ゼータと上総   作:空也真朋

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88話 シロッコ対ジェリド

 鎧衣さんが大東亜連合の整備兵なんてやっている事は気になるけど、それはともかく。

 オレと鎧衣ちゃんは本部のモニタールームにてハルトウィック大佐、秘書子ちゃんことリンツ少尉と【米軍インフィニティーズ対大東亜連合エゥーゴ】の演習を大型モニターで観戦だ。

 両者の機体がモニターに映し出されたのだが、シロッコの使っている機体を見て目が点になった。

 

 「あれがシロッコさんの機体? あれは、いくら何でも……」

 

 「背中に銃がいっぱいですねぇ。あんな戦術機もあるんですか」

 

 「あるわけないでしょう。鎧衣さん、アレはヘンな戦術機です。間違った知識を持たないよう」

 

 秘書子ちゃんもあきれ顔。

 

 「シロッコさんは何を考えてあのような真似をしたのだか。あれでは機動戦が売りのF-15(ストライク)のスピードを殺すだけです」

 

 シロッコの機体は事前に聞かされていた通りの改造F-15(ストライク)だったが、なんとそれには、背中に4丁もの予備銃器が取付けてあったのだ。

 さらに手に持つ重火器はMK-57中隊支援砲。長距離狙撃用のやたらバレルの長いシロモノで、当然ただの突撃砲より相当重い。

 要するにドン亀状態のあれでは、まともに戦えるわけはないのだ。

 

 「シロッコ氏はガルーダス相手にF-15の機動で相手を翻弄し、見事四機を撃墜するという離れ業をしたそうだ。しかし、あの改造はその機動を殺している。いったい何を考えているのだろうな」

 

 ハルトウィック大佐も困惑したように言う。

 

 「持っている得物から、おそらく相手を長距離で仕留めるつもりでしょう。ですがステルス機であるラプターは、その位置を特定することがあまりに困難です。加えてインフィニティーズは米軍最強のパイロット。誰であれ位置を掴む事など出来ようはずがありません」

 

 出来ちゃうんだよ。シロッコは最強ニュータイプだし。

 しかし問題は、位置を掴むだけじゃラプター相手には勝てないことだ。

 「しかしたとえあのような改造がなされなくても、機動戦でラプターに勝つことは不可能でしょう。シロッコ氏の機体はF-15・E(イーグル)でさえないノーマルのF-15(ストライク)。ラプターとはその機動性は雲泥の差です」

 

 そうなんだよな。秘書子ちゃんの言う通り。

 シロッコなら時間さえあればラプターを超えるエンジンとか開発しそうだけど、期間的に動力にまで手を加えられたとは思えないし。

 

 ……いや待て。それならシロッコなら、機動を捨てた方法で勝とうとするんじゃないか?

 あの背中の4丁の予備銃器は、そのための改造と考えるべきか。

 モビルスーツとかで、あんなのはなかったか……

 

 「ああ! そういうことですか。なるほど、あの経験を生かしているんですね」 

 

 オレがあの機体に思い当たったと同時、モニターから演習開始のサイレンが鳴り響いた。

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 ジェリド・メサSide

 

 

 ウウウウウウーーッ

 

 

 ダミービルが並ぶ廃墟のような演習区域に、演習開始のサイレンが鳴り響く。

 

 「では状況開始だ。インフィニティ3並びに4、行って来い。3はすぐには終わらせずに多少は付き合ってやれ。4は状況を克明に記録。万一インフィニティ3が手間取るようなら狙撃にて目標を排除。インフィニティ2はオレと予定位置で待機だ」

 

 『了解です。今回は自分一人で決めてみせます』

 

 『大東亜連合のテストパイロットたちを一人一機で征圧したって腕を見てきますね』

 

 今回の大東亜連合は一機のみが相手。インフィニティズ総出で迎えるには過剰戦力すぎなので、こちらも主攻一機と万一の場合の支援一機の二機のみで相手をすることにした。

 主攻は堅実な戦闘を得意とするインフィニティ3のガイロス。

 支援は支援砲撃の専門で名スナイパーのインフィニティ4のシャロンだ。

 

 『インフィニティ4、予定の観測位置に到着。狙撃体勢にて状況報告をはじめます。インフィニティ3の滑走を確認。相手機(ターゲット)は……確認とれました。Fー15改修機、現在高所に場所をとっています。得物は超長距離砲を携帯。ですが狙撃も可能なほど無防備です』

 

 ちっ、素人か? 

 どうやら狙撃でこちらを沈める考えのようだが、ステルス機のラプターをそう簡単にとらえられるものか。

 ガイロスならば、そんなマヌケに接近して仕留めるなど造作もない。

 さすがにこれ以上手は抜けないし、どうやら見込み違いだったか。

 

 『ターゲット、超長距離砲をかまえました。ですが銃口はインフィニティ3とはまったく見当違いの方向です。……え、まさか⁉ 駆動すらしてないステルス機の位置を捉えられるはずが……』

 

 「インフィニティ4?」

 

 ――ピーッ

 

 『なっ⁉ 通信が⁉ シャロン!!』

 

 シャロンとの通信が途絶した。

 

 『おいインフィニティ4! どうした応答しろ!』

 

 「落ち着けインフィニティ2。ブルーフラッグにおいては、撃墜判定をとられた機体との通信はできないようになっている。つまりは、そういう事だ」

 

 『シャロンが……狙撃で喰われた? どうやって位置を……』

 

 「しかも観測射撃すらしないで一発。とんだバケモノだな。ともかくステルスは過信できないようだ。俺達も出るぞインフィニティ2。それとインフィニティ3をいったん呼び戻す。仕切り直しだ」

 

 だが……

 

 『い……インフィニティ1、こちらインフィニティ3。現在、敵の集中砲火を浴びせられています! 何の索敵もなしにどうやってステルス機を……うわっ』

 

 ―――ピーーッ

 

 ガイロスとも通信途絶。

 

 「……遅かったか。喰われやがった。やはり奴もZ技術の関係者、甘くはないってことか」

 

 くそっ、莫大な開発費をかけたステルスを、こうも簡単に破りやがって!

 開発陣連中も、この真相究明で今夜は眠れないだろうよ。

 ”サイコフレーム”とやらは敵位置の捕捉技術のことか?

 

 『インフィニティ1、敵はどうやってステルスを破っているのでしょう』

 

 「ここで考えてもわからん。今は『なぜ』『どうして』は禁止だ。そして隠密機動戦は捨てる。ストライクの時代に戻って猟犬ドッグファイトとしゃれこもう」

 

 

 ドゥンッ ドゥンッ

 

 「また来るぞ、スネーク!!」

 

 推進を蛇の蛇行のごとくくねらせると、そのすぐ脇に着弾マーカーが記される。

 ダミービルを縫ってダミー砲撃音はほぼ正確に機体をかすめてくる。

 ラプターの高速機動をフルに使ってなければ、確実に喰われていただろう。

 くそっ。長距離砲撃戦でこうもラプターが遅れをとるなんざ、開発陣にとっては悪夢そのものだろうぜ。

 通常は、相手がステルス機であるこちらにいかに肉薄するかを模索する方だってのに。

 

 

 「…………?」

 

 だがやがて、狙撃警報がまったくならなくなった。

 奴は俺たちを見失ったのか? まさか?

 

 『インフィニティ1、奴は移動をはじめました。行き先はおそらくダミービル密集地』

 

 「障害物エリアか? つまりは近接格闘戦(ドッグファイト)を誘ってやがるのか」

 

 『勝負を捨てたのでしょうか? こちらの近接格闘戦(ドッグファイト)データ獲得のために』

 

 インフィニティーズは米軍教導部隊を教導する、いわばトップオブトップだ。

 米国内を巡って近接格闘込みの模擬戦では一度も負けてないし、一機もキルされていない。

 しかも相手機との機動力は隔絶した差がある。

 だのに何だ、この嫌な予感は?

 

 

 『目標、間もなく射程に入ります。ワンキルできめます』

 

 レオンの言う通り、相手マーカーへの接近が近づいてきた。

 相手機体はF-15。相手がどう動こうと、勝負は一呼吸する間に終わるだろう。

 しかしこちらが二機も喰われた以上、油断はしない。

 

 「先走るなよ。撃つタイミングを合わせろ。よしッ、今……」

 

 瞬間、背中に冷たいモノを感じた。

 

 「いやっ、よけろっ! フルスロットルッ!!」

 

 【F-15がラプターより速く撃てるはずがない】

 そんな常識にとらわれず回避を選択できたことは、自分を褒めてやりたい。

 

 機体の軌跡を追うように殺到する36mm砲弾。軽い衝撃。

 統合仮想システムの判定は至近着弾による右下大腿部装甲の塗装剥離。

 

 くそっ、今のは確実にこちらより速かったぞ。

 ラプターがF-15に早撃ちで負けるなんざ、どうなっているんだ?

 

 米国最高の技術で火器管制システムを組んだ開発陣は涙モノだな。

 今夜は開発陣の先生方と相手技術の洗い出しで眠れないだろうが、それは後の話。

 

 「レオン!……インフィニティ2、相手をF-15と思うな。最強の相手と見て速度差と連携で圧倒しろ!」

 

 『了解!』

 

 

 

 

 

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