ゼータと上総   作:空也真朋

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77話 落ちこぼれ分隊

 ビョオオオッ ビュンッ シュバッ

 ああ、まったく。

 こんな勝負。負けても良いはずなのに、いつの間にか本気になってこの月詠さんに斬りかかっている。

 この月詠さん、かなりの殺気を放つので、長年のBETAとの戦いで培われた防衛本能でこうなってしまっているのだ。

 BETAとの戦いは手数の勝負。囲まれたら終わり。だからこそ必死に前に出る。

 

 ビュンッ ビュビュンッ シュバッ ズオオオオッ

 

 「すごい……何て攻めだ」

 「あの真那さまが、まったく防戦一方だ!」

 「まさに修羅。これが世界最強の戦術機を駆る者の戦いか!」

 

 この月詠さん。技術がオレよりはるかに高いから、受けにまわったら勝ち目がないんだよ。

 だからこうやって怒涛に攻めて、相手を封じて戦うしかない。

 

 ビュンッ ビュオオッ ギュンッ シュババアッ

 

 「くっ、すさまじい。だがこの月詠真那、このまま終われん!」

 「うッく!」

 

 バキャアアアアッ

 

 月詠さんは渾身の一刀を放つ。それを踏みとどまり、自分も渾身の一刀で受ける。

 結果、双方の模擬刀は折れて砕け、勝負は終わりとなった。

 

 「すまなかったな山城少尉。だが存分に楽しませてもらった。では、我々はこれで」

 

 月詠さんはそういうと、部下三人を引き連れ去っていった。

 何なんだまったく。あー疲れた。

 

 パチパチパチパチパチ

 

 拍手の音が聞こえたので振り向くと、いつの間にかそこにあどけない顔の二人の訓練兵の娘いた。

 一人はショートカットで男の子かと思ったくらい胸がない。

 もう一人も胸はあまりないが、長い髪をツインテールにしててかなり女の子らしい娘だ。どちらも、かなり背が低い。

 

 「すごいすごい! こんなすごい剣術試合、はじめて見ました!」

 「あれを見ただけで、山城少尉がどんなすごい戦いをしてきたかが分かるよ。さすが英雄さん!」

 

 見かけ通りかなり子供っぽい娘たちだ。御剣さんがたしなめている所から、どうやら例のB分隊の仲間のようだ。

 

 「紹介します。私と同じ二〇七B分隊に所属する仲間で、鎧衣美琴訓練生と珠瀬任姫訓練生です」

 

 紹介された二人は共に敬礼で挨拶をする。

 見た感じ、二〇七B分隊の隊員は素直で良い娘たちばかりだ。

 こんな娘たちの部隊が、何があって分裂なんてことになったんだろう?

 

 

 

 無酸素運動で試合をしたせいで動けなくなってしまった。なので、しばらく休憩だ。

 鎧衣さんが水を持ってきてくれたのでありがたく頂く。

 

 「ふうっ。BETA相手の剣を生身でやるとキツいですわね。元の型なんて跡形もありませんし。こんな(すさ)んだ剣しか出来なくなった自分には、御剣さんの剣がまぶしく見えますわ」

 

 「私には山城少尉の方がまぶしく見えます。その剣は御国を護り戦ってきた証。国に何一つ献身できず、ただ剣を振るしか能のない自分が恥ずかしく思えます」

 

 「そうだね……ボクたち、もう衛士にはなれないんだよね」

 

 「お父さんに何て言おう。任姫、ぜったい衛士になってくるって言ったのに」

 

 うつむいた彼女らの中で、オレは御剣さんの目に注目した。

 そして慰めるより、思ったことを口にした。

 

 「御剣さん。あなたは言うほど迷ってはいませんね?」

 

 「は? いえ迷いだらけです。己のなす事も生きる先も何も見えず、ただ惑ってばかりの日々を送っております」

 

 「ふふっ。そんな人間は、そんな目をしてませんよ」

 

 「目……ですか?」

 

 「あなたの目。迷いも不安もない、まっすぐな綺麗な目です。何も見えずとも、未来を見据えている者の目です」

 

 「そのような……過分な……」

 

 「きっと今は刀を振る時期なのでしょう。たかが若い頃の一時のつまづき。その目があれば、またやり直せますよ」

 

 「ありがとうございます。そなたに感謝を」

 

 「ところで皆さんの帰省はいつに? 訓練生の決まりとして、すぐに基地(ここ)を出なければならないのでしょう?」

 

 「いえ。それが二〇七B分隊にはいまだ解隊の命令が出ていないのです。それ故、皆も帰ることも出来ず基地にとどまっております」

 

 は? 衛士訓練生が衛士に失格したなら、上はすぐさま帰らすのが普通のはずだろ?

 山城上総の訓練生時代の記憶にも、不適格で帰らされた訓練生の光景が色濃く残っている。

 

 「うん、そう。訓練もないし、ボクは任姫さんと基地の見学ばかりしてるよ」

 

 「榊さんは、あれから自室に閉じこもってばかりで心配です。彩峰さんは……多分屋上かな?」

 

 この措置はちょっと気になるな。

 けどこれを利用して、この娘らをひどく気にしている白銀のために、希望でも入れてみるか。

 

 「もしかしたら、あなた方の部隊は、まだ何か役割を与えられるのかもしれませんね。その時に備え、心身はきたえておくべきでしょう」

 

 「む……そう思われますか。鎧衣、珠瀬。自らを責め気落ちするのはもう十分であろう。二〇七B分隊は、これより有事に備え自主訓練といこう」

 

 「はい! 任姫もそう思います」

 

 「榊さんと彩峰さんも呼んでこようよ。また、みんなでやり直そう!」

 

 よしよし、元気になったな。

 元気に訓練にはげむこの娘らを見て、白銀も元気になればいいな。

 

 「がんばってください。それじゃ、わたくしはもう行きますね。香月博士への報告がだいぶ遅れてしまいました」

 

 「山城少尉も任務がんばってください! 衛士になれなくても、ご活躍を応援してます!」

 

 本当にあどけない良い娘たちだな。

 白銀は前の時間軸で、この娘たちと共に訓練や任務をしてきたのか。ちょっとうらやましい。

 少しだけ白銀の気持ちが分かったような気がした。

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