ゼータと上総   作:空也真朋

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99話 別れのハンカチ

 キリスト教恭順派・Ζガンダム奪取部隊side 

 

 XFJ計画専用野外格納庫(ハンガー)

 

 ハンガー内はキリスト教恭順派の実働部隊により征圧されていた。

 部隊を指揮している男【ベン・ウッダー】大尉は、キリスト教恭順派実働部隊の中でクリストファー少佐に次ぐナンバー2であり、もっとも敬虔なる信徒であった。 

 比較的部隊数の多い彼の率いる部隊がXFJ計画ハンガーを攻めたのは、Ζガンダム奪取が目的である。そして今、ハンガー内を制圧した後にゼータのシステムに侵入し、ハッチを開けんとする最中であった。

 

 「ええい、まだ開かんのか! われわれは不信心者のクリストファーに負けるわけにはいかんのだぞ。我らこそがマスターの信頼をもっとも受け、神の愛をあまねく世界へ伝えるべく使命を負った神兵。その伝道師となるこのΖガンダムを一刻も早く手にせねばならんのだ!」

 

 「わかっております大尉。ですが、このシステムはじつに難解で……あら?」

 

 ウィィィン

 

 いきなりゼータのコクピットハッチが開かれた。

 ゼータのシステム解析を担当していたエンジニアは、妙なタイミングで開かれた気がして呆気にとられる。が、そんな疑問は些細なこと。

 

 「ハッチ解放。やりました!」

 

 部隊全員が歓声をあげ、口々に神を讃える言葉が飛び交い、ハンガー内は歓喜につつまれる。

 

 「ハーレルゥゥゥヤッ!! これ以上時間をかけては、爆破も考慮せねばならんところだった。ああ主よ、敬虔なるワガハイらの願いを聞き届け、あなたに恭順するワガハイらにΖガンダムを授けていただいたこと、誠に感謝いたします!」

 

 ウッダー大尉は嬉々としてゼータのコクピット座席に座る。

 

 「大尉、いかがでしょう。通常の戦術機とはまるで設計思想が違うようですが、起動はできますか?」

 

 「戦術機は愛で動かすものなのだよ、君ィ。いいかね、神の心を説き神の国に人々を導く愛をもって語りかければ、いかなる戦術機も心を開き天界より響く福音にうたれるが如く……」

 

 「大尉、時間がないので手早く。起動を始めてください」

 

 「む、しかたがない。のちの教義伝授までがまんするか。ではいくぞ」

 

 ヴィィィィン

 

 「え?」

 

 ハッチは簡単に締まり、主機すらもすぐに立ち上がった。

 

 「フハハ今度は一発だ。やはり戦術機は愛をもって動かすものなのだ。吾輩の愛をもってすれば、いかなる戦術機にも胸襟を開かせることは雑作もない。フハハハーッ」

 

 エンジニアはゼータから離れ、上機嫌な上官をたしなめるが如く通信で次の行動を促す。

 

 「こちらで起動状況をモニターします。では歩行を開始してください。くれぐれもブーストはかけないでくださいよ。ゼータの出力から考えて、われわれ全員が丸焼きになりかねません」

 

 「安心したまえ。ここまでくれば、もはや手荒な真似は無用だ。さぁゼータくん。君とワガハイが共に歩む第一歩だ。ゆっくり感慨をこめて……」

 

 大尉はゆっくりフットペダルを踏む。

 

 ドッゴオオオオオオオン

 

 瞬間、ゼータはフルブーストがかかり、ハンガーの天井を突き破って飛び出した。

 当然、ハンガー内で作業をしていた信徒はみな一瞬で丸焼きとなった。

 

 「ぐわああああああっ! なんだこの戦術機はぁ!? 初期起動すらないのか? ぐぶふうっ……Gが…キツい。止ま……れ」

 

 加速のGに押し潰されそうになりながら、大尉は反対側のフットペダルを踏む。

 

 ガシャンガシャン ブオオオオオオオオンッ

 

 ゼータはウェイブライダーに変形。さらに加速を増して飛んでいく。

 

 「両方アクセル!? だったらブレーキはどこなんだああああっ!! ぐげええええッGがあっ。ワガハイをこの空飛ぶ棺桶から降ろしてくれええええっ!!!」

 

 ウェイブライダーはユーコン基地の空を猛禽の如く飛んでいった。

 

 

 

 ♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 山城上総side

 

 統合司令部ビル十五階 展望会議室

 

 ガキューーン ガキューーン

 ガガガガッ ガガガガガガッ

 

 籠城防衛戦開始。

 雄大なるユーコンの素晴らしい自然を一望できる展望会議室。お偉いさんはここで優雅な会議をするらしく、調度品も金がかかっていそうなものだ。

 だがそれらはバリケードの材料になり果てた。

 激しい銃撃戦がそこに展開される。

 

 足を止めての銃撃戦となったので、オレもハロを置いて戦闘に参加できるようになった。

 そして射撃戦こそニュータイプの本領発揮。

 敵を目視などせずとも位置がわかるので主導権は簡単に握れる。

 さらには的確に敵の弱い所を指示し、そこに弾を集中させることで敵の接近を防いでいるのだ。

 

 「意外と何とかなるもんだね。やっぱり英雄さんってすごいんだ」

 

 「アンタ失礼よ! 歴戦の中尉に対して!」

 

 「彩峰ではないが私も感服した。こうも敵の動きを察知することに長けているとは」

 

 「ふえええーん。、でもいっぱい殺しちゃったよぉ」

 

 情けない声をあげているが、珠瀬ちゃんの戦果が一番すごい。わずかにさらした敵兵を的確に狙撃し、屍の山を築いているのだ。やっぱりこの娘の射撃、神だわ。

 

 ガキューーンッガキューーンッ

 

 「しかし……戦ってみると、敵の練度が高いのを実感いたします。『キリスト教恭順派』。名高いテロ組織として噂には聞いていましたが、このような兵士を育てあげる組織とは何者なのでしょう」

 

 「首領のマスターという者への忠誠も高いですしね。どうやら地下の作戦指令室に居るようです。ここを抜けたら捕まえて正体を吐かせましょう」

 

 ガガーンガガガガガッ

 

 「『ここを抜けたら』………ですか。そこまでいく以前に、こちらの弾切れが近いです。本当にその先の策はあるのですか?」

 

 「軍曹、われわれは後どのくらい戦えますかしら?」

 

 ズキューーンッズキューーン

 

 「弾の消費量がこのままだと、あと十五分といったところでしょうか」

 

 「十五分ですね。では十分後といきましょう」

 

 恭順派のテロリストどもは、オレたちの前面入り口に集結していて、実によい頃合いだ。

 ハロに「ポン」と手をのせると、「ピピッピピッ」と了解の電子音。

 

 「さて、あと十分がんばりましょう……あら?」

 

 いきなり敵からの銃弾の雨がピタリとやんだ。

 

 「む? どうしたのだ、敵は」

 

 「お休みタイム? そろそろ夕食時間だものね」

 

 「油断しないで。何かしかけてくるわよ」

 

 だろうね。銃弾のやんだ静寂の中に「――ヤマシロカズサ中尉に告ぐ」と女の声が響く。

 さて、どんなしかけか。

 

 ―――「私は難民解放戦線の代表ヴァレンタインだ。おとなしく投降することを要請する」

 

 これがしかけ? するわけないじゃん。

 

 ―――「我々は虐げられ差別されて生きる難民のために決起した。それは、かつてのあなたの仲間達も同様の思いを味わったことだ。彼らの言葉を聞くがいい」

 

 ヘアバンドをした代表の女とともに出てきた、幼い顔立ちの少年少女の兵たち。それらの顔には見覚えがあった。

 

 「あれは……エゥーゴの子たち?」

 

 オレがエゥーゴ傭兵団に居たころに、オレの給仕をしたり、ゼータに憧れ戦術機に乗りたいと言っていた子供たちだ。

 だが、彼らは皆ここの警備部隊の制服を着ていた。

 それが何を意味するのか――考えると胸が痛む。

 

 「カズサさま、どうか我々と一緒に戦ってください! あなたも見て知っているはずです。ユーラシアの難民がどのような目にあっているか!」

 

 「世界も国連も助ける命を選んでいるんです! 弱者は切り捨てられているんです!」

 

 「弱気者達のために誰かが戦わねばならない。ユーラシアの同胞達を解放し、富を独占する者達を粛清するんです」

 

 「Ζガンダムはそのための力でしょう? 虐げられ差別される人々の希望のはずだ!」

 

 …………みんな、やっぱりオレとブレックスがいなくなった後、酷い目にあってきたんだな。

 みんなの事を思うより、復讐の道を選んだオレは悪い奴だったよ。

 

 それでも、この道を選んだことに後悔なんてできない。

 オレは本当の意味でBETA倒すこの道を進む。お前達の嘆きを越えてもな。

 

 「そろそろ時間ですね」

 

 オレは立ち上がりバリケードから出ていこうとする。

 

 「中尉!? いけません!」

 

 「心配いりません。相手に”撃ち気”はありません。少しばかり、つきあってさしあげます」

 

 とはいえ、無用な危険をおかすバカな行動には変わりない。

 どうして、こんなバカしちゃうのかね。

 やっぱりエゥーゴを見捨てて国連軍日本支部に行ったこと、自分で思ってる以上にそうとう(こた)えているみたいなんだよな。

 

 「ピピッ?」とハロが疑問形の電子音

 

 『策は予定通りに』のサインを残し、バリケードから出て姿をさらした。

 

 「「「カズサさま!」」と歓喜の声が飛ぶ。

 ああ、変わらないな。オレを見る憧れのまなざしは。

 お前たちを裏切ったのにな。

 

 「お願いです、我々と一緒に闘ってください! 俺たちは……」

 

 「言いたいことは聞きました。みんな、わたくしが去ってから相当苦労したようですね」

 

 「ハイ! 上のやつらが配給された食料をみんな持っていっちまうんです。親が飢え死にしたんで、逃げてマスターの元でやっと生きてきました!」

 

 悲しいな。そんな悲惨な状況を聞いても、オレはお前たちを否定しなきゃならない。

 

 「お前たちは――愚か者です」

 

 ざわっ、と困惑する彼らたち。

 

 「どんな痛みも悲しみも正論も、虐殺に手を染めた人間の言葉は、誰の耳にも届きません。この基地で殺された者の家族や友人達は皆あなた方の否定にまわり、世界は彼らに同調するでしょう」

 

 「ヤマシロ……カズサ!」

 

 ヴァレンタインは激昂して叫ぶ。

 

 「貴様はそれでも難民救済の英雄ブレックス・フォーラの盟友か! 彼の理想を継ぐことこそ貴様の使命とは考えぬのか!」

 

 「あなたがブレックスの名を口にしないで。たしかにブレックスは難民を救うことを使命に活動してきました。だけどそのためにテロを起こそうなんて考えませんでした。ましてや救うべき難民の子らにテロの片棒をかつがせ、人殺しをさせるようなことは絶対しない!」

 

 今ならわかる。ブレックス、お前は本当に難民の救世主だったんだな。

 マスターなんて偽者とは違ってな。

 

 「エゥーゴの子らをテロリストにした男、マスターをわたくしは許せません」

 

 それでも、お前たちの命の恩人なんだろうな。そのマスターという男。

 だからこの決意は、お前たちの否定と決別になるだろう。

 

 「わたくしは……マスターを討ちます」

 

 ジャキイイッ ガチャッ ガチャッ

 

 「ヤマシロ……カズサァ!!!」

 

 「あなたはぁ!!」「お前なんて女神じゃない!」「この……裏切者がぁ!!」

 

 彼らが憎しみの目と銃をオレに向ける。

 オレは微動だにせず言葉を続ける。それでも――

 

 「誰の耳に届かずとも、世界中の誰からも否定されようとも、わたくしだけは憶えておきます。あなた達の嘆きも叫びも悲しみも……その最期も」

 

 「なに? ヤマシロカズサ、貴様いったい何を仕掛け……」

 

 

 ドガアアアアアンン

 

 突如、ウェイブライダーが展望室の壁を突き破って突っ込んできた。

 それはちょうどオレの真正面。つまり集結しているテロリストどもをまとめて巻き込み、全員が原型をとどめぬ肉塊となった。

 もちろん元エゥーゴのみんなも。

 

 「……安らかに」

 

 彼らの(むくろ)へ「フワリ」とハンカチを投げかけ、せめてもの手向けとした。

 

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