ゼータと上総   作:空也真朋

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57話 ガンダムよ戦線に立て

 イブラヒム・ドーゥルSide

 

 戦闘指揮所では管制官達の悲鳴にも似た報告が連なり、サイレンがやかましく鳴った。

 はじめは前線からの奇妙な報告。

 当初はその指摘するような徴候は見られず、衛士のシェルショックも疑った。

 だが、一人の観測班スタッフが”それ”を聞き、やがて疑いないものとなった。

 

 「異常震源複数探知! 震源が接近! この04前線基地周辺を目指しています!」

 

 「波形照合、BETAです! コード991発令! 震源がさらに浅くなり接近!」

 

 「ぐっ軍団規模のBETA、当基地の13キロメートル北西一帯に!」

 

 「バカ者ォ! 何故ここまで接近を許した? 戦術機ですら気がついたのだぞ!」

 

 事ここにいたっては、前線の戦術機部隊が呼び戻されるのは時間の問題だ。

 そうなれば試験部隊が丸裸になる。

 私の今為すべきは、アルゴス試験小隊と全試験部隊の安全を可能な限り確保することか。

 そう考えたときだ。

 試験小隊付きソ連軍アドバイザーのサンダーク中尉が話しかけてきた。

 

 「どう思いますドーゥル中尉。BETAが地面を掘削してきたなら、その振動を観測班が聞き逃すはずがありません。掘削する音はかなり響きますからな」

 

 「では掘ってないのでしょう。前回の襲撃………いえ、それ以前から戦闘音に紛れて基地真下まで掘削。大深度地下道を構築し、今回大規模BETAを送り込んできた、といった所でしょう」

 

 「ふむ、さすが歴戦の衛士ですな。参考になりました。ではもう一つ。そちらの衛士が、観測班に先んじてこれに気がついたことについては何か?」 

 

 「さて、それについては後で(くだん)の衛士に聞いてみるしかありませんな。ですが、それより試験部隊への指示をどうするかお聞きしたいのですが」

 

 「失礼しました。退避地点の選出は終わっております。衛士の安全にはこちらの微力を尽くしましょう。またBETAの迎撃にしても、間もなく航空爆撃隊が引き返してきます。これで……」

 

 その時、管制官が悲鳴のような声をあげた。

 

 「べ、BETA群の中に光線級アリ! 航空爆撃は使えません!」

 

 ―――最悪だ。

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城上総Side

 

 前線基地BETA襲撃により全試験部隊は試験任務を中止。

 現在、試験開始地点まで後退。CP(コマンドポスト)の指示待ちだ。

 不安な待機時間のなか、いち早くBETAの基地襲撃に気がついたオレは時間潰しの(さかな)だ。

 

 『な、なぁ。本当にそのZガンダムの震度計、地下のBETAが分かるのかよ?』

 

 とか、タリサもちょっとおののいた感じだ。

 

 「ええ、わかります。地下を進むBETAの群れがはっきりと」

 

 するとハロが『思わず』といった感じでこっそり語りかけてきた。

 

 「いや、宇宙寄り汎用モビルスーツのZガンダム(ボク)に地中震度計なんてついてないけど? 上総のニュータイプ能力でいらないから、自作もしてないし」

 

 「察しなさい! ニュータイプ能力の説明なんてできないでしょう? そういうことにしておきますわ」

 

 その場限りのごまかしの嘘だったが、しかし思いのほか食いつきがよかった。

 

 『そりゃ凄ぇ! ウチの国じゃ何度も糞ッタレ共の地中進行にやられてよ。でもそいつがありゃ借りが返せるってもんだぜ!』 

 

 『なぁなぁ、そいつも販売しねーのかよ。地中進行は光線級と並んでBETAの最大厄介の一つだし、それだけで英雄になれるぜ!』

 

 できねーよ! 無いんだもん!

 しかし中華統一戦線バオフェン小隊の連中。衛士とはいえ、もう少し女らしくできないものかね。

 

 『な、なぁアーガマ02。俺はその震度計のことなんて知らないが、あー』

 

 白銀、おまえは察してくれ!

 

 「そ、そんなことより今はBETAです! 地下BETAの進行は今現在も、なお続いていましてよ!」

 

 『なっ!? まだ増えるのかよ。こりゃ、帰り道なんて無くなるぞ!』

 

 『帰る場所そのものが無くなるかもしれないわね。BETAが前線基地を奪い、そこのエネルギーを得たなら、その後ろのペドロパブロフスク・カムチャッキー基地も危ないわ』

 

 ステラの最悪な未来予想に、全員が色めき立った。

 

 『くッ、バオフェン1より各機! 我が小隊はこれより基地に帰投する!』

 

 『おい、落ち着け! 推進剤も弾薬も試験で消耗したまんまだろ。ガス欠でBETAの渦に立たされたらどうすんだよ!』

 

 『そうだ落ち着け。サンダーク中尉も説明していただろう。ここは地形的に航空爆撃が使える。被害は大きいかもしれないが、基地陥落、などという事態までには至らないはずだ』

 

 そんなこんなで、わちゃわちゃやっていると、やがて基地との連絡会議で離れていたジャール大隊の一団が戻ってきた。

 

 『全試験部隊、傾注! HQ(ヘッドクォーター)から指示が来た。ラトロワ中佐、お願いします』

 

 少女大尉イヴァノワの幼くも凜とした声が響いた。

 改めて思うが、本当にこの部隊は損耗が激しいんだな。

 こんな女の子が大尉で副官だし、隊員は全員中学生くらいだし。

 ジャール大隊ただ一人の大人、ラトロワ中佐が貫禄ある声で続いた。

 

 『全試験部隊の諸君、HQ(ヘッドクォーター)からの指示を伝える。これより大隊は、諸君らお客さん方を退避地点まで誘導する。我々はそこで補給をうけた後、戦線を構築するために離れるが、諸君はそこで別途指示があるまで待機してもらいたい』

 

 待機か…………。

 できるなら、そんな指示なんか無視してZガンダムで基地一直線。

 群がるBETA共を手当たり次第になぎ倒して一掃したいのだがな。

 しかし他国の軍属がそんな勝手をするわけにはいかない。

 やったら軍法会議で死刑になるほどの、上官の篁さんや香月博士に類が及ぶほどの重罪だ。

 基地にいるイブラヒム中尉やヴィンセントは心配だが動けない。くそっ。

 

 『なお、ほとんど戦闘をしていないアーガマ小隊には協力を要請したい。分隊と共に目標地点へと出向き、我々が補給を受け向かう間、時間稼ぎを願う』

 

 ――――――!!?

 

 『この要請は断ってもらっても構わない。拒否によるペナルティーは何も無い。HQ(ヘッドクォーター)からの要請だが、白銀少尉。どうだ?』

 

 もちろん拒否なんてするわけない!

 受けるよな、白銀ェ!

 

 『ラトロワ中佐。爆撃をするなら戦術機部隊の出動はありませんよね? それに時間稼ぎを自分らへ求めるほどの余裕のなさ。もしや…………』

 

 『勘の良い坊やだね。そうだ。光線級まで出ちまった。『時間稼ぎ』は基地の人間が退避するための時間を作るものさ』

 

 ザワリ…………

 

 『やはりそうですか』

 

 なんて冷静に状況を分析できる奴なんだ!

 白銀が『受けます』と言った瞬間、出力全開、全力疾走で誰も彼も引き剥がして、現場に飛び込もうとしたオレとはえらい違いだ!

 そして光線級の名が出た途端、この場の誰もが戦慄している。

 

 『で、それを理解したうえで聞きたい。この要請を受けるか否か』

 

 『受けます』

 

 

 ドピュゥン!

 

 

 …………………とか、本当にやらないって。

 

 『本当に良いのかい? 他国のために危険な橋を渡るよ』

 

 『この前線基地が抜かれれば後ろのペドロパブロフスク・カムチャッキー基地が脅威にさらされます。そこは日本の真上にある対BETA最前線基地。ここまでBETAに迫られては、日本の極北方面へ多大な負担をかけることになります。他国のこととて、ほうってはおけませんよ』

 

 『だったら、しょうがないねぇ。ジャール2、自分の小隊を率いて付いていっておやり』

 

 あ、なんか嫌そう。

 ラトロワ中佐、本当はこの要請を断って欲しかったんだな。

 

 『そしてこの防衛戦には我が国試験小隊のイーダル小隊も同行する。補給も優先して受けさせるように、とのことだ。イーダル。試験のあとの連戦になるが、やれるかい?』

 

 『当然です。祖国の防衛任務に否はありません。そして他国の者に遅れは決してとりません』

 

 クリスカの奴。なんか、まだオレを敵視している気がする。

 ラトロワ中佐は最後に自分の大隊に向けて締めた。

 

 『大隊傾注! この戦闘は時間稼ぎ。基地の人間が全員退避するまでの遅滞戦闘だ。ただし、現場には光線級が確認された。これを放置しておくことは被害の拡大を意味し、全力で撃破しなければならない。よって現地到着後、すぐさま光線級吶喊(レーザーヤークト)を行う!』

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 というわけで、オレのZガンダムと白銀のνガンダムは四機の分隊に連れられ基地へ。

 まぁ、その分隊もやはり悪ガキ共で、さんざん罵倒され煽られながらの移動。

 でも、もう慣れたよ。

 そしてその隊長は中佐の副官。少女大尉のイヴァノワだ。

 

 『言っておくが、自分から行く以上シェルショックを起こしても面倒は見ない。BETAに恐怖しないよう、せいぜい心を強く持て』

 

 BETAに恐怖するってどんな感覚だっけ?

 転生してしばらくは感じてた気がするけど、今は思い出せない。

 

 『我々には余裕がない。光線級吶喊(レーザーヤークト)を行う作戦は必ず誰か損耗が出る。だから…………私が中佐を守るために参加したかったのに………無念だ』

 

 そう言ったその子の顔は、家族を心配する年相応の少女のようにも見えた。

 だから思わず言ってあげた。

 

 「大丈夫。今度の光線級吶喊(レーザーヤークト)では誰も死にませんわ」

 

 

 

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