ゼータと上総   作:空也真朋

56 / 124
56話 ソビエト大戦線の序曲(プレリュード)

 篁唯依Side

 

 海上艦隊と支援砲撃の面制圧。

 それを抜けたBETAに機甲部隊と戦闘ヘリによる二次面制圧。

 その無数の砲弾と炸裂弾の連続する爆発によって海岸線一帯は灼熱の地獄と化した。

 だが…………

 

 『砲撃が………薄い?』

 『もしかして戦車の数が足りてないのか?』

 

 マナンダル少尉とジアコーザ少尉の漏らした通り、あの面制圧は薄い。

 あれでは相当数を撃ちもらし、予定より早くこの第一次防衛線(ライン)に抜けてくるだろう。

 

 「アルゴス4、どう思う」

 

 私は、今回私の僚機であり情報支援機でもあるブレーメル少尉に尋ねた。

 

 『戦車の数が要求に達していない、という様子ですね。おそらく損耗から回復していないのでしょう』

 

 「第一次派遣の時はそんな問題はなかったと聞く。となると損耗したタイミングはこの二次の直前か。聞いてないぞイワン共め! ブリーフィングでは調子良いことをほざきながら。この分では他に何を隠されているやら」

 

 と、護衛のソ連部隊側から画像が立ち上がり、指揮官ラトロワ中佐が通信に出た。

 

 『不穏当な発言は控えて欲しいねタカムラ中尉。そちらの発言はこちらも聞いているんだ』

 

 基本的にオープン回線は開きっぱなしにしておかなければならないので、隠したいことの多いこの国の話はうっかり出来ない。

 

 「ああ、ラトロワ中佐は我々の監視役でしたね。そちらの仕事を減らすために、この問題は棚にでも上げておきましょう」

 

 『監視じゃなくて護衛…………まぁ、どうでもいいか。部隊間会議だ。戦車部隊が予定より早めに撤退をはじめている。予定より相当数のBETAがこの第一次防衛線(ライン)に到達しそうだ。こういった場合、BETAを適正数まで絞るのもこちらの仕事なんだが、そちらの長距離砲テストのため部隊は下げている。で、どうする?』

 

 「どう、とは? どのような意味でしょう」

 

 『BETAの数を絞ってほしいなら、早めに言ってくれってことさ。今からは一分が十人の命にも等しい。部隊展開が遅れりゃ、それだけ犠牲が増える』

 

 舐めてくれる。

 試験部隊はお守りの必要な赤子か。

 

 「無用ですラトロワ中佐。予定数まで99式電磁投射砲(これ)で絞ってみせましょう」

 

 『そうかい。じゃ、その大層なイチモツに命運を預けるとするかね。全機、即応待機! BETAにビビって動くんじゃないよ』

 

 いっせいにジャール大隊から不満の声が通信越しに投げられる。

 まぁ気持ちは分かる。

 BETAが接近したなら、できるだけ早く迎撃体勢を整えねば被害は拡大するからな。

 しかし黙って見ていろ。

 この試製99型電磁投射砲の威力は中々のものだ。

 この程度の劣勢はくつがえせる程に。

 

 『ホワイトファング1より12時マイナス2。突出したBETA群がカウント約120より射爆有効範囲に到着。カウント読み上げます。124,123,122……………』

 

 ブレーメル少尉が冷静な声で戦域情報を読み上げる。

 武御雷背面の大型弾倉がローディングを開始。

 砲身に電力が駆け巡り、甲高い充電音が鳴り響く。

 照星に異世界起元種の大群が映る。

 

 『3……2……1……ゼロッ!』

 

 「砲身に火がはいった! トリガーセーフティ解除。いくぞ!」

 

 トリガーを渾身の力で押し込む。

 轟音が響き渡り、武御雷の持つ巨大砲から眩い光条が放たれた。

 それは真っ直ぐBETAに突き刺さり、間断のない衝撃波と恐ろしい轟音が鳴り響き、BETAを極小の肉片に変えていく。

 そして99式を全弾撃ち終わった頃。

 戦場はBETAがまばらに点在するだけのものとなった。

 

 『…………大したモンだね、そのイチモツも貴官の腕も。侮って悪かった。こりゃ今回の任務、少しは楽かもね』

 

 ラトロワ中佐の正直な感想に少しばかり溜飲が下がる。

 

 「砲身加熱により機能停止。冷却開始。打ち止めだ。CP(コマンドポスト)、残ったBETAで試験を開始してくれ」

 

 『CP了解。全試験小隊に告ぐ。兵装自由。各自試験を開始せよ』

 

 CPの号令と供に、一斉に各国の部隊は残ったBETAに襲いかかる。

 

 『おお、いっくぜぇー!』

 『たまった鬱憤、テメェらで晴らしてやるぜ!』

 『クソ野郎ども、逢いたかったぜぇ!!』

 

 アルゴス小隊の皆も、私の随伴機のブレーメル機以外は元気よくBETAに突撃する。

 元気なものだ。

 

 『撃破数4300オーバー。目標値を軽く越えました。タカムラ中尉、お見事でした』

 

 「ありがとうブレーメル少尉。あとは………」

 

 あとはユウヤの不知火・弐型が結果を出すだけだ。

 しっかりやれユウヤ・ブリッジス。

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城上総Side

 

 「こんなビームライフルを撃たない出撃なんて初めてですわ。まぁ客分が目立ちすぎるのも問題ですし、こういった任務もたまには良いですけど」

 

 今回の任務はオレがユウヤの駆る不知火・弐型の随伴機(チェイサー)

 白銀がオレ・ユウヤのエレメントの後衛(バックアップ)

 随伴機(チェイサー)の仕事はメインのテスト機の護衛とデータ取り。

 想定外にBETAの接近を許しでもしない限り戦闘はない。

 戦闘中の不知火・弐型及び搭乗者のユウヤの様子を細かくチェックしていく。

 バイタル正常。格闘機動に歪みなし。

 まったく初陣のお手本になるくらい問題のない奴だ。

 タリサ(おサル)V・G(イタリアン)のコンビも元気にBETAを狩っているおかげで、ユウヤは気負いなく戦い、BETA撃破数も順調に上がっている。

 

 「不知火・弐型の性能も予定通り発揮してますし、試験は問題なく終わりそうですわね。あとはコイツらさえ、いなければねぇ……」

 

 楽なこの任務にも問題はある。

 それはソ連軍ジャール大隊から分けて派遣されているオレ達の護衛部隊だ。

 

 『よーよー、そのオモチャみてぇな戦術機、ヘンな突撃砲、それでホントに戦えんのかよ。ちょいと、そこで死に損なってるBETAで格闘やってみせてくんね?』

 

 『さっきから一匹も倒せてねーじゃねーか。ちっとは撃墜数稼がねぇと切り捨てられんぜ、お嬢ちゃんよ』

 

 『そりゃないって。偉いトコのオジョーサマっしょ。こうやって後ろからお行儀良くついて行くだけでも戦果になるわけよ。で、お国で【英雄お姫様】なんて祭り上げられるってね。ヒャハハ』

 

 『ぎゃははは、そのための派手で使いモンにならなさそうな戦術機か! でっかい(のぼり)つけたあっちの兄ちゃんの戦術機といい、お国で飾りモンにするならBETAの体液なんてつけらんねーなぁ!』

 

 なに勝手にオレ主役でお嬢さまストーリー創作してんだ!

 テスト機の随伴機(チェイサー)なんだから、積極戦闘とかしないのはあたり前だろ!

 

 とにかく問題は、このジャール大隊分隊のガキ共だ。

 万が一の場合に撤退支援をするのが任務であるはずだが、護衛対象であるはずのオレにやたら煽ってヤジを飛ばしてくるのだ!

 

「キーーッ! ああっもう! イヴァノワ大尉、あなたの部下は何とかなりませんの!?」

 

 この護衛部隊の隊長はラトロワ中佐副官のイヴァノワ大尉。

 【大尉】なんて連隊隊長クラスの階級なのに、なんと10代半ばのあどけない少女だ。

 年齢は低くとも、一応は隊長。

 一緒になってヤジを飛ばしたりはしないが、それをたしなめたりもしない。

 

 『ヤマシロ少尉、貴様はこいつらの恨みを買っている。故にこの程度は我慢しろ。適度にガス抜きをさせなければ、見境なく狙ってくるかもしれんからな』

 

 「前に『ヤンキー』と呼んだことですの!? あの程度で!」

 

 『それだけではない。あの件で奴らはラトロワ中佐にキツイ懲罰をくらった。逆恨みだが恨みは恨み。悪いが貴様の安全のためにも、私は介入するつもりはない』

 

 なんでラトロワ中佐にくらった罰の恨みが、こっちに来るんだ!

 何よりゼータとνガンダムへの冒涜、雑言は許しがたい!!

 いっそビームライフルで「キャン!」と言わせるか…………

 と、白銀の画像が立ち上がった。

 

 『アーガマ02、キレるなよ。この任務も結果上首尾でもうすぐ終わり。あと少しの辛抱だ』

 

 「……………ええ、わかってますわ」

 

 オレはビームライフルのトリガーからそっと指をはなした。

 なんて絶妙なタイミングで通信を送ってくる。

 これも常人よりはるかに経験をつんだタイムリーパーのなせる業か?

 

 

 

 ピキーーン

 

 ――――――!?

 

 

 思わず機体を止めた。

 たった今、ニュータイプの感応が反応した。

 これは…………この反応は……………BETA!?

 目の前の戦闘以外にBETAがいる?

 

 『02。いったいどうした、機体を止めて。何かトラブルか?』

 

 白銀の声に応えず、感応の感度を上げる。

 場所は………地下か!

 

 『大かた、急にビビっちゃったんじゃねぇの? シェルショックだけはカンベンしてくれよォ』

 

 『いくら楽しいBETA狩りがお預けだからって、アンタのお守りはゴメンだからね。怖いんなら自分の足で帰んなよ』

 

 『見かけにビビんなよォ。コイツら、要はでっかい虫と同じだぜ。慣れりゃバカでも退治できるぜ。お嬢さまにゃ無理な話か! ギャハハハ』

 

 もう、奴らの煽りも気にならない。

 迫る危機を知ったなら、ガキ共もこんな邪気まみれに笑っていられなくなる。

 特に最後の奴。バカはお前、退治されるのもお前だ。

 BETAの知能はお前ごときがバカにできるものじゃない。

 

 「お前たち。そんなにBETAを狩りたいなら叶いますわよ。今すぐ基地へ引き返しなさい」

 

 『ハァ?』

 

 「今、この真下の大深度地下ではBETAの大群が絶賛進行中ですわ。狙いは後ろの前線基地」

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。