ゼータと上総   作:空也真朋

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 夏休みの間はできるだけこれの更新を進めたいと思います。
 どこにも行けないので小説を書くしかないです。


53話 ジャールの狼達

 ピキーーン

 

 それは、とある午後の休憩時間のことだ。

 いきなりニュータイプの共振を感じた。

 

 「これを出すのはイーニァしかありませんわね。でもこの悲鳴のような、切羽詰まった叫びのような共振は?」

 

 こんな危機のようなものを感じてしまっては、放っておくわけにもいかない。

 オレは一直線にその場へ向かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 「やはりイーニァでしたか。しかし、これはいったいどういう状況ですの、ユウヤ?」

 

 「カズサ、か。まぁ見ての通り、こいつらに襲撃されている真っ最中だ」

 

 野外格納庫(ハンガー)が立ち並ぶ一画の狭い通用路の片隅。

 そこには前世で見た不良マンガみたいな光景(シーン)があった。

 十代の少年少女七人が鉄パイプやナイフを手にして、ユウヤとその後ろに庇うクリスカ、イーニァを取り囲んでいるのだ。

 

 「オーイオイオイ、まーた、どっかのお節介が来たのかよォ。ゲラゲラゲラ」

 

 「外国のキレイなお姉ちゃんよ。アタシら、このエリートロシア女共にアタマきてっからよ。どーしてもボコらなきゃすまねーんだわ。コイツみてーに邪魔しねーで、おとなしく『回れ後ろ』してくんない? そうすりゃ無事でいられっからよォ。アヒャヒャヒャ」

 

 「それとも一緒に剥かれる? 裸にすりゃ、けっこうな見世物になるぜェ。ヒヒヒヒッ」

 

 「殺人(コロシ)上等(ジョートー)! 面倒臭ェ抵抗すりゃ、命の保証はねェ! ヒャハハハ」

 

 鉄パイプで周りをガンガン叩いたり、ナイフをペロペロしたりして言うこのセリフ!

 なんでソ連の軍事基地内にこんなロックなヤツラがいるの!?

 ハッ! まさかオレはいつの間にか死んじゃって、ロックな【梅澤春人ワールド】へと転生しちゃったとでもいうのか!?

 落ち着けオレ。コイツらは軍のフライトジャケットを着ているし、階級章もつけている。

 軍に属している人間には間違いない。

 

 「ユウヤ、いったい何がどうして、こんなことになっていますの?」

 

 「俺にもよく分からん。呼び出しを受けたんで行く途中、イーニァの悲鳴が聞こえてきてな。来て見るとクリスカとイーニァがコイツらに襲われていたんだ」

 

 コイツら、十代特有のあどけなさの顔で、見ればみるほど不良(ヤンキー)そのものだ。

 

 「本当に、なんで軍の基地内にこんなヤンキーみたいな連中がいるんですの!?」

 

 つい前世日本の不良をあらわすスラングの”ヤンキー”なんて言葉を使った。

 だが瞬間、空気が変わった。

 連中はギラリと凶悪にオレを睨みつけ、殺気をみなぎらせた。

 

 「………………お前、いま何つった?」

 

 「はい?」

 

 「俺達がアメリカ野郎(ヤンキー)みたいだと!! ああっ!?」

 

 「ふざけんじゃないよ! こんな地獄の底で毎日BETA退治をやらされているあたし達のどこが、後方で偉そうに最新設備でふんぞり返ってるアメリカ兵(ヤンキー)に似ているってんだい!?」

 

 しまった。

 ”ヤンキー”という言葉は意外と歴史があって、アメリカの南北戦争時、北軍兵士をあらわす言葉がはじまりだとか。

 そんな言葉がどうして、オレの前世日本では不良をあらわす言葉になったのか不思議だが。

 有名な格言に『ヤンキー、ゴーホーム!』とかある。

 

 「許せねぇ…………! もう外からの客人だか知らねェがかまわねェ! やっちまおうぜ!」

 

 「そうね! こいつらが来るたび、こっちは余計な苦労をさせられて死人が出るんだもの。ここで思いしらせてやるわ!」

 

 それはもう冷笑まじりの遊びのような目じゃない。

 本当の本気に殺気をはらんだ人殺しの目だった。

 なんてこった。外国の軍人相手に本当にやる気か。

 後でタダじゃすまないだろうに。

 沸点がドライアイス並に低い連中だ。

 

 「ヤマシロ、貴様は状況を悪化させに来たのか? 彼らはあれでも祖国ソビエトの前線を守り続けてきた同胞。それをよりにもよって、一般兵士すらBETAとの戦闘を経験していない天国連中のアメリカ兵(ヤンキー)呼ばわりとは何事だ!」

 

 なんだよクリスカ。なんで助けにきたオレが君に責められなきゃならない?

 

 「俺は正真正銘そのアメリカ兵(ヤンキー)なのだがな。とにかくカズサが悪い。連中、本気になったぞ」

 

 ユウヤまで!?

 だがしかし、たしかに連中はナイフや鉄パイプを水平にこちらに向けてきた。

 陣形までも前衛後衛を組んで、容易にこちらから攻められないようにしている。

 マズイ! あれは避けられない!

 絶体絶命!!!

 

 

 

 

 

 ――――――「貴様たち、何をやっている!」

 

 (……………え?)

 

 突然に通用路に、凜とした女性の声が響いた。

 すると殺気をはらんで戦闘態勢をとっていた少年少女は、弾かれたように直立不動の姿勢をとった。

 ――――――カツカツカツ

 規則正しい軍靴の音を響かせ、背の高いサングラスをかけた女性士官が現れた。

 その後ろには篁さんと白銀が続く。

 

 「貴様ら、それぞれの機体の整備補給の時間であろう! この命令違反は高くつく。今すぐそれぞれの持ち場に戻れ。駆け足ッ!」

 

 「「「了解!」」」

 

 さっきまで狼の群れのようだった奴らが、訓練された犬のように整然と駆けていってしまった。

 最前線の兵士は『狼のように獰猛で犬のように従順でなければ生き残れない』というわけか。

 

 「山城少尉、ブリッジス少尉、無事か!?」

 

 篁さんが青い顔をしてオレ達の元へ駆けてきた。

 

 「ええ。危ない所でしたが、おかげで助かりましたわ。あの士官に感謝しますわ」

 

 篁さんは、そこらに散らばった鉄パイプやナイフを見て眉を寄せた。

 そして立ち去ろうとする女性士官を引き留めた。

 

 「お待ちくださいラトロワ中佐。あなたの部下が、私の部下に度を超した危害を加えようとしたようです」

 

 中佐? そんな大物の部下のわりには、ガキばかりだったな。

 いや、それ以前に不良集団みたいな奴らだったぞ。

 

 「そのようですな。どうも申し訳ない、タカムラ中尉」

 

 「中佐。彼らには処罰をしていただけるのでしょうね、そちらの方から。二度とこのようなことがないように」

 

 もしかして篁さん、怒っている?

 

 「約束しよう。今回だけは許していただけるとありがたい」

 

 「………ええ、今回だけ。ですが次回があった場合には、問題とさせてもらいます」

 

 「感謝する。では、私はこれで」

 

 女性士官は踵を返し、そのまま立ち去った。

 なんとも、貫禄のある人だ。

 篁さんはかなり怒っているらしく、彼女らの去った方向をいつまでも睨んでいた。

 

 「上総、ユウヤ。災難だったな。何があったんだ?」

 

 白銀が話しかけてきた。

 ユウヤはイーニァとそれを慰めているクリスカを顎で「クイッ」と指して言った。

 

 「ああ。どうにもソ連内のいざこざで、この二人が襲われててな。見過ごせなくてそれに参加しちまったというわけだ。カズサも何故か来てくれたんだが、事態を悪化させてヤバかったぜ」

 

 なんだよ、ちょっと『ヤンキー』って言っただけじゃんかよ。

 このヤンキーめ!

 

 「白銀、ところでさっきの女性士官は誰です? あの悪童どもの上官のようですが」

 

 「向こうのジャール戦術機大隊指揮官のフィカーツィア・ラトロワ中佐だ。呼び出したユウヤがなかなか来ないってんで探しに出たんだがな。そこで途中で出会って同行してくれた。『もしかすると自分の部下が悪さをしているかもしれない』ってんでな」

 

 「ということはあの悪童たち、やはり衛士だったのですね。ウイングマークをつけていましたが、ちょっと信じられませんでした」

 

 「そして奴らジャール大隊が、外国から来訪の試験小隊の随伴を担当しているらしい。つまり実戦テストの間、俺達を安全に守っていただけるというわけだ」

 

 「はぁ!? 守っていただくどころか、襲われたんですけど!!」

 

 「……………こりゃ、頼もしい部隊に随伴していただけるもんだぜ」

 

 不安だらけのこのソ連遠征に、さらに不安要素が加わった。

 そして数日後。

 いよいよBETAの大群が基地に襲来した。

 

 

 




 TE編にはいって気がついたんだけど、やはりこの話はBETAとの戦闘が極端に少ないですね。
 舞台がテストパイロットのいる後方基地だから当たり前ですが、せっかくのガンダムなのに活躍させる場が中々ないです。
 でもソ連編は数少ない本格的なBETAとの戦闘がある話なので、はりきって活躍させます。
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