オ、オレが賓客代理⁉ そんな厄介なこと、いつもは白銀の役目だってのに……
って、あれ? あれれ? おかしいぞ?
いったいなんだ、この妙な違和感。
これは犯人の残した手がかり……は関係ないか。
「博士、質問ですわ。わたくし達アーガマ小隊のエレメントリーダーは白銀。彼が代理となるのが筋であり道理です。であるのに、まるでわたくしが代理のように話を進めているのは何故でしょうか?」
「今回のユーコン行き、白銀は行かないわ。だからアンタが代理なの」
「なんですって?」
「そういう事だ。俺はこっちの方で大事な任務がある。向こうでアルゴスのみんなによろしく言っといてくれ」
なんだろう、白銀の顔に妙な哀愁がある。
まるでどこか大切な誰かを想う男の顔だ。
そんなシブいカゲリ顔に、不覚にも「ドキッ」と心ときめいて……
いや、メスの本能なんてうずかせてる場合じゃない。
「それはどうしても白銀でなければいけないのでしょうか。さすがに香月博士の代理がわたくし一人では、向こうも納得しないでしょう。ガンダム二機と搭乗衛士二人がそろって、どうにかという所ではありませんの?」
「ダメよ。00ユニットの調整には白銀が不可欠なんだから」
香月博士の爆弾発言どっかぁ~~ん。
「夕呼先生!!?」
「な、なななななんですってえ夕呼!! それじゃ、この白銀少尉を00ユニットに近づけているっていうの⁉ 危険すぎるわ! ガンダムを製作した機関の正体もまだ判明してないのよ!!」
永遠に判明することはないんだよ、まりもちゃん。
「しょうがないでしょう。白銀しか00ユニットを仕上げることが出来ないんだから」
「せ、世界最高の科学者と技術者の皆さんはどうなされたのです! 自身を含めその最高頭脳の方々を差し置いても『白銀にしか任せられない』と、香月博士はそうおっしゃいますの⁉」
「そうよ」
な、なんだとおおおおおッ!!
ハッ! まさか白銀のヤツ、技術知識チートとかまでもらっていたのか⁉
神のやつ、オレと晴郎には『奇跡は一つだけ』とか言っておきながら、白銀にはチートガン積みしやがったなあッ!!
パンパンッ
香月博士は手を鳴らして仕切り直す。
「話を進めるわ。出発前に白銀と山城は戦術機中尉へ昇級される。これは巨大光線級の撃破と貴重な研究サンプルをもたらした功績をかんがみて……ってのは建前で、それくらいはないとアタシの代理として軽すぎるためね」
焼石に水です。オレ自身、政治の話なんて出来ないくらい頭が軽いし。
「山城の補佐にこの神宮寺まりも軍曹をつけるわ。まりもにも『副司令補佐官』って肩書きをつけといたから、偉そうな奴らとの話はまかせて結構よ。アンタは広告塔の英雄然としてなさい」
ああ、そういう役割ね。
それなら経験豊富。大東亜連合時代にはいつもやってたからな。
「それともう一つ。今回のユーコン基地訪問には二〇七B分隊も視察見学生として同行させる。まりも、落ちこぼれどもの世話もヨロシクね。せいぜい見識を高めさせるといいわ」
「え? あの娘達をですの?」
「夕呼⁉ それはいったい?」
「いまちょっと、アイツらに居られるとマズい時期なのよね。かと言って、帰らせるワケにもいかないし」
博士はチラリ白銀を見る。
まさか、落第した彼女らを見る白銀の心をおもんばかって?
……うわぁ似合わねぇ。そんな過保護ママみたいな香月博士。
想像して気持ち悪くなったぜ。
「あとは……何もないわね。じゃ、山城。さっさと罰をやって来なさい。今日中よ。白銀、必ずやらせるのよ」
くはあああっ。やっぱりランニング二十キロと腕立て腹筋を五百回もやるのかあああっ!
足と腕と腹を破壊する完璧なメニューだぜ。
♠♢♣♡♠♢♣♡
香月夕呼Side
白銀と山城の出て行った執務室。
何か言いたそうなまりもと二人で、ちょっとした総評会議。
「やっぱり不振な所はなかったわね。ま、アタシは疑ってないけど、どうしてもって情報部のヤツラがね。あまりにガンダム関連が分からなすぎてノイローゼ気味なのよね」
「それで、いろいろ機密にふれるような事を言ったのね。でも白銀少尉に00ユニットを任せるって本気? とても技術部のスタッフが了承するとは思えないわ」
「技術部の最高頭脳さん達は”霧”の向こうを知りたがっているわ。『白銀を観察してりゃ見えてくるかも』って言ったら、不承不承ね」
「霧……霧の開発機関アナハイム・エレクトロニクス?」
「そ、戦術機開発の伝説。国籍も資本も販売先も何もかもが存在しない。ただ米国製すら超える高性能戦術機ガンダムのみを残して、霧の彼方へ消えていった謎の機関。山城がガンダムの製造元にその名を言ったことが由来らしいけどね。で、その高度技術の元を探ろうと技術部の連中は白銀を受け入れたワケ」
「そこまでして、あの白銀少尉を? いったい彼の何が00ユニットに必要なの?」
「機密に踏み込んでいるわよ。とにかくこっちの事には首をつっ込まないで、アンタはアタシの補佐官役をしっかりやって来なさい」
まりもは「ハッ」として居住まいを正した。
「私が口を出せることじゃなかったわね。それについては分かったわ。でも、二〇七B分隊の全員までユーコンに同行させる事については?」
「もちろん裏はあるけど、アンタがそれを知ることは許されない。ま、司令部の恩情とでも思っておきなさい」
「そう……ね。わかったわ。それが司令部の決定なら、私は全力でこの視察見学を支援するだけだわ」
「あの娘たち、地力は高いんだし親のコネもあるから、衛士にはなれなくても、それなりにはなるでしょう。
「軍事訓練じゃない教師役ね。ふふっ昔の将来の夢が、今になって一瞬かなうなんてね」
「そういや教師が夢だったわね。だったら山城のことも、少しは気にかけてあげてくれない?」
「山城上総少尉? 世界最強の衛士とまで言われるあの娘を?」
「戦闘力は世界最強でも、中身はまだ子供よ。英雄なんて名声を得て、変な所に取り込まれないよう注意してやって。あの娘もまだまだ役に立ってもらわないといけないんだから」
「わかったわ。あの娘も私の生徒ね」
クスリと笑うまりもは、いつになく優しい顔をしていた。