不定期になってすみません。
篁唯依Side
ユーコン陸軍基地・総合司令部ビルVIP観覧用会場
巨大プロジェクター・スクリーンには改良された電磁投射砲をもつ【νガンダム】という試作戦術機が映っており、この場にいるVIPは全員それに注目している。
『
『アーガマ1了解。カウントスタート。…………………アーガマ1よりCP。演習を開始する』
オペレーターのスタート合図とともに、白銀少尉の駆るνガンダムは疾走。
目標地点に着くと、電磁投射砲で突撃級ルイタウラを模した厚さ2メートルの鉄板を次々破壊していく。
わずか数秒で全目標を破壊した後、タメをつくらず次の目標地点へ。
「凄まじいな」
私は思わず呟いた。
改良したという電磁投射砲は、以前のものより貫通力が増した。即応性もあがっている。
だが私が感嘆したのは、それの性能ではなく、それを扱う白銀少尉の技量に対してだ。
威力に振り回され撃つのはかなり困難のはずだが、白銀少尉はそれに対するよどみがまったくない。
射撃のための制動も最小限で、目標を破壊した瞬間次のターゲットへ移動。
その見事な機体操作は衛士の教科書になれるほどだ。
「あれで私より年下だというのだからな。そういえば白銀少尉は、あの山城さんを差し置いて、ナンバー1のコールをつけられている。あの若さで、どこでこれだけの技量を身につけたのか」
まさに『これ以上の完璧はない』という内容で、わずか数分の電磁投射砲試射テストは終了した。
観覧していた各国の技術開発部の方々はいっせいに私のもとへきた。
「素晴らしい性能だ。本当にアレを売ってくれるのかね?」
「はい。国連軍日本支部によれば、BETAに相対する前線国家の方々には、審査ののちに許可するそうです。ご希望ならば仲介いたしますが」
「もちろんするとも! アレがあるなら、わが国の防衛線もだいぶ楽になるよ」
「ご健闘をお祈りいたします。次の新型OSの搭載機体による実証試験もお楽しみください。それも自信作だそうです」
まるでセールスマンだな。
今現在、私はこのように香月博士への仲介のようなことをやっている。
これは巌谷のおじ様に頼まれてのことだ。
これだけの兵器を他国へ流すことに疑問がないわけではないが、『人類への貢献』ということでとりあえずは納得している。
ただ、これを頼んできたおじ様には、少しばかりの疑問がわいている。
国連軍日本支部からの開発衛士の面倒を見ることといい、どうもおじ様は国連の香月博士のために動いているように思えるのだ。
香月夕呼博士といえば国連で高い地位をもったやり手で、国連嫌いの日本の政治家・軍高官からはけむたがれる存在だときく。
その彼女のために、おじ様はどうして?
♠♢♣♡♠♢♣♡
ユウヤ・ブリッジスSide
ユーコン陸軍基地
米国専用
「凄ぇなぁ。まったくとんでもねぇ威力だぜ」
相棒の整備屋・ヴィンセントはプロジェクター・スクリーンを見ながら感嘆の声をあげた。
つまらんことにもやたらはしゃぐ奴だが、今回ばかりは俺も同感だ。
「ああ。まったく淀みない正確な射撃と制動。これは強敵だ」
「はぁ? この場合見るのは、レールガンの威力だろうが!? なんで扱っている
「向こうが演習で使うのは87式突撃砲だ。レールガンの威力は関係ない」
「ハァ。勝負前のパイロットだからしょうがねぇかもしんねぇが、それにしたってなぁ。レールガンなんざ
「そうだな。『アメリカ・アズ・ナンバー1』とか言っている連中は面白くないだろうな。今回の勝負を画策したのも、そいつらだろう」
「政治にうとい俺でも、これがこちらのお偉いさんに冷や水ぶっかけることだとわかるぜ。日本のやつら、本気でアメリカと張り合うつもりかよ」
話がどんどんヤバい方向に向かっている。
この衛士詰め所には俺達意外にもスタッフはいるというのに。
「やめろヴィンセント。政治にうといなら余計なことを考えるな。お偉いさんの思惑、日本の企みも知ったことか。出てきた奴を仕留めて帰ってくる。それがすべてだ」
ヴィンセントはハッとした顔でゼスチャーをとり、苦笑い。
「お前ってやつは。だが正しい。それが良き合衆国衛士のあり方ってヤツだな」
「――――
叱声が詰め所に響くと、俺達も詰め所のスタッフも全員立ち上がり、直立不動の姿勢をとる。
部隊指揮官の中尉が入室してくる。
「これより機体の最終チェックにはいってもらう。
中尉は任務の開始を告げると訓令で閉めた。
「この遠征をたかがピクニックと侮るな! 合衆国の必然として、我々は勝利しなければならない! 戦域の支配者が誰かを”z”に、そして世界に教導してやれ! 以上」
俺達は一斉に合衆国国旗に敬礼した。
ラプターに機上し、チェック項目すべてを埋めると、出撃許可のランプが灯る。
ラプターはステルス機のため、機構の音も振動も極限までコントロールされている。それ故に起動後でもユニット内は静かなもんだ。
それでも、猟犬に生まれた
『ラプターは最強に仕上げておいた。蹴散らしてこいッ!』
「了解だ! いくぜラプター。最強アメリカの座を譲るな!」
メインゲートが開き、フラッグが振られる。
音のないステルス機の発進は静かに。ただ風だけを巻きおこした。
♠♢♣♡♠♢♣♡
白銀武Side
ユーコン陸軍基地・アルゴス小隊専用格納庫
νガンダム・コクピット内
演習開始15分前。
俺はνガンダムを開始位置へと移動させ待機。
そこは崩落したダミービルを模した建造物が一面に広がる演習場。
さて、このνガンダム。演習のために、普段とは大きく変更されている。
まずファンネル版ははずし、代わりに97式長刀を装備。
ただし仮付けのため、一度はずしたら元へ戻せない。
さらに銃器もビームライフルではなく87式突撃砲。
機動試験のため、武装も標準装備にされているのだ。
「………よしっと。白銀、演習場全体のマッピング及び敵の移動ルートの予想が終わったよ」
今しゃべったのは、俺の脇にいる丸型ロボのハロ。
コイツがここにいると、なんとなくファーストのコクピットみたいだ。
上総の言葉では、最高の戦術ナビゲーターらしいのだが。
「ハロ、しばらく口は出さないでくれ。まずは俺一人でやってみる」
「ええ!? 相手はアメリカの戦技開発部隊の人でしょ。しかも相手は最新鋭ラプター。実戦ならともかく、こういった模擬戦じゃνガンダムでも分が悪いよ」
「ああ、そうだな。だが、たった一機の戦術機相手に誰かに頼らなきゃならないような俺じゃ、νガンダムに認められるなんて夢になっちまう」
こんな人間同士の演習に、勝つこと以外に意味なんてない。
俺たちは最短距離でBETA全滅の道を歩かなきゃならない。
だから本来なら、ハロの力を借りてでも楽に勝って、早く終わらせることが正解だ。
それでも『自分の力だけで勝ちたい』と思ってしまうこの衝動は何なのか。
――――――やがて開始の号令が演習場に鳴り響いた。