ゼータと上総   作:空也真朋

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 その頃のアルゴス小隊です。
 唯依のコードはアルゴス0じゃなくてホワイトファング1でした。修正しときますね。


63話 ジャール大隊壊滅?

 篁唯依Side 

 

 西部海岸 西地区緊急避難所

 

 長い機体内待機の後、ドーゥル中尉から緊急通信が来た。

 そしてその決定が伝えられ、私がアルゴス小隊への通達を任された。

 私は通信でいろいろ話している小隊員を一喝。部隊内通信に変えるよう指示をする。

 

 「全アルゴス小隊傾注! 全試験小隊は即時ソ連からの撤退が決まった。全機ペドロパブロフスク・カムチャッキー基地へ向かい港湾へ集合。後、接岸している戦術機母艦に機体を収納する」

 

 突然の帰還命令。

 やはりこれに声をあげたのは、予想通りマナンダル少尉とジアコーザ少尉だった。

 

 『ちょ、ちょっと待って………待ってください! 浸透してきたBETAは航空爆撃で全滅させたんじゃなかったんですか?』

 

 『それに基地に帰還したら、いきなり撤退ってのも解せませんね。ソ連政府と何かトラブったんですか?』

 

 「いいや、これは人間同士の政治の話ではない。これから話す事は衝撃的だ。故に厳重な箝口令を敷かせてもらう。もしこれを勝手に誰かに話すようなことがあれば処罰もする。諸君にその覚悟はあるか?」

 

 これにユウヤは模範的衛士の回答で答えた。

 

 『話してください。自分らは機密を多く預かるテストパイロットです。言われずとも「話すな」と言われれば、守秘義務に基づき決して口外しないことを誓います』

 

 「よかろう。では、これを見てくれ。ソ連から提供された衛星写真だ」

 

 私はアルゴス小隊の皆の機体に、確認された巨大BETAの映像を送った。

 予想通り皆一様に驚愕。

 

 『なっ!? なんだよコレ!? こんなBETA見たことねぇぞ!』

 

 『BETAの新種ですか。周りに比較するものがないんで正確には分からないですが、相当デカいんじゃないですか?』

 

 「ああ、デカい。だが多分ジアコーザ少尉(アルゴス3)の想像を越えているだろう。全長は約2000メートル。胴体前部にある首長のような部分は1500メートルだ」

 

 一瞬、みな静まりかえるほどに衝撃的だった。

 だが、まだこれの脅威の半分も話していないのだ。

 

 『なんてバカデカさだよ! こりゃ削るのにとんでもねぇ苦労するぞ!!』

 

 『イワン共の手に負えんのかぁ? こりゃソ連もいよいよ………かもな』

 

 「私の説明はまだ途中だ。これは【宮殿(パレス)級】。そう名付けられたが光線種に属する。レーザー照射口は首長の頭頂部、および背中二つの突起の計三門だ」

 

 『こ、これが光線種!? ウソだろ!! このサイズでレーザーとか、威力はどんだけだよ!!』

 

 『ホワイトファング1。この個体、これほどの高さからレーザーを照射するとなれば光線級吶喊(レーザー・ヤークト)を仕掛けるなど不可能ではありませんか?』

 

 「目の付けどころが良いなブレーメル少尉(アルゴス4)。そうだ。今までの光線種は地上の標的を撃つことがあろうとも、主な目標は対空物だった。だが、これは初めて地上の標的を狙った光線種。高所から地上をうち下ろすレーザーは、今までの光線級吶喊(レーザー・ヤークト)のセオリーが通用しない」

 

 『あ、あの……威力の方はいかほどで?』

 

 「ソ連航空爆撃隊は一射で全滅。日本方面へ流れたレーザーは、飛行している航空機、航宙艦を落としたそうだ。このことから【宮殿(パレス)級】は北東ソ連の端にでも出れば、そこからアラスカを攻撃することも可能と予想される」

 

 『アラスカへ帰ってもヤベェ!? どうすんだよ!!!』

 

 予想通りの大きな動揺。それでも、これを知らせることを決めたのは私だ。

 彼らを率いて帰還することが私の役目だ。

 

 「以上のように、その威力と射程の長さで北東ソ連のどこにも安全な場所はない。故に、この即時の撤退だ。質問が無ければ移動を開始する」

 

 『ありますよタカムラ中尉。それでそいつは今どうしてるんです? その説明だと、新種はもうとっくにここらを焼き払って、俺達も生きちゃいないと思うんですがね』

 

 『それにカズサとタケルはどうしたんだよ! まさか、もうそいつにやられたんじゃ!?』

 

 「マナンダル少尉(アルゴス2)、質問に質問を重ねるな。前の質問の答えが終わるまで待て。だが今回に限り、両方の質問に答えることができる。この動画を見てくれ」

 

 そこに映ったものはさらに衝撃的だった。

 飛行形態になったZガンダムがνガンダムを乗せながらレーザーが飛び交う中を滑空していたのだ。

 

 「分かりやすくコマ送りにしてあるが、これは新種の周囲を音速の10倍で飛行している。何度もレーザーに捕らえられているが、何故か健在だ」

 

 山城さんと白銀が死線をくぐり抜けて新種を引きつけている姿は何度見ても胸が痛む。

 それでも、私は部隊長としての言葉を言わなければならない。

 二人の献身が無駄にならないように。

 

 「このように二人は新種を引きつけ時間を稼いでくれている。我々はこの貴重な時間を無駄にせず速やかに撤退せねばならない。以上、撤収準備にかかれ!」

 

 後ろ髪を引かれる気持ちを断ち切るようにそう締めくくり、部隊内通信を終えた途端だ。

 通信の”暴風(バオフェン)”が吹き荒れた。

 

 『なんなのよなんなのよ、いきなり帰還だなんて! いったい何が起こっているわけわけ?』

 

 まるで待ち構えていたようにバオフェン小隊の隊長機が怒鳴り声で割り込んできたのだ。

 

 『バオフェンの隊長さんか。そっちは何も知らされず、ただ帰還命令が出されただけか?』

 

 『なに? アルゴスの方は隊員にまで何が起こっているのか知らされているの!? こっちは隊長の私ですら何も知らされていないのに!!』

 

 中華統一戦線のバオフェン小隊はどうにも苦手だ。

 野性的というか粗野な育ちの見える彼女らは、武家の厳格な家柄で育った自分とあまりに違いすぎて気後れがしてしまうのだ。

 ちょうどマナンダル少尉への苦手意識と同じだ。

 

 『そりゃお気の毒。よっぽど”信用”ってのがないんだろうな、アンタらは』

 

 『なっ! なんですってえ!?』

 

 『こらタリサ! バオフェンさんよ。こっちは知らされているとはいえ厳重な箝口令が敷かれている。同じ試験部隊のアンタにも言うわけにはいかない。悪いな』

 

 『な、何よ! ちょっとくらい教えなさいよ。いくら何でも意味不明すぎるわ!! いったいこのソ連で何が起こっているわけ!?』

 

 このままではいつまでも部隊の皆は彼女と口論を続けそうだ。

 私はため息をついてバオフェン小隊隊長の(ツイ・)亦菲(イーフェイ)中尉に話しかけた。

 

 「(ツイ)中尉、自分は現在アルゴス小隊を預かっている篁唯依中尉です。理由をお話することは出来ませんが、直ちに撤収しなければならないのは事実です。今はそちらもこちらに構わず、ご自分の部隊をまとめて下さい」 

 

 『日帝に言われなくてもわかっているわよ! ズルいわねぇ。とにかく話せるようになったら教えなさいよ!』

 

 彼女はそう捨て台詞を残して乱暴に通信を切った。本当に暴風のような者だ。

 こちらが話せる頃には、もうとっくにあの絶望的なBETAの情報は知っているだろうがな。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ 

 

 ペドロパブロフスク・カムチャッキー基地港湾

 戦術機母艦 甲板上

 

 ペドロパブロフスク・カムチャッキー基地へ帰還し、戦術機母艦に乗り込んでとりあえずの手が空くと、今まで抑えていた感情がわき上がってきた。

 傾きかけた日に照らされた戦術機母艦の甲板上。

 ふと気がつくと、以前のように前線基地の方を見上げてしまっている。

 いつかのように、また彼女が空から戻ってくることを期待している。

 そんな私の背中に声をかける者がひとり。

 

 「タカムラ中尉、大丈夫ですか?」

 

 「ユウヤ…………か」

 

 「ユウヤ?」

 

 「あっ! いやブリッジス少尉! すまん、呆けていた!」

 

 「………いや、ユウヤでいいですよ。二人のことが心配ですか。特にカズサが」

 

 「………ああ。ドーゥル中尉に『私は残って彼らを待つ』と言ったのだがな。私のメインの任務は【XFJ計画】の開発主任。このことに命を賭けるのは本分ではないと、説得された」

 

 「で、代わりにドーゥル中尉はペドロパブロフスク・カムチャッキー基地に残って二人の帰還を待っているというわけですか。かっこうつけすぎだな、隊長は」

 

 私達はしばらく無言で陸を見ていた。

 出航までに二人が帰ってくることを期待するかのように。

 

 

 ――――「黄昏てんな中尉もユウヤも。こんなしみったれた幕引きじゃ、アタシもそんな気分だがな」

 

 と、そこにマナンダル少尉とジアコーザ少尉がやって来た。

 この二人がいると、途端にこの場も賑やかになる。

 

 「VG、タリサ。わざわざ自由時間に俺達につき合わなくたっていいんだぞ」

 

 「カズサとタケルが未帰還じゃ、遊ぶ気にもなれねえっての。まったく早く帰ってきやがれってんだ」

 

 「マナンダル少尉…………二人が帰れると思っているのか? 二人が対峙しているのは、BETA大戦を通してもかつてない脅威。あれを詳しく分析するほど、ソ連参謀本部は恐慌状態になるほどだという。それを………」

 

 「だからってアタシらがそれにつき合う道理はねぇだろ。二人が乗っているガンダムだって、ただの戦術機じゃねぇんだ。ひょっとしたら、その新型バカデカBETAを仕留めて帰ってくるかもしれねぇ」

 

 「動機は不純ですが、俺も帰ってきて欲しいと願っています。あのガンダムがありゃ、故郷イタリアを取り戻せる希望がちっとは見えてくる気がするんですよ」

 

 「そうだな…………」

 

 二人の言葉に、少しだけ気分が上向いたのだが。

 

 

 ――――「残念ですが、それは難しいかもしれません」

 

 これに異を唱えたのは、新たにこの場へ来たブレーメル少尉だった。

 

 「先ほど連絡がありました。二人と共にBETA戦へと向かったジャール大隊。その壊滅が確認されたそうです。帰還機はありません」

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 ソ連Side

 

 コリャーク自治区 某所

 

 ロゴフスキー中佐は爆雷の敷設作業、研究の移送状況の報告を聞きながら暗鬱たる気持ちになっていた。

 参謀本部の分析では、あの怪物BETAに対抗する方法は皆無。

 戦力と物資を温存し、アラスカへ撤退するしかないとのことだ。

 

 「とうとう全領土が蹂躙され奪われるか。まったくBETAめ。あんな怪物まで用意しているとはな」

 

 その側に控えていたサンダーク中尉は、いつものように冷静に応えた。

 

 「ええ。これは我が国だけでなく人類全体の危機。他の地域でも同様の個体が現れたなら、その脅威度は計り知れません。ですがこの最大の危機は最大のチャンスとも言えます」

 

 「…………なに?」

 

 「もし、これを我々が進めている【π3計画】が打ち破ったとしたら?」

 

 まるで倒す方法など見いだせない最大脅威のBETA。

 もし、これを打ち倒すことが出来たらば、π3計画の有用性を全世界に喧伝することが出来る。

 我がソビエト連邦に恭順する国も多く出てくるだろう。

 

 「それは明るい未来だ。だが、できるのかね?」

 

 「ベリャーエフ博士に完成を急がせましょう。奴のデータは、ガンダム二機が捨て石になってくれることで、衛星で詳細に得ることができます。三カ月以内には結果を出せるでしょう」

 

 いつの間にかロゴフスキー中佐の顔は笑みが浮かんでいた。

 存外、この危機も悪くはない。

 

 「よし、この新型の映像は規制せず流そう。とくに周辺諸国には注意喚起が必要だ。これの脅威を伝えることは人類への貢献。遠慮せずにやらせよう」

 

 「結構。脅威が広まれば、それだけ研究の喧伝に繋がりますからな」

 

 この問題に一応の方針が決まったところで、サンダーク中尉は次の問題を提起した。

 

 「アラスカ撤退にあたり、残った問題があります。ジャール大隊です。彼らは他国の”ガンダム”の力を見過ぎました」

 

 「フム……ラトロワ中佐は大丈夫だろうが、その部下は未成熟な子供だ。完全な口止めは不可能であろうな」

 

 ソビエトが手足として使っている被支配民族は、ソビエトは最高の技術を持ち万能の機構(システム)である、という神話を信じ込ませていることで支配下においている。

 他国においてBETAを打ち破る最強の戦術機が開発されたと広まれば、ソビエトの支配を脱しようとする者も数多く現れるだろう。

 

 「”切れ味鋭くとも使い辛い逸品より、多少なまくらでも使い勝手に勝るものこそ良いナイフ”と申します。万一に生き残った者達への後始末はお任せください。最後にπ3計画のデータ取りに貢献してもらいましょう」

 

 「ぬ? ジャール大隊をやるのかね。ラトロワ中佐はじめ彼らは、今まで祖国を守り通してきた英雄だが」

 

 「ええ。ですから彼らには”本物の英雄”となっていただきましょう。新種の巨大光線属種の登場と脅威。それに続くアラスカへの撤退。この非常事態である今こそ、ソビエトには真の英雄が必要なのです」

 

 

 

 

 

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