ソ連side
ユーコン基地ソビエト機密エリア
その日、ソ連軍中央開発軍団の長ブドミール・ロコボフスキー中佐は、部下のサンダーク中尉を前にご満悦であった。
「フハハハ、フハーッハハハハハどうかね、サンダース中尉。党は私の献策を高く評価してくれた。研究にしか興味のない君には分からんだろうが、大事なのは物事を大局的に俯瞰するこの目なのだよ」
「はぁ……お見事です」
『やれやれ、またか』とサンダークは陰鬱な気持ちになった。
たしかにそれなりに評価できる策だ。
それをこの小物がよく思いついたものだが、こうも何度も自慢されてはたまらない。
「たしかにZの力は驚異的だ。だが奴はBETAでもなければ、アメリカに属しているわけでもない。ならば張り合うより、その力を利用させてもらった方が良い」
「はい。そのために日帝との同盟締結を目指すという方針ですね」
「そうだ。我が国の戦術機その他を格安で日本に配備する見返りに、わが国のハイヴ攻略を優先してもらう。わが領土を蹂躙する憎きハイヴの占領が叶えば、そこにあるG元素はわが国のもの。それを手にした時、偉大なるソビエトの復活ははじまる!」
「忌々しい敵の巣窟も、攻略が成れば財宝の山。そしてそれを最も多く抱えるのは、わが祖国。G元素の占有率を鑑みれば、日帝への投資などいかほどのものではありませんな」
「そうだ、ソビエトがアメリカに代わる覇権国となるのだ! フハハーッ同志サンダーク中尉。歌おうではないか、わが勇壮なるソビエト連邦国歌を!」
『嫌です。馬鹿は一人でさらしてください。私は退席しますので、ご存分に』
――という言葉を必死にサンダークは飲み込んだ。
ソビエト軍人にとって上官命令は絶対。このような愚物そのものの命令も拒否はできない。
どうか冗談であってくれ……
「♪たたえてあれ~、じゆうなわれらのそこくよ~♪」
本当に歌い出しやがった。このままでは、私まで歌わないわけにはいかなくなる。
『ええい、この浮かれポンチな上官め!』と震える拳を懸命におさえながら、冷静にサンダークは懸念材料を提示する。
「ですが問題はアメリカです。失墜したといっても、それはせいぜい一、二年のこと。態勢を立て直されれば、わが国と日帝の関係を脅威とみなし、横やりを入れないはずがありません」
「わかっておる。進行は急がせておるわ。日本から来る調査団は、対日工作によって為したわが同志。どのような結果であろうとソ連製の戦術機導入を勧める手筈となっている。だが日帝の議会を通すには、優秀な戦績が必要なことを忘れるな」
「おまかせを。Π3計画の成果をもってすれば、ブルーフラッグのごとき競技会。勝利することなど雑作もありません」
「大した自信だな。だが問題の日のラトロワ中佐の件。あれはどう説明するのかね? ターゲットの遺体は確認できず、素体も失くしたそうじゃないか」
「……ログを精査した結果、マーティカは調整不十分でした。不手際はお詫びいたしますが、研究に問題はありません」
「だが党本部はそう思ってないようだ。よって万一の場合。とくに対アルゴス戦にて落としそうな場合には、”切り札”の使用を認めるそうだ」
「”プラーフカ”を……競技会にですか?」
「ブルーフラッグはもはや競技会ではない。わが国の命運を決定づける重要な位置づけにある。それは君の大切な研究も同様ではあるな」
「…………了解……いたしました」
♠♢♣♡♠♢♣♡
篁唯依side
ハイネマン氏とこの先の簡単な予定を話し合った私は、すぐさま皆がいるであろう
この先のスケジュールはかなりシビアなもの。ならば今夜のうちから覚悟だけでも持ってもらいたいと、明日のブリーフィングにはまわさず今夜知ってもらうことにしたのだ。
いきつけのバーのテーブル席にアルゴスの皆はいた。
私は本題の前に、ハルトウィック大佐から聞かされた山城さんのことから切り出した。
「山城さんが、また来るそうだ。今回は開発衛士としてではなく、ハルトウィック大佐の賓客としてだが」
「おおっ」とみんなが一様に歓声をあげる。
「巨大BETAをブッ倒したお姫様が凱旋かよ。どうやって倒したのか聞けねぇかな」
「さすがに機密扱いでしょう。でもタケルと一緒に船に帰還しなかったから、絶対死んだと思ってたわね」
「まさか逆に倒しちまうたぁ、ガンダムってなどこまで凄ぇんだよ。こりゃ、案外祖国を取り戻すのを見るのも近いかもしんねぇな」
と、皆が山城さんのことで談笑を始めようとするのを、あえて止めた。
「山城さんのことは一旦忘れてくれ。皆にブルーフラッグ演習に際する、わがXFJ計画の共通認識を持ってもらいたい。それは『データ収集より勝利』を最優先目標としてほしいことだ」
ザワリ……
テーブル席に緊張が走ったのが感じられる。
「まさかタカムラの口からそんな言葉が出るたぁ。そりゃアタシは勝つのが好きだから、そのつもりだけどよ。でも『本分のデータ収集より優先』って、そこまで言い切っちゃていいわけ?」
「タリサ、察しろ。あの唯依姫が『上総姫を忘れろ』とか、よっぽどだろ」
「タカムラ中尉、計画に何か問題がおきましたか?」
「ヴィンセントが呼び戻された理由も関係あるんだな? 緊急の仕事ってのはそのためか」
「ローウェル軍曹は、ハイネマン氏の指導のもと不知火・弐型の改修を行っている。仕上がりはかなりシビアになっていると思うが、搭乗衛士のブリッジス少尉マナンダル少尉は乗りこなしてくれ」
「おおよっ! 何かしんねーけど、面白くなってきたじゃんか!」
「それはソ連の
ユウヤの目はすっかり変わっている。
困難な機体に向かう開発衛士のそれだ。
「そうだ。おそらく今のままでは、それらに勝つのは難しいからな。スケジュールを前倒しでいく」
「何か負けられない理由ができたってことか。わざわざバーに来て、そんな話をするくらいだからな。そういう話、開発機体にはよくあるぜ」
「まぁな。話はこれだけだ。私は帰るので、あとは……」
だが、そのまま帰れはしなかった。
カウンターの席で座っていた男女二人がこちらに来たのだ。彼らは共にアメリカ陸軍のBDUを着ていた。
「そういう話は、こんな場所ではしない方が良いですよ」
「まったくだ。とんだ場面に出くわしちまったぜ」
ガタリッ
ユウヤは反射するように立ち上がった。
「シャロン……! それにレオン⁉」
ユウヤの知り合い。やはりアメリカの開発衛士だろう。
二人は私に敬礼して自己紹介をした。
「はじめまして。アメリカ陸軍第65戦闘教導隊のレオン・クゼ少尉です。」
「同じくシャロン・エイム少尉です」
私も席を立ち敬礼を返す。
「私は日本帝国斯衛軍の篁唯依中尉だ。何か御用かクゼ少尉、エイム少尉」
「さっきの話が聞こえてしまったので口をはさみますが、我々米軍教導隊もブルーフラッグに参加します。ついでに『すべての
「無論、あなた達アルゴス小隊にもです。そちらにも負けられない理由があるようですが、容赦は出来ません」
「何ィ、やってみろってんだ!」
「よせ、マナンダル少尉。クゼ少尉エイム少尉、こちらに遠慮することはない。その通達の理由も予想はつくしな。ところでクゼ少尉」
「なんでしょうタカムラ中尉」
「『クゼ』という名に聞き覚えがある。もしやお父君は米国海軍太平洋艦隊所属のクゼ提督ではないか?」
「父をご存知でしたか。ですが殉職いたしました。第七艦隊に所属していたもので」
「そう、か。お悔やみ申し上げる。クゼ提督には本州防衛の際、避難民の移送にご尽力いただいた。お父君に深い感謝と哀悼の意を捧げます」
「ありがとうございます。帝国斯衛の中尉にそう言っていただけたなら、父も報われるでしょう」
だが、この暖かい雰囲気をブチ壊す不機嫌な声が響く。
アルゴスに来たばかりの頃のような顔をしたユウヤだ。
「まったく、お坊ちゃんの家族自慢は聞いてられねぇな。せいぜいご自慢のお父様の墓でも綺麗にみがいているんだな」
「なにィ、ユウヤ、テメェ!」
「そっちもブルーフラッグに出るというなら丁度いい。叩きのめしてやるよ下手糞。あとシャロン、ご自慢の射撃が俺に当たると思うなよ」
私とアルゴスのみんなは一触即発の二人を必死にとめる。
マナンダル少尉だけは「やれっ、やっちまえユウヤ!」とか言って手伝おうともしなかったが。
「ラプターを相手にするってのに自信満々ねユウヤ。でもこれを聞いても、その自信のままでいられるかしら? あたし達の隊長は【ジェリド・メサ中尉】よ」
ピタリ
クゼ少尉に掴みかからんとするユウヤの動きがいきなり止まった。やけに顔が青い。
「……ユウヤ? エイム少尉、そのメサ中尉というのは?」
「教導隊のトップ
「その時ラプターに乗っていたのが、そのユウヤです。ユウヤ。ラプターに乗ったメサ中尉にもそのセリフ、言えるか?」
「…………クッ!」
負けられないブルーフラッグ。だが、早くも暗雲がたちこめてきた気がする。
やっと各国の設定説明が終わった。
三話も上総が出ない話になるとか、マジ大変だった。
ようやく次回からブルーフラッグ本編に入れます。