煌武院悠陽Side
第二帝都東京
帝都城 将軍御座所
帝都城の主【煌武院悠陽】は、煌武院家のお庭番【月詠真耶】(横浜基地に居る同姓の彼女とは別人)から、先のソ連北東部事変の詳細な情報を入手したことを伝えられた。
「殿下、お納めください。巌谷より献上された先の巨大光線級とZの戦闘記録です。奴も生き残りに必死と見えます」
「拝見いたしましょう。……これは、なんとおぞましい。BETAは数だけでなく、このような小山の如き怪異までいるのですか」
ガンダムより戦闘時に撮られた映像からの写真はまさに衝撃的。
悠陽はその写真に目が釘付けになり、しばし言葉を失った。
「巨体だけではありません。かの怪異の発するレーザー。ソ連北東部から海峡を越え、この日本にまで到達したそうです。もしこれが未だ討伐されずにいたなら、わが国の穀倉である北海道、東北は大いなる危機にさらされていたでしょう」
「噂に聞くZとはいえ、よく、これだけのものを討伐が叶ったものです。ですが陣容はどのように? ソ連にはいかほどの協力をあおいだのでしょう」
「いえ……それが、これの討伐に参加したのはZ兵器である二機のガンダムのみ。ソ連の手助けは一切無しとのことです」
「まさか! いったいどのようにして?」
「詳細は記録をご覧いただくとして、ざっと申し上げましょう。二機のガンダムはレーザーより逃れるために上昇し、大気圏外へ離脱。そこから一機が囮となり、もう一機が目標近辺へ急降下。さらにエバンスクハイブを背にしてレーザー口に接近し、かの怪異のレーザーを体内で乱反射させ討ったとのことです」
いったい何の説明を受けているのだろう。それは戦術機の為せる技なのか。
「月詠。まず『戦術機が宇宙へ飛んでいった』というのが意味不明なのですが。推進剤は保ったのですか?」
「残念ですがZの能力に関しては、世界中の戦術機開発の権威すら頭を悩ませているものです。殿下におかれましては、事実のみを受け止め、帝国の進むべき道を探ることこそが肝要かと。とくに、その搭乗者の片方は斯衛の末席にあった者」
「左様ですか。月詠の言いたいこと、それは山城上総少尉殿のことですね」
「はっ。かの者は元々斯衛の任官を受けた者。それが初陣である京都防衛戦で脱走し、どこからかZなる戦術機を獲得し、数々の奔放なる振舞いをして今にいたります。今こそ斯衛に呼び戻し、京都防衛戦以来の数々の疑惑を
この進言には、悠陽は軽々にうなずけない。
彼女を帝国が抱えるともなれば、斯衛、帝国軍、内閣と、大きな激震が走るだろう。
そして斑鳩公なども……
「……もし、これほどの戦術機を帝国が所有したとなれば、反米派はますます勢いずくことになりましょうね」
「先の第七艦隊壊滅を受け、米国内は混乱が続いているようです。反米派は今が好機と考えておるでしょう。日本国内の国連、親米派を追い出し、他国より干渉されない国体を今こそ……」
「月詠」
「はっ。少々言葉が過ぎたようです。ご容赦を」
「月詠。もし、そなたの言った通りに事が運べば、米企業と戦術機共同開発を進めている巌谷は窮地に立たされることになりますね。それに米国との協調路線をとっている榊首相も」
「お言葉ながら殿下。畏れ多くも政威大将軍殿下を利用するということは、いつ何時でも切り捨てられることを覚悟するということです。いかに功ある忠臣であろうと、大義に沿わぬとあらば切らねばならぬことも、将軍位の責務の一つとお考えください」
「大義……ですか」
『大義』その言葉に悠陽は意を決して言った。
「では、わたくしの決断を述べましょう。大義に基づき、山城上総少尉殿はこのまま国連に預けます」
月詠真耶は頭を垂れ控えながらも、その体をピクリと動かす。
「今、帝国の内に大きすぎる力を入れては、反米派は暴走するでしょう。そして世界は米国と反米派とに二分することとなります。そうなれば、BETA大戦は最悪の事態となるは必至。他国への不信から、BETA禍の拡大を招いた中華の轍を踏んではなりません」
「……はっ。ご決断、承りました」
「いくつもの話を聞きそのZとやら、おぼろげながら見えてきました。あれは人類がまだ見ぬ兵器。そのような過ぎた物を扱える
そして悠陽は、渡り廊下に出る襖に向かって行った。
「聞いておりましたね鎧衣。お友達にお伝えなさい。『わたくし達の密約はいまだ生きています。この厳しい逆境にも折れず踏みとどまることを期待しています』と」
すると襖はガラリと開き、情報省特務課長の鎧衣が正座してそこに居た。
鎧衣はどうやってか正座したままチョコチョコと歩み、悠陽の前に控えた。
「はっはっは、さすがは殿下。ご英断、感服いたしました。彼もさぞ喜びましょう。だいぶ厳しい状況となっているようですからな」
アメリカの衰退は、巌谷のようにアメリカとの協調路線をとっている者には逆風。
そして反米派は過激な国粋主義者が多く、彼らの台頭は国の指針を見失うことになりかねない。
それゆえ悠陽は、あえて山城上総を巌谷と繋がっている香月夕呼に預けたままにしたのだ。間接的にでも彼の力になってくれれば、と。
「ときに鎧衣。件のユーコン基地では楽しそうな催しを行っているようですね。ブルーフラッグとやら」
「左様で。なんでも戦術機を使った競技会のようなものだとか。いやぁ、さすがはアメリカ。なんとも豪勢なことです」
「であるなら各国の戦術機データは取り放題。各国の思惑も透けて見えるでしょうね。著しく威信の失墜したアメリカも、そこで巻き返しをはかるやも」
「はっはっは。殿下は私めに旅行をお勧めになられていますかな」
「各国戦術機データの集うユーコンの基地。そこに世界の姿があろうことは確かでしょう。政威大将軍として、そこに何があるのかは知っておきたいのです」
「ご立派です。香月博士もそこに、さきほど話題にあった山城少尉を自分の代理として派遣するそうです」
「まぁ。ですが、それは……」
山城少尉とZガンダムと呼ばれる戦術機の価値は、以前とはくらべものにならないほど世界的に高まっている。
そしてブルーフラッグという祭典には、各国の思惑が渦巻いているだろう。
そこで巻き返しをはかりたいアメリカ。かねてから日本と手を組みたがっているソ連。この機にアメリカの一極支配を崩そうとする反米派。
そんな場所に山城少尉を送って無事でいられるのだろうか、と悠陽は心配になった。
「さらに。どうでもよろしい事ですが、二〇七B分隊全員も視察見学生としてご同行とのこと」
「―――!!?」
なんてことを。二〇七B分隊の娘達の親は、皆帝国に大きく影響する者達ではないか。山城少尉をめぐる思惑に巻き込まれでもしたら、どうなるか。
そして冥夜は―――
「香月博士は麗しく聡明ではありますが、迂闊な所がありますな。さて、たまには娘の顔を見てくるのも良いですな。少しばかり足を伸ばしてくるといたしましょう」
鎧衣課長、ブルーフラッグ編に参戦!