やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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と言う訳で、番外編第一弾は雄二と翔子のエピソードです。
番外編は基本一話完結で作っていくつもりです。



番外編
俺と翔子と第一歩


 事の始まりはGW初日。明久の家でゲームをやっていた時に入った一本の連絡から始まった。

 霧島翔子。小学校時代から付き合いがある腐れ縁。幼馴染というべきだろうか。小さい頃はそれなりに付き合いもあった。家が近いこともあり、家族ぐるみで今でも連絡くらいは取り合ったりする。

 けど、俺が霧島翔子から少しずつ距離を取ろうと思った──いや、勉強することに対して意義を見出せなくなったのは、小学五年生のあの日。

 翔子が上級生に虐められているのを止められなかったあの日。自分には勉強しかなかったくせに、周囲を見下していたことを嫌という程実感させられたあの日。俺は霧島翔子からも、勉強からも離れていた筈だった。

 そんな翔子から、『林間学校のボランティアに参加しよう』という連絡が入った。もちろん面倒臭いし行く気もなかったから断ったが、そのことを既に読んでいたらしい翔子は、鉄人と平塚先生を利用してほぼ強制的に俺を参加させたのだった。本当、コイツは俺の行動パターンを読んでいるのではないだろうか。

 そして、一つだけ確信を持って言えてしまうことがある。

 

 霧島翔子は俺に恋心を抱いている。

 

 だが、それは恐らく勘違いから生まれた感情だ。あの時俺が翔子を助けたから、幼い頃の恩と恋心を勘違いしているのだ。長年にわたってそんな感情で翔子を縛り付けるつもりは微塵もない。だから俺は意図的に遠ざけるようになったというのに、翔子の方から近付いてこようとする。

 ──そんな日々に何処か心地よさを覚えてしまっている自分自身がいることも腹立たしかった。

 

 

 千葉村に到着した俺達の最初の仕事は、小学生達の山登りにおけるチェックポイント管理だった。俺と翔子の仕事は、チェックポイントに立ってスタンプを押すこと。本当ならば一人で回りたかったものの、人数もいる関係上、二人一組にならざるを得なかった。そこで俺は明久達の内の誰かと組もうと思ったが、

 

「雄二。私と一緒にペアになって?」

 

 という一言と、手を掴んでくる力の強さに勝てず、仕方なく翔子とペアになる事にした。鬼気迫る物を感じ取ったので断れなかったのも事実だが。しかし何というか、こうして二人並んでスタンプを押していると、

 

「お兄さんとお姉さん、お似合いだよね!」

「お付き合いしてるのー?」

 

 等、マセガキ共が色々と好き勝手言ってきやがる……。その度に俺が否定しているが、頼むから翔子も顔を赤くして照れていないで誤解を解いてくれ。

 

「雄二……私と雄二、お似合いだって」

「小学生達の戯言本気にするなっての」

「…………」

 

 無言で抗議するのをやめて欲しい。どの道俺と翔子じゃ釣り合ってない。勘違いから来る恋愛感情なんていずれ薄れて消えていく。それが今の今まで長続きしてしまっているだけだ。

 そんなことを考えていたら、あるひとグループのことが気になった。

 

「雄二、あれ……」

 

 こちらまで向かってくる女子五人組。だが、その中の一人がどう考えてもハブられていた。いつになってもこういうことは起こるものだ。気の毒だとは思う。

 

 ただそれ以上に、どうしてもあの時の面影がちらついてしまう。

 

「……雄二?」

 

 隣に居る翔子が心配そうな表情を見せてくる。

 やめろ、お前がそんな表情を見せるな。別に今俺達にとって何の問題もあるわけでもないのに、小学生時代を思い出してしまうだろ。

 

「何でもねぇよ。ほれ、仕事続けるぞ」

「……うん」

 

 気にしないふりをしてやり過ごす。恐らくあの子はクラスの中で何かあったのだろう。原因が分からない以上、今の状態では手出し出来ない。第一、そこまでやる理由もない。

 結局、その場はそのままスルーすることとなったが、心の中に靄がかかったような感じが残った。

 

 

 二度目にその子を見たのは、葉山が話しかけに行った時。

 吉井にも説明したが、ああいうのは善意によって悪化することだってあるものだ。優しさが裏目に出る。ハブられているのがただの遊びである以上、もしかしたらいずれなくなるかもしれないし、このまま続くのかもしれない。いずれにせよ、黙って見過ごすわけにはいかないレベルまで浮彫になっていることは確かだ。

 

 だからだろうか。やっぱりあの少女に、かつての翔子を見出してしまうのは。

 

「……雄二。少し話がしたい。いい?」

「……分かった」

 

 そんな時に、翔子が俺に話しかけてきた。

 最初は断ろうかと思ったが、翔子の真剣な眼差しを見て、断ることが出来なくなってしまった。

 俺達は一旦先生に許可を取り、少し離れた場所まで向かう。

 やがて周りに誰もいなくなったのを確認した翔子が、話を切り出した。

 

「ねぇ、雄二……ここに来てからほとんど笑ってない」

「……笑うようなことが起きてるわけじゃねえからな。別にそこは……」

「違う。私は最初、雄二となら楽しい思い出が作れるって言った。だけど、まだ何も作れてない」

 

 どうしてコイツは、俺のこととなると強情になるのだろう。

 お前はお前で、正しい道をいけばいいんだ。落ちこぼれた俺は、お前にとって必要ないだろう? お前のそれは単なる勘違いだ。だから――。

 

「雄二。私の想いを勘違いで誤魔化したら許さない」

「……何と言われようと、お前のそれは勘違いだ。恩と恋慕を重ねるな」

「なら、どうして雄二は中途半端に離れないの?」

「……」

 

 一番言われたくない一言だった。

 確かに、その気がないのならいっそ盛大に振ってしまえばいい。それこそ完膚なきまでに。お前に対して恋愛的な目で見ることが出来ない。二度と近づくな。それだけ言い放てばそれでいい筈だ。

 だが、俺はそうしなかった。

 

 ――霧島翔子という人間が、嫌いではなかったからだ。

 

「そうする理由がないだけだ」

「なら、私が雄二のことが好きであることを否定することは出来ない。違う?」

「……」

「勘違いなんかじゃない。恩もあるかもしれないけど、それだけじゃない。私は雄二が好き。何と言われようと、この気持ちは偽りなんかじゃない。小さい頃に作られた偽物の感情ではなく、本物だから」

 

 翔子の目を見る。決して嘘をついていないこと位俺にも分かっている。

 

「……あの子、私に似てた?」

「!?」

 

 言い当てられていた。

 思っていたことを完全に当てられて、俺の心に焦りが生まれる。

 

「もしあの子が私に似てるとすれば、あの子もきっと助かる。だって、私は雄二に助けられたんだから……」

 

 胸に手を当てて、目を閉じて、翔子は大切な思い出を振り返るように言った。

 あぁ、コイツはなんて強い奴だ。

 俺はコイツの傍にいるのにふさわしくないと思ったから、突き放してやろうと思った。けど、心の何処かでコイツと一緒に居ることに対して名残惜しさがあって、完全に振り払えなかったのだろう。そして今、恋愛的な感情で見られるかどうかは分からないが、俺には翔子を振り払えないことが分かってしまった。

 少しずつ、歩み寄ってみるのもありかもしれない。

 だからまずは――。

 

「翔子。林間学校をいい思い出にする為にも、協力して欲しい」

「……もちろん。雄二の為なら、私はなんだってする」

「……サンキューな」

 

 俺達は少しずつ歩み寄る。

 今はまだ完全には難しいかもしれないけど、深くなってしまった溝を埋める為に、少しずつ。

 

 ――きっと今夜、問題点としてあの少女の話が上がることだろう。

 

 解決は難しいかもしれない。たった二日間でやれることなんて限られている。

 そしてこの方法は、比企谷だったら既に思いついているのかもしれない。

 話に出してみる価値はあるかもしれない。

 

 けど、それ以上に。

 自分達の思い出も作ろうと思った。

 

 翔子との――ここに居るバカ共との思い出を。

 

 




夜に話し合いが行われる前に、この二人の蟠りについては少しずつ解決に向いているという感じを出したかったので、このような話になりました。
ただし、まだ完璧には解決しておりません。二人の関係性はこれから少しずつ前へ進んでいく形となります。 

次回は戸塚目線で話を作ろうと思います。
ボランティアにて初めて八幡と会った戸塚が、どのように八幡と仲良くなっていくのか。今週は恐らく金曜日まで番外編を更新する流れとなりそうです。

本編の方は来週より再び更新開始となると思います!
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