ゼータと上総   作:空也真朋

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74話 ブレックスの遺産

 インドネシア共和国ジャカルタ

 

 「この街もなつかしく思えますね。よく、ここでブレックスの政治活動につき合わされたものです」

 

 「でも、あの時よりお店が少なくなっているね。売っている物も品質は悪いのに値段は高いし。やっぱり戦況が悪化して農耕地が削れてる影響だろうね」

 

 オレ達は北海道で白銀と別れ、ここインドネシアに渡った。

 理由はソ連亡命者のラトロワ中佐と元ジャール大隊の問題だ。

 最初、彼女らを香月博士にまかせようとした。

 しかし現在ソ連は対日外交に力を入れており、それに乗っかる派閥も力をもっている。

 つまり日本に連れていくと外交取引の道具にされる可能性が高いので、連れていけないのだ。

 

 そこで考えたのが、古巣である大東亜連合だ。

 ここは昔組んでいたブレックスが頻繁に政治活動をしていた地で、その恩恵でオレにも、それなりの人脈というものがある。いわば”ブレックスの遺産”だ。 

 元ソ連軍人で粛正されながらも生き残った佐官なんて、どこであろうと手に余る。

 しかし雑多な人間の集まる大東亜連合なら身を隠す場所もあるだろうと、ラトロワ中佐達の身柄を預かってもらう地にここを選んだのだ。

 そしてとある裏通りの片隅で、とある男と会った。

 

 

 「遅いですわよ、カイ・シデンさん」

 

 「とっくに来ちゃいたがな。アンタの様子を見ていたのさ。その妙なメカで誰かと話してたようだが、誰なんだ?」

 

 そしてその一歩。

 それがこのジャーナリストのカイ・シデンさんに会うことなのだ。

 彼は”ジャーナリスト”という肩書きながら、民間の企業が広報に使ったり情報収集を頼んだりしている。いわば民間の諜報員。

 ちなみに【Zガンダム】のあの人と名前は同じだけど別人。念のため。

 あと『妙なメカ』とはハロのことだ。

 

 「いちおうバックアップをしてくれる人がいるのです。安全にはそれなりに気を使っていますので」

 

 「そうかい。ま、そいつのことは聞かねえでおこう。再開を祝して一杯やりてぇとこだが、こんな場所じゃな」

 

 「もう正規の衛士ですから飲めませんわよ。体を常に最高の状態にしておくことが衛士の務めですから」

 

 「正規じゃなくても昔っからアンタはそうだったろう。ま、いいさ。ソ連に現れた怪物BETAと戦って生きててくれて、その直後に逢えただけで幸運だ。いいネタもらえそうじゃねえか」

 

 「知ってましたの? ソ連に現れた超大型BETAのことも、それとわたくしが戦ったことも」

 

 「まぁな。いちおうアンタの動きは絶えず追っている。大東亜連合から離れた後もな」

 

 おそらくそれは、ブレックスとつき合いのあった大東亜連合の大立て者からの依頼だろう。

 つまり彼はオレの望む人に繋がっている。思った通りだ。

 

 「で、その怪物はどうした。続報が来ないんだが、どうなったか知らないか?」

 

 「わたくしの頼みを聞いていただけたら教えますわ。【ウォン・リーさん】に会わせていただきたいのです」

 

 「おいおい大東亜連合財界の巨魁じゃねぇか。大東亜連合に戻るつもりかい?」

 

 「いいえ、別の用件です」

 

 「だったら、その情報だけじゃ不足だな。アンタ、怪物と戦ったってんなら、そいつの写真なんかも取ってんだろ。出しな」

 

 「一応、ウォン・リーさんへの交渉材料なんですけどねぇ。詳細な分析なんかは出せませんわよ」

 

 「ああ、その辺の線引きはだいたい分かっているさ。ちょいとハデな記事作るネタをくれりゃ、それでいい。アンタがいなくなって大変なのはエゥーゴだけじゃない。こちとらジャーナリスト稼業も同様だよ。読者が喜ぶハデな戦勝記事なんて、遠い昔のことになっちまったしなぁ」

 

 エゥーゴか。オレとブレックスがいなくなった後どうなったか気になるが、聞いたら追加の情報料とか取られるかもしれない。スポンサーをやっているウォン・リーさんに聞けば良いか。

 

 「わかりましたわ。動画をプリントアウトしてきますので、待っていてください。迫力ある絵を選んで差し上げますわ」

 

 そう言って立ち去ろうとした。

 

 「おっと待て。怪物がどうなったか教えろ。それも条件だろ」

 

 「苦労しましたが倒しましたわ。武勇伝を語れないのがじつに残念です」

 

 「マジかよ……………アンタが大東亜連合に戻ってこないのが本当に残念だぜ。面白ぇ記事にゃ事欠かねぇだろうによ」

 

 

 

 数時間後、ウォン・リーさんと会う段取りをつけてもらうことに成功すると、ラトロワ中佐を待たせてあるホテルへと戻った。

 

 「というわけで、明日、大東亜連合の大物ウォン・リーさんと会うことになりましたわ。ラトロワ中佐、あなた達を大東亜連合に預けます。よろしいですね?」

 

 「ああ、私らに出来ることといえば戦うことだけだ。ここの傭兵にしてくれるなら、それでいい。ヤマシロ少尉、感謝するよ」

 

 つづいてラトロワ中佐にいつもくっついているイワノヴァ大尉も言った。

 

 「わたしからも感謝を述べる。ヤマシロ少尉、本土での皆の無礼はどうか許してほしい」

 

 「そんなこともありましたわね。それでシロッコさん」

 

 オレは予定外にここにいる問題のその男に声をかけた。

 本来ならこの【パプテマス・シロッコ】は、白銀といっしょに香月博士の元へ行く予定だったのだ。

 それが何故か本人の強い希望でこっちについてきてしまったのだ。

 

 「明日、本当にあなたもついてくるつもりですの? わたくしとしては、早く香月博士と会ってもらいたかったのですが」

 

 「なに、この世界のことをよく知るためには時間をかけても回り道をすべきだと思ったのでね。この世界の有力者というのにも興味があるのだよ」

 

 彼はアニメでよく見たうさんくさい顔で笑った。

 『本当に彼の言う通りに行動させて良かったのだろうか』と少しだけ不安になった。

 

 

 

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