ゼータと上総   作:空也真朋

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52話 ソ連早期脱出計画

白銀武Side

 

 XFJ計画部隊用 野外第三特設格納庫(ハンガー)

 

 

 「『試製99型電磁投射砲』か。ビームライフルを知らなきゃ、『スゲー』とか言っていたんだろうな。もっとも、夕呼先生がこの時期にこんなものまで造っていたことは驚きだが」

 

 オレはこの格納庫(ハンガー)の主役のその圧倒的体積の火器を見上げた。

 今回の実戦試験には不知火・弐型と並んでこの電磁投射砲の実戦運用も行う。

 すでにこれは各国への販売が決定してはいるが、実際の運用はまだなので、その実戦データが必要だというのだ。

 俺達がソ連くんだりまで来させられた理由が、これのお守りのためである。

 無論、建て前であろうが。

 さて、俺がこの格納庫(ハンガー)に出向いたのは、これを見るためではない。

 事前のソ連との取り決めで、各国の兵器を置く格納庫(ハンガー)には、その国独自に防諜対策をすることが許されている。

 つまりここはソ連内において数少ない盗聴の心配の無い場所であり、内密の話をするにはうってつけなのだ。

 俺は電磁投射砲の前にただ一人立つ人物に敬礼をする。

 

 「アーガマ小隊01白銀武少尉、参りました。ご用は何でしょうか、篁中尉」

 

 俺を呼び出したのは、この遠征中の直属の上官・篁唯依中尉だ。

 この同世代の可愛いすぎる上官とのつき合いも、それなりに長くなったものだが、俺だけが呼び出されたことは初めてのような気がする。

 

 「来たか。悪かったな休憩中に。私の時間が今しか取れなかったのだ」

 

 「それはかまいませんよ。でも、めずらしいですね。山城少尉抜きに自分だけを呼ばれるのは」

 

 篁中尉は「ついっ」と恥ずかしそうに目をそらした。

 そんな顔も妙に可愛い。

 不幸なことだ。軍人が可愛いすぎて良いことなんて一つも無いというのに。

 

 「う、うむ。知っての通り、私と山城少尉は同期でな。それ故の気安さというか、『馴れ合い』がどうしても出てしまう。この話は完全に私情を挟まずにしたいのだ」

 

 ってことは、上総がいると私情があふれてしまうというわけか。

 まさか彼女と上総の関係のウワサ、本当なのか?

 ………………まぁ、こういったことは人それぞれ。踏み込むのはやめよう。

 

 「わかりました。聞きましょう。どういったお話でしょうか」 

 

 「白銀少尉、貴様はこのソ連遠征による実戦テストについて、どう思う?」

 

 「『どう』と聞かれるなら、やはり性急すぎる気がいたしますね。日本国内で可能な実戦テストをわざわざソ連に出向いて行うことも不可解ですし」

 

 そうなのだ。

 BETAとの戦闘は日本国内にもいくつもある。

 佐渡島に赴いても良いし、関西でも北九州でも選びほうだいだ。

 

 「そうだ。私もドーゥル中尉とよく話し合ったが、じつに不可解なことが多い。この決定がいきなり決まったことも、我々試験チームの意見を聞かずに決められたことも、早すぎる実戦テストへの移行についても。ソ連が何かしら謀略をたてている可能性も多分にある」

 

 …………………だよな。

 夕呼先生がこんな見え透いた謀略に乗せられる、というのが分からないが。

 でも今回のループ。あの人も何か俺に隠しているようだし。

 

 「また、これは内密にして欲しいが、ソ連側の士官から『日本はアメリカより我々と手を結ぶことを考えてほしい』といった内容をほのめかされた。しかしこれは無理な話だ。彼らが掲げる【社会主義思想】はソ連の力が低下した今でもなお脅威だ。我が国には皇帝陛下、政威大将軍殿下ならびに武家といった、古くから続く権威が数多くあるのだからな」

 

 ああ、そりゃ社会主義にとっては美味しそうな粛清対象が数多くあるわ。

 下手に手を組んでその思想を日本国内に広められたら、最悪国を割る。

 ………………そういや、この時期の日本にはクーデターの脅威があったな。

 そのことも夕呼先生には伝えたが、上手くやっているだろうか?

 

 「故にこの場所に長く留まると何が起こるか分からん。諸君やアルゴス小隊の安全のためにも、速やかなアラスカへの帰還を果たしたい」

 

 「もっともなご意見です。自分らはアラスカにではなく、ここから日本への直行を望みますが」

 

 篁中尉は俺の本音まじりの冗談には答えず苦笑いをした。

 まぁこの件に彼女にできるのは夕呼先生へ尋ねることぐらいだからな。

 言うんじゃなかった。

 

 「だが我々は軍人だ。命令とあらばどのような任務にも従事し、結果を出さなければならない。故にできるだけ早く結果を獲得し、速やかに帰還するのが理想と思われる」

 

 「完全に同意です。自分も速やかな任務達成をのぞみます」

 

 「そのために必要なものは不知火弐型およびこの電磁投射砲の実戦による規定数のBETA撃破の戦闘データ。これが理想値に達すれば、たった一回BETAの侵攻を迎えるだけで帰国が叶うかもしれない。かなり極端だが、ドーゥル中尉はこれを目指すべきだとの意見だ」

 

 「おおっ!」

 

 「だが、それを為すには、扱う衛士に無理をしてもらわねばならない。不知火・弐型に搭乗するブリッジス少尉は初陣だというのに」

 

 「…………死の八分ですか」

 

 BETAとの戦闘による初陣の出撃で死亡する衛士の平均生存時間が八分だという。

 BETAとの戦闘の過酷さをよく表す言葉だ。

 故に初陣の衛士は無理をさせず、生き延びさせることが指揮官の役目である。

 つまりユウヤに真逆のことをさせてしまうのだ。

 

 「じつに危険極まりないが、ドーゥル中尉の意見では、貴様らアーガマ小隊がブリッジス少尉の直援につけば十分可能であるという。どうだ?」

 

 それが今回の呼び出しの用件か。

 しかしガンダム二機を随伴のお供に出撃とは。

 王侯貴族のごとくじつに豪華な初出撃だな、不知火・弐型。

 

 「白銀少尉。貴様が優れた衛士だということは、この短いつき合いでもよく分かる。それを見込んで聞きたい。貴様が考えてこの案についてどう思う。やはり『たった一回ですべてを完了させる』というのは無理が過ぎるか? 正直な意見を遠慮無く述べてほしい」

 

 いちおうユウヤのために真剣に考えてみた。

 だが、やはり答えは決まりきっている。

 そもそも初陣とはいえ、BETAとの戦闘に直援なんて豪華なものがつくことはない。

 それに衛士は本来、無理をくぐり抜けるのが本分。

 ユウヤ、お前は優れた衛士だ。

 見ていてやるから、やってせろ!

 

 「やりましょう。要するに自分らはブリッジス少尉がBETAを倒している間、それの直援につけば良いのでしょう? まかせてください。あいつも不知火弐型も無事帰還させてみせますよ。その上で、あいつに初出撃世界最高のスコアを出させましょう!」

 

 「いや、世界最高は山城少尉の六万超えだ。さすがにそこまでは求められん。だが、よかろう。もしブリッジス少尉も了承したなら、その方針でいく。…………そう言えば遅いな」

 

 「何がです?」

 

 「いや、じつは意思確認のために、当人であるブリッジス少尉もこの場に呼んだのだ。だが、いまだに来ていない」

 

 「それは変ですね。近くを見てきます」

 

 俺は踵を返して行こうとしたが、ふと目の前の電磁投射砲が目に入って、もう一つの疑問を思い出した。

 

 「ところで電磁投射砲の操者は誰に? 自分が直援任務なら、別の者が扱わねばなりませんが」

 

 「私だ。私が指揮所を離れ、武御雷で扱う」

 

 「篁中尉自身が?」

 

 「電磁投射砲の試験運用は、アラスカへ来る前の私の任務だ。その長所も短所も知り尽くしている。私が扱うことが最も結果を出せるだろう」

 

 「了解いたしました。篁中尉もブリッジス少尉も必ず守ってみせます」

 

 「いや、私の方はアルゴス小隊がつく予定だ。アーガマ小隊はブリッジス少尉の直援に専念してくれ」

 

 「了解しました。それは今からですね」

 

 俺は今度こそユウヤを探しに格納庫(ハンガー)を出ていった。

 

 

 

 

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