ゼータと上総   作:空也真朋

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82話 天才と怪人の邂逅

 鎧衣左近Side

 

 さて、いきなりのユーコン基地訪問。

 問題となるは、それにいかなる偽装身分(カバー)で赴くのか。

 

 イベント開催中なだけに記者の受け入れもしてあるが、記者では立ち入れる場所が極端に狭くなってしまう。

 といってVIP関連の付き人警護などは、割り込むための時間がない。

 

 ならば戦術機関連はいかがか。

 潜入のためにあらゆるスキルを身につけているが、戦術機整備もそのひとつ。現在、私がとれる手段でもっとも現実的なのが、整備士あたりであろう。

 

 そうしてブルーフラッグ出場戦術機に絞り、整備士の募集をかけている場所を調べてまわる。 

 しかして、やがて絶好の場所が見つかった。

 大東亜連合の出場者が、緊急に整備士の募集をかけているというのだ。

 

 要求される技術はかなり高いとのことだが、まぁ何とかなるであろう。

 スパイたるもの、高殿を越えて忍び込むが仕事であるのだ。

 

 

 

 スマトラ島に渡り、ベラワン港にほど近い大東亜連合の拠点の一つ。

 その格納庫整備室にて、私はブルーフラッグ出場責任者のその男と会った。

 

 「どうぞよろしく。河崎重工の整備士をしていました田中一郎です」

 

 偽装身分(カバー)自己紹介をし、手を握った彼は妙に不思議な目をした男だった。

 大東亜連合という場所からアジア人と予想していたのだが、そうではなく西洋風の容貌。

 いったいいかなる理由で、明らかな非アジア人のこの男が、大東亜連合出場者の代表となったのか。

 

 「私の名はパプティマス・シロッコ。大東亜連合の出場パイロットであるが、責任者でもある。急遽そう決まったので手が足りなくて困っている。よろしく頼むよ」

 

 「おや、ガルーダスのトップが、あなたのような異国出身者に? いったいガルーダスに何があったので?」

 

 「ガルーダスではない。私の母体は傭兵団エゥーゴ。ガルーダスには出場をかけた勝負によって、今回見送っていただいた」

 

 「なるほど、良い腕をお持ちのようだ。ちなみに、他の出場衛士の方々は?」

 

 「私一人だ。エゥーゴは今、実績作りと組織再編に忙しくてな。このような催しに人材など出せんのだよ」

 

 「は? いやしかし、あなた一人で出場してどうするのです。いったい何をお考えで……」

 

 「ガルーダスとの勝負も私一人で戦い、全機撃破して勝ち取った。ブルーフラッグでも、私一人で十分な成果が出せると確信している」

 

 これは……大変な人物かもしれない。

 

 

 格納庫内に通され見た機体は、F-15をベースにしているが原型がやっと分かるほどに改修されたもの。データを見せてもらうと、とんでもなくピーキーな設定であった。

 

 「して、仕様はどのように?」

 

 「対戦術機特化だ。対BETA戦など想定しなくていい」

 

 「ブルーフラッグの趣旨とはかけ離れていますな。勝敗などに意味はなく、対BETA戦戦術機のデータを集めることが目的のはずですが」

 

 「だが、あえて私は全勝を狙う。それだけに要求は厳しくなるが、かまわんな?」

 

 「はっはっは。なんともまぁ壮大な目標ですな。何があなたを、そんな無茶に駆り立てるので?」 

 

 「目的は金なのだよ。今のエゥーゴは出来ることがあまりにも少ない。ゆえに、このブルーフラッグという舞台で注目を集め、多くの出資者を募る。私は本気だ」

 

 「しかし噂ではアメリカなども出場するそうですが?」

 

 アメリカの戦術機はBETA戦後を見据えた対戦術機特化だという。それも潤沢な資金とハイレベルな人材を惜しみなく使い、ステルス機能なども搭載した驚愕のシロモノ。

 とても町工場レベルの戦術機に勝てるようなものではあるまい。

 

 「殊勝なことだ。それを撃破すれば、よりエゥーゴの価値は高まる。この世界の覇権国が、わざわざ私に撃破されに来てくれるとは感謝にたえんよ」

 

 ううむ、この人物の評価はどうしたものか。

 

 「しかし君は整備士にしては中々良い体をしているな。兵士訓練でも受けたのかね」

 

 「まぁ徴兵されましてな。その後、前線から逃れるために整備スキルを覚えたという次第で」

 

 「出場は私の一機のみで行う予定だが、頭数が問題になった場合整備士にも出てもらうつもりだ。その際、君にも頼もうかな」

 

 「はっはっは御冗談を。私は整備専門。操縦など多少動かせる程度しかできません。それに機体はどうするのです?」

 

 「なに、そこらの運搬用作業機にでも乗って戦域の隅に居てもらうさ。判定が出るまでおとなしくしていてくれたまえ」

 

 本当に大変な人物だ。

 しかしたった一機一人で、世界中の歴戦衛士の駆る戦術機すべてを撃破すると豪語する彼。

 彼の戦いがどんなものであるのかは、記録に値するかもしれない。

 案外、Z技術関連の他にも面白い対象に巡り合えたかもしれないな。

 

 やがて、その予想は当たった。

 このパプティマス・シロッコという男。のちに世界でもっとも注目される男となり、早期に出会い行動を共にした私は諜報界に大きなアドバンテージを得ることになるのだが、それは未来の話。

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 篁唯依Side

 

 「い、いったいこれは⁉ おじ様、どうして……! 失礼、取り乱しました」

 

 「気にしないよ。僕も最初見たときは同じ反応だったからね。イワヤに送ったデータで、このような事になるはずはないのだからねぇ」

 

 XFJ計画技術顧問フランク・ハイネマン氏が私に見せたメールの通達。

 それは背中に冷や水をかけられるような驚くべきものであった。

 そしてその送り主は、巌谷のおじ様だったのだ。

 

 『XFJ計画に対し調査団派遣が決定された。進行中の相互評価プログラム(ブルーフラッグ)において、現計画機が他国機に対する優位性を認むるに十分な成果を得ずと判断された場合、即時、XFJ計画の継続を再議する。計画の縮小、最悪の場合凍結もありえる』

 

 「進捗は順調なのに! 不知火・弐型もさらにもう一機製作されて、これからだというのに! どうして計画に疑念の目が向けられなければいけないのです⁉」

 

 「思うに、これは進捗の問題ではなく政治の問題だろうね。日本の押さえだった第七艦隊の壊滅。それによって、アメリカの干渉から抜け出たい勢力が台頭してきたということだろうねぇ」

 

 「し、しかしそれと戦術機開発計画とは、何の関係もないのでは?」

 

 「ふぅ。あなたが僕より政治に疎いのは問題だね。アメリカの干渉から抜けるには、帝国だけでは力不足だ。どこかと手を組むべきだろう。そしてその方法が、パートナー国の戦術機の導入だ。その国の戦術機を導入すれば、軍事的に強く結びつくことになるからね」

 

 ふと、思い出した。

 ソ連のサンダーク中尉が、やけに自国と帝国との戦術機共同開発を勧めていたことを。

 まさか……これはソ連の工作?

 

 「どうしましたタカムラ中尉。まさか、その通達一本で心が折れてしまったのではないでしょうね」

 

 「…………ッ!」

 

 「こうなればブルーフラッグで対戦する機体のことごとくを堕として、不知火・弐型の性能を見せつけるしかないでしょう」

 

 「ハイネマン氏……まさかあなたが、そのような不屈の闘志をお持ちとは……」

 

 「わがボーニング社は負けるのが嫌いな社風でね。そして一アメリカ人としても、このような陰謀が進行中なのは見過ごせません。タカムラ中尉。当初からあなたがXFJ計画にかける意気込みは相当なものでした。あなたにも負けられない理由があるのではないですか?」

 

 そうだ。京都防衛戦で生き残った私は、和泉、安芸、志摩子の無念を背負って生きると決めたんだ。

 それに私を鍛えてくれた真田教官、斎藤助教。崇司家の恭子様。

 みんなBETAとの絶望的な戦いに赴き、倒れたと聞いた。

 生きている私が死んでなんかいられない!

 

 「わが日本帝国も負けるのは嫌いです。この程度で打ちのめされてなど、いられません」

 

 「良い目だ。では評価の場のブルーフラッグで勝つためのプランニングをしましょう。開発衛士(テストパイロット)達には無理をさせてしまいますが、上手く承知させてください」

 

 「はいっ!」

 

 そう言えば山城さん。

 あの人は何度も死んだと思われながら、いつも何事もなく現れて帰ってきたな。

 私もここからXFJ計画を生き返らせ、あの人みたいに笑ってみせよう。




 宇宙世紀最大の天才と帝都の怪人コンビ爆誕!
 あと短すぎたので、唯衣のエピソードもちょっと入れました。
 ちょっとのつもりだったけど、次の日にさらに書き足しました。
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