………………ニュータイプ? やはりか?

 

 

 ――――――ゴオォォウッ!!

 

 

 それらは轟音とともにオレ達の上空を走り抜け、彼方へと飛び去っていく。

 あまりに信じられない光景に呆然となって見送った。

 

 「なにをやっていますの、あのおサルは。撮影が【友好のエレメント】から【友好のドッグファイト】にでもなりましたの? 『傷つけあいながら芽生える友情』とか」

 

 私たちは殴り合わなきゃ相手のことを何もわからない。

 戦術機でしか気持ちを伝えられない。

 国境を越えたテストパイロット達は友情ゆえにぶつかり合う。

 私と君との間に、いま小さな花が生まれた。

 この冬。

 ユーコン基地がおくる、一番の心暖まる感動ストーリー。

 『国境を越えたエレメント』

 撮影快調!

 

 「今日一日の撮影じゃエンディングまでいけないねぇ」

 

 やはり普通に考えるなら、あのおサルはやらかしたのだ。

 生身の乱闘くらいは予想していたが、まさか戦術機で格闘機動(ドッグファイト)とは!

 オレの予想すら越える、どこまでも恐るべきヤツよ。

 

 「まったく。推進剤が切れるまでやらせておきなさい。実弾を装備しているはずもなし」

 

 『いや、F-15・ACTV(アクティブ)は被弾していた。このままでは墜とされる』

 

 ――――――!!!?

 

 白銀の言葉に戦慄がはしった。

 それでは本物(モノホン)の戦闘行為ではないか!

 

 「被弾!? なんで実弾なんかつんでいますの! 撮影任務なのに!?」

 

 篁さんが説明してくれた。

 

 『撮影には銃撃シーンも予定されていた。突撃砲を斉射する派手な絵もほしいらしくてな。待っててくれ。とにかくCPに連絡をとって状況を聞いてみる』

 

 だが状況を見たところ、あのソ連衛士・紅の姉妹とやらは相当ぶっとんだ奴だ。

 何があったにしろ、実弾で相手を撃つなど普通ではない。

 いますぐ動かなければ間に合わないかもしれない。

 

 『篁中尉、具申します。見たところ事態は一刻をあらそいます。俺達に救援に行かせてください。ガンダムでなら追いつけます』

 

 さすが白銀。オレより先に決断した。

 

 『いいのか? その機体は…………』

 

 『かまいません。どうせ明日には性能を見せますし』

 

 「篁中尉。こちらも問題ありませんわ。許可をお願いします」

 

 『山城さん……………わかった。CPに要請しよう。CP、こちらp-11で訓練中の篁だ。現在、撮影任務のはずの二機の暴走を見た。それについてだが、こちらで……………』

 

 通信の向こうで篁さんがしばらくのCPとの会話のあと。

 やがて待望していた答えがきた。

 

 『許可が出た。行け!』

 

 「了解!」×2

 

 瞬間、互いのガンダムは目標が飛んでいった方向へ向け推進する。

 

 「白銀、先行しますわ!」

 

 初期起動後すぐにゼータを変形させ、巡航形態のウェイブライダーへ。

 

 

 ――――あの子がニュータイプか否か。答えをもらえるかもしれないな。

 

 

 そしてドッグファイトをしている二機に向け、まっしぐらに飛行した。

 

 

  

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