メインは【なろう】のTSファンタジーなんですが。
今日は主任務のはずの演習日。
なのにオレは朝から今まで基地内医局で精密検査の一日だった。
しかし、さすがトップクラスの衛士精密検査。女の尊厳、踏みにじることいろいろしてくれるね。心は男のTS転生者であるオレでも泣いちゃうよ。
医局の片隅でそんなふうに黄昏れていたが、夕方頃、やけに医局内が騒がしくなった。
騒ぎの元の場所に行ってみると、それは幾人もの白衣の医療従事者が誰かを担架で搬送している現場だった。
「訓練中に事故でもおこったんですの? あれはいったい誰ですの?」
「俺の今日のワンオンワンの相手さ」
いつの間にかオレの後ろに、ハロを持った白銀が来ていた。
「白銀、それにハロ。演習は終わったのですね。それで結果はどうでした? もちろん勝ったのでしょうが」
「まぁ、な。時間切れの優勢勝ちだったが」
白銀は歯切れ悪く言った。
「優勢勝ち? あなたがνガンダムを駆ってハロまでいながら、ずいぶんとしょっぱいですわね」
衛士も機体も並ぶものがないほど最強クラスの組み合わせなうえ、超ハイスペックな戦術ナビゲーターのハロまでいて、時間切れまで持った衛士がいることが信じられない。
昨日の【紅の姉妹】といい、この世界にはバケモノみたいな
「ボク、何もさせてもらえなかったよ。完全に置物でした」
「この結果は相手の衛士を褒めるべきだな。三十分、高速機動を続けて徹底的に俺に射撃のタイミングを許さなかった。その代償があれさ。ついでにラプターもスクラップだ」
白銀は緊急搬送で処置をうけているその衛士らしき男を親指で刺した。
ああ、なるほど。あの痛々しい姿は、現代の戦術機で宇宙世紀のモビルスーツに抗った証か。
そう聞くと、あれも勇者の姿に見える。
「でも、そこまで演習の勝負にこだわって入院なんてバカみたいじゃありませんか。しかも最新鋭のテスト機までもスクラップにして。負けても死ぬわけじゃあるまいし」
「向こうにも負けられない事情があったのかもな。それともバカみたいに負けず嫌いだったか」
「うんうん。相手の人、白銀が救助でハッチを開けたとき泣いてたしね」
「ええ! 勝負に負けて泣く人だったのですか。それはぜひ、わたくしも見たかったですわあ!」
そんな一昔前のマンガみたいな名シーンがあったとは!
見たい。見たいぞー!
「やめろ上総。あの涙は女が見ていいものじゃない」
ええ!? 白銀までマンガのライバルキャラみたいなこと言っている!
「衛士に男女の別はありませんわよ。みな等しく戦場に出て命をかける戦士なのですから」
「それでも、だ。男は女に無様な姿をみせたくないんだよ」
白銀とそんな話をしていると、そこに篁さんが来た。
彼女は、演習の進行が忙しくて
理由を聞いてみると、やはり仕事がらみのことらしい。
「じつは、ようやく我がXFJ計画の機体【不知火改修機】が組み上がりテスト機動をおこなえるようになったと、連絡があった。きさま達のガンダムも参考にしたので、そうとうなじゃじゃ馬になるらしい」
「メインテストパイロットは誰に?………ハッ! まさか
「いや。メインテストパイロットをつとめるのはユウヤ・ブリッジス少尉」
「………………誰です? アルゴスの者ではないんですの?」
「な、なにアイツが!? どういうことなんです篁中尉!」
白銀は知っている?
おかしいな。白銀とはいつも一緒に行動しているから、アイツの知っている人間はオレも承知のはずだが。
「ユウヤ・ブリッジス少尉はアメリカ陸軍戦技研の者であり、今日の白銀少尉の相手をつとめた衛士だ。どういう経緯か国連へ出向となり、我がアルゴス試験小隊に所属することとなった」
「ああ、なるほど。それでこれから上官として挨拶に行くわけですわね?」
篁さんがこの基地内医局にきたのはそのためか。
「いや、この決定は本人であるブリッジス少尉抜きで決められたものらしい。私はその決定をブリッジス少尉に伝える役目を負わされた」
もしかしてそいつ、軍内で嫌われている?
「そういうことなら、自分も連れていってください。今日の演習を務めてくれたことの礼と、これからしばらくやっていく仲間として挨拶をしようと思います」
白銀が興味を示したのでオレもつき合うことになり、みんなでユウヤ・ブリッジス少尉の病室へと向かった。
◇ ◇ ◇
ユウヤ・ブリッジスは、自分がアルゴス小隊に入ることになったことを篁さんに聞かされても、「そうか」と返しただけだった。
そして会話しようにも、まるで興味なさそうに「ああ」とか「好きにしろ」とか「くだらんことを聞くな」とか返すだけ。
唯一会話らしきことができたのは、部屋から出る前に白銀に話しかけたことだけだった。
「タケル・シロガネ」
「なんだ」
「俺は負けていない」
「……………そうだな。だが、俺達が負けていけないのはBETAだ。俺との勝負なんて、高価なテスト機をぶっ壊してまでこだわることじゃない」
「こだわらずにいられないのさ。俺みたいな日本人の血が混じったアメリカ人にはな。いつか必ずアンタにもνガンダムにも勝ってみせる」
「………………そうか」
それだけの会話でオレ達は病室を出た。
検査に行く白銀と別れると、オレは院内ラウンジで篁さんとユウヤ・ブリッジスについて話した。
「どうです篁さん。彼を部下として使っていくことはできそうですかしら?」
「衛士としての技量はそうとう優秀ですが、扱いにくそうな男でした。苦労しそうです」
そうだな。自分が日系アメリカ人だと、どうして白銀との勝負にこだわらなければならんのだ。まったく意味不明な奴だ。
「そうですわね………あっ!」
「どうしたんです?」
「じつは彼を見たとき、どこかで見たような顔だと思いましたの。今、誰に似ていたか思いだしましたわ」
「山城さんもか! じつは私もなんですが、私は思い出せません。どこで見た顔だったんでしょう?」
篁さんの”うっかり”に、オレは思わず「クスリ」となった。
凜々しく成長した彼女にも、こんな可愛い所が残っていたんだな。
「前に見せていただいた小さい頃の写真をご覧なさい」
「えっ?」
篁さんは懐からパスケースを出し、そこにつけている写真を見ると目を見開いた。
そこには小さい頃の自分と一緒に、彼女の父親も写っているのだ。
自分の小さい頃など、いつも見たいものとは思えないので、彼女的には父親がメインだろう。
「あ、ああ! そうか父さまに……………」
そしてユウヤ・ブリッジスという男は、どこかで篁家の遺伝子でもとんだのか、篁さんのお父さんにそっくりなのだ。
父親の写真をパスケースに入れるほどにファザコンの彼女に、いったいどういう運命のいたずらか。
「………………篁さん?」
篁さんは写真を見ながら彫像のように固まってしまった。
そのまま、顔がだんだん赤くなっていく?
そして動きはじめたら、モジモジしたり胸元をおさえたりして、急に女っぽくなった?
「どうしました篁さん。なにか雰囲気が変わりましたが?」
「山城さん!!!」
彼女は「クワッ」と、オレに迫ってきた!
その顔は真っ赤になっている!!
こんな彼女は、はじめて見るぞ!!!
「ブリッジス少尉が父さまに似ているとわかったら、どうしようもなく胸が高鳴ってとまらないんです!、とても抑えられない!! 山城さん、私は変だろうか!? ハァハァ」
とっても変だよ篁さん!
なんか女の顔になっているし!!
父親に似ているってわかっただけで、そこまでなる!?
ファザコンにも程があるよー!!!