ゼータと上総   作:空也真朋

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 なろう小説の方を完結させてからこっちを書く予定だったのに、向こうがスランプで、こっちを先に書いています。
 ブルーフラッグが始まるあたりまでは何とか書こうと思っています。


76話 刀を振る少女

 日本 横浜基地格納庫 

 

 オレはゼータで新設された横浜基地へ到着。 

 本当に白銀の言う通り、一年もたたずハイヴ跡地に立派な基地が建設されたよ。

 明星作戦の時期がズレたせいで竣工時期も伴ってズレこんだらしいが、この基地が対BETA作戦の中心になるそうだ。

 

 [大したものですね。基地に感動する余裕がないのが残念です」

 

 シロッコにまんまと出し抜かれ、彼を連れて来ることが出来なかった。

 彼にしてみればここは言葉も通じない、何一つ身分もない異世界。大したことは出来ないだろうとタカをくくっていたのがマズかった。

 やはり彼は宇宙世紀最大の天才。甘く見るべきではなかった。

 

 「よォ上総、ようやく到着したか」

 

 格納庫にはしばらくぶりの相棒が待っていた。

 

 「あら白銀、出迎えてくれましたの。じつはシロッコさんを連れてくることが出来なくなりまして……って、どうしたんですの⁉」

 

 白銀を見て驚いた。

 彼はすっかり憔悴してヒドい様子だった。多分今のオレ以上にヒドい。

 

「何かあったんですの白銀? まるで取り返しのつかない失敗をしたような顔ですわ。この表現が適切かは分かりませんが」

 

 「いいや、まさにその通りだ。アメリカ行きに加えソ連にまで足を運んだせいで、どうしようもなかったとはいえ。何でこの可能性を考えなかったんだ!」

 

 「とにかく話してみなさい。何があったんですの?」

 

 「二〇七B分隊が……評価演習に落ちた。糞、俺がいなきゃダメだったのか?」

 

 評価演習っていうのは、総合戦技評価演習のことだな。

 訓練兵が衛士にふさわしい知力技術体力を身に着けたかをはかる、いわば試験だ。

 でも二〇七B分隊って? それが落第したからって、どうして白銀がここまで?

 

 「……ああ、思い出しました。たしか白銀が前のループ世界で所属していた訓練部隊でしたわね。それが評価演習に落ちたって……その訓練兵の方々、衛士になれませんでしたの?」

 

 「そうだ! ああ糞、俺は委員長と彩峰の仲をどうにかしなきゃいけなかったのに! 無理にでも一時帰国の許可を取り付けるべきだった!!」

 

 こんな取り乱した白銀見るのは初めてだ。

 年齢的には上総より年下なのに、いつも歴戦のような顔をしていた奴なのに。

 

 「その方たち、実力が足りてなかったんですの?」

 

 「いや、個人の力量は、みんな訓練兵の枠を超えて抜きんでている。だが、そこの分隊長と部隊員の一人がひどく仲が悪くてな。演習中に部隊が分裂して失敗したらしい。前までの時間軸では、俺が苦労して解消したんだが……今回は俺がいないせいで、どうにもならなかった!」

 

 「まぁ、そう気を落とさないでください。香月博士の帰還の報告はわたくし一人で行きます。白銀は気分を落ち着かせてからいらっしゃい」

 

 オレには白銀をしばらく休ませることぐらいしか出来ない。

 その訓練部隊、白銀にとっては大切なものらしいが、オレもシロッコの事があって、白銀の悩みを考えてやる余裕がない。

 

 「ああ糞、とにかく俺はしっかりしないとな。今から重要で……大事なアレが始まるんだし」

 

 「では、また後で」

 

 香月博士のいる場所を聞き、白銀と別れて基地舎へと向かった。

 

 

 訓練場なんてのも出来ていて、そこのグラウンドを通りかかった時だ。

 その片隅で、模擬刀で一心不乱に素振りしている少女を見た。

 長い髪を後ろでポニーテイルにまとめ、凛としたまなざしは清らか。

 

 「綺麗ですね……」

 

 オレはその少女に目を奪われた。

 顔と姿形が凛々しい彼女だが、何より目を奪われたのはその剣筋の美しさだ。

 体幹は微動だにせず、振り下ろす刀はまったく同じ剣筋を綺麗になぞる。

 オレもそれなりに剣術は使えるが、こんなに綺麗に刀を振れるかは自信がない。

 しかし、ひたむきに刀を振る彼女だが、哀愁の陰りが顔に差している。

 

 「どうもこんにちは。とても綺麗な剣筋ですね」

 

 つい声をかけて話しかけると、少女はこれまた綺麗な一礼をする。

 

 「恐縮です。ですが自分の剣など、とても褒められたものではありません。最近己が未熟を痛感する出来事があり、その迷いを振り切るためにやっているだけの事ですから」

 

 「では、わたくしがその迷いを消すお手伝いをいたしましょう。一手お相手いたしますわ」

 

 どうにも素の山城上総というのは、けっこうなチャンバラ好きらしい。

 体の底から出る衝動そのままに、そんな事を言った。

 

 「は? ですが模擬刀はこれ一本きりですが」

 

 「では心の剣でお相手いたしましょう。いかが?」

 

 オレは空の手を刀を持つような形にし、切っ先を彼女に向けるように構える。

 それなりの剣の使い手は、刀の本体を持たずともイメージの刀を作ることができるのだ。

 

 「これは……見事な心剣でありますな。これほどのものを見せられては、自分もやる気を出さざるを得ません。一手ご指南いただきましょう」

 

 彼女もやはりかなりの使い手。

 オレの闘志を感じ、イメージの刀が見えている。楽しくなってきた。

 

 「交える前に名を聞いておきましょう。自分は御剣冥夜。ここの訓練兵でありましたが、先日の評価演習で不適格を言い渡された恥ずべき未熟者です」

 

 ああ、この娘が白銀の言っていた分隊の訓練兵の一人か。

 奇妙な縁が出来たかもしれない。でも、この娘となら友達になってみたいな。

 

 「よろしく御剣さん。わたくしの名は……」

 

 

 ―――「待てい!!」

 

 名乗っている最中、突然横合いから制止の声がかかった。

 見ると、帝国斯衛の制服を着た四人の女性がオレを険しい表情で見ながらそこに居た。

 

 「月詠……中尉。何の真似です」

 

 「お退がりください冥夜様。この者、素性が知れません」

 

 何だろうね、素性が知れないって。

 そりゃアンタとは初対面なんだから、こっちだってアンタなんか知らないよ。

 しかしこの訓練兵のお嬢さん。「様」付けとは、どこぞのお偉いさんの娘か何かかね。

 

 「おい、貴様」

 

 リーダー格の赤い斯衛服を着て髪を後ろでまとめている女性が、オレに乱暴に話しかけた。

 

 「何でしょう。何かわたくしに咎められることでも? いえ、それよりどうして国連軍の基地に斯衛軍の方がおられるので?」

 

 「我々はとある事情で出向している。詳細は語ることは出来ん。それより貴様は何者だ? 基地で貴様を見かけたのは初めてだが」

 

 「はぁ? これだけの基地ですもの。見ない顔の人間くらい居るでしょう。それともあなた方は、基地の人間すべてを把握してるとでも?」

 

 「把握している。その上で聞こう。貴様はたしかにこの基地に居たことはなかった。姓名と所属を答えろ」

 

 マジか? 何で帝国斯衛が基地の人間全員を把握してるんだよ。

 つまりオレは不審者と思われて誰何(すいか)されてるワケね。

 

 「失礼いたしました。自分はA-01連隊所属の少尉、山城上総と申します。アメリカおよびソ連での任務から本日帰って参りましたので、今日初めてお目にかかります」

 

 「なにッ!!?」

 「この者が……あの噂の?」

 「貴様が秘匿戦術機Zの……搭乗者か!」

 

 日本じゃけっこうな噂になっていると聞いたが、彼女らも知っていたか。

 ちょっと厄介な連中に知られてしまったかもしれない。

 

 「……なるほど、ソ連帰りか。あちらでは大活躍だったそうだな。大変なBETAと遭遇したそうだが」

 

 「任務を話題にはできません。当然あちらで遭遇したものについても、ここでお話しはできませんわ」

 

 「そうだな、それが軍人というもの。理解はする。だがここで会った縁を生かし、多少なりとも貴官を知っておきたい。先ほどの勝負、私が代わりをつとめよう。巴、模擬刀を持て」

 

 斯衛の一人が命令を受けると同時、風のように駆けてゆき疾風の如く二本の模擬刀を携え戻ってきた。

 そして赤服斯衛の元に跪いて模造刀を両手で捧げ渡す。まるで忍者だね。いや、本物か?

 さらに私にももう一本の模擬刀を握らせる。

 赤服の彼女はそれを見ると、オレに切っ先を向け青眼に構えた。

 

 「わが名は帝国斯衛中尉【月詠真那】。噂に聞くZ搭乗者の山城上総少尉。一手受けていただこう。いざ、参る!」

 

 ああ、もう!

 まったく友達になりたくない奴らとまで、奇妙な縁が出来ちまったぜ! 

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