篁唯依side
アラスカ州ユーコン陸軍基地
XFJ計画専用
ズシン……ズシン……
整備兵の誘導にあわせ、Zガンダムが野外ハンガーに向かい歩行移動をしていく。
私とアルゴス小隊の皆、そして周囲に集まった手の空いているユーコン基地中の人間はそれを遠巻きに見守っている。
「あれが巨大光線級を倒したのね……」
「いったいどこのメーカーが、あんなモノを作りやがったんだろうな。名乗り出てプロミネンスに参加してもらいてぇな」
そうだな。山城さんも、そろそろあの機体を作った機関のことを教えてくれればいいのに。
「故郷が解放される日が近い気がするよ。BETAの切り札相手に完勝する戦術機なんて出来たんだからな」
めずらしくマナンダル少尉もしおらしい。
「タリサ。もうカズサは中尉殿だ。まちがってもケンカなんかするんじゃねぇぞ」
やがてZガンダムはハンガーの所定位置に直立状態で格納。
ハッチが開き、長い髪と端正な顔立ちの彼女が降りてきた。
山城さんだ。間違いなく生きている。
それにしても、足元にいつも離れずに付いてくる丸いメカはどういう仕組みなのだろう?
パシャッパシャッ
カメラ音が一斉に響き渡る。ここには記者は立ち入れないはずだが、整備兵がまるで記者のごとく高価なカメラ機材をそろえているのだ。
ブルーフラッグを写すものだと信じたかった。
「篁さん、お久しぶりです。帰還の報告もできずに、申し訳ありませんでしたわ。それと中尉があまり可愛いすぎる顔はしないことよ」
ほがらかに綺麗な敬礼をする山城さん。
生きていると知らされてはいても、やはり目の前で元気にしている彼女を見ると熱いものがこみ上げる。
「顔なんてどうしようもありません。あと初陣の京都防衛の時よりはマシです。あの時の山城さんは本当にヒドかった」
ああ。こうして山城さんと間近で見つめ合っていると、あの時のことを思い出してしまう。
こうして見つめ合ったあと、いきなり山城さんは顔を近づけてきて、そして……
まったく女同士で何してくれたんだ!
「だから、そんな可愛いすぎる顔はやめなさいと言っているでしょう。さっきから撮られまくっていますわ。ほら、顔を隠しなさい」
なにっ⁉ 私まで撮られているのか?
こんな緩んだ顔なんか撮るんじゃない!
「整備兵たち、篁中尉を撮るのはおやめなさい。上官侮辱罪ですわよ!」
山城さんは私の顔を自身の胸にうずめて注意喚起を促すが、ますますシャッター音は激しくなっていく。
整備兵達から『上官侮辱罪を覚悟しても撮り続ける』という覚悟すら感じる。
ユウヤから聞いた話では、私は山城さんといる時は”良い顔”とやらををしていて、絶好のシャッターチャンスだと整備兵達が話していたそうだ。
そして私と山城さんが並んでいる写真は高額で取引をされているとか、ふざけた話も聞いた。
こんな風に抱き合っている写真はどうなるんだ。
パシャッパシャッ
「くっ、山城さん。こんな所では落ち着いて話も出来ない。私の執務室に行こう」
「そうですわね。でもハルトウィック大佐に到着の挨拶をしなければいけませんから、ほんの僅かな時間ですよ」
「お前たち、あとで懲罰だからな! それと写真も全部提出しろ!」
くそっ。斯衛衛士たる私が、まるで尻尾を巻いて逃げてるみたいに!
◇ ◇ ◇
XFJ計画専用棟 主任執務室
山城さんにお茶を出し、私も飲んでやっと落ち着いた。
ふう。主任たる私が、まるで小娘のような振る舞いをしてしまったものだ。
「……というわけで今回は、国連に預けられている元訓練兵で偉い方の娘さん達も視察見学生として同行しています。彼女たちの基地および演習見学の世話をお願いしますわ」
「了解しました。CPオフィサーのカナレス伍長あたりをつけましょう」
巨大BETAを倒したあとどうやって日本に帰ったのかを聞いたら、驚くことに巡行形態になってZガンダムの自力で帰ったというのだ。
いったいあの戦術機の内燃機関や推進はどうなっているのだろう?
「それにしても不知火・弐型。ソ連時とはずいぶん変わりましたね」
「ああ、あれがXFJ計画の集大成であり完成形です。あの新型モジュールを装着することによって、不知火・弐型は飛躍的に性能が向上しました」
「あの形態でブルーフラッグに出していらっしゃるの? 時間的に慣熟もまだ不十分でしょうに」
「ええ。事情があって、開発衛士にも整備兵にも相当無理をさせてしまいました。ですが皆、私の無茶によく応えてくれました。おかげで初戦のアフリカ連合ドゥーマ小隊との演習は、全四機撃墜の快勝をかざる事が出来ました」
「…………順調ですわね。文句などつけようもないくらい順調そのもの」
「山城さん? 不知火・弐型がどうかしましたか?」
「わたくしが今回ユーコン行きに使った航空機は、前回の輸送機ではなくVIP用のチャーター機でした」
「はぁ。それが?」
「そこには補佐の神宮寺軍曹や視察見学生のお嬢さん達の他に、別の一団も同乗していました。何でも【XFJ計画調査委員会】の方達だとか」
「――!!」
そうか、ついに彼らが来たのか。
「妙な話ですわね。調査委員会とは、成果のあがらないプロジェクトを精査し、中止すべきかを吟味するためのもの。なのに、ここまで順調なXFJ計画に調査委員会などが作られたのですから」
「山城さん。その調査委員会の人と何か話をしたのなら、教えてくれないか!」
「……ええ。篁さんにとっては耳に痛い話になりますが、話さないわけにはいきませんね。代表によれば、いま製作されている不知火・弐型は欠陥試作機だというのです」
グラリ目の前が眩むほどの衝撃を受けた。
皆が心血注いで作り上げた、あれほどの機体が欠陥機だと⁉
「篁さん、耐えなさい。あなたは開発主任。いずれ彼らと対面することになります」
対面か。それは対峙と同義かもな。
「私は……大丈夫です。冷静とはいきませんが、彼らの情報を正しく聞くだけの理性は持ち合わせています。続きを話してください」
「ええ。私の隣に居た方は帝国技術廠の大伴中佐という方でした。そして……」
調査団の長は大伴中佐か。
彼は巌谷のおじ様と同じ技術廠の者ではあるが、おじ様の日米共同開発に最後まで反対していたという。
そしておじ様の話ぶりから、どうもおじ様とライバル関係にあるらしい。
山城さんが話してくれた、彼との会話はこうだ。
――「カムチャッカの英雄殿と御同席とは光栄だね。よろしく頼むよ」
「恐縮ですわ。ところで中佐殿はユーコンへはどのような御用で?」
「ブルーフラッグにおけるXFJ計画の不知火・弐型の性能試験調査だよ。かの機体、わが国の導入には問題がある可能性があるのでね」
「問題ですって? 不知火・弐型は、ソビエトにてわたくしが試験記録を行いましたが、優秀な機体でしたわ。BETAの撃破数は他の機体より圧倒的。ソ連機チェルミナートルに次ぐ記録でしたが?」
「つまりは莫大な予算を投下したにも関わらず、ソ連機より劣る機体しか叶わなかったのだね。ならばソ連製の試験機導入を検討した方が、より理にかなった戦力拡充をはかれるとは思わんかね」
「い、いえそれはチェルミナートルが凄いのではなく、乗っていたのが
「爆……死? なんだ、私はテロでも仕掛けられるのかね」
「い、いえこれは一種の比喩表現で……つまり目も当てられない勘違いをするということです!」
「それに問題は性能面ではないのだよ。かの機体は不知火・壱型柄の問題点を改善するために、アメリカでしか作れないパーツを多々組み込んでしまった。つまり日本独力では作れず、軍事面でアメリカに重要な部分を握られることになるのだよ」
「構わないでしょう。アメリカと戦争するわけでなし、BETAに勝つことが第一なのですから。また予算面でも、あそこまで仕上がった不知火・弐型を今になって捨てるなどあまりに愚策。税金をドブに捨てるようなマネは、国民に対してあまりに不誠実ですわ!」
「ではXFJ計画を破棄することで、より国民の負担を減らせる妙策があるのならどうかね? その道筋があるのならば、それを選択する事をこそ、より国民のためとなるのではないかね?」
「なん……ですって? 大伴中佐殿、どこかと手を組みました?」
「しゃべり過ぎたようだ。まぁ不知火・弐型の評価は公正にさせてもらうよ。日本帝国の将来を担う大事な次期主力機候補だからな。中尉はアレに思い入れがあるようだが、結果がどのようなものであれ受け止めてほしい」
「難癖つけて落とす気満々なように聞こえるのは、わたくしの耳が腐っているのかしら」
「山城中尉。もし武家に戻り日本帝国のために働きたいと考えるなら、私に相談するといい。貴官の居場所と大いに働ける任務を私が用意しようじゃないか。ハッハッハ」―――
―――「といった感じです。あまり楽しい空の旅路ではありませんでしたが、篁さんにとってはもっと楽しくなくなりますわ」
「来たのが大伴中佐なら、たしかに楽しくはないですね。おじ様にとって因縁の相手ですから」
「しかし今までの戦術機ではBETAとの戦闘に不十分だから、XFJ計画がはじまったのでしょう? 防衛計画が急務の中、『アメリカが嫌いだから中止』など出来るわけないでしょう」
「ですが彼の言う通り、不知火・弐型は日本独力で作れない機体でもあります。稼働時間を稼ぐためのパーツはボーニング社でしか生産できませんし、跳躍ユニットは大出力のジネラルエレクトロニクス製FE140に換装しています」
「でもあの方、本当に妙策とやらがあるのかしら? ここまで完成した計画を潰して『代案はこれから考える』ではすまないでしょう」
「ええ、あるのでしょうね。今の話でだいぶ予想がつきました。ですが山城さん。これは日本帝国の政治の話だ。あなたはこれ以上踏み込むべきではありません」
奇しくも、昔おじ様が私に言った事と同じ忠告をした。
「……そうですわね。わたくしは戦術機中尉。政治なんかを考えたら、BETAの群れに飛びこむことは出来ません。さて、そろそろハルトウィック大佐にご挨拶に行きませんとね。お茶をご馳走さま」
山城さんは立ち上がり綺麗に踵を返すと、部屋から出ていった。
ああ、これが無ければもっと楽しい話もできたのに。