パプティマス・シロッコ。
【機動戦士Zガンダム】のラスボスで、とにかく長い宇宙世紀でも比類する者がいない程の多彩な天才だ。
戦闘面では最終局面でカミーユのゼータ、ハマーンのキュベレイ、シャアの百式と戦いながら、最後にカミーユに機体のコントロールを奪われるまで一度も被弾しなかった程の腕前。
これはパイロットの腕前だけでなく強力なニュータイプ能力もあってのもので、キュベレイのファンネルの動きすら完璧に予測。完全回避した。
シャアのことも『ニュータイプの出来損ない』なんて見下していたっけ。
指揮能力も優秀で、ティターンズに入隊してから数々の功績をあげ、半年でナンバー3の地位にまで昇りつめるほど。
さらに優秀なモビルスーツを独自に設計、開発する知識も持っており、このジ・Oの他にメッサーラ、パラス・アテネ、ポリノーク・サマーン等は彼の手によって作られたものだ。
なんだか異世界転生モノのチート主人公を説明している気分になってきた。
これらの能力を、オレみたいに神様からもらったとかじゃなく、すべて自前でもっているのだから本当に凄い。
もし敵になってしまったら、オレもゼータに乗っているとはいえ勝てる気がしない。
なんとか上手く説得して味方になってもらわないと。
コクピットに入ると、彼がリクライニングしたゼータのシートにもたれている姿があった。
折れた肋骨の治療はちゃんとしており、ギプスで固定している。
「は、はじめましてパプティマス・シロッコさん」
「♠◇#%>*♪ζξ$&φ♢π♣~^%#*?@”?」
あれ? 言葉が分からない。
ああ、そうか。考えてみれば、彼は異なる地球の、宇宙移民するほど遠く未来の人間だったんだ。
だから言語もそうとう変化している。
たとえば同じ日本語でも、平安時代のものは現代の言葉と相当違ったものだし。
弱ったな。言葉が通じないんじゃ、説得も何もあったものじゃない。
と、ハロが「コロン」とオレの方に転がってきた。
「とまぁ、彼は宇宙世紀の惑星公用語を話しているんだけどね。でも大丈夫。ボクが介して互いの言葉を通訳するから、それで会話をしてね」
「えええっ!? ハロ、彼の言葉がわかるのですか!」
「ゼータのインデックスはじめ機体説明、プログラム等みんな惑星公用語で書かれているんだよ。必要な知識として神様から貰っているよ」
「ハロえもーーん! あなたがいてくれて助かりましたわ、心の友よ!! お礼は”上総リサイタル”できっと返しますわ!」
「歌わなくていいから。それよりシロッコさんと話さなきゃ」
そうだったそうだった。
しかし”惑星公用語”なんてしゃべるハイカラさんたぁ、さすがマジモンの宇宙世紀人!
ベラベラ日本語を流ちょうにしゃべるエセ宇宙世紀人たぁひと味違うねぇ。
「ペットロボといつまでも遊んでないで、わたしの質問に答えてくれないかね。カミーユ・ビダンはどこだ?」
シロッコさんは変わらず意味不明の言語を話しているが、ハロそれをがちゃんとこっちの言葉に翻訳している。さすがは万能ロボ。
「彼はいませんわ。『いまこの場にいない』という意味ではなく、この世界のどこにも」
「どういうことだ? この機体はZガンダムではないのか? なのに奴がいないとは、どういうことだ?」
「まずシロッコさんに最初に知ってもらいたいのは、この世界はあなたのいた宇宙世紀の世界ではないということです。そして……………」
オレはこの世界の説明をはじめた。ハロに手伝ってもらって、モニターにこの世界の光景を映してもらいながら。
ここは西暦二千年初期の世界であること。
BETAと呼ばれる侵略宇宙人と戦っていること。
向こうとこちらのゼータのシンクロによってシロッコさんはこちらの世界に来てしまったこと。
「話はわかった。だが、その話を信じるとして、君がこっちの世界のゼータを持っているのは何故だ? それにわたしのことを知っている理由は?」
「それは話せませんわ。まさか、こちらの秘匿情報まですべて話してもらえるとは思っていないでしょうね?」
と言っておこう。軍人たる者、説明しにくいことはすべてコレでスルーだ。
「なるほど、そっち方面は秘密か。それでわたしはどうなるのかな?」
「そうですね。わたくしの上官に使ってもらうというのは? この世界の人型機動兵器は、そちらの世界のモビルスーツよりかなり遅れています。なので重宝されると思いますわ」
「西暦の時代に人型の機動兵器だと!? あれは宇宙の開拓作業をするモビルワーカーがはじまりの、近年生まれた兵器だ。たいした宇宙開発など始まっていないこの時代には存在していないはずだ!」
近年?
ああ、そういやモビルスーツは一年戦争時のザクがはじまりだっけ。
つまり彼が生まれてからの時代に出来た近代機動兵器。
それがこの時代にあったなら、そりゃ驚くわ。
アレ? もしかしてオレの方が、モビルスーツを見てきた時間は長い?
「こちらの世界線にはあるんですわ。さっきも説明した通り、BETAという侵略宇宙人と戦う必要性から発明されましたの」
オレはさっきのように戦術機の説明をはじめた。
日本の撃震とイーグルの図解をモニターに映して、知っている限りの戦術機の説明をした。
さすがに彼は技術屋らしく、さっきよりかなり集中して聞いていた。
しかし説明が進むにつれ、難しい顔になっていった。
「脆いな。こんな脆い素材で、ここまで人型機動兵器を作れたのは大したものだと言いたいが、兵器としてはモビルスーツにはるかに及ばない。やはり素材は地球産のものだけか?」
「はい。宇宙開拓はBETAに阻まれ、月からさえ後退していますわ」
「やはりな。となると、わたしの知識が役立つかはわからんな。強度が圧倒的にたりない。これに小型原子炉を搭載するなど不可能だ。宇宙からの鉱物資源がないなら、作ることもできん」
ああ、やはり彼もこの問題にぶつかったか。
じつはアラスカへ来る前、香月博士部下の技術屋達が二体のガンダムを調べた。
だがガンダムの複製はもちろん、そのバージョンダウンした機体さえ作れないという結果になった。
理由は、その驚異的なスペックを支える機体の素材が作れないからだと言うのだ。
たしかにガンダリウム合金は、千年未来の地球連邦軍技術部のテム・レイ博士が生み出した驚異的な硬度をもった合金。ザクのマシンガンすらはじき返す。この時代の人間に作れるはずもない。
「宇宙開拓時代からの素材は生産不可能か…………この時代の脆い鉄や合金だけでできることといえば…………」
シロッコさんが何やら考えているのを見ていると、外の白銀から連絡がはいった。
『上総、そっちの方はまだ終わらないか? もうすぐ日が暮れるし、そろそろこの場を撤収して帰投したいんだが』
ああ。そういや説明にだいぶ時間がかかって、もうそんな時間か。
今日はキツイ戦闘もやったし、オレも帰って休みたい。
「わかりましたわ。シロッコさんに伝えます。ただちに撤収準備にはいりましょう」
『あとジ・Oの破棄処分だが、いちおうシロッコさんに許可をとってくれ。いま持って帰れない以上、どうしてもやらなければならないことを説明して』
オレ的にはじつに鬱な話だ。
せっかく現れた本物のモビルスーツを破壊しなきゃなんないなんて、ダンチョーの思いだ。
「了解しましたわ。今から説明いたします」
というわけで、シロッコさんの思索を中断させ、これからジ・Oを破壊して帰投する旨を伝えた。
「そうか、それはやむを得んな。だが、その前にデータだけでも回収させてくれ。サイコミュの稼働データだけはどうしても………あ、いや」
シロッコさんはつい口をすべらせた、というように口ごもった。
すると通訳していたハロが、オレにこっそり言った。
「上総、上総。これからサイコミュのデータをくれるよう頼んでみるから、口パクお願い。代わりにサイコフレームを提供するからって」
ふーん。ハロ的には欲しいモノなのか?
しかしサイコフレームって、シロッコさんの生きていた頃より、さらに後の時代の技術だよな。
この天才にそんなものを渡したらどうなっちゃうんだろうな?