ゼータと上総   作:空也真朋

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 63話はこの展開のために書きました。
 伏線ひとつ張るのに一話書かなきゃなんないんだから。


72話 夜間飛行

 白銀武Side

 

 ツェー前線基地戦術機発着場

 

 

 「…………やっちまった。戦術機ってな、こんなに脆かったんだな。忘れていたぜ」

 

 ビームライフルで爆散させた機体を見て、そんな言葉が出た。

 撃ったのは相手の突撃砲。

 だがその爆発は想定以上に大きく、管制ユニットまでも押しつぶすほど。

 中の衛士は絶望的だろう。

 

 「いったい何だったんだコイツは。これほどの腕。『特殊訓練を受けた衛士』ってだけじゃ説明つかないぞ。同じ機体同士で戦ったら、俺でも危ういかもしれん」

 

 この前線基地に来てみると、二つの勢力が戦術機で激しく戦っていた。

 いや、一見戦術機同士の戦いの体をとっていたが、それは戦闘というより蹂躙だった。

 一方の勢力は大隊規模の部隊であったのに対し、もう一方はたったの一機。

 されど相手を圧倒し蹂躙していたのはそのたった一機の方であったのだ。

 その一機はこの部隊をさんざん蹂躙し破壊。

 その残余が全滅するのも時間の問題であった。

 俺が介入し、戦闘中止を呼びかけたのはそんなときだった。

 だがこの機は俺にまで発砲をしかけてきた。

 やむを得ず応戦したが、さっき述べた通り相当できる奴で、さんざん振り回された。

 牽制では埒があかず武器破壊で戦闘をやめさせようとしたのだが、ごらんのありさま、と言うわけだ。

 やっちまったことに呆然していると、上総から通信がきた。

 

 『アーガマ01、さっきそちらの方で爆発音が聞こえました。あれってもしかして…………』

 

 「ああ。ビームライフルの威力が強すぎて、相手戦術機を一機破壊。搭乗者も殺っちまった」

 

 俺はここで起こった一連のことを軽く上総に説明した。

 

 『νガンダムを相手に戦術機で互角以上の戦闘をしたのですか! それはすごいですわ』

 

 「いつの間にか慣れちまって考えなかったが、ビームライフルってなこんなに威力があるんだよな。そりゃ、たった二機で万余のBETAも全滅できるはずだよ」

 

 『で、その件はしかたないとして、そいつと戦っていた方はどうなのです? 戦闘はしてないようですが』

 

 「いちおう撃ってはこないがな。呼びかけても応答してこない。警戒しているんだろう」

 

 『だったら連中は無視してこの基地を離れる………ってわけにもいきませんわね。ひとり殺ってしまいましたし。その衛士がどこの誰で、どんな状況の戦闘だったのか聞かないといけませんわ』

 

 「とにかく、もうしばらく待機しててくれ。通信は開きっぱなしにして、こちらの状況は伝えておく」

 

 いちおう軍法的には『正当なる応戦』が成り立つ状況だ。

 しかし証言が当事者である俺のものだけでは弱すぎる。

 襲われていた連中が証言してくれれば一発なんだが、してくれるか? 対話すら難しいみたいだし。

 その時だ。連中の代表格の者から通信が送られてきた。

 

 『こちらはジャール大隊指揮官フィーツィカ・ラトロワ中佐だ。アーガマ小隊白銀少尉。そちらとの対話を希望したい』

 

 ラトロワ中佐!?

 ってことは、ここでやられている部隊はジャール大隊なのか!

 俺達と別れたあと、どうしてこんなことに?

 

 

 ジャール大隊指揮官ラトロワ中佐のチェルミナートルは俺の対面へと出てきて会談。

 その間、生き残ったジャール大隊の部下は出てきて、戦術機の残骸から仲間の救助をこころみている。

 俺とにらみ合ったままじゃ、救助もままならないから出てきたって所か。

 

 「で、いったい何があったんです? 向こうが仕掛けてきたのでやむを得ず応戦してしまい、このようなことになってしまったわけですが。この衛士とは、どのような経緯でそちらと戦闘になったのです?」

 

 『経緯なんてないさ。我らジャール大隊は撤退する連中の殿(しんがり)としてこの基地に残された。ここからでもでっかいレーザーがあちこち飛んでいくのは見えたが、それが止んで貴様達が帰ってきたってことは勝ったのかい?』

 

 「ええ、仕留めました。とりあえず迫っていた巨大BETAの脅威は、もうありません」

 

 『大したもんだね。このとんでもない刺客を倒したってのも納得だよ』

 

 「刺客……ですか? ハッ、まさかこれって!」

 

 『ああ、いわゆる”粛清”ってやつだね。上層部への不敬なんかは今更だし。思い当たるのはアンタらの試作機の戦闘を見たってことかね。そのくらいしか部隊まるごと消されるような覚えなんてないね』

 

 粛清。

 共産圏の国では共産党に都合の悪い国民は、密かに抹殺したり適当な理由で逮捕したりするという話は聞いたことがある。

 しかし、まさかその現場を目の当たりにするとは。

 

 「それで…………これからどうするので? 粛清されかけた身ともなれば、軍に復帰は難しいでしょう」

 

 『帰ってもまた消されるだけだろうしね。ともかく助けてもらったし、アンタに迷惑をかける気はないよ。このまま私らに逢わなかったことにして、行ってくれるとありがたい』

 

 たしかにこの件で、俺がラトロワ中佐とジャール大隊のために動くのは難しい。

 外国の衛士である俺が彼女らを助けたならば、国連や日本とソ連との関係に良くない亀裂ができるかもしれないし。

 何より上総まで巻き込んじまう。

 心残りではあるが、ラトロワ中佐の言う通り何もなかったことにして行くか、と思ったときだ。

 

 『待ってくださいラトロワ中佐』

 

 いつの間にかゼータが飛んできて、この場に降り立った。

 忘れていたが、この会話は上総も聞いていたんだった!

 

 『話は聞かせてもらいました。ラトロワ中佐、よろしければ生き残ったジャール大隊の身の振り方は、わたくしに任せていただけません?』

 

 巻き込む心配なんていらなかったよ、コイツ!!

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城上総Side

 

 『話は聞かせてもらいました』なんてセリフ、言う日が来るとは思わなかったね。

 前世で見ていた刑事、探偵ドラマじゃ定番だけどさ。

 ま、ドラマヒーローのセリフなんて言ったんだ。活躍するとしますか。

 

 「アーガマ01、いえ白銀。あなたはどうします? わたくしはどうしてもジャール大隊の皆さんを助けるつもりですが。たとえあなたが止めても」

 

 『………………いいだろう。彼らの境遇には、同じ衛士として思う所が多すぎる。俺も乗った。だが、どうするつもりだ?』

 

 「前に言ったことを実行しましょう。ここからペドロパブロフスク・カムチャッキー基地は目指さず、彼らを連れて日本へ行きます」

 

 『そうか日本か! 粛清に暗殺なんて手段をとった手前、たしかに国外に出れば手は出せなくなるな。ラトロワ中佐、それでよろしいですか?』

 

 『ああ、本当に私らを連れていってくれるなら頼みたい。しかし何故だい山城少尉? 私らを助けても危険しかないよ。こんな危険をおってまで、どうして私らを助けてくれるんだい?』

 

 「許せないんですわ。命をかけて戦っている戦士の背中に、味方顔をして撃ってくるような奴らが」

 

 あの明星作戦の日の記憶がよぎる。

 命をかけて戦っていた衛士や兵士のいる横浜に、アメリカは予告もなしにG弾を落とした。

 結果、オレのいた傭兵部隊エゥーゴの主催者ブレックスはじめ多くの仲間が死んだ。

 さらに、それを知らせに来てオレの命を救った鳴海と平も死んだ。

 あの日のことは、抜きがたい怒りとなってオレの心に突き刺さっている。

 理性的でないのはわかっている。

 だが命をかけてBETAと戦ってきた連中を、自分らの都合が悪いからと抹殺するような奴らは、どうしても許せない。危険くらい買ってやるさ。

 

 『…………アンタにも色々あったみたいだね。ともかく助けてくれるのはありがたい。しかし、どうすんだい? こちらは生き残ったのは総勢十五人。生存としちゃ多くはないが、それでも安全な場所へ行くには多すぎる人数だ。こちらで動かせる機体は私のものだけだし、推進剤も残っちゃいない』

 

 そう、ここには彼らを運ぶ足がない。

 車両もすべて撤退に使われて、一両も残ってはいないとのことだ。

 だが、それも考えてある。

 

 「その機体は捨てて、全員を巡航形態になったこちらの機体の上に乗せます。そしてオホーツク海を渡り、日本の北海道へ渡ります。とりあえずそこで身の振り方は考えましょう」

 

 『はぁ? 日本? いくら地図上は近いからって、戦術機でここから千キロ近くの距離を渡るっていうのかい? 正気かい!』

 

 「可能ですわ。このゼータも、巨大BETAとの戦闘で良質なG元素を食べたので………………いやともかく、こうなっては時間はかけられません。刺客がやられたことでソ連が調べに来る前に急いで国を出ましょう」

 

 話は切り上げ、さっそく作業にかかった。

 破損した戦術機から管制ユニットを取りだし、中の機材を取りだして防風殻とする。

 それ二つを作り、中にジャール大隊生き残りを入れたら準備完了だ。

 基地の滑走路にゼータとνガンダムは立って発進準備にはいる。

 シート隣のシロッコさんは黙ってオレの作業を見ていたが、発進前にようやく聞いてきた。

 

 「そちらの言語がわからないので、何がおこっているのか説明が欲しいのだがね。君は軍から脱走でもするのかね?」

 

 「いいえ。脱走はわたくしではなく現地の部隊の人達です。というより粛清されかかったので国から逃げなければ殺される、という状況ですが」

 

 「なるほど。そういったことをする連中は、どこの時代と世界にもいるな。しかし彼らを助けることは、君も危険ではないのかね?」

 

 「まぁ、大丈夫でしょう。交渉に使えそうなお宝はいっぱい積んでいますし。ウチの上司はこういったことには強いそうですので期待してます」

 

 不安はあるが、ラトロワ中佐はじめジャール大隊の子供衛士達を救う決心に揺らぎはない。

 こんなことをする連中であろうと、人類の守り手・衛士としては銃を向けるわけにはいかないのだ。

 それでもせめてもの意趣返しとして、ジャール大隊の生き残りは必ず救ってみせる! 

 

 「では行きます。アーガマ01、ウェイブライダーが安定飛行したら乗ってください。くれぐれも振動はあたえず気をつけて」

 

 「アーガマ01了解。できる限り低速飛行でたのむ」

 

 白銀のνガンダムは背中にはジ・Oの大型ビームライフル。両脇左右にはジャール大隊の入っている防風殻二つ。見るからに重そうだ。

 がんばれハロ!

 

 ゼータは基地の滑走路から発進し、空中でウェイブライダーに変形。

 そこにバーニアで空中にとどまっていたνガンダムは、タイミングを合わせ騎乗。

 

 ――――――ドスンッ

 

 「ううっく! こ、根性ぉぉぉ!」

 

 「うん? ペットロボから勝手に声が出たが、どうしたのかね」

 

 「いっ、いえ翻訳機能がさっきの振動を音声と誤認識して、勝手に翻訳してしまったのですわ! お気になさらずに」

 

 やれやれ。ハロの奴、シロッコさんがいるのに声が出てしまうくらいキツイのか。

 頼むから海には落ちないでくれよ。

 

 「では行きます。日本へ!」

 

 大きな不安を抱えつつも。

 暗くなりはじめた空を飛び、進路を南南東へ向け日本へ。今夜は夜間飛行だ。

 この日八月十九日。

 それはオレ達にとっても世界にとっても、大きな転換点となった日であった。

 

 

 




 これにて第四章幕!
 この先の話はまったく考えていないので、復帰はかなり遅くなると思います。
 ブルーフラッグとか恭順派のテロとかやれるかな?
 あと、強化されたBETAとの決戦とかもどうしよう?
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