ゼータと上総   作:空也真朋

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90話 嵐の前の小さな波

 篁唯依Side

 

 ユーコン基地統合司令部予備通信室

 

 「あなたは……?」

 

 岩谷のおじ様と通信するために赴いたそこ。だがそこに見知らぬ紳士がいた。

 基地内で軍服を着ていない人間ということは、政治家あたりだろうか。

 

 「やぁ、どうも。久しぶりですな唯依ちゃん。いや、この呼び方はもう失礼ですな」

 

 「……どこかでお会いしましたか?」

 

 「ええ。あなたから見れば、任官後最初の任務・京都防衛戦直後の頃になりますな。巌谷中佐と話をするために赴いた先にあなたがいました」

 

 「ああっ、貿易商さん⁉ ……ではありませんね、ここに居るということは。何者です?」

 

 「本当の身分を明かしましょう。帝国情報省外務二課所属、特務課長をつとめる鎧衣左近と申します」

 

 「情報省の方ですか。XFJ計画のことを調べにいらしたのですか?」

 

 「いえいえ。私の任務内容はくわしくお教えできません。が、巌谷中佐のお手伝いであると言っておきましょう」

 

 「おじ様の⁉、……いえ中佐の? いったいどういったお手伝いを?」

 

 「その話ですが、彼本人から語っていただきましょう。巌谷中佐、それでは始めてください」

 

 彼の合図とともに、正面の大型スクリーンが映し出された。

 そこに映るのは、やはり少し沈んだ顔のおじ様だった。

 

 「……唯依ちゃん。できれば君を政治闘争に巻き込むようなことはしたくなかった。だが、そうも言ってられない状況になった。君もそのことは調査団派遣の件から感じているだろう。XFJ計画主任として知っておくべき事、そしてやらねばならん事をこれから話す」

 

 「お気になさらずに。自分はどのような状況であれ最善をつくす覚悟はできております。ですが、この情報省の方の前でよろしいのですか?」

 

 「ああ、鎧衣は大丈夫だ。おれと同じ線でつながっている。では、さっそく本題だ。貴様も知っての通り、XFJ計画に対し調査団が覇権された。だがこれは、おれの政敵がXFJ計画を潰すための一手だ」

 

 「やはり……」

 

 「そしてこれは、日本をアメリカから引き離し、ソ連とつながりアメリカに対抗しようと考える一派の策謀だ」

 

 「なっ⁉ なんと危険なことを!!」

 

 「そうだ。アメリカの介入を防ぐ、といった線なら俺も問題にはしない。だがソ連と組みアメリカと対立する路線をとることは、日本を危険な道へ進ませることとなる。何としても目論見を潰さねばならない」

 

 「わかりました。自分も同意です。それで、自分はどのように行動すればよいのでしょう」

 

 「問題の一派の中心人物が、調査団の長をつとめている大伴中佐だ。貴様に接触するだろうが、出来る限り情報を渡さないようにしてほしい。決して隙を見せるな」

 

 「了解しました」

 

 「そしてそこの鎧衣だが、頼まれごとがあったなら便宜をはかってほしい。貴様が防衛(ディフェンス)なら、鎧衣は攻撃(オフェンス)。大伴中佐と調査団の身辺を徹底的に洗う」

 

 「つまり、私が調査団を引きつけている間、この鎧衣さんが仕事をするというわけですね。了解しました。やり遂げてみせます」

 

 話が終わろうかという時、私は大東亜連合のあの男の件を話そうかと考えた。

 だが、それは鎧衣さんがかわりにやってくれた。

 

 「もし、巌谷中佐。ついでですが、私の雇い主、および香月博士に伝えてほしい事があります。また技術屋であるあなたにも興味ある件でしょうな」

 

 「なんだ、言ってみろ鎧衣」

 

 「私の表の雇い主の大東亜連合エゥーゴが、ブルーフラッグにて米軍インフィニティーズを破りました。それもたった一機で四機すべてを撃墜。信じられない戦果です」

 

 「……なんだと? 詳しく話てくれ」

 

 「ええ。私が彼の元にいるのは、偽装(カバー)にちょうど良い場所だったからなのですが、信じられない技術をお持ちでしてね。それは……」

 

 

 「――ステルス機の位置をあっさり看破。サブアームによる三人分のマルチタスクか。鎧衣はそこに整備兵として潜り込んでいるそうだな。カラクリはわかるか?」

 

 「サブアームの構造や動力機関などは、実際に整備しているのでわかります。ですが、この奇跡的な戦果を出しているのは、どうやらユニット内に使われている未知の技術のようです。名を【サイコフレーム】というらしいですが」

 

 「ふうむ。そっちの方も気になるが調査団の方が優先だ。その大東亜連合の雇い主にはつなぎだけとって、調査団の方に集中してくれ」

 

 「残念ですな、調べ甲斐のある案件でしたのに。しかしこれだけの実力を見せたのだから、シロッコ氏は各方面から引く手あまたとなりましょうな。大東亜連合の協力の線上でスカウトした方が手っ取り早いかもしれません。技術廠の方で獲得したいならお早目に」

 

 「検討しておこう」

 

 

 「では、さっそくお仕事といきますかな。篁中尉、大伴中佐はじめ調査団の予定をお教え願いますかな」

 「ええ。彼らはこの後、ハイネマン氏に会う予定となっております。そして明日以降はハンガーにも入って、整備兵たちに話を……」

 

 私は知っている限りの調査団の予定を鎧衣氏に話した。

 

 「ご協力ありがとうございました。あとはこちらにおまかせください」

 

 「調査団と話す際の注意点などはありますか」

 

 「そうですな。話す内容はソ連に流れるものとお考えください。核心的な技術などはお話しにならないよう。踏み込んできた場合『アメリカとの機密保持契約にふれる』で突っぱねてください」

 

 「でしょうね。わかりました、注意します。では、お願いします」

 

 

 「ええ。お互い、当初予定より仕事が増えて大変ですが、なんとか乗り切りましょう」

 

 「ええ、まったくです。これ以上面倒が増えることだけは避けたいですね」

 

 彼の言葉に思わず笑った。

 

 ―――だが、私たちの願いは完全なかたちで裏切られた。

 この後、調査団の件もシロッコ氏の謎もかすませるほどの巨大な面倒……いや、災いがこのユーコン基地に降りかかったのだ。

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