これはモビルスーツ乗りの感覚的なものです。
パプティマス・シロッコSide
ユーコン陸軍基地 テストサイト18
第2演習区画 E-102演習場
コクピット内にてスタート前のダミービルをながめ、この先の相手に思いをはせる。
「噂にきく
模擬戦開始の号令が発せられ、モニターにテスト・スタートの表示が映る。
その直後、はるか先に超加速で接近するプレッシャーを感じた。
レーダーには、その感覚の通りに高速で接近する一機の敵性
「フッ、自機座標をさらしての突撃。カミーユを思わせる勢いだな。だが私は、その勢いと反応だけで倒せるほどあまくはない」
自機F-15改をダミービル屋上に置き、XWS-116支援突撃砲を構える。
長砲身タイプで集弾精度と初速、射程を重視した重狙撃モデルだ。
「これで終わりなど、つまらん結果にはするなよ。ニュータイプもどき!」
トリガースイッチを押し込み、プレッシャーに向け発射。二発三発と連続して全弾を叩きこむ。
チェルミナートルの直進してきた場所に仮想の轟々たる爆炎が視界いっぱいに広がる。さて、私の挨拶に応えてくれるか?
「私の狙撃を感じる程度には出来る、か。そうでなくてはな」
彼女らを示す赤い敵性
これまでの演習でもあのチェルミナートルは幾度も狙撃を受けたが、すべて反応しかわしてきてはいた。彼女らと対戦した相手は『弾が当たらない』と驚愕し畏怖していたが、ニュータイプにとっては弾やビームをかわすことなど普通のことだ。
ただ今回違ったのは、これまではそのまま直進し敵陣へ突っ込んできたのに対し、今回は遮蔽物の影に隠れるよう迂回してきたということだ。
「プレッシャーを感じたようだな。ニュータイプとの戦闘を幾度も経験した私には、君達の回避先など発射する前から承知なのだよ」
撃墜のプレッシャーを与え、その迂回を選択させたことで、第一段階は終了だ。
「さて、
空になった超長距離砲を捨て、迂回に勤しむ彼女らを置いて、そのままソ連
「フッ、同じ機体に乗ってはいても、君達はただの的だ」
ソ連
まぁまぁ訓練されているが、退屈なほどに弾が遅い。いや、レーザーポイントが遅い。
「スルリ」弾道を抜けて近づけき、隊長格のコクピットに一発。モタモタこちらに銃口を合わせている他二機も同様に一発ずつ当てると、三機は撃墜判定で機能を停止した。
実際の戦闘では一発でコクピットを撃ち抜けるかは疑問だが、演習上ではそこに被弾すれば撃墜判定となって終了なのだ。
「君達はそこで私と彼女達の演習をゆっくり観戦したまえ。特等席をしつらえたが、気に入ってくれたなら幸いだ」
早くもレーダーには
「私の本気の戦いをこんな真近でモニターできるとは、君達はじつにツイている。ああ、礼なら私の健闘を祈ってくれるだけでけっこうだ。ではな」
置物になったチェルミナートルを背に、私は好敵手に向かい発進した。
さて。ターキーシュートとはいえ、三機を撃墜したことでスコアは圧倒的に私に傾いた。ソ連が勝利するには、私に撃墜判定を食らわせるしかないぞ
ダダダダダダッ ダダダダダダッ
「チィッ、先手をとられた?」
真っ向勝負をすれば、私が遅れるほど速い。
彼女らの掃射を避け、弾幕で牽制。
されど押し込まれる形でジリジリ削られていく。
「大したものだ、サイコミュを凌駕するとは。君達との勝負がブルーフラッグの頂点と見たが、間違っていなかったようだ」
機体性能差で、あちらは上下左右に自在に好ポイントを取りながらこちらを消耗させていく。
こちらの弾幕など全くものともせずに肉薄してくる。
「フッ、だが近寄りすぎだ。これはかわせるか!」
切り札の背部四丁の隠し腕で動く軽サブマシンガンを展開させた。
ハマーンのファンネルから発想を得て、こちらの技術でなんとか近づけた『ファンネルもどき』だ。
これを使うのは米軍、XFJ計画開発チームに続いて三度目だ。
こちらが追い込まれる形が使いどころのため、相応の実力のある相手にしか使えないのだ。
ダダダダダダッ ガガガガガッ ズガガガガガーーッ
さすがの奴もこれは躱し切ることは出来ず、攻守は逆転した。
肉薄が仇となって、大きく逃げ切ることも出来ない。
致命的な大破はさけているものの、チェルミナートルは被弾が重なり機能を低下させていく。
「わが愛機もこれまでの連戦がたたり、これ以上は危険でな。ゆえに楽しく遊ぶ余裕はない。ここで決めさせてもらう!」
ニュータイプの域に達するには、判断力が甘かったようだな。
超高速機動の中でも戦術思考ができぬようでは、ニュータイプとは呼べんよ。
◇ ◇ ◇
サンダークside
ソビエト連邦
「ヒイイイイッ奴はバケモノか! わが国の精鋭三機を瞬殺のうえ、プラーフカを使用したイーダルまで圧倒している!!」
ベリャーエフが発狂した。相変わらず気の小さい男だが、まぁしかたがない。
奴にしてみれば、自分のこれまでの研究より出来の良いモデルを見せつけられているようなものなのだから。
私は通信で、ビャーチェノワ少尉にかかりすぎないよう指示を送る。
「ビャーチェノワ少尉。あのギミックは弾倉交換の出来ない、急場をしのぐためだけの切り札だ。距離をとってそいつをやりすごせ」
『ダメです……信じられません。私はあれを引き離せません。まるで私の思考を読んでいるかのように先回りされてしまいます』
「なん……だと? まさかあの男は、プラーフカを使用中の貴官をして追い詰めているというのか?」
そこに総責任者のロコボフスキー中佐が爆発したように叫んだ。
「プラーフカを最大深度にしろ! 四機撃墜の全滅。そんな結果になったら我々は終わりだ! もはや後のことは考えるな!!」
「『絶対殲滅モード』ですと? 狂っている。相手を殺す気ですか!!」
「我々は党の疑念を受けているのだ! 敗北した瞬間に秘密警察が我々の身柄を拘束に来るわ!!」
そこまで……そこまで我々は追い詰められていたのか。
パプティマス・シロッコ。
何者かも知れぬのに、なぜかΠ3計画の上をいくあの男ただ一人の存在に!
『やってくださいマスター。プラーフカを最大深度に』
「ビャーチェノワ少尉、わかっているのか? 貴官らはすでに危険水域に肩までつかっている。これ以上の深度に潜れば、貴官らは……」
『かまいません。相手がBETAでないとはいえ、祖国の名誉と未来がかかっているこの一戦。このまま無様な結果をさらすくらいならば、喜んでこの身を捧げましょう。イーニァとともに』
「そうか……では祖国の名に於いて命ずる。わが祖国の衛士と戦術機こそが最強と知らしめよ。わが党に、米国に、日本帝国に、パプティマス・シロッコに!」
暗澹たる気持ちで暗号キーを入力する。
なぜ……なぜこんなことになってしまったのだろうな。クリスカ、イーニァ。
こんなところでお前達を失うことになろうとは……
『お別れです。