ゼータと上総   作:空也真朋

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37話 あの日見たZガンダム

 タリサ・マナンダルSide

 

 けたたましく鳴り響くロックオン警報。

 ヘッドセットからは飛行計画にない行為をはげしく咎める管制官の怒声。

 せまいユニット内にこれだけの騒音でおかしくなりそうだったが、そんなものに構っていられなかった。

 

 「ちくしょうっ! 何でだ!? 何で振り切れねぇんだ!?」

 

 背中にへばりつて離れず、ときどき的確に撃ってくるソ連機・チェルミナートル。

 自身の技量の限りを尽くし、強度限界ギリギリの回避機動をとっているにもかかわらず、いつまでも引き剥がせない。

 

 

 きっかけは、あのソ連の冷血女が、アタシの握手に出した手を思いっきりブッ叩いて拒否したことからだった。

 機体に搭乗し任務にはいったあともムカつき、あの高圧的な冷血女の顔がまぶたにチラついた。

 だからささやかな意趣返しにと、チェルミナートルにロックオンをしてビビらせてやろうとした。

 だがその瞬間――――

 視界からヤツが消えたと見え、と同時にそいつに後背に回られ、さらに相手の火器管制が実戦モードになったと警告ダイアログが立ち上がる。

 

 ―――マジか!? ロックオンされたとはいえ、警告もナシに他国機に実弾向けるなんて!

 

 無論、原因はどうあれ、こうなったからにはこちらも自衛のための回避機動にうつった。

 失速起動、旋回、変則、コンビネーション。

 技術の限界を駆使し、高Gに耐えながら、あらゆる回避起動でヤツを振り払おうと死力を尽くした。

 されど【紅の姉妹(スカーレット・ツイン)】の異名をとる相手は、聞いた以上のスゴ腕。いや、もはやバケモノ!

 こちらの回避などものともせず後ろに張り付いてくる上、本当に撃ってきた!

 

 結果、予定の空域を大きく逸脱し、演習場を横断し、とうとう航空路にまで来てしまった。

 運悪く、目の前に大型輸送機が着陸寸前。

 ―――衝突!…………寸前だったが、なんとかその上をこえて回避。

 されど限界は近い。

 後ろに注目し、どうにかヤツから逃れる術を探していたときだ。

 ふと、ヤツの後ろから奇妙なものが接近してくるのが見えた。

 

 「……………あれは?」

 

 それは妙に未来的なデザインの航空機。

 それがこちらのスピードをものともせず、迫ってきているのだ。

 

 「――――なぁ!?」

 

 驚いたことに、それはそのスピードのまま、いきなり変形して戦術機の人型形態となった。

 

 「はは………本気(マジ)かよ。作ったやつ、なに考えてんだ」

 

 その戦術機。かつての昔、見た覚えがあった。

 アタシが大東亜連合にいた頃。

 【Zガンダム】と呼ばれる、伝説ともなった戦術機だ。

 そしてそこから、やはりあの”お姫様”が通信でがなり立てた。

 

 『マナンダル少尉。何故、わたくしの予言通りの展開になっているのですか! あなたは本当にサルなのですか!? 人間ならあそこまで言われたなら、意地でもちゃんと成功させますわ!』

 

 「うるさーい! あのソ連のバカ姉妹が悪い! こっちが友好的に握手しに来たのに、あの態度はないだろうっ! だから………っ」

 

 『いいえ。あれは、あなたの笑顔があまりに怪しく気持ちわるく何か企んでいそうだったからです。わたくしにも妹がいたら、絶対近寄らせません』

 

 「なんだとっ!? ゴラァア!…………うあっ!」

 

 ドカンッ!

 機体を揺さぶる激しい衝撃。

 ダメージ警報が鳴り響き、またしても被弾したことを理解。今度は致命的だ。

 機体の推力がおちて速度維持ができず、グングン高度が下がっていく。

 

 『本当に撃った!? マナンダル少尉、そいつはこっちで引き受けます。あなたはそのまま着陸を!』

 

 「気をつけろ………っ。そいつはスゴ腕な上にいかれてやがる。本気で撃ってくるぞ」

 

 そんな負け惜しみを言うので精一杯だった。

 損傷チェックを見たところ、右肺面の強化スラスターと右の跳躍ユニットがやられていた。

 お姫様が紅の姉妹(アイツ)を引きつけてくれることを祈りつつ、姿勢制御に全力を尽くすしかない。

 開発衛士(テストパイロット)の意地として、機体を捨てて脱出なんてできないんだから。

 

 ――――悔しくて涙が出た。

 

 紅の姉妹(アイツ)にはアタシの何もかもが通用しない。

 

 十数分の近接格闘機動(ドッグファイト)の中、それをイヤというほど思い知らされた。

 

 渾身の回避機動も、F-15・ACTV(アクティブ)限界までの加速も、まるでなかったかのようにチェルミナートルは、次の瞬間には背面にピッタリついている。

 

 ここまでアタシがどうしようもなかった相手はいなかった。

 

 だけど”負け”を認めることだけは出来ない。

 

 アタシの中の何かがそれを拒絶する。

 

 これはアタシの中に流れる勇猛なグルカ族の血と誇りか。

 

 だから叫ぶ。

 

 

 「おぼえていろよっ チクショォーーーッ!!!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 滑走路脇のうずたかく盛り上がった土砂。

 そこがあたしの不時着した場所だった。

 無敵だったF-15・ACTV(アクティブ・イーグル)

 それは情けなくもジ・エンド兵士のごとく仰向けに空を仰いでいる状態だ。

 どうにか機体の損壊は免れたが、復活できるかは整備次第だろう。

 

 「ああ、くそっ! あいつら………っ! そうだ、あのお姫様は無事か!? まさか、ここの上に落ちてきたりなんかしねぇよな?」

 

 あたしはチェルミナートルを引きつけているはずのあのお姫様が気になり、上空の様子を拡大望遠で確認した。

 

 ――――――その瞬間

 

 機体の先行きより、これからのことより、そしてあたしをさんざん追い回して墜としてくれた、あの【紅の姉妹(スカーレット・ツイン)】の恨みより、なお―――

 

 拡大望遠で見るその光景に、あたしは新たな悔しさが湧き上がった。

 

 ――――「チックショウ。やっぱあのお姫様、”本物”かよ」

 

 その空中には、お姫様が駆るZガンダムとチェルミナートルが猛烈な格闘機動(ドッグファイト)を繰り広げている光景があった。

 そしてあたしの時とは逆に、チェルミナートルはZガンダムに常に背後をとられ続けていた。

 それを引き剥がそうと猛烈なスピードと旋回で動き回るチェルミナートル。

 されどその背後に影のようについて離れないZガンダム。

 さながら二機は激しいダンスでも踊っているかように華麗に空中を舞っていた。

 

 「………ははっ、アイツに手も足もでなかったあたしは何なんだ」

 

 ふと大東亜連合にいた時代にきいた赤、青、白のトリコロールカラーの戦術機の伝説をおもいだした。

 それはBETAの大群をものともせずなぎ払い、レーザー照射の嵐をも突き抜け光線級吶喊を為すただ一機の戦術機の伝説を。

 どこの国で作られたかもわからない、されど無敵の戦術機。

 それはあの日きいた伝説そのままの姿だった。

 

 「ちくしょう。あんなお姫様に負けているだなんて、信じたくなかったんだけどな………」

 

 青い空の向こう。

 いくつもの高難易度の回避機動を高スピードでくりかえす二機。

 それはまるで終わりがないようだった。

 いつしかあたしは悔しさも忘れ、ただ、その華麗な動きに吸い込まれるように見入っていた。

 

 

 「…………………きれいだ。まるで舞踏会のダンスだな、お姫様」

 

 

 

 

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