ゼータと上総   作:空也真朋

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97話 危機せまる第207訓練B分隊

 鎧衣左近side

 

 ユーコン陸軍基地

 警備部隊哨戒待機ハンガー詰所近郊

 

 「いやはや、これはこれは。なかば信じてしまいましたが、まさか実際にこのような事が起こっていたとは。やはりあのシロッコ氏、本当に超能力者だという線が濃厚になりましたなぁ」

 

 シロッコ氏の言葉通りに警備部隊の詰所辺りを見回ってみると、目立たない片隅にいくつもの袋が置かれているのを見つけた。まさかと思い中をあらためてみると、やはりそれは額を撃ち抜かれたホトケさま。

 警備部隊が職務で殺傷したなら、遺体をこのように処置するとは思えない。

 やはりこれは密かなテロが進行中なのだろう。

 

 「なるほど。注目の演習に基地中の人間が目を奪われた隙を突かれ、一気に浸透されましたか。さて、こうなると娘とご学友たちをこのユーコン基地に置いてはおけなくなりましたな」

 

 榊首相や珠瀬国連事務次官のお嬢さんもいるし、当然人質を考えるだろう。

 さらに、あの方が気にかけている御剣冥夜さんも。

 どうにか彼女らを基地から連れ出し、安全を確保しなければならないが。

 

 「とはいえ、面識のないアヤしい男の忠告など、聞いてはもらえんでしょうなぁ。神宮寺軍曹殿も恐い顔をするでしょうし。ブルブル……情けないパパですが、娘の力を借りるとしますか」

 

 幸いというか、美琴は大東亜連合のハンガーに居る。

 あとは山城上総中尉に現状を知らせ協力していただく、といった所か。

 方針を決めた私は、脱兎のごとく元のハンガーへと引き返したのだった。

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城上総side

 

 ユーコン陸軍基地

 第二演習区画 一般観戦モニタールーム

 

 ソ連対大東亜連合の演習。それはまさに一対一の超人対決という様相で、第207訓練部隊B分隊の娘らを大いに熱狂させた。

 しかし大東亜連合棄権後の紅の姉妹(スカーレット・ツイン)の暴行までもがモニターにバッチリ映っており、それを見た彼女らは演習よりもその話題で盛り上がった。

 

 「あれはおそらく薬物処置だな。攻撃性を高めすぎて戻らなくなってしまったのだろう」

 

 「でもこれって、勝敗の関係しないデータ取りのための演習ですよね? どうしてそこまで?」

 

 「自国の戦術機が世界最高に優秀ってことにしたいんでしょ。ソ連って国は国をあげてミエを張る国だからね」

 

 「だがソ連の大なる戦果は戦術機の性能ではなく、あの衛士の卓越した技量だろう。もっとも薬物で反応や攻撃性を高めていたようだが」

 

 「私はソ連の衛士がそこまでしなきゃ勝てなかった大東亜連合の衛士に興味がある。今までもたった一機で無双してきたし」

 

 「うむ。全世界の開発衛士をものともしない、あの神業のような技量。私も大いに感銘を受けた。あれは山城中尉殿のお知り合いだそうですね」

 

 「え、ええ。まぁ…………」

 

 嗚呼。できるならシロッコの事は彼女達に話したくないんだが。

 あんな『女を利用するのが大好き最強ニュータイプ』に、能力が高くて、親が日本帝国のお偉いさんで、純朴な彼女たちが興味をもったらどうなるか。

 …………ヒイイイイッ、シロッコが彼女たちでハーレム作って日本を征服する幻が見えた!

 

 「山城中尉殿、無理を承知でお願いいたします。パプティマス・シロッコ氏に一度あわせてもらえないだろうか。あの最強たる衛士の心中というものを知ってみたいと思います」

 

 「うん。たしかに興味ある。会わせて英雄さん」

 

 「私もあってみたいです!」

 

 知らんほうがいい。アイツの女と権力にまみれた真っ黒な腹の内など。

 

 「コホン。残念ですが、彼は大東亜連合でたいへんな重責を担っている方です。ゆえに滅多な人間はお会いさせる事はできません。わたくしも彼にエゥーゴ後任という重責を伏して頼んだ手前、無理を通すことはできないのです」

 

 「お前たち、山城中尉に無理なことを頼んではいかん。ここの衛士は存在そのものが機密扱いの者もいる。うかつに会見など申し込むものではない」

 

 さすがまりもちゃん。オレの適当なお断りに、それっぽい理屈をつけてくれた。

 

 「迂闊なことを口にしました。不躾な願いなど申して、申し訳ありません。それはそうと、演習は終わったのに鎧衣はまだ戻りませんな」

 

 ああ。鎧衣ちゃんは、お父さんの鎧衣さんに会いに行っちゃったんだよな。

 

 「心配ですね。彼女の行先はわたくしの知っている人の所なので、連れてきましょう」

 

 「お願いします中尉」

 

 ―――「いえ、待ってください。みなさんに緊急の要件があります」

 

 そう呼び止めたのは、警備兵の制服を着た男。観戦している人々をかき分けて現れ、そう言った。

 

 「あなたは?」

 

 「はい、伝令を頼まれた警備部隊所属のリージウット軍曹と申します。日本帝国からみなさまに緊急の使者がいらっしゃいました。至急統合司令部ビルまでお越しください」

 

 オレたちに使者って、香月博士からとしか考えられないけど。

 オレたち全員に要件ってのが、何なのか想像がつかないな。

 

 ともかくリージウット軍曹に連れられて統合司令部ビルに来た。

 彼はオレの足元からピョンピョン跳ねてついて来るハロを怪訝そうな顔で見たが、いつもの通りゼータの外部コンソールだと説明すると、納得した。

 それにしてもその統合司令部ビルは、あちこちにシャッターが下ろされてて妙な感じだ。まるで内乱の警戒態勢だ。

 

 そして連れてこられたのは三階の会議室前。ここに使者が待っていると説明された。

 

 ――ザワザワッ

 …………なんだ? 妙にざわめいた悪寒がする。

 

 「失礼します。山城上総中尉、神宮寺まりも軍曹ならびに第207訓練B分隊。ただいま参上いたしました」

 

 まりもちゃんがノックして告げると、「入れ」と中からくぐもった声がただ一言だけ。

 「ガチャッ」とまりもちゃんがドアノブを回した瞬間だ。悪寒は最高潮に達した。

 

 「軍曹! 入ってはいけません!!」

 

 「えっ? ……あうっ!?」

 

 まりもちゃんを突き飛ばしてドアから引き離す。

 そしてドアを蹴破って身を低くする。

 

 「やはり……これはどう見ても、使者の方々ではありませんね」

 

 その中には小銃拳銃などを構え、ボディアーマーを装備した剣呑な兵士たちが待ち構えていたのだ。

 

 「チィッさすがZの衛士(パイロット)、勘のイイ奴。ならばこのままひっとらえろ!」

 

 中の兵士はオレたちを制圧すべく、ドッと攻め寄せる。

 

 「ハロ、やりなさい!」

 

 「ハロハロ!」

 

 ハロは「ブウウン」と高速推進で飛び上がり、ボールが飛ぶようにテロリストどもにぶつかっていく。そしてあちこち飛び回り跳ね回ってヤツラをなぎ倒していく。

 

 「ぐわあああっ」「ぎゃあっ」「げふうっ」

 

 大半の武装集団どもが倒れ伏していく。

 このまま全滅させられるかと思いきや、「ガーーンッ」と銃声が響いた。

 するとハロは空中で「ブルン」と回転し地面に落ちた。ハロが撃たれた!

 

 「糞っゼータガンダムの操作機器と聞いていたが、こんな事まで出来たのか。いったいどういう技術だ」

 

 それは武装集団の中でも一際貫禄ある男だった。

 空中を高速で跳ね回るハロを一発で撃ち落したことといい、かなりの手練れ。おそらくはリーダーだろう。

 「ピタリ」ハロを撃った小銃の銃口をオレに向ける。

 

 「やはりキサマは危険だ。手に余るようなら殺して良いと言われている」

 

 男はゆっくり引き金を引き絞る。

 

 くっ、ゼータに乗った時のように避けられるか?

 

 相手は手練れ。、距離も近すぎる。

 

 完全にかわすことは無理でも、急所は外そう。

 

 問題は二発目。それを撃たせないようどうすべきか……

 

 

 ガーーンッ

 

 ドサリ……

 

 「え……?」

 

 撃たれて倒れたのはオレじゃない。相手の方だった。

 眼を撃ち抜いてしとめた見事な腕。

 そいつを撃った彼女は、茫然としたまま拳銃を構えて震えていた。

 

 「あ……私、人を撃って……殺した?」

 

 なんとそれは榊さん。彼女の持つ拳銃は倒れたテロリストのものを拾ったのか。

 そうか。武器が落ちているんだから、拾えば良かったんだ。

 

 状況が目まぐるしく変わる中でいち早くそれを行動し、さらにオレの危機に、ためらいながらも相手を撃った彼女。

 この榊さん、かなり指揮官適性があるんじゃないか?

 

 「もう良い。銃をおろせ榊」

 

 まりもちゃんはそっと手を彼女の手に添えて銃を下に向ける。

 

 「は……はい。教官、私、山城中尉が危ないと思って、それで……」

 

 「ああ、よくやった。貴様のおかげで山城中尉は無事だ」

 

 「ありがとうございます、榊さん。おかげで助かりましたわ」

 

 榊さんを落ち着かせると、ともかくそこらに落ちている小銃や拳銃でみな武装した。みんな軍事訓練を受けているし、まりもちゃんという指揮官経験者もいる。ちょっとした部隊の完成だ。

 

 「しかし山城中尉、この有り様はやはりテロでしょうか。まさか米軍基地の統合司令部ビルの中で?」

 

 「にわかには信じがたいですが、このような者達がどうどうと一室に居ました。このビルは不明の賊に占拠されていると考えるしかありませんわ。ともかくビルから逃げて離れるべきでしょう」

 

 PPPPPPP……

 

 と、オレがかかえてるハロが、いきなりアラームを鳴らした。

 オレは機器の調子を見ると言ってみんなから離れる。

 

 「ピピッ……上総、ちょっと話が」

 

 「ハロ、何ですの。みなさんが居るというのに」

 

 「緊急事態なんだ。ボクの本体があるXFJ計画専用ハンガーなんだけどね。何者かの武装集団が攻めてきたんだ。今、扉が爆破されて破られた。多分コイツらの仲間だよ」

 

 「ええっ! アルゴスのみなさんや篁さんは?」

 

 「みんな戦術機で逃れた。あと整備兵の人達は、耐爆シェルターに避難したよ」

 

 「とりあえず、ハンガー内のみなさんに被害は出ませんでしたのね。よかった」

 

 「でもそいつら、ボクの本体をいじり回しはじめてる。どうやら奪うつもりのようだよ」

 

 糞っ! 奴ら、ゼータまで奪う気か!!

 

 

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