ゼータと上総   作:空也真朋

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92話 ソ連対大東亜連合戦の始まり

 本日は、このブルーフラッグ最大の見せ場とでも言うべき『ソ連対大東亜連合』のカード。 

 なにしろ両代表とも、これまでの戦績はともに無敗。世界最強と思われていた米軍開発チームすらも寄せ付けない強さを見せつけたのだ。

 圧倒的な強さを見せるシロッコと紅の姉妹(ツイン・スカーレット)の対決に、ユーコン基地すべての人間は注目して大盛り上がりだ。

 そんな日の早朝、オレはゼータのコクピット内でハロが分析したシロッコの戦闘データを鑑賞中だ。

 

 「さすが強いですわね。やはりニュータイプとサイコフレームの組合せは凶悪ですわ。それでハロ。シロッコの戦闘データでサイコフレームの研究は進みましたか?」

 

 「うーん、やはりオールドタイプが相手だと、どうしても限界がね。その意味で、今日のソ連戦には期待している。紅の姉妹(ツイン・スカーレット)ならシロッコさんの機動にもついていけるだろうし」

 

 「ずいぶんサイコフレームのデータに執心しますわね。そんなに欲しいんですの?」

 

 「まぁね。これはガノタとか関係なく、機体コントロールに関わる大事なことだからね」

 

 サイコフレームとは、サイコミュの基礎機能を持ったチップを埋め込んだ鋼材だ。

 そしてサイコミュとは、もともとは宇宙世紀一年戦争時代に課題となった機体制御問題を解消するための技術の一つである。

 

 宇宙空間内をモビルスーツで戦争なんかやってると、いつの間にか機体が流されてしまい、宇宙の彼方へ消えていくという事故が多発したらしい。

 そのためより高度な機体制御技術が求められたわけだが、サイコミュもその一つ。

 脳波で機体を制御する脳波コントロールシステムだ。

 

 だがこのサイコミュ、次第に副次的な効果が出るようになってきて、それが注目されるようになってきたのだ。

 【ニュータイプ】と呼ばれる特殊な脳波を発する人間がそれを扱うと、機体性能が大きく上がったり、ビームが爆発的に強力になったり、ビームサーベルが巨大になったりだ。

 

 ついには【ニュータイプ】と【サイコミュ】は宇宙世紀最大の研究課題となって、大きな研究施設まで作られるようになったのだとか。

 

 「以前はバイオセンサー発動で機体能力20%増しくらいだったのが、巨大BETAとの戦いを経てから常時50%を超えるようになっちゃったんだ。シロッコさんからもらったサイコミュデータのおかげで、どうにか安定させられてるけど」

 

 「た、たいへんな数字ですわ! そもそも、どうしてサイコミュがそんな不思議現象を起こすんですの?」

 

 「わからない。サイコフレームが機動するとき、謎の青い光が発光される。それはまったく熱エネルギーが出ていないのに異常に機体能力を上げてしまうんだ」

 

 「謎の青い光……ですか」

 

 「どうもカズサのニュータイプ能力が、どこからか未知の力を引き寄せている感じなんだ。心当たりはない?」

 

 「……バイオセンサー発動中は、どこか別の世界と繋がっている気はします。でもそれは感覚的なもので、それがどこで何なのかはまったく分かりません」

 

 「となると、やっぱりシロッコさんに期待するしかないか。あの人にサイコフレームを渡したからには、徹底的に調べずにはいられないだろうからね」

 

 「でも危険じゃありません? あの人なら世界を支配するマシーンなんて製造しそうですが」

 

 「そのマシーンも、元となる機体が戦術機なら大したことはできないよ。地球産の素材じゃ、小型原子炉さえ搭載できないだろうし」

 

 大丈夫かなぁ。こういう油断って、危険な奴を強大なラスボスに育てるフラグなんだけど。

 

 「そろそろ、わたくしはもう出ますわ。神宮司軍曹やB分隊のみなさんと観戦することになってますの」

 

 「うん、それじゃ後で。データ分析の結果を楽しみにね」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 一般観戦モニタールームへ行く前、篁さんやアルゴスのみんなに挨拶でもしていこうと、アルゴス小隊の待機所へ立ち寄ることにした。

 だがそこには篁さんはおらず、アルゴスのみんなはなぜか強化装備を身に纏っていた。

 

 「どうしたんですの、みなさん。これから大一番のソ連対大東亜連合の演習だというのに。こんな日にこれから訓練でもいたしますの?」

 

 「ああ? 寝ぼけンなよ、お姫さま。その大一番のあとには、アタシらアルゴスと米軍インフィニティーズの演習だろうが!」

 

 「あ……」

 

 すっかり忘れてた。午前のソ連・大東亜のあとには、午後にそれがあったんだった。

 両チームともシロッコとソ連以外の負けはない強チーム同士の対決なのに、影が薄いんだよね。

 

 「やれやれ。ま、俺らの注目度なんてこんなモンだよな。米軍開発衛士チームすら三番手にしちまう連中の対決の前じゃな」

 

 VGは苦笑しながらヤレヤレのゼスチャー。

 

 「クッソー! ラプターとの対戦前だってのにまったく集中できねぇ。なんなんだ、あのパプテマス・シロッコって奴! なんで四機がかりでまったく当てられねェんだ!」

 

 グリプス戦役最強ニュータイプだからだよ。

 カミーユ、シャア、ハマーンがそろって一発も被弾させられなかったほどの相手だからね。

 

 「それにツンドラ姉妹もだ! なんなんだ、あいつらまで! 前にドッグファイトやった時より遥かに反応がヤバくなってやがる。あれは本当に人間か?」

 

 そう。ソ連のイーダル小隊……いや、紅の姉妹(ツイン・スカーレット)も異様な強さを見せている。これまでの戦闘では、ほぼ彼女たちのチェルミナートル一機で対戦相手をことごとく撃破しているのだ。

 まったく、どれだけ強化したんだか。

 

 「インフィニティーズも全勝を期待されての出場だったろうに、まさかの二敗とはな。第七艦隊の壊滅から、アメリカの世界の盟主の立場もいよいよヤバくなってきたかもな」

 

 自国の失墜をどう思っているのか、ユウヤはニヒルに笑う。

 

 「ユウヤ。お国のために『今日の演習で負けてやろう』なんて考えてんじゃねーだろうな?」

 

 「それはない。そもそも俺なんかが心配する前に、上の方じゃ今回の件の対策を考えているだろうよ。さすがにソ連の機密扱いのクリスカ・イーニアには手が出せないだろうが、大東亜連合代表のシロッコは完全なフリー。とっくに交渉でもしてるだろう」

 

 「それに私たちにとっては不本意なブルーフラッグだったけど、大局的に見れば良いことだと思うわ。BETAに対抗できる新しい力が生まれつつあるんだもの。私もハイネマンさんに頼まれてシロッコさんの戦闘データを分析してるんだけど、なかなか面白いデータがとれたわ」

 

 ユウヤもステラも達観してるな。たしかにこのブルーフラッグは勝敗じゃなく貴重なデータを取ることが目的だし、それで良いんだけど。

 

 「唯依姫の期待に応えられなかったのは痛いがな。で、どう思うユウヤ。連中とやり合って生き残った奇跡を成し遂げたお前に聞きたい。シロッコと紅の姉妹(スカーレット・ツイン)、どちらが上だ?」

 

 そう。アルゴス小隊も両チームに負けはしたが、ユウヤの不知火二型(セカンド)は撃墜されず時間まで生き残った。操縦センスと熱心なシミュレーター訓練のたまものだろう。

 

 「シロッコだな。紅の姉妹(スカーレット・ツイン)の方は圧倒的な反応速度でブン殴られた感じだったが、シロッコの方は反応速度に加え、より洗練された動き。さらには行動まで読まれている感じがした」

 

 「まぁそうだろうな。それくらいでなきゃ、型落ちF-15の改修機なんかで世界各国のテストパイロットどもを圧倒なんて出来ないだろうしな」

 

 と、オレがここに来た理由を思い出した。しかし肝心の彼女は見当たらないな。

 

 「ところで篁さんは? ここには居ないようですが」

 

 「ウチの観戦もしないであちこち飛び回っていますよ。ソ連に負けたんで、いろいろ政治に忙しいんでしょう」

 

 そうか……ソ連に負けたんで、ソ連派の調査団相手に難しい立場になっちゃったんだな。

 

 「米軍も似たようなモンらしいな。レオンが『技術スタッフはもう俺らのことなんかそっちのけで、ソ連と大東亜連合のモニターに大忙しだ』とかぼやいていたぜ。ま、米軍としちゃ、お国の技術を上回る存在の出現は見過ごせないだろうからな。さて、俺はそろそろ仕上げに行ってくる」

 

 「あら? これからシミュレーター訓練? ソ連と大東亜連合の演習は見ませんの?」 

 

 「不本意な結果とレオンとの因縁は別の話だ。俺は奴には負けねぇ。それにジェリド・メサ中尉を超えるチャンスでもある。不知火・弐型はそれを為すだけの力があると信じているからな」

 

 「さすがユウヤ! 折れちゃいねーな。ヨシッ、アタシもつき合うぜ。せめてラプターの一機ぐらい沈めなきゃやってられねーからな」

 

 ユウヤとタリサ。この二人はどこまでもタフだね。

 お前たちの戦いもしっかり見とくからな。そして勝利を祈っている。

 

 

 ―――だが、結果としてアルゴス対インフィニティズの演習は行われず潰れた。

 大いなる脅威がこのユーコン基地を襲ったのだから。

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