信じられないだろうが、そうなんだよ。
ユーコン陸軍基地 総合司令部十二階
プロミネンス計画本部
さて、陽動外交任務の本番だ。
司令部に神宮寺軍曹ことまりもちゃんと到着の報告に出向いた。
対面したハルトウィック大佐は相変わらずの貫禄あるオッサンだった。
「国連軍日本支部、副司令代理として山城上総中尉および副司令補佐官・神宮寺まりも軍曹ただ今参りました」
「うむ……やはり香月博士は来られなかったのだね。今後について話したいこともあったのだが」
「はっ。香月副司令は事態の急変に伴う問題に追われ、基地を離れられない状況にあります。なにしろ基地が建設された途端、近場で第七艦隊の壊滅という悲劇が起きてしまわれたもので」
いや、横浜基地って言い訳には事欠かない場所だね。
まりもちゃんも平然とこんな嘘をスラスラ言えるあたり、さすがあの香月博士の友達やれるだけあるね。
「そうか。そちらがそのような悲劇に見舞われる中、こちらはこのような大規模演習などを催して申し訳ない限りだ。して、香月博士から何か言伝でも預かってはいないかね」
「はい。それは……」
しかしまりもちゃんの言葉は遮られた。
ハルトウィック大佐の秘書官リンツ少尉というメガネ娘が、慌てた様子で大佐に報告をしたのだ。
「大佐、ただいま米軍派遣部隊指揮官の【ジェリド・メサ中尉】が本部前にいらっしゃったとの事です。すぐに大佐に会わせろと」
なっ! 【ジェリド・メサ】だとォ!!?
「いま日本支部の方と面会中だ。『待っていろ』と言っておきたまえ」
「それが、『着任の報告などすぐにすむ。米軍の貴重な時間を食わせるな』とのことです」
うおおおおおッ、その傲岸な物言い!
『米軍』を『ティターンズ』に変えたら”ジェリド”そのものだああッ!!
「米国人の傲岸不遜は仕方のないものか。山城中尉、神宮寺軍曹。申し訳ないが……」
「わたくし達にかまわず、すぐ呼んでください! ジェリド・メサ中尉をッ!!」
「う、うむ? どうしたのかね、妙にはしゃいでいるようだが。米軍の派遣部隊指揮官はそんなに有名であったのかね?」
ジロリと恐い目でにらむ神宮寺軍曹も何のその。
思わぬゼータキャラの登場で、オレの心ははしゃいでいた。
いや、また名前だけが偶然一致しているだけの別人ってのは分かっているんだけどね。
それでもこういった偶然に出会ってしまうと、心ときめくのがガノタの心臓。
震えるぞハート!
だがズカズカ入って来たその男を見ると、燃え尽きるほどヒートした!!
「お会いできて光栄です、プロミネンス計画総責任者どの。自分は米陸軍派遣指揮官のジェリド・メサ中尉です」
なんと、ビジュアルまでもゼータのジェリドそのもの!
逆立った金髪リーゼントに人を見下したかのような切れ長の目。
声までも魅惑の井上和彦ボイスっぽい気がする!
奇跡だ! 宇宙世紀のかませ犬が、この世界にも生まれていたなんて!!
「さて、こちらから言っておきたい事は一つだ。おれ達米軍派遣部隊は国連の干渉をいっさい拒否する。こちらは最新鋭の戦術機データを提供するんだ。文句はあるまい」
ジェリドの不遜な物言いに秘書子ちゃんがキレた。
「ジェリド・メサ中尉! ハルトウィック大佐に対しあまりに失礼です!」
「殴ります! 女みたいな名前で何が悪い! オレは男だよォォォ!!」
秘書子ちゃんは青い顔をしてオレに抱きついて止めた
「ヤマシロ中尉! 本部での暴力行為は軍法会議行きですよ!」
クッ、そうなのか。お嬢さま言葉の呪縛に抗ってまで、あのシーンの再現に挑戦したのに!
「あと中尉は男だったんですか? (モミモミ)……いえ、間違いなく女性の胸ですね」
あっ、やめて。愛が生まれちゃう。
秘書子ちゃん、じつは隠れ才能のテクニシャン?
「フッ、元気の良い姉ちゃんだ。演習で当たったならちゃんと男扱いしてやるよ。所属はどこだ? 東洋系で威勢がいい所から、中華のバオフェンズあたりか?」
「メサ中尉、この方は代表開発衛士ではないよ。賓客として招いたZガンダムの搭乗衛士カズサ・ヤマシロ中尉だ」
ハルトウィック大佐の言葉に、ジェリドは目をむいてオレを見た。
「なにィィィ⁉ この女同士でじゃれ合っている小娘がぁ⁉」
くうううっ見ないで! なんか男に見せたらヤバイ
女同士で人前で妙なことになっているオレ達を見かねたのか、まりもちゃんが助け船を出してくれた。
「リンツ少尉。ご無礼はお詫び申し上げますが、そろそろ……」
「あ、申し訳ありません。つい素敵な感触だったもので」
リンツ少尉はやっとオレの胸から手を離した。
ふう。まりもちゃんのお陰で、ようやく秘書子ちゃんの魔性テクから解放された。
「信じられん……こんな小娘が、おれ達米軍テストパイロットが心血注いだラプターをオシャカにしたのか?」
ラプターと模擬戦したのは白銀だし、オシャカにしたのはユウヤなんだけど。
しかしこの勘違いは都合が良いから、そのままにしておこう。
お楽しみのために!
「コホン。ジェリド・メサ中尉、それではご自身の腕でためしてみてはいかが?」
「なんだ、模擬戦でもやろうってのか? そいつは願ったりだが、アンタのバックの許可やらはいいのか?」
「軍曹。日本支部副司令から、このブルーフラッグへ華を添えるご提案を携えていますわね?」
まりもちゃんは『このタイミングで』という顔をしながらも、素直に述べる。
「はい。『このブルーフラッグにて最も勝ち星を取った組織代表に、好きな形でZガンダムとの模擬戦を許可する』と副司令から承っております」
「ほう! そいつは願ったりだ。ユウヤ坊やが貶めたラプターの価値を、おれが取り戻してやるぜ!」
おっ、カミーユ出撃の報を聞いた時と同じ顔。
だったら、カミーユにボコボコにやられて帰ってきた時の顔もリアルで見てみたい。
燃えてきたぞおおおっ!
いや篁さんの義理からも、アルゴスを応援しなきゃなんないんだけどさ。
でもリアルジェリドと戦って、ゼータの原作再現をしたいんだよォ!
ごめん。ガノタの呪われた性分から、アメリカを応援しちゃうよ!
――—そんな儚い夢を見た幸せな時もあったね。
しかしそれは、無情な一本の電話によって断ち切られた。
RRRRRR……
内線電話が鳴り、秘書子ちゃんがそれを取り一言二言対応。
そしてハルトウィック大佐に内容を伝える。
「大佐、遅れていた大東亜連合代表チームが今到着したようです。代表のパプティマス・シロッコ氏には何時お会いになられますか?」
「パプティマス・シロッコ⁉」
「ど、どうしたのかねヤマシロ中尉。いきなり大声をあげて」
「ま、まさか、大東亜連合はあのパプティマス・シロッコが出ますの⁉」
「あ、ああ。どのシロッコ氏か知らんが、大東亜連合の出場チームは、その名の御仁が代表を務めるエゥーゴに替わったと聞いた。知り合いかねヤマシロ中尉。彼の情報はまるでなくて困っていた所だが」
ガクリ。
力が抜け、膝をついてへたりこんだ。
「中尉⁉ どうなされました⁉」
ショックでまりもちゃんの声も届かない。
「お、おい。さっきまでのバカっぽい浮かれぶりから何があった?」
「ああ……どうやらわたくし達は戦う運命にはなかったようです。ジェリド如きかませ犬キャラが、シロッコに勝てるはずがない」
「なんだとおっ!!!」
本当の米軍派遣部隊指揮官はキース・ブレイザーとかいう人だけど、ジェリドにかえても問題ないよね。どんな奴か知ってる人も少ないだろうし。