ゼータと上総   作:空也真朋

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 毎日更新はここで一旦おわります。理由は、上総は唯依と出会う予定はなかったのですが、リクエストが多いので再会する話を書くことにしたためです。
 次は一週間後の予定です。


08話 各々の思惑

 日本国官房長官Side

 

 第二帝都東京

首相官邸地下危機管理センター

 

 

 諸外国への交渉に赴いている首相に代わり、首相代理として国防の指揮を執っていた官房長官に驚愕の吉報がもたらされたのは帝都崩壊の翌朝であった。

 

 「なに! 新絶対防衛線はBETAに抜かれなかった!? 本当なのか?」

 

 台風4号と共に侵攻してきたBETA。瞬く間に九州、中国を蹂躙し、帝都京都までも抜かれた。

 その戦闘報告は昨夜、滋賀大津――三重名張を結ぶ新たな絶対防衛線との戦闘にはいった時点でとまっていた。

 日本の総力を結集した帝都絶対防衛線。それが抜かれた以上、寄せ集めの戦力で作られた防衛線では防ぐことは不可能とみられ、東日本侵入は確実と思われた。それに反するこの報告は、望外の喜びであった。

 その吉報をもたらした国防長官は、喜びを抑えて報告する。

 

 「はい。絶対防衛線を破った大規模BETA群は、帝都で望外の大量減少が起こり、ほぼ残敵掃討となった我が軍は殲滅に成功。長期の時間を得ることができた我々は、これにより軍の再編、他国の援助を要請することが可能になりました。我々は……日本は救われたのです」

 

 「そうか………あのプランを使わずにすんだのか。日本は救われた。日本人として歴史深き帝都を失ったのは悲しいがな………」

 

 しばし官房長官はその僥倖をかみしめ、深く黙祷した。

 八幡までBETAの侵攻を止められねば、東海、関東まで浸透をゆるしてしまう可能性があり、日米同盟の盟約によって国内で戦術核の使用を許可せねばならない事態だったのだ。八幡は抜かれたものの、BETAの殲滅に成功したためにそのプランは休眠となった。

 再び眼を開けた彼は、次の行動を探るべく情報を求める。

 

 「それで? BETAに大規模減少がおこった理由は? 滋賀にはアメリカの第七艦隊がいたな。彼らが何かしたのか?」

 

 「それが………まずはこの映像をご覧下さい」

 

 国防長官は用意してあったスライドを部下にセットさせ、その映像を官房長官に見せた。

 それには赤青白で彩られた見慣れぬ戦術機が、ほぼ廃墟となった帝都を滑走していた。

 

 「何だこの戦術機は。まるで見覚えのないデザインだ。それにスピードがおかしい。400キロ近くは出てのではないかね? こんなスピードではまともな戦術機機動など………できているな。制止、発進、射撃。すべて正確だ。この衛士は人間か? いや、機体の機動も、諸外国の戦術機でも見たことがないほど洗練されている。この映像はとても信じられん。合成か?」

 

 官房長官の戦術機知識など一般常識レベルに毛が生えたようなものだったが、それでもこの映像は信じられなかった。

 

 「映像にはまったく手を加えておりません。専門家にも見せましたが、従来の戦術機とはまったく設計思想の異なる、未知の技術で作られたシロモノだと説明されました。この操縦者も何かしらの強化をうけ、反射速度を飛躍的にあげているそうです」

 

 「フム? いや確かに興味深いが、その未知の戦術機の話はあとで聞こう。まずはBETAの大量減少の方を聞きたい。詳細を教えてくれんかね」

 

 「ああ失礼。不可解な事態に説明が前後したことをお詫びします。帝都を抜き東へ押し寄せんとするBETA。ですがそれは、この未確認戦術機がたった一機で大きく間引いてしまったのです。専門家の計算でおそらくは6万体を撃破。新絶対防衛線に光線級が現れなかったことから、それすら倒したと思われます」

 

 「………なっ!? バカな?!」

 

 国防長官は次の映像を映した。それは巨大戦術機が巨大な砲身から発する光条で次々BETAを焼き尽くしている映像だった。それはまるで光線級のレーザーを砲身から発しているようでもあった。

 

 「レーザーだと!? これほどまでに光線級のレーザーを再現できた話など聞いていない! この機体の国籍、所属は? 日本に持ち込まれた経緯は? どのようなプロジェクトに基づいて設計された?」

 

 「すべて不明です。現在旧帝都跡へ捜索隊をいくつか派遣しておりますが、この機体の報告はありません。こうなると近くにい米軍が怪しいということになります。が、彼の国もこの機体の情報をこちらに要請している始末でして、候補としては弱いと言わざるを得ません」

 

 「何もわからない………か。それでその不明機の件、どう処理すべきだと思うかね?」

 

 「これを所有する機関を探しだし、協力ないし帝国軍に組み入れ、戦力とすべきでしょう。実は制圧された西日本。米国よりの衛星写真を分析すると、大陸から九州にBETAが次々と渡ってきているのです。飽和すれば次の侵攻に動くことは確実です。東日本を守るためにも是非!」

 

 「わかった。総理に進言しよう。君はこれの調査にしかるべき行動をとってくれ。私はすぐ総理その他に連絡をとり、未来の道筋をつけるべく協議する。あとはまかせたぞ」

 

 「はっ」

 

 

♠♢♣♡

 

 滋賀県斑鳩家別邸

 

 その邸宅の主、斑鳩崇継は若く柔和な容姿ではあるが、斯衛武家の名門にして中枢、五摂家の一つである斑鳩家の当主であった。帝都の本邸が消失した現在、ここで帝都崩壊後の斯衛軍の指揮と政務を執っているのだ。

 

 その彼のもとに全身包帯だらけ、杖を使いぎこちなく歩く、一人の女性の負傷衛士が訪れた。

 彼はかの衛士を快く邸宅に迎え入れた。

 

 「ようこそ。無事とはいいがたいが、お互い生きて会うことができて嬉しいよ。如月中尉」

 

 彼女は嵐山基地仮説補給所を守備していた斯衛軍332独立警護中隊の指揮を執っていた如月中尉。つまり防衛戦における上総、唯依の上官だった者だ。

 

 「はっ、ありがとうございます斑鳩少佐。ですが奮戦むなしく、多くの部下、そして学徒兵だった少女達を死なせてしまいました。その指揮官である自分が生き残ってしまったこと、まことに慚愧にたえません」

 

 「だがBETAをくいとめてくれた。帝都崩壊で日本人の心に癒やせない傷を残したとしても、それでも日本は救われた。君達の奮戦のおかげだ。ありがとう」

 

 「いいえ。確かに我々は精一杯の奮戦をいたしました。それでもBETAの侵攻を止めるにはまるで足りませんでした。陣地でBETA侵攻を押しとどめたのは、あのたった一機の未確認戦術機であります」

 

 「聞いている。実のところ君をわざわざ呼んだのは、君があの未確認戦術機へ接触したと聞いたので、詳細を聞くためなんだ。部下が次々消えていくあの戦場を思い出すのは辛いかもしれないが、どうか話してくれないか」

 

 「はい。お話できることなどほんのわずかですが。あのとき、我が斯衛軍332独立警護中隊はほぼ全滅。私も機体を大きく損傷し、行動不能の事態へと陥りました」

 

 倒れゆく年端もいかない少女衛士の部下達をまた思い出し、如月中尉はわずかに顔をしかめた。

 

 「S-11の自爆装置も故障し、機体にBETAがまとわりつき、もはやこれまでと覚悟いたしました。装備していた拳銃で自害しようとしたときでした。かの機体が現れ、光を放つ射撃兵器でBETAをなぎ払っていただいたのです」

 

 「ほう。君の恩人というわけか。それは是非とも会って礼をせねばならないね。しかし『光を放つ』とは? 『マズルフラッシュが眩しかった』という意味かな?」

 

 「いいえ。私の撮影した映像では確認は難しいでしょうが、かの機体の銃器は光を弾にしているのです。それは恐るべき高威力で、一発で要撃級を倒し、戦車級にいたっては5,6体を軽く貫通させ、一発で10体近くもまとめて殺傷するほどでした」

 

 「ふむ。戦術機を駆る一衛士としてもその武装には興味は尽きないね。ほかには?」

 

 「………通信が入りました。『如月中尉、ご無事ですか?』と私の名前と階級を言って呼びかけられました」

 

 「かの搭乗している衛士は君のことを知っていたわけか! これは大きな手がかりだ。その人物に心当たりはないのかね?」

 

 「その声の主は少女でした。断言できませんが………私の指揮下だった衛士ないし学徒兵の誰かだったような気がいたします」

 

 「ほう。それは………いや、わざわざ来てもらってよかった。早速、君の部下とした山百合衛士訓練学校からあたってみよう。負傷をおしてもらって悪いが、君にも手伝ってもらうよ」

 

 『本当にこの御仁は人を使うのが上手いな』と思いつつ如月中尉は返事を返した。

 

 「はっ。存分にお使いください」

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 煌武院家滋賀県仮住まい邸宅。

 

 

 この邸宅の主にして武家五摂家の一つ煌武院家当主。煌武院悠陽。

 それはまだ若く、上総や唯依と同じほどの年頃の少女であった。

 現在は帝都京都壊滅をうけ、第二帝都東京への疎開の途上である。

 

 この日、この悠陽に訪問客があった。

 帝国情報部  鎧依左近特務課長である。

 この者、武家の内々のライバルである帝国の官僚の一人でありながら、この悠陽へも様々な便宜をはかり両者のバランスをとっている。いわゆる”鵺”である。

 

 鎧依は上座に座る悠陽に対し平服して礼。声をかけられ、顔を上げ、挨拶をすますと、ざっくばらんに話しはじめた。身分高き悠陽であるが、鎧依はかなりくだけて話をする。

 

 

 「しかし五摂家はじめ武家寺社神官ことごとくが京を捨て、落ちねばならぬ日が来るとは。この時代には生まれてきたくはなかったものですなぁ」

 

 悠陽は帝都壊滅、東京への疎開、信頼していた多くの衛士の死亡などの心労で憔悴しているが、それでも姿勢を崩さず鎧依の言葉を受ける。

 

 「どのような時代に生まれようと、わたくしはわたくしの責務を誠心もっておこなうのみ、と心得ております」

 

 「これはしたり。怯弱な我が身の心内をさらしてしまいましたな。ですが帝都を守らんと出征した者達の、結局はその願いかなわじの無念を思わば、心痛むこと万丈の思いです」

 

 悠陽は「はい………」と声のトーンを落として答える。

 

 「絶対防衛線に赴いた者は、みな忠あり勇なる者たちでした。彼らに率いられた斯衛軍帝国軍は巌の山。いかなBETAといえど抜くことはできぬ、と信じておりました。ですが………」

 

 悠陽は辛そうにキュッと唇を噛んだ。

 

 「BETA東進は阻めたものの、帝都は踏みにじられ泥にまみれてしまいました。BETAとは私の理解を超えた恐るべき禍。祖先の地を去らねばならないこの途上で、それを今噛みしめています」

 

 「お館様のご心痛、まことに痛ましく慚愧にたえません。ですがご存知ですか。そのBETAをもたった一機で悉く殲滅した武神が如き戦術機が存在したことを。夢の戦術機。いわばロマン戦術機ですな」

 

 「………? あれは過酷な戦場が生んだ夢物語ではないのですか? そのような戦術機があること。その徴候はまったく耳に入れたことはありません」

 

 フム。悠陽様のお耳に入っているのはこの程度か、と鎧依は思った。

 

 「どうやら事実のようです。実は当時、絶対防衛線十数万の衛士兵士を薪として燃やし尽くしても、東日本へのBETA流入を防ぐことは不可能だとみなされていたのですよ。それを阻んだのが、かのロマン戦術機ただ一機。すでに調査にはいった帝国陸軍、米軍。斯衛でも耳聡い者は動いているようです」

 

 「それは………興味深いですね。ですが、わたくしの手の者は皆忙しく、それに手を入れることは出来そうもありませんね。鎧依。そなたは動くのですか?」

 

 「いえいえ、私は米国がおイタをしないか見ていないといけないのですよ。あのヤンチャ坊主、この混乱に乗じて何をするやらカニをするやらひっくり返すやら。ああ、不安で目眩(めまい)がクラクラ」

 

 「そなたの忠勤、まことに喜ばしくあります。それで?」

 

 「そこで思い立ったが、先日お会いになられた巌谷中佐。開発局副部長。覚えておいでですかな?」

 

 「もちろん。わたくしはいわば彼の舟にのった身ですから」

 

 悠陽は先日、帝国陸軍開発局副部長である巌谷榮二中佐と会い、極秘裏にとあるプロジェクトに協力する約束をした。この帝都崩壊を受け、しばらくは休眠しなければいけないかもしれないが。

 ちなみに悠陽のはからいで鎧依もその場にいて、彼とは顔見知りになった。

 

 「その縁にておすがりしたい儀がございます。実は彼、帝国陸軍のかのロマン戦術機調査チームの責任者を拝命しているのですよ。いや、羨ましい。私もロマンを探す冒険に出たかった」

 

 クスリ 

 相変わらずの飄々とした彼の様子に、悠陽は笑みがこぼれた。

 いつの間にか、多くの失いがたき人達を失った痛みがやわらいだ。

 ”帝国の怪人”と称される情報部の人間をこうも側近くに置いているのは、この愉快な性格のためかもしれない。

 

 「ご愁傷さまですね、鎧依」

 

 「して本題。不詳この私。彼と縁をつなぎ、その調査結果を融通していただくことを考えましてね。すでに縁をつないだお館様に便宜をはかっていただきたいのですよ」

 

 「わかりました。さっそく文などをしたためましょう」

 

 「さすがお館様。即断は目を見張るものですなぁ。まだ何の見返りもしめしてませんのに」

 

 「鎧依のことは信用してますから。必ずや帝国、臣民のためになることを為すと疑いません。期日はいつまでに?」

 

 「明日、巌谷中佐にあって詳細をつめるつもりなので、今ここでお願いします」

 

 「明日? 性急ですね。アポはとってあるのですか?」

 

 「必要ありませんな。彼と私はもう友達。お館様と共に彼の舟に乗った仲。お館様の手紙を持った私を、両手を広げて快く迎えてくれることでしょう。はっはっは」

 

 

 帝国の怪人と呼ばれた諜報員 鎧依左近。彼もまた動く。




 偉い人のビックリシーンはマヴラブssのお約束なので書いてみました。
 鎧依さんと悠陽さまはあんまり驚いてませんが。この二人の驚くシーンって、何故か想像できないんですよね。
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