ゼータと上総   作:空也真朋

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95話 決着。演習場に勝者は無く

 パプティマス・シロッコside

 

 ギュオオオオオオオッ バキィッ

 

 「くっ、なんだこのスピードは。なにかのリミッターを解除したのか?」

 

 ひん死のチェルミナートルが、いきなり信じられないスピードで私の追い込み漁を噛み破った。

 その前にふくれあがったプレッシャーを感じたので、間一髪、奴のモーターブレイドをかわす事が出来た。だが恐るべきスピードだ。

 

 「耐G機能の未熟なこの世界の機体で、あの機動は危険だろう。私でもサイコフレームのサイコフィールドがなければ、今どうなっているか知れたものではないというに」

 

 いまだ位置の有利がある私は、牽制射撃で距離をとる。

 対しチェルミナートルは大きく射線から外れて消えた。

 

 おそらくは大きくまわりこんでの突入を目論んでいる。

 距離を詰められては、先読みしようとも性能差で押し切られてしまう。

 

 ――テキィィン

 

 プレッシャーの来る方向は三時か。速い。

 サイコフレームがあるとはいえ、機体がF-15では限界がある。

 

 「だが、こちらはもう一つ切り札がある。装甲をパージすれば、そのスピードにも対応は……」

 

 ―――『今日の演習、負けませんか? あの紅の姉妹(スカーレット・ツイン)に張り合うとすれば、タダではすみません。最悪死ぬかもしれませんよ』

 

 ――ハッ!?

 ふいに演習前の鎧衣くんの言葉がよみがえった。その言葉で私は冷静に返った。

 

 「……そうだな、ここは命を賭して張り合うステージではない。君の忠告に従い、黒い好奇心に呑まれるのはやめるとしよう」

 

 命を預けるに信頼できる機体でもないし、目的のスポンサー探しも目処がたった。

 そしてニュータイプもどきを生み落とした者どもの成果も見た。

 ここらが潮時というものだろう。

 

 「せいぜい誇るがいい、ソビエトの狂人どもよ。貴様らの執念勝ちだ」

 

 苦い感情をおさえつつ、演習プログラム(ブルーフラッグ)運営コントロールタワーへ緊急非常通信を繋ぐ。

 

 「エゥーゴ01より運営コントロールタワーに通達する。わが機体の損傷は限界に達し、これ以上のプログラム実行は困難である。よって遺憾ではあるが、大東亜連合エゥーゴはプログラムの棄権を申し伝える」

 

 『コントロールタワー了解。運営はエゥーゴの棄権を認める。全エゥーゴの機体搭乗者は現地点にて主機をおとし待機されたし』

 

 『全エゥーゴ』といっても、私のただ一機だけだがな。

 この妙な指示は通達マニュアルというものだろう。

 

 コントロールタワーの指示通り主機をおとし、薄暗い非常灯の中、私を退かせた紅の姉妹(スカーレット・ツイン)の機動とプレッシャーをを思い返した。

 

 しかし【サイコフレーム】という私より未来の技術を使ったサイコミュが、宇宙開拓さえ成しえていないこの世界の技術に凌駕されるとは思わなかった。

 

 ニュータイプにはほど遠いが、こと戦闘方面に強化された人工ニュータイプとしては、オーガスタ研究所の上をいっているのではないか?

 

 この秘密。いつか暴いてみたいものだが、国家自体が秘密主義のソ連から抜くのは、今の私には難しすぎるか……

 

 

 

 …………プレッシャーが?

 

 ドッガガガガァーーン

 

 いきなり強烈な衝撃が来た!? 衝撃は絶え間なく二度三度と襲ってくる!

 JIVES(仮想情報演習システム)は、主機をおとしたことで、すでに切れている。

 仮想被弾による衝撃は起こらないはずだ。

 

 「グウッ、ならばこれは本当の衝撃? いったい何が起こった!?」

 

 急いでサブモニターを立ち上げ外を見る。

 そこにはチェルミナートルがモーターブレイドを振り上げ、わが機体を攻撃している!

 

 主機を一度おとせば、再び立ち上げるのに三分はかかる。回避行動などとれるはずもない。

 出来ることといえば、コントロールタワーを怒鳴りつけることだけだ。

 

 「コントロールタワーどういうことだ! 棄権を受理したのではないのか? それにこの攻撃は演習ではない、明らかな戦闘行為だぞ!」

 

 『イ、イーダル小隊機、こちらの指示に従いません! 現在ソビエト(サイド)CPは機体停止を試みております! 十数秒お待ちください』

 

 ガッシャァァァッ

 

 「……十数秒など待てるはずがなかろう。一秒後には私はただの肉塊だ」

 

 コクピットブロックの天井は大きく裂かれ、映像ではないキレイな青空が見えた。

 そして高々とモーターブレイドを振り上げるチェルミナートルの姿も。

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 サンダークside

 

 コントロールタワーから大東亜連合エゥーゴの棄権が告げらると、CP内は歓声につつまれた。

 正直私も安堵した。最大深度を解放したとはいえ、その時間はわずか52秒。

 今すぐ培養処置をすれば二人は助かるはずだ。

 

 「CP(コマンドポスト)よりビャーチェノワ少尉ならびにシェスチナ少尉。貴官らは開始線に戻らずその場で主機をおとして待機。即時指揮車両をまわすので、それに乗り……」

 

 ――「うわああああっ、やめろイーダル!!」

 

 …………なんだ? いきなり戦域モニターを担当している士官が大声をあげた。

 それに続き、あちこちから叫び声が聞こえてくる。

 大型モニターを見ると、その原因がわかった。

 今指示を出しているチェルミナートルが、棄権し待機中のF-15にモーターブレイドを打ちつけ攻撃しているのだ!

 

 「いったいイーダルは何をしている!? さっさと暴走をやめさせろサンダーク中尉!」

 

 ロコボフスキー中佐に言われるまでもない。

 

 「ビャーチェノワ少尉、今すぐ全行動を止めろ! 演習は終了した。その行為は明らかな命令違反……」

 

 『あははははははははっ、はーっはははははははは』

 

 彼女の狂った笑いを聞いて、私は自分の失策を悟った。

 最大深度に堕ちた彼女らの精神が簡単に帰ってこようはずがない。今も植えつけた『絶対殲滅』の命令だけを実行している最中なのだ。

 

 「機体の操縦権を剥奪します。許可を」

 

 「さっさとやれ! こんな基地中の人間がモニターしている中、無抵抗の衛士をわが国の衛士が殺害したとあらばどうなる。ソ連軍は世界中の非難をあびるぞ! 軍事裁判の結果われわれはユーコン基地を……いや、アラスカを追われることは間違いない。そうなれば党は我々を……」

 

 そうなれば貴様は、私とベリャーエフに全責任を被せて逃げるのだろう。責任をとらない総責任者め。

 許可など取る前に操縦権剥奪処理の暗号キーは叩きはじめている。本来ならモニターを見た瞬間にこれを行うべきだった。

 

 カタカタカタ……

 

 くっ、プラーフカ最大深度解放などをやったせいで、処理が複雑化している。

 そしてモニターでは、チェルミナートルがF-15のユニット外壁を破り、今まさに中の搭乗者にモーターブレイドを打ちつけんとしていた。

 ―――ダメだ、間に合わない……!

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 パプティマス・シロッコside

 

 『あははははははははっ、はーっはははははははは』

 

 着座席から動けないこの状況の中で、私は彼女らとの精神感応を試みた。

 されど二人搭乗している機体なのに、感じたのは一人だけ。

 その一人の感情も黒い沼のような中に沈み、ただ狂った笑いを続けるだけだった。

 

 「……そうか。そういうことか。だから二人なのか」

 

 彼女らのサイコミュすら凌ぐ速さの理由、それは。

 二人が完全なる同調(シンクロ)を果たし、二人分の脳と精神を使って機体処理を行っていたからなのだ。

 

 だが、ここまでの同一となる同調(シンクロ)は肉親同士であろうと不可能なレベル。

 それを成したソ連のニュータイプ研究には興味があるが、今はそれどころではない。

 

 宇宙世紀時代。人工ニュータイプを研究していたオーガスタ研究所において、しばしば被検体の暴走事故が起こったと聞いた事がある。

 

 無理やり高次のニュータイプ精神状態にもっていった事が原因とみるが、それはともかく。

 同様のことが彼女らにも起こっているのだろう。

 

 噂に聞いた暴走状態を目の当たりにしたのは初めてだが、これでは意思疎通など不可能。

 いいだろう、女性は大事にする主義も今は捨てよう。

 

 「理性を手放したニュータイプもどきの人形が。そんな脆弱な精神では、ニュータイプの高みに届くはずもない。消えろォ!」

 

 ティキィィィィィン

 

 サイコプレッシャー。

 つながった彼女らの意識に、全力最大の私の脳波を衝撃に変え送ってやる。

 そう言えば、ジ・O(オー)の腹を突き破ったゼータのコクピットにもこれを喰らわせたが、カミーユはどうなったろう。

 

 『イヤアアアアアアアアアアアアッ!』

 『うわあああああああああああッ!!!』

 

 同一だった彼女らの意識は分かれ、その脆弱な精神は私の脳波でズタズタに引き裂かれる。

 

 「ここで止めねば君達は死ぬだろう。だが私は容赦する気はない。君達は自分の意思とは関係なく、死ぬまで戦闘をやめることが出来ぬだろうだからな」

 

 自分の意思までも他人に操作される人形となった者の悲劇。

 それ故サイコプレッシャーを止めたとたん、モーターブレイドは私の頭上に落ちてくるだろう。

 憐れであろうと、君達の息の根が止まるまでやめるわけにはいかない。

 

 やがてチェルミナートルは、ゆっくり天をあおぎ倒れていき……

 「ズウゥゥン」と大きな音を響かせ仰向けに倒れた。

 

 二足歩行の戦術機、起動後の直立は搭乗者の脳が無意識で行っているバランス制御を使う。

 立っていることが出来なくなったということは、つまりはそういう事だ。

 




 すっかりシロッコが主役ですね。
 ブルーフラッグでは上総にやらせる事がないんで、しょうがないんだけど。
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