νガンダムを乗せたウェイブライダーは、大気圏を抜け一面星空の宇宙へと出た。
黒檀の宙のなか、足元の地球は青く光っている。
驚いたことにレーザーはここまで飛んでくるものの、もはや余裕で躱せる。
やはりモビルスーツは宇宙の方が調子が良い。
『よくレーザーを躱しながら宇宙まで上がれたものだな。ただでさえ上昇は大きくスピードが落ちるのに、大気圏離脱までするなんて』
「”慣れ”ですわ。レーザーを躱すのも長いですからね。いつの間にかレーザーの射線が目に見えるようにまでなりましたわ。距離さえあればスピードは足りなくとも、このくらいは出来ます」
もっとも逆に言えば、あのバケモノに接近は不可能。
『大したものだ。俺もニュータイプになったとはいえ、上総の真似はできそうもないな。で、宇宙に上がったのは何か理由があるのか?』
「ガノタなりの勘ですかしらね。モビルスーツは元々宇宙作業用メカ・モビルワーカーを兵器へ転用して発展していったものです。宇宙からなら、何かしら突破口が見つかるのではないかと思ったんですわ」
その時「ピーーッ」と音がした。
何かしらの計算で自閉モードだったハロが、再び起動したのだ。
「その勘は当たりだ。宇宙に出て余裕が出来たんで、詳細に分析ができた。それで、いちおうの大雑把な作戦はできたよ。あの極大レーザーは突破できる」
『おおっ!』
「さらに超硬度の複合装甲に守られた巨大質量の体を、一発で破壊する方法も思いついた」
「て、天才ですわ!!!」
ハロの示した作戦は次の通り。
1.νガンダムが囮になり、主砲、副砲のレーザーに撃たれる。ウェイブライダーはその隙に巨大BETAに接近。
2.主砲近くまで接近できたらZガンダムに変形。今度はゼータ自身が囮になり、再びレーザーを撃たせる。
3.レーザーが発射される瞬間、照射膜を破壊しロングビームサーベルを照射口に突き立てる。ビームサーベルのIフィールドで乱反射したレーザーは、そのまま巨体を破壊する。
「…………………………………つまり、白銀に”死ね”とおっしゃってますの?」
「だから大雑把な作戦の骨組みだって。帰って軍にも協力してもらって、囮は何とかしよう」
「そうですわね。【νガンダム爆散シーン】なんてプレミア画像欲しくありません。あと白銀が死ぬのも悲しいですわ」
『俺はνガンダムの次か。いやそれより上総、ハロ。問題は1だけか? 2、3は大丈夫か?』
「え? あーうん。レーザーの照射時間は1分25秒。そこから次までの照射インターバルは3分10秒。ゼータの大気圏降下能力なら十分接近できるよ」
「わたくしも大丈夫ですわ。レーザーの発射タイミングは正確にわかりますし、バイオセンサー全開でロングビームサーベルを作れば、1000メートルくらいいけます」
『なら問題ないな。今やろう。たかがレーザーの一つ。νガンダムではじき返してやる』
「三つですわ! ここであの名セリフをもじった言葉を使うなんて!」
『今、デカブツを何とかしなきゃアルゴスのみんなが危険だという話だったろう。それに協力を要請するとして、相手はソ連。交渉にどれくらいかかるかわからない。その間にあのデカブツはどれだけ被害を出すか』
「…………そうだね。奴が北米大陸を攻撃したら、アメリカは勝手にオルタ5を発動する可能性が高いよ」
『だろ? だから今なのさ。大丈夫、いけるさ』
「コロニーレーザーを受け止めるようなものだけどなぁ。それに問題がもう一つ。νガンダムには一応大気圏を降下できる強度とバーニアはある。けど実際にやるとなると、身動き取れずただ降下していくだけという状態だ。つまりレーザーで鴨撃ち状態」
「少なくともデカブツのレーザーは無力化しないと、白銀は降りれないということですのね。白銀、νガンダムの酸素はどのくらい?」
『あと30分という所かな。緊急用の酸素なんで、そう長くは持たない』
30分以内にデカブツを倒さないといけないのか。
下手をしたら共倒れ。
やはり一度帰って、囮と回収用の航宙艦を軍に用意してもらった方が………。
『ちっとも問題ないな。上総とハロは最強最高の
え、えええええっ!? そこまで信頼してくれても困るんですけど!
◇ ◇ ◇
『軍事の作戦は確実性こそ最上』という格言はどこへやら。
結局、白銀に押し切られる形でバクチみたいな作戦は開始された。
ウェイブライダーとνガンダムは分離して離れ、共に全機能を止めてBETAの探知から免れている状態。
まずはνガンダムがシステムを起動して囮となるのが作戦第一段階。
システムを落とした薄暗いコクピット内でνガンダムを見ながら待機だ。
「いいの? ボクの計算じゃ、Iフィールドでもあの極大レーザーは受け止められないよ」
「白銀が”やる”と言っているのです。ならば信じて任せましょう」
「”やる気”と”がんばり”で不可能を可能にできるのは学校のテストくらいだよ。特に兵器の運用は冷たい計算の通りにしかならない」
「わかってますわ。けど白銀が本気になると、どうにも逆らえないんですわ。なんか女には危険なオーラみたいなのが出て」
白銀は性別に関係なくダチになれる性格だ。
普通は友達でも相手が異性だと、ある程度は意識してしまうものだが、白銀にはそういったことはまるで無いのだ。
TS転生のオレとしては、白銀のそういう所には助かっているのだが。
しかし、白銀のたまに見せる翳りみたいな所には「ドキリ」とさせられてしまう。
自分が女だと意識させられてしまう瞬間があって、その時には逆らえなくなってしまうのだ。
「と、ともかく! νガンダムも白銀もこんな所で無くなってもらっては困りますわ。やらせてみて、もし無理そうでしたら作戦を中止してサイコフィールドでフォローします」
「………あんまり信じてないじゃん」
♠♢♣♡♠♢♣♡
白銀 武Side
「さて、やるか」
全システムを落とし、息苦しい暗闇となったコクピット。
非常灯の薄暗い灯りが妙に心細くさせる。
サイコミュを使えるようになったとはいえ、νガンダム初の実戦の日にこんな規格外とかち合うとは。
されどやるしかない。
「俺もニュータイプのはずだ。BETAが俺を狙う意識をとらえ、合わせてIフィールドを張る。
………純夏、導いてくれ」
覚悟を決めメインシステムのレバーを引く。
νガンダム、システム解放。サイコミュ起動。
――――ティキーーン
「来る! レーザーだ。行け、フィンファンネル! Iフィールド展開!!」
フィンファンネルが四方に動き、νガンダム前面に大きくIフィールドを展開する。
そこに極大レーザーが襲来!
予定通り、最大の力場の発生する場所でレーザーを受け止めた。
Iフィールドとレーザーはぶつかり合い、白いエネルギーの奔流を散らせながら拮抗する。
だが………
「くっ、ダメだ。Iフィールドが持たない!」
やはりあの極大レーザーは圧倒的。
少しずつIフィールドが削られ、消えていくのがわかる。
だが照射は1分25秒間だ。何としても持たせてみせる!
……………と決心したのだが、ハロの緊急通信が絶望にたたきこむ。
『白銀、まずい! 副砲二門が来る!』
「なっ!? これはまだ主砲のみのレーザーなのか?!!」
『やはり無茶ですわ! 白銀、今行きます!』
「ま、待て! くそっ、糞オオオッ!!!」
――――――やれやれ、まるでなっちゃいないな。
Iフィールドとはいえ、まともに正面からレーザーを受ける奴があるか。
「――――――?!! アンタは! まだいたのか!?」
どこからともなく聞こえてきた声。
それはニュータイプの”共振”による声だった。
――――フィンファンネルの使い方を教えてやる。こうだ。
その瞬間、フィンファンネルの動きが俺のコントロールを外れ、劇的に変わった。
さっきまでその場に固定してIフィールドを張っていただけだったのが、活発に宇宙を泳ぐように舞いはじめたのだ。
「あの動きは………そうか。レーザーを受け止めるんじゃなく、流し逸らすのか!」
Iフィールドはレーザーを斜めに受けながら曲げて別方向へと流し始めた。
三本のレーザーは完全に制御され、νガンダムの直前で歪められ、あさっての方向へ流れていく。
『す、すごいですわ! あのフィンファンネルの動き、前世で劇場で見たのとおんなじ! まるで本物みたいですわ!!』
はしゃいだガンオタみたいな声をあげる上総に、思わず苦笑する。
無邪気なものだ。
「……はは、本物だよ。ニュータイプ一年生にできる芸当じゃないさ」
『え?』
「…………いや、何でもない。さあ、もう俺は心配ないだろう。いけ! 【
『ええ、行きますわ! 奴をソ連のゴミの山に変えてやるですわ!!!』
ウェイブライダーは地球を目指して突入し、大気圏降下体勢で落ちていく。
それは青い星へ吸い込まれるように小さくなっていき、やがて消えた。
俺はあいつらを敬礼で見送った。