ゼータと上総   作:空也真朋

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65話 ああウェイブライダー特攻機

 「くぅぅぅぅっ、ヒッ…ヒッ…」

 

 現在オレはL1呼吸法という耐Gのための呼吸法をしながら大気圏降下のGに耐えている。

 お腹に力を入れて三秒に一回強い呼吸をする、強いGがかかった空間での呼吸法だ。

 スタート発進が遅れたせいで、厳しめの強行突破で地球へ降下しなければいけなくなった。

 サイコフィールドを使えるならこんな真似は必要ないのだが、じつはサイコフィールドを発生させると足が遅くなってしまうのだ。こういった急ぎの場合には使えない。

 これは決死の光線級吶喊(レーザー・ヤークト)

 レーザーが発射される前に目標に到達できねば死だ!

 

 「うぐうううっ! ヒッ……ヒッ…ヒッ…………フゥ?」

 

 ――――と、いきなり息が楽になった。

 

 「上総、ご苦労さま。ようやく遅れを取り戻して、コクピット内を1Gへ戻せたよ。ここからはいつもの光線級吶喊(レーザー・ヤークト)だ」

 

 いつものかぁ?

 考えてみれば正気の沙汰じゃない。

 数万度にもなろう照射口前で、レーザー発射直前に暴れまわれって、どんな作戦だよ!

 

 『わが棺は空のゆりかご

 最後の勝利を信じつつ鈍色の空に散華せり』

 

 とかにならないか?

 まぁ今さら死ぬのを恐れるわけでもないが、生還の芽はあるのかは知っておきたい。

 

 「ハロ。今さらですけどこの作戦、生きて帰れますの?」

 

 「少なくとも照射膜の破壊さえできれば生存可能だ。レーザーは光だからね」

 

 「はい?」

 

 「光の運動は通常全方向に拡散する。一方向へ進ませるには、レンズのように光の方向を定めるものが必要だ」

 

 「レンズの役目をしているのが照射膜………ああ、なるほど。わたくしにも分かりましたわ」

 

 つまり照射膜が無くなれば、レーザーのエネルギーは全方向に拡散してゼ-タの装甲でも耐えれるほどに弱まる。

 さらにそこにビームサーベルのIフィールドで方向を定めれば、レーザーを逆流させることも可能というわけだ。よーし、頑張っちゃうぞ!

 と、やる気闘志を燃やしたのだが…………

 

 

 ――――ティキーーン

 

 

 レーザー照射の気配? もうレーザーが発射される!?

 早すぎる! まだ50秒くらいは余裕があるはず………

 ハッ! そうか、そういうことか!!

 

 「ハロ、あんの野郎、充填率を下げて発射しようとしてますわ! なんてこと! BETAのクセにこんなアドリブを決めやがるなんて」

 

 ヤバイ! 今でもギリギリなのに、回避機動なんて取れやしない!

 

 「えええっ、そんな!! この体勢、距離じゃ避けることなんて………………いや出来る!! 上総、大きく右手30度に舵を切って! 誘導点に合わせて正確に!!」

 

 「わっ、わかりましたわ! BETA撹乱マニューバ!」

 

 どんな策かもわからないままエンジンシステムを全カット。

 電子機器の作動反応によってこちらの位置を知るBETAの感知能力をくらませる。

 そして補助翼の操作と下から突き上げる風で機首を目標の方向へと合わせる。

 機体が目標地点に向かい水平になった瞬間、システム復活ブースター全開。 

 一気にハロの示した誘導点へと突っ込んでいく!

 

 (うっく加速しすぎた! 意識が…………)

 

 急加速の代償がきた。

 目の前が真っ暗だ。いわゆるブラックアウトという現象。

 レーザーの気配が痛いほど刺さる中。

 サイコフィールドを張る間もなくグロック(失神)した――――――

 

 

 

 

 

 

 「………………? どうしたことですの。あの野郎、照射する気配が消えましたわ」

 

 数十秒間の気絶。戦闘機動では致命的な空白。

 されどオレは、ウェイブライダーは平穏無事に飛行している。

 それどころか後ろの巨大BETAからは、レーザー照射口すら向けられていない。

 

 「強力すぎるレーザーが仇になったんだよ。この方向にはアレがある」

 

 「え?…………ああっアレは!!」

 

 BETAに均され何も無い大地が果てしなく続く中。

 遙か真正面先にただ一つそびえ立つ巨大な建造物があった。

 それは「モニュメント」と呼ばれるハイヴの地表構造物。

 BETAは決してハイヴにレーザー攻撃しない。いや、おそらく出来ないのだろう。

 

 「フッ……フフフ。本当に笑えるジ・エンドですわね。こんな弱点をさらした以上、もはや勝負は見えましたわ。では、なぶり殺しといきましょうか!!」

 

 オレはウェイブライダーをUターン。

 正確に地表構造物を真後ろの背にしたまま、巨大BETAに突入。

 

 「桜花ウェイブライダー特攻隊山城機、敵戦艦見ゆ。目標敵甲板。今、玉と砕け御国の恩に報いますわ!」

 

 「特攻隊ネタ? 不謹慎だなぁ。本当に砕けないでよ」

 

 「ついやってしまいましたわ。ちょうど状況がピッタリだったもので。わたくしは砕けずとも、コイツは徹底的に砕いてやりますが!」

 

 巨大BETAに近づくと、その足元には百数十体ほどのBETAがたむろっているのが見えた。

 おそらくあのデカブツの直援だろう。

 しかしその中に光線種は見えない。

 

 「あれは無視してかまいませんわね。これは光線級吶喊(レーザー・ヤークト)。雑魚は相手にせず、光線種のみがただ唯一の標的」

 

 オレはウェイブライダーをZガンダムへ変形させる。

 

 「ハロ、パーティーを始めますわよ。メインディッシュは胸に光る反応炉のG元素ですわ!」

 

 「そりゃご馳走だ。反応炉のG元素なんて、まだ味わったことはなかったからね」

 

 気分はすっかり狩猟前のバーバリアン。

 一人と一機の野蛮人コンビは、ビームライフルを構え巨大な敵の懐へと突入していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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