ゼータと上総   作:空也真朋

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78話 ブルーフラッグへの招待

 オレが香月博士の執務室に来たときには、すでに白銀が到着していた。

 そして正面の執務机の向こうで座っている香月博士の傍らには、見知らぬ女性士官がいた。

 ふわふわの長いくせっ毛をしていて、大人の女性なのに『可愛い』という表現が似合う人だ。

 

 (彼女は神宮寺まりも軍曹。夕呼先生の親友で訓練生の教官だ)

 

 ふーん、まりもちゃんね。

 しかしオレ達の新任務の通達に、彼女を同席させている訳は?

 とか聞こうと思ったのだが――

 

「遅かったわね。勝手に帰還を遅らせた上に、ここに着いてからもこうも遅れるなんてね。アンタ、たるんでるんじゃない?」

 

 遅刻を怒られた。悪いのはみんなあの月詠真那なんだよ。

 

 「すみません。じつは……」

 

 「衛士が言い訳しない! たしかにアンタが為した巨大光線級の撃破も、頭脳級サンプルの鹵獲も、人類史上に残る業績よ。でもそれが衛士がたるんで良い理由にはならないわ。たるんだ衛士は自分を殺し、作戦をも殺すわ」 

 

 「も、申し訳ありませんでした! 山城上総、たるんでおりましたわ!」

 

 なんか久しぶりの香月博士、キャラが違ってないか?

 オレ達がアメリカ、ソ連に行っている間に真面目人間に目覚めたとか?

 

 「ねぇ、まりも。こういった場合、アンタの訓練兵(ガキ)どもにはどういった教育をするの?」

 

 「はっ。ランニング十五キロ、腕立て腹筋五百回が妥当かと」

 

 がはあッ! このまりもちゃん、見かけによらず鬼教官だ!!

 

 「それが衛士の妥当だそうよ。山城、話が終わったらやって来なさい」

 

 「は、はい。慎んでランニング十五キロ、腕立て腹筋五百回をやらせていただきます」

 

 くううっ。今、訓練にはげんでいる二〇七B分隊の娘達と走ろうかな。

 ちょっとは楽しいだろうし。

 

 「さて。じゃ、はじめるわよ。最初に軽く世界情勢の説明からするわ。まずアンタが巨大光線級を撃破した日、もう一つ大きな事件が起こったわ。オルタネイティヴ5が消えてなくなったの」

 

 ―――????

 

 「……は? いま何とおっしゃいました?」

 

 「『消えてなくなった』と言ったのよ。米軍第七艦隊は横浜沖合での演習中にHSSTの落下事故があったわ。それには爆薬が満載してあって大惨事。艦船に乗っていた第5計画推進派の主要メンバーは、まとめてお亡くなりになった。結果、第五計画は頓挫したわ」

 

 「そんな偶然があり得るんでしょうか。博士。まさか、おやりになりました?」

 

 「やんないわよ。あっちの諜報機関も優秀だし、こんな計画立てても上手くいきっこないわ。本当に偶然……というか、あっちの謀略が裏目になった結果ね」

 

 復讐相手が知らない間にいきなり全滅とか、いったいどういう状況?

 まさかこんな結果になるとは思いもしなかった。

 

 「第五計画はお終い。で、この結果で元気になったのが、プロミネンス計画のハルトウィック大佐よ。あちらともライバル関係ではあったけど、第五に対抗するために手を組んでいたわ。アンタ達の出向もその一環」

 

 「技術なんかも気前よく提供しておられましたわね。でも対抗相手が消えてしまったのなら、ライバル関係に戻ってしまわれるのですか?」

 

 篁さんが主任を務めるXFJ計画も、そのプロミネンス計画の一つだ。

 プロミネンスが敵になったら、篁さんはじめアルゴスの皆とも対立関係になってしまう。

 それは嫌だな。

 

 「それが、向こうから打診があったわ。同盟関係の継続と協力の維持を申し出てきたの。どうにも悩ましいことだわ」

 

 「だったら、仲良くすればよろしいではありませんか。プロミネンスとは、第五みたいに不倶戴天の敵同士というわけじゃありませんし」

 

 「嫌よ。国連主要計画の予算も仲良く分けることになっちゃうじゃない」

 

 この博士、予算を分けるのが嫌で仲良くしたくないのか? あきれてモノも言えないぜ。

 まさか、さっきからのピリピリしてる理由。これが原因じゃないだろうな。

 

 「突っぱねたいけど、それも難しいわ。プロミネンスは今、勢いがスゴイのよ。下手に対立することになったら、こちらの方が不利。第五を相手にした時みたいな強行路線はとてもとれないわ」

 

 「そこまで? いったいプロミネンスに何があったのでしょうか?」

 

 ハルトウィック大佐の提唱するプロミネンス計画。

 それは戦術機技術の向上によって世界各国の戦線を押し上げ、さらにはハイヴ攻略を目指すというものだ。

 それなりに賛同者はいるものの、BETA大戦の決定打としては弱いと見なされ、オルタネイティヴ計画が国連の主要計画に採用されたという経緯がある。

 だというのに、それが香月博士が恐れるほどの勢いを得たというのは、何があったのだろう?

 

 「決まっているじゃない。たった一機でソ連北東部にあらわれた新型巨大光線級BETAを撃破した戦術機が出たことよ。あれを知った世界各国はお祭り騒ぎ。『Z技術でハイヴ攻略は可能』ってね。ホントに良いパーフォーマンスだったわねぇ」

 

 「あ……」

 

 なんてことだ。まさかアレが巡り巡ってプロミネンスの立場を強くしてしまうとは。

 

 「それで、どうなさるのでしょう。対策は考えられたのですか?]

 

 「ズバリ、『時間稼ぎ』よ!」

 

 「はぁ? もしかして博士、じつはアホだったのですか? 答えを出さずに先延ばしだけするなんて、悪手の最たるものではないですか」

 

 「山城、ランニング五キロ追加ね」

 

 ランニング二十キロ⁉

 オレは今日二度目の死を迎えるかもしれんな。

 

 「もちろん、ただ無意味に時間を稼ぐワケじゃないわ。こちらの計画【オルタネイティヴ4】はすでに完成しているのよ」

 

 「ええっ?」

 

 それを早く言ってくれ。ランニング五キロなんか追加する前に。

 

 「全世界より集められた世界最高の科学者技術者たちの叡知の結集。BETA大戦を終結に導く人類の切り札。その名は【00ユニット】。それが完成した以上、他と手を組む必要なんてないのよ」

 

 「はぁ、00ユニットですか」

 

 どんな装置か知らないけど、そんなもの一つで、本当に神すら恐れさせるBETAを倒せるのか?

 この博士、サギ師っぽい所があるから騙されている気分になる。

 

 「ええっと……ではそれを発表すれば、長きにわたる主導権争いにも決着がつくというわけですのね?」

 

 「まだよ。まだ発表できる段階じゃないわ。使えるようになるには調整が必要だし、実施試験で成果を見せなきゃなんないもの。そのための時間を稼ぐのが、アンタの次の任務。いわば陽動任務ね」

 

 「了解いたしましたわ。何をすればよろしいのでしょう」

 

 「今、プロミネンスはじめ世界各国は、恐るべき巨大光線級を倒したZ技術に注目が集まってるわ。つまりアンタがZガンダムに乗って然るべき所に立てば、自然と注目はそちらに集まるというワケ」

 

 「なるほど。では、どこかのBETA漸減作戦にでも参加するのですか?」

 

 「いいえ、行き先はふたたびユーコン基地よ。問題のハルトウィック大佐の懐に行って、注目されてきてちょうだい」

 

 なんだ、通常陽動任務というのは生還が望めないくらい過酷なもののハズなのに。

 今回のは命が保証される世界一ヌルい陽動だ。

 しかしユーコンか。

 篁さんやアルゴスのみんなとお別れも出来なかったし、ちょうど良いな。

 

 「じつは彼から招待状が来ているの。なんでもユーコンに世界各国の戦術機を集めて相互評価プログラム、通称【ブルーフラッグ】ってのををやるそうよ。もちろんアタシは行けないから、賓客の代理ヨロシクね」

 

 オレが博士の代理で賓客⁉

 前言撤回、世界一キツい陽動だ!!

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