ゼータと上総   作:空也真朋

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96話 牙をむく潜みし者

 ユウヤ・ブリッジスside

 

 ユーコン陸軍基地シミュレーションルーム

 

 「おいおい、どうしちまったんだよ紅の姉妹(スカーレット・ツイン)。ヤバイ薬《ヤク》キメちまった奴と音字ニオイがするぜ。あの厳格なイワン衛士様が、まさかって話だが」

 

 さっきからヴィンセントの計測が止まっちまっている。

 流し見ということで、ソ連対大東亜連合の演習を携帯モニターに映しながら計測をしていたのだが、いつの間にやらガッツリとモニターに見入っちまってる。

 しかたなく俺とタリサ(チョビ)はシミュレーターから出るも、ヴィンセントはモニターを見たままだ。

 

 「どうしたヴィンセント。こっちの計測に集中してほしいんだが……注目の演習でなにかあったのか?」

 

 「まさか事故ったのか? どっちも高速機動がウリだからな。調子ノリすぎてやっちまったとか?」

 

 「いや、演習自体は大東亜連合(エゥーゴ)が棄権して終わった。問題はそのあとだ。ソ連の悪質行為が問題になって、午後の俺らの演習にまでひびくかもしれん」

 

 「ハア? イワンどもが勝っちまって、演習終わった後に何の問題があったってんだよ。……ははぁ、演習中に相手を殺しかけたってんだろ? ツンドラ姉妹ならそれくらいやっても驚かねぇよ。前にアタシも殺されかけたしな」

 

 「たしかに半分当たりだが、たぶん驚くと思うぞ。殺しかけたのは、演習中じゃなく相手が棄権を宣言したあとだ。演習了後コントロールタワーの指示を聞かずに、モーターブレイドで待機中の相手機体をメッタ打ちにしたんだよ。ブッ飛んでんな」

 

 「なんだそりゃ。ヤバイ薬でもやってたって反応じゃね?」

 

 それでは『演習中の過剰行為』にすらならないぞ。

 『明確な殺意ある戦闘行為』。多国籍の軍が集まるユーコン基地であってはならない、基地追放レベルのやらかしだ。

 二人はユーコン基地にいられなくなるかもしれない……クリスカ、イーニァ。

 

 「クリスカとイーニァはどうなった。警備部隊に逮捕されたか?」

 

 「いや。意識不明の重体とかで、ソ連軍がもっていっちまった」

 

 「おいおい、直前まで元気に戦術機で走りまわってたろうが。それを警備兵が許したってのか? 基地にもメンツってモンがあンだろ。んじゃ、かわりにサンダークとかいう陰気なオッサンでも連れてったのかよ」

 

 「いや……妙だな、警備兵が来ない。おかげでソ連の関係者は全員帰っちまった」

 

 「ハァ? 仕事しろよ警備兵! 基地内でこんな事件起こしたうえ、実行犯やら関係者なんかをそのまま帰したとあっちゃ、ハルトウィック大佐(おえらいさん)もあとで突き上げられんぞ」

 

 たしかに妙だ。これだけの事件が起こったのに、基地警備部隊も上層部も動きが遅い。

 

 「少し早いがハンガーの詰所に行こうぜ。ドーゥル中尉(ダンナ)か篁中尉が情報をもってくるはずだ」

 

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 篁唯依side

 

 上機嫌な大伴中佐ら調査団と演習を観戦していたのだが、終わりには彼らは真っ青になっていた。演習後のソ連のあまりに悪質な行為は、おそらく大きな問題になる。

 今、その国とわが日本帝国が提携することはほぼ不可能だ。ソ連が受けるであろう非難をわが国も受けることになる。

 ほぼ敗北寸前だったXFJ計画は、思わぬ逆転を果たしたことになってしまった。

 

 相手の不幸や災難が自分の利益になる。なるほど、これが政治の世界か。

 こんな世界に居ては心が歪んでしまう。おじ様が私を遠ざけようとしていたわけだ。

 

 それはともかく、当然あるはずのソ連軍関係者の拘束やら、基地上層部の声明やらが妙にない。午後の米軍との演習がどうなるかの話すら来ない。

 ドーゥル中尉と話しあった結果、彼が情報確認に向かい、私はハンガーで待機ということになった。

 

 「あ、篁中尉。何かわかりましたか。状況はどうなっています」

 

 ハンガーに来てみると、やはり皆は不安そうな面持ちだ。

 

 「すまんが私は何も知らん。ドーゥル中尉と話しあった結果、情報確認はドーゥル中尉。現場で、来るであろう通達に対応するのが私ということになった。中尉から連絡があるまで待て」

 

 ほどなくして私の携帯通信機にコールがきた。しかし妙にノイズがひどい。

 

 「ドーゥル中尉、何かわかりましたか。やはり午後米軍との演習は中止でしょうか」

 

 『ザザ……タカ……ムラ中尉。……緊急事態だ。基地内に……テロが、発生……した。チームを……機体に、搭乗させろ……。基地の外から……応援を呼ぶ……んだ』

 

 「な、なんですって? いえ、ドーゥル中尉。負傷されているのですか?」

 

 『私は……もう、助からん……』

 

 ―――!!

 

 ドーゥル中尉が死にひんするほどの事態? そんな事がここユーコン基地で……

 

 「いいか……浸透は……危機レベルだ。上層部も……警備部隊も……消されている。外部の誰も……信用するな。以降のアルゴスの指揮は……貴官がとれ……ザザザァー」

 

 「ド、ドーゥル中尉、応答を! 今助けに……」

 

 ……落ち着け。これはジャミング、もはや通信はできない。通信施設もやられている。

 ギリギリこの情報が間に合ったのは、奇跡というべきか。

 そして、これほどの浸透では救助は不可能だ。

 

 しかし危機レベルのテロか。そこまでの事態が気づかれないまま進行していたとは。

 そうか。どうにもソ連の問題事件に対する基地の対応が鈍すぎると思ったが、そういう事だったのか。

 

 「アルゴス試験小隊、および整備兵全員集合!」

 

 とにかく、やるべき事をやる。ドーゥル中尉の命がけの情報を無駄にはしない。

 今、ここの指揮官は私一人。そして事態を打開できるのはここに居る隊員だけだ。

 

 「たった今、ドーゥル中尉から緊急連絡が来た。彼によると、このユーコン基地内にてテロが発生したとのことだ」

 

 「ザワッ」っと一瞬どよめいたが、さすがそれ以上の動揺はない。整備兵含め皆訓練は行き届いているが、果たしてこれ以上を聞いてもこのままか。

 

 「ではその対処のために、ソ連への対応が遅れているわけですね。どの程度の規模のテロが発生したのでしょうか。応援要請のくる可能性はありますか?」

 

 「いいや、もはやそのレベルではない。危機レベルにまで浸透を許し、警備部隊も上層部も消されている。ユーコン基地内のみで対処することは絶望的だ」

 

 ザワザワッと大きな動揺が走る。されど、ここを引き締める。

 

 「動揺するな! いいか、今この危機に対するカウンターをうてるのは我々だけだ。人類守護の本分にたちかえり、以後の作戦行動に従事せよ。この不埒な賊に切っ先を突きつけよ!」

 

 「「「「了解!」」」」

 

 

 こうしてテロに対抗すべく準備にはいったものの、やはり相手はこちらに手をうってくる。

 

 「保安警備部隊が施設内点検を求めています。なんでもウチが重大な違反行為を行っている疑いがあると」

 

 「その警備部隊は偽者だ! 決して入れるな。不知火・弐型およびF-15ACTと私の武御雷はどうなっている。出撃は可能か?」

 

 「演習出場機はいつでも行けます。ですが斯衛ハンガーの武御雷はもうしばらく」

 

 「四機は先行して出撃。目標はもっとも近くにあるフェアバンクス基地だ。一刻も早く応援要請をするぞ」

 

 ユウヤたちの四機が出撃したすぐあと、私の武御雷も出撃可能となった。しかし……

 

 「こちらに接近するF-16Cの所属不明部隊があります。戦域ネットをハックして小隊の動きを隠しながらの接近。これはやはり……」

 

 「クッ、テロリストどもめ。牙を隠さなくなったか。それはテロリストが奪った敵性戦術機だ。アルゴス全機、相手にせずフェアバンクス基地を目ざして行け!」

 

 こちらの武装はみな演習用のダミー兵器。接敵されドッグファイトなどすれば一方的にやられるだけだ。

 

 『ファングワン、敵はすでに近寄りすぎている。俺たちに任せて出るな』

 

 気遣ってくれるユウヤの言葉が少しうれしい。

 されど、その言葉には甘えられない。

 

 「いや、あの部隊にお前たちを追わせるわけにはいかない。殿(しんがり)は必要だろう」

 

 『バカな! こっちがに武装がないことは承知しているはずだ。一方的にやられるだけだ!』

 

 「篁示現流をなめるな。弾などさけて、チェスト一喝で皆なますにしてやるさ」

 

 『バカだ! 一機ぐらいならあんたの腕なら出来るかもしれないが、四機じゃ!』

 

 「命令だ。行け!」

 

 有無を言わさず行かせたあとに、武御雷も出撃。

 ちょうどその時には、四機のF-16Cも視界に見えるほどに接近していた。

 

 長刀ただ一振りの特攻か。武御雷、お前にふさわしいな。

 光線級すらものともしない山城さんに近づけると良いが。

 

 「奸賊ども、(いわお)となった武御雷を抜けると思うな。チェストォォ!」

 

 気合一閃、武御雷の長刀をふりかざし。

 銃弾を乱射する敵機の待つ大空へ飛翔した。

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