篁唯依Side
ユーコン陸軍基地統合司令部予備通信室。
私は現在、ここで巌谷のおじ様に現状報告を行っている。
衛星経由の通信状態はあまり良くないのかスクリーン上のおじ様の画像はノイズ混じりだったが、音声は問題なく会話ができた。
「そうか。ハルトウィック大佐の態度は変わらずか。………いや、問題ない。あちらがそういった姿勢であることは織り込み済みだ。プロミネンスの評判が上向いたならそれでいい。”消極的協力”を確約してくれたのなら上々さ」
「失礼ですが、叔父様はなぜ外交官のようなマネを? それに叔父様は国連の”主導計画”とやらのために働いているようにみえますが」
「唯依ちゃん。上官として言うが、あまり上層部の詮索をするもんじゃないな」
「し、失礼いたしました! 以後、このようなことがないよう、気をつけます!」
「では今度は、叔父としてある程度のことを話そう。こちらの状況が上向いたために、少しは話せるようになった。ただしあまりこちら側をのぞき込むな。俺に万一のことがあったら、情報を元に自分で活路を見つけるんだ」
「叔父様………?」
「以前から俺は、国連日本支部の進めている主導計画のために働いている。見返りは”z”の派生技術を帝国技術厰が優先的にもらうことだ」
「主導計画…………それは大丈夫なものなのでしょうか? ハルトウィック大佐はそれを【詐欺犯罪】とまで言っていましたが」
「ははは。確かに計画の責任者の香月女史は詐欺師にしか見えんな。彼女に追い落とされたのは現在の予備計画派だけじゃない。大佐のプロミネンスもだ。その経緯で大佐は女史に悪感情を抱いている」
香月女史。山城さんの上官だが、大丈夫なのだろうか?
「主導計画については、俺もどんなものか知らされていないから何とも言えない。だが彼女のもたらす技術は本物だ。だから俺は外交官のような真似もする。BETAへ反撃をのぞむ技術を、日本にもたらすためにな」
「わかりました。では次は、香月女史お預かりの彼らについてお伺いいたします。二機のガンダムと衛士二人の今後について、何かわかりませんでしょうか? そろそろ帰国の予定の話があってもよさそうなものですが」
「………ああ香月女史によれば、まだ日本に戻せないそうだ。山城上総の脱走。白銀武の身元。ガンダムが日本に持ち込まれた経緯。製造した機関。そういったことをまだ問題にする人間が多数いる。だからそちらで唯依ちゃんが預かるんだ」
…………………叔父様の歯切れが悪くなったような?
「正直、私も問題だと思います。うやむやにしていい問題だとは思えません」
「ははは。たしかに正論は向こうにあるな。だが、それをうやむやにする代わりに日本には多くの見返りがきた。前に『【日米戦術機共同改修計画】は日本の大きな分岐点になる』と言ったと思うが、あのガンダムはそれ以上の分岐点だ。最良の展開にもっていけば、BETAとG弾。二つの脅威を日本から取り除ける」
「そのために…………あえて叔父様は泥をかぶる気なのですか?」
「そんないいものじゃないさ。とにかく、というわけで彼らの新たな任務はXFJ計画の協力だ。先に言ってしまったが、追って彼らにも香月女史から命令が届くはずだ」
「現在も協力はしてもらっておりますが。プライドの高い
「……………いや、次の任務はその程度の協力じゃあない。今ここで俺が言うわけにはいかないがな。とにかく引き続き計画の進行と、白銀・山城両少尉のことをたのむ」
◇ ◇ ◇
テスト機動終了後の夕暮れ時。
演習場の片隅にて、私は山城さんにおじ様から聞かされた話をした。
「…………………そうですの。当分、わたくし達は日本へは帰れない、ということですの」
「私としてはいてくれた方が助かります。白銀少尉にはユウヤのことでよく助けられていますし」
「白銀が?」
「じつはユウヤは、父親の日本人が母を捨てていってしまったらしいのです。そのせいで日本人をひどく嫌っておりました。私もひどく嫌われていたのですが、白銀少尉はそれを一喝して正してくれました」
「そ、そうですの」
「その他、アルゴスの皆にうちとけようとしない彼を、間にはいって取り持ったりもしてくれました。今ではユウヤは、白銀少尉と操縦技術なんかの話をしている姿をよく見かけます」
「それ…………フラグやらイベントやらがみんな白銀に取られているのでは?」
「ふら………ぐ? それは何ですか山城さん」
「相手と親密な関係になるような出来事ですわ。このままでは”篁唯依恋人エンド”にはならずに”白銀武友情エンド”一直線になりますわね」
「え、えええええっ! そんな………たしかにユウヤと私とは、微妙に心の壁があるような気がしていましたが!」
「あるんでしょうね。ユウヤにとって篁さんは『小娘上官A』でしかないんですわ」
「そんな…………どうしたら!」
「ご自分で考えなさい。わたくしは篁さんのお母さんではありませんわ」
母さまも「ご自分で考えなさい」とか言いそうな気がする!
しかし私とユウヤとでは上官・部下という壁があることに加え、私には白銀少尉のように力で彼との関係に踏み込んでいくこともできない。
ああああ、なんと臆病なことだろうか!
そして山城さんは、そんな私の内など知らず優雅に夕暮れのアラスカの景色を嗜んでいる。
「ここは平和ですわね。BETAの争乱の音がまったくない。まるでかつての京の都のようですわ」
「帝都ですか。たしかにあの日までは、私も京の都が消滅するなんて思いもしませんでしたね。あの頃は………和泉も安芸も志摩子もみんながいました」
「ふふっ別に懐かしんでいたわけではないんですけどね。篁さんといると、妙にかの日の光景が浮かんでしまいますわ。自分のものでもないのに」
山城さんはとおい目をしている。
そんな彼女を見ていると、また突然どこかへ行ってしまいそうで不安になる。
「…………山城さん。帰りたいのですか? 日本に」
「……………篁さん?」
「私は少しさみしいです。山城さんが帰ってしまうと」
つい心の呟きがでてしまった。
山城さんは困ったような顔をした。
「わたくしも、いつまでも篁さんといっしょにいたい気もしますけどね。でも、ガンダムはいつまでも後方に置いて良いものではありませんわ。今このときも、前線ではBETAとの熾烈な戦いがありますもの」
「ハッそうでした! 申し訳ありません! なんと無様な! 栄えある帝国斯衛軍衛士であり、篁の姓を名乗る者でありながら、些事に心を乱す未熟! 『さみしい』などと己の弱さを口で露呈するが如き惰弱! 士道不覚悟ぉぉぉぉ!」
「落ち着きなさい篁さん。ここは後方です。良いのですよ、たまには女の子のような弱音を言っても。言ってはならない時でなければね」
「はい…………山城さん、変わりましたね。優しくなりました。山百合にいた頃は、いつも常在戦場のような、合理的に物事を進めるような、そんな人でした」
「そうでしたかしらね。その頃のことはよく思い出せなくて。ああ、そうだ。今夜、また皆で
「い、いえみんなの憩いの場に、上官である私が行くのは! 皆がくつろげなくなります!」
「私服で行けばよろしいのですわ。軍隊の匂いがなくなれば、篁さんも年相応の女子ですもの。わたくしもつき合いますわ」
山城さんは立ち上がる。
「や、山城さん!」
「少しだけユウヤ・ブリッジスと仲良くさせてあげますわ」
山城さんは意味ありげに微笑みながら立ち去った。
恋の橋渡しとかする人だっただろうか?
やっぱり山城さん、変わった気がする。
究極の選択!
『白銀武・友情エンド』か? 『篁唯依・恋人エンド』か?
君はどちらを選ぶ!?
でもアバターがユウヤだと、選択肢があるようでない。