ゼータと上総   作:空也真朋

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87話 鎧衣ちゃん、鎧衣さんと出会う

 ギュオオオオオン

 演習区域のビル街を模した演習区域。

 それを疾走し銃撃戦を繰り広げる戦術機たち。

 その中にあって、二機の機体は驚くべき機動で相手側を翻弄している。

 日本帝国の次期主力戦術機【不知火・弐型】だ。

 連携はあまり上手いとは言えない。

 されど圧倒的な性能差とそれを引き出す衛士の技量で、相手の連携をズタズタに引き裂いていく。

 さすがユウヤとお猿さん(タリサ)だね。変態機動がさらに磨きがかかっている。

 その様を大型モニターで見ている観客たち(ギャラリー)の中の一部、第二〇七訓練B分隊は大はしゃぎだ。

 

 「あれが帝国の次期主力戦術機! すごい性能だね!!」

 

 「相手の戦術機がまるで相手にならないですね! 本当にすごいです」

 

 「あれが帝国に配備された暁には、必ずや国土奪還は成るだろう。頼もしいことだ」

 

 「乗ってみたいな。あれ、すごく気持ちよさそう」

 

 しかしそんな彼女らの中にあって、沈んでいる娘が一人居る。

 榊首相の娘の榊千鶴さんだ。真面目な性格でメガネッ娘の二〇七B分隊の分隊長。

 昔の漫画のメガネ委員長みたいな子だ。

 

 「……みんなごめんね。私の指揮が至らなかったせいで、もうあの戦術機には乗れなくなっちゃって」

 

 「そんな! 衛士になれなかったのは榊さんだけのせいじゃないよ! ボクらみんなが至らなかったせいだよ!」

 

 「そうだぞ榊。皆もお前も精一杯やった結果だ。もっとも彩峰と衝突しすぎな所は改善してほしかったが」

 

 けれど、ますます落ち込む榊さん。

 

 「そうよ……あんなの分隊長失格よ。あんなの……あんな失態なんて……」

 

 うーん。真面目すぎる性格か、鬱になりやすい子だな。

 中尉なんて現場指揮官の階級にもなったことだし、何かカッコイイこと言っておさめたいけど、榊さんのことも総戦技評価演習のこともよく知らないしなぁ。

 しかしその役目はオレではなく教官のまりもちゃんの役目だった。

 

 「榊、そして二〇七B分隊の貴様たち。貴様たちは衛士になれる実力がありながら、なれなかった。それは仕方がない。そういった事はある」

 

 シブイ! そうか、こんな風に言えばいいのか。メモメモ。

 

 「だが榊よ、今貴様が考えねばならぬのは『あの時どうすれば良かった』などではない。今の自分の立ち方だ」

 

 「教官……私は自分がどう立てば良いのか分かりません」

 

 「だろうな。私も昔、取り返しのつかない失敗をした時はそうだった。だからつねに己に問い続ける。それしかないのだ」

 

 うわあああっ、まりもちゃんカッコイイ!

 オレもこんなこと言えるシブイ大人になってみたい!

 

 「し……失礼します!」

 

 榊さんは顔を伏せて駆けだす。

 「あっ、榊さん!」「榊さーーん!!」と皆が呼んで追いかけようとするも、まりもちゃんは止める。

 

 「よせっ。一同、榊を追ってはならん。一人にしてやれ」

 

 「でっ、でも教官!」

 

 「言うべきことは言った。あとは榊がどう受け取るかだ」

 

 くうううっシブさ天元突破! お嫁さんにして、まりもちゃん!!

 ……と、教育者のシブいカッコよさに血迷っている場合じゃない。

 二〇七B分隊のみんなと青春群像なんかをやっているのも楽しいんだけどさ。賓客の役目もちゃんとやらないとね。

 

 「神宮司軍曹。わたくしは午後の観戦はご一緒出来ません。午後の【米軍インフィニティーズ対大東亜連合エゥーゴ】の演習だけはハルトウィック大佐と見る約束となっております」

 

 「そうですか。ですが何故その演習だけ? 何かしら政治的な話でもなさるのでしょうか?」

 

 「いえ、そういった事はありません。ただ、大東亜連合方の出場者がわたくしの知り合いなのです。その方の事を少しばかり話すことになっておりまして」

 

 「中尉だけを大佐の元へ送るのは心配……しかし分隊長の榊がこうなった以上、私がここを離れるわけにはいかないし……誰かつけるか」

 

 ああ、リアルジェリドを見た衝撃でトチ狂ったもんね。

 しかし、まりもちゃん。熟考した時、考えが口に出るのは軍人として問題だよ。

 

 「一番頼りになる榊はいないし、御剣……は、お偉方にあまり顔を覚えられたくないな。珠瀬はいざ暴走という時、止められないだろうし。彩峰……は止め方にすごく問題がありそうだ。消去法だが、鎧衣が一番か」

 

 結論を出したまりもちゃん、ショートカットで胸のふくらみの薄い男の子のような彼女に声をかけた。

 

 「よし、鎧衣」

 

 「はい、教官」

 

 「貴様に任務を与える。私のかわりに山城中尉の副官としてついていけ。向こうで政治的な話になりそうな場合、私の到着を待てと言え。それと中尉が妙なことをしそうな場合、体を張って止めるように」

 

 やれやれ、信用ないな。

 

 「了解しました。中尉、それではよろしくお願いします」

 

 朗らかに笑って敬礼する鎧衣ちゃん。

 くうううっ、可愛い!! なんか男としてではなく、メスとしてそう感じる。

 

 「ええ。じゃ、鎧衣さん。行きましょうか」

 

 「了解です」

 

 ヤベェ。悶え死ぬ。

 煩悩まみれのオレ様。鎧衣ちゃんと観客席を離れ、本部へと向かった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 途中、野外格納庫(ハンガー)のたくさんある区画を通りかかった時だ。やけに整備兵達が盛り上がっている場所に来た。

 

 「うおおおおおっ、ちっきしょう! やられたあっ!!」

 「糞、バオフェンズの姉ちゃんどもをあしらうなんざ、新型を甘くみてたぜ!!」

 

 なんなんだろうね、すごくヤロー臭い連中だけど。

 そんな中に見知った顔がいるのを見つけた。 

 いつもユウヤと一緒にいる金髪の専任整備士だ。

 

 「ヴィンセントじゃありませんか。何をしてるんですの?」

 

 「ああ、カズサ姫……じゃなくて山城中尉」

 

 「任務外は好きに呼んでくれてかまいませんわ。それよりこれは何の集まりです? やけに盛況のようですが」

 

 「バクチですよ。ブルーフラッグの勝敗を賭けてね。じつはさっきのアルゴス対バオフェンズで大きく稼ぎました!」

 

 「……ああ、整備兵の間では人気でしたわね。アルゴスの方が不利とみられてましたの」

 

 「おおっ、バオフェンズ絶対有利を覆してアルゴス勝利! いやぁ、丹精込めて整備した甲斐があるってもんですよ」

 

 たしかに不知火・弐型の完成度を知らないんじゃ、新型なんて不安でしかないからな。

 ヴィンセントは上手くやったな。

 ……うん? だったら、午後の米軍対大東亜連合の勝負。

 シロッコのことを誰も知らない今なら、大勝ちできるんじゃ?

 

 「では次の米軍教導隊(インフィニティズ)vs大東亜連合(エゥーゴ)の勝負も賭けになってますの?」

 

 「ああ、あまりオイシクはないですが、一応五分ってのに賭けてます」

 

 「五分? なんですの、それ」

 

 「次回の対戦は米軍に駆けるのは禁止なんすよ。代わりに何分で決着がつくかってのが賭けの内容なんです。で、俺が賭けたのは一番人気の五分未満。二番は五分以上十分未満ッスね」

 

 「……ふうん、大東亜連合に勝ちはないと」

 

 「いや、カズサ姫の古巣にケチつける気はありませんがね。傭兵のチームでただ一機でだけすよ? しかも相手は世界一の金満国アメリカ。勝負なんて初めから見えてるじゃありませんか」

 

 「わかりました。では、わたくしが大東亜連合勝利に千ドル賭けましょう。手続きをお願いします」

 

 整備兵たちからザワザワッとした声が聞こえた。

 

 「は、はぁ⁉ いくら何でも金をドブに捨てるようなものですよ。千ドルも!」

 

 「いいのです。古巣への義理ですから」

 

 「ま、姫の考えがそれなら仕方ありませんがね。あ、一応聞きますけど、スコアプランもやります?」

 

 「何ですの、それ?」

 

 「掛け金に一割プラスして最終スコアの予想もするんです。当たった場合、配当は二倍になります」

 

 「ではもう百ドル。スコアは米軍方四機撃墜の全滅でお願いします」

 

 途端、ドッと整備兵達から笑い声がおこった。

 

 「うおおおおおっ、大東亜連合のそいつ、どんな超人だよ!!」

 

 「さすが英雄姫、浮世離れしていらっしゃる!」

 

 ヤンヤヤンヤとはやし立てられながら、その場を後にした。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 「しかし……義理で千ドルは出しすぎじゃないですか。あ、追加プランとかもやっちゃったから千百ドルか」

 

 ポツリと鎧衣ちゃんは言う。

 

 「わたくしは本気で大東亜連合が勝つと思っていますよ。スコアは……まぁシロッコなら、それくらいは、やるんじゃないかと」

 

 「ええっ⁉ アメリカってものすごい戦術機があるって聞いてますよ。それを一機で全部撃墜って……いったいどんな人なんです? そのシロッコさんて」

 

 女ったらしの天才。そう言うしかない奴なんだよなぁ。

 道の途中、その大東亜連合が使用していると聞いたハンガーの見える場所へ来た。

 

 「たしか大東亜連合のハンガーはアレでしたわね。今は忙しい身だろうから控えますが、演習が終わったら会いに行ってみますか。聞きたいことも多いですし」

 

 「山城中尉がそこまで言う人かぁ。ちょっと興味があるな。ボクも会ってみようかな」

 

 しばしハンガーを眺めてから、また先を行こうとした時だ。

 ドンッ

 偶然そこを通りかかった体の大きな整備兵に、鎧衣ちゃんがぶつかった。

 

 「あ痛たた……ごめんなさい、よそ見をしてて」

 

 「いや、こちらこそ失礼しました。午後には出場なので、やる事が多くてね。つい不注意になってしまいましたよ」

 

 あれ? このおじさんのこの声、どこかで聞いたことがあるような?

 それにあの体格にも見覚えが?

 …………!!

 

 「あっ、あああ! あ、あなた鎧衣さん⁉」

 

 「え? 鎧衣ですけど、どうしたんです中尉」

 

「「いえ鎧衣さんではなく、鎧衣さんの方で……ああ、ややこしい!! そちらの整備兵の方! あなた”鎧衣さん”ですわよね⁉」

 

 そうだ、スパイの鎧衣さん!

 ”鎧衣”って姓に聞き覚えがある気がしてたけど、彼のことだった!

 ユーコン基地に出発して以来会ってないんで、すっかり忘れてた。

 

 「え? この人も……あれ、もしかして父さん?」

 

 鎧衣ちゃんがおじさんの顔を見ようと覗き込むも、おじさんは顔を伏せ背をむけた。

 そして脱兎のごとく素早く駆けだして、たちまち見えなくなった。

 

 「父さん? まさか……」

 

 「百パーセント図星の反応でしたでしょう、アレは。それにしてもあなた、あの鎧衣さんの娘でしたの?」

 

 「う、うん。父さんの仕事は貿易商のはずなんだけど、ここで何してるんだろう。山城中尉は父さんのこと、知ってるんですか?」

 

 「ええ、前にお世話になった方ですが。それにしても”貿易商”ですか。いわゆる偽装身分(カバー)というやつですわね」

 

 鎧衣親子の再会か。

 しかしスパイなんて職業の彼が、任務中に偶然娘と会ったら気まずいなんてもんじゃないね。

 

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