ユウヤ・ブリッジスSide
「よお、ユウヤ。見てみろよ。雄大なアラスカの大自然ってやつだぜ」
またヴィンセントが声をあげた。
まったくガキじゃあるまいし、何かを見つけてはいちいち声をあげるのはやめて欲しい。
ここは国連軍超大型輸送機An-225ムリーヤの客室。
間もなく目的地のユーコン陸軍基地へと到着するため、着陸態勢にはいっている。
さっきからうるさいのは俺の専任整備士のヴィンセント・ローウェル軍曹だ。
「いやー楽しみだぜ。なんせあの噂の”Z”があるってんだからな!」
「あんなの与太に決まっているだろう。たった一機で光線級吶喊やってのけただの、六万体のBETAを殲滅しただの、航空機に変形しただの」
「はははは、尾ひれつきまくってるねぇ。けどよ、発表の演習するってんならなら、それなりのモンが出てくるんじゃねぇか? せいぜい楽しもうじゃねぇか」
「こっちはその伝説をブッ潰すのが任務だ。ヴィンセント。ステージは明日だが、大丈夫か?」
「まかせろ! パーティーまでにラプターを最強に仕上げてやるよ」
「よし。明日そいつをブッ倒したらすぐ帰るぞ。観光の時間はないからな」
「……………それだがよユウヤ。勝ったからって本当に
「…………なに? 何かそんな臭いでもあるのか?」
その時、到着を示すアナウンスが鳴った。外を見ると、目的のユーコン基地。その滑走路が見える。
相棒は顔を和らげ、ゼスチャーをとった。
「いや、なんとなくそう思っただけだ。悪かったな。勝負前に不安を煽っちまって」
「おどかすな。この輸送機が墜落したみたいな気分に………」
――――――――ガクゥッ!!!!
いきなり機内が激しく揺れた!
「なッ!! どうしたッ!? 再アプローチか!?」
ヴィンセントが叫んだ。
だが違う。衛士の直感がそう告げる。
こいつは再アプローチなんて生やさしいもんじゃない!
状況を知るため、すぐさま操縦室へ向かった。
そこに入ると、パイロット達が管制と緊迫したやりとりをしていた。
その話の内容によると、訓練空域を外れた戦術機が二機、こちらの後方から急接近しているらしい。
「ちっ、どこのバカだ! …………マズイ! おいっ、ここで上昇するな!」
噴射音から、後方から来る戦術機の動きは、
パイロットが操縦桿を引いて上昇するのを手で押さえて止めた。
俺の予想通り、二機はこちらを飛び越え衝突は回避された。
しかしその後、その二機は滑走路上空でメチャクチャに飛び回りながら
「これでは滑走路を使えません! 予測不能の動きに、衝突の可能性がつきまといます」
…………ったく。ここの基地の衛士管理はどうなっているんだ。
ともかく俺はこう提案した。
「とにかく距離をとって観察しよう。あれがどうなるか報告は必要だろう。撮影ができるなら撮っておいてくれ」
「ユウヤの言う通り! ぜひ観察しましょう!」
いつの間にか来ていたヴィンセントが言った。
「ヴィンセント、お前も来たのか」
「おおよっ。俺達の歓迎にしちゃ、随分と手荒いじゃねぇか。それよりあのドッグファイト、ちょっと凄ぇぞ」
ヴィンセントは嬉しそうだ。こんなわけの分からない危機に巻き込まれたってのに。
もっとも、俺もあの戦術機どもの動きには目が離せない。
とくにソ連製らしき戦術機の技量には目をみはるものがある。
そのとき、格闘機動している二機の後ろから、飛来するものが見えた。
「おっ? なんだあの航空機は。見たことない形式……………なぁ!?」
それは変形し、戦術機の形となった!
「バカな…………変形機構の戦術機ッ!? そんなものがすでに実現しているなんて!」
「おいっ! アレってよ。噂の………まさかマジとは思わなかったぜッ」
「…………ああ、”Z"だ」
やがて
それはともかく。あのイワン野郎、本気でイカレてやがる。
そいつは”z”とまでドッグファイトにかかりやがったのだ。
『あんなふざけた機構をつけた戦術機がまともに戦えるわけがない』
そう思ったのだが…………
「なんだよ、ありゃあ――――――」
ヴィンセントのつぶやきは俺の心も代弁していた。
空中で二機の戦術機は、信じられないほどの高速で格闘戦機動をしたのだ。
信じられないことに、”z”の方は先ほど
さらに信じられないことに、それで完全に優勢に戦っている!
目まぐるしく前後を入れ替え、互いの死角にはいらんと旋回をくりかえす。
さながら狂走のワルツ。
「お、おいユウヤ。パイロットのお前としてききたいんだが、お前がアレに乗っていたらどうなっている?」
「無事なわけ………ないだろうッ!」
管制ユニット内のGの変化は縦横にめまぐるしくきているはずだ。
強化装備のフィードバックでも打ち消せないだろう。
たとえ鍛え抜かれた衛士といえども、とっくにブラックアウトしていなければおかしい。
「まさか無人機? 操作はどこか別の場所で…………いや、遠隔操作では操作が反映されるのにラグがでる」
とすると、やはりアレを可能にする技量とGに耐えられる人間がいるのか?
俺はあの二体の戦術機の中にいる人間に、畏怖とも嫉妬ともいえるような感情をおぼえた。
引き込まれたように目が離せない。
やがて超常の戦術機のワルツにも
互いの管制ユニットに向け、互いに武器を差し向け合い止まったのだ。
だが、またしても目を見張る出来事がおこる。
一方がもう一方のユニットに銃口を突きつけているのに対し、もう一方は発光する棒のようなものをもう一方のユニットに突きつけていたのだ。
「なんだあの武器は? 光があんな風に一点にとどまっているなんてあり得ない」
「ああ。普通なら拡散しちまうはずだ。多分、何らかの技術で光をとどめているんだろう。が、あれが武器だとすると、とどめているのは光だけじゃないはずだ。おそらく熱。【ライトセーバー】ってやつかもしれねぇ」
「はぁ? SFじゃねぇか!」
「フィックションの技術を本当にしちまうなんざ、よくあることだろう? 戦術機だってSFのロボットを本当にしたものだしよ」
「それは…………」
いや、あの機動もSFじみていないか?
思い返せばあの戦術機は、俺が知る戦術機の限界を超えている。
機体技術も衛士の技量も理解不能なあれは…………
あの未知の戦術機に見入っている俺達にクルーが言った。
「再アプローチします。今なら安全に滑走路が使えますので」
「あ、ああ、頼んだ。ヴィンセント、席に戻るぞ」
客席に向かいながらも、ヴィンセントは名残惜しそうにフロントガラスの向こうを見続ける。
「くううっ、もっと見ていたかったぜ! あの未知の技術、機動。間違いなくあれが…………ッ」
もはや疑う気持ちはなかった。
「ああ”Z”だ」
「多分だが、ありゃあ地球の技術じゃないぜ。俺はそれなりに戦術機の技術に触れてきた整備屋だがよ。あんな技術体系は見たことがねぇ。たぶんどっか別の世界のモンだ」
「はぁ? 別の世界ってどこのだよ」
「さあな。ま、そいつは機密だろうが、乗っている衛士にでも会えりゃ少しは由来がわかるかもな。それより大丈夫か? 明日、あれとやるんだろ」
……………そうだった。
今夜は体調を整えるために休もうと思ったが、それどころじゃない。
一晩かけて対策を考えなきゃな。