やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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今回は、当小説初となる一色いろは目線でのエピソードです!
時系列的には結構前の方に戻ります……八幡が喫茶店でバイトし、いろはすと初めて会ってから少し後位を想定しております。


自分の気持ちというのは、思った以上に気付けない。

 初めて『せんぱい』に会った日、私は驚きと同時に興味を惹きつけられる感覚に身体を支配されました。自慢ではないですが、自分はモテる方であるという自覚がありましたし、男の人がどんな素振りを見せれば喜ぶのかは大体感じ取ってきたつもりです。学んだわけでもありませんし、誰かから会得した訳でもないです。ただ何気なく日常を過ごす上で自然と身についた物でした。だから私はこの日、そんな常識を物の見事に打ち破られたのです。

 

 ――ただ一言、『あざとい』という言葉によって。

 

 

「吉井先輩! 葉山先輩についてもう少し詳しく教えてください!」

 

 喫茶店で先輩達とお会いしたあの日、私は吉井先輩にお会いすることが出来ましたし、葉山先輩を見つけることが出来ました。見た瞬間にイケメンだと分かる先輩でした。きっとこの人とお付き合いすることが出来たら、誰もが羨むカップルになれると思うんです。美男美女カップルって、絵としてもいいものですよね♪ステータスとしては申し分なしです!

 それから私は、総武高校を受けようと決意しました。ですがあの学校は進学校。流石に一筋縄で受かる学校というわけでもありません。自分の成績を客観的に見ても、合格圏内に居たとしても安心出来る範囲ではありません……一体どうして吉井先輩は受かったのかは謎ですが。

 というわけで私はまず、吉井先輩に葉山先輩について聞いてみることにしました。勉強面については正直吉井先輩に聞いちゃいけない気がしまして……その代わり、入ってからのことについては詳しく教えてくれそうなので、これもまた選択の内です♪

 

『葉山君は優しい人だよ。サッカー部の部長で、みんなに優しい人って感じかな』

「流石は葉山先輩って感じがしますね……イケメンで優しいのなら、人気もあるって感じですか?」

『みたいだね。クラスはもちろんだけど、学年でも結構噂聞く位だよ』

「なる程……まさしく難攻不落ですね!」

『まぁ、葉山君のすぐ近くには三浦さんって女の子が居るから、なかなかみんな近づいていかないみたいなんだけどね』

「みうらさん、ですか……?」

『おかんみたいな人だよ。葉山君が居るグループにいつもいるから、仲がいいんじゃないかな?』

 

 これはなかなか厳しいライバル事情ですね……。

 

「一体どうしたら葉山先輩を攻略出来るのか……今度せんぱいを使ってシミュレーションしてみる必要がありますね……」

 

 葉山先輩を落とす為には、今までの方法だけでは難しいかもしれない。だから私が考案したこととかを実際に試してみて、その結果を知らなくてはいけない。そんな相手としてうってつけなのが、せんぱいだと私は思ったのです。せんぱいならば正直に講評してくれるんじゃないかなぁ~なんて……そもそも行こうともしなさそうなのが傷ですけど。

 

『せんぱいって、もしかして八幡のこと?』

 

 何故か、吉井先輩はきょとんとしているような感じで聞いてきました。私は今、何かおかしなことを言ったでしょうか?

 

「もちろんですよ! 私のことを『あざとい』と言ったせんぱいですよ? あの一言で私のプライドは傷つけられてしまったわけですから、その責任をせんぱいにとってもらう必要があるんです。だからせんぱいをとことん使わせてもらいますよ!」

『あはは……なるほどね』

「勉強のことは当然教えてもらいますけど、こういったことも教えてもらったり、試しに利用……いえ、試験活用すればいいかなぁ~なんて♪」

『なんかあまり変わってないように聞こえたのは気のせいかな!?』

「なんのことでしょう~?」

『ナンデモナイデス』

 

 せんぱい。

 今考えても本当に不思議な人です。私がどんなことを言ったとしても、どんな素振りを見せたとしても、恐らく靡くことはないんだろうなぁって思っています。私には葉山先輩が居るので、今は恋愛的な意味で見ることは出来ませんが、人間としては正直尊敬出来る部分もあります。

 というか、せんぱいも大概優しいんじゃないかなぁって思わせらえることがあって……何となく、心がざわつくような気がしてきちゃいますけど……まさか、そういうわけじゃないですよね?

 

「というわけで、ありがとうで~す」

『うん、またね!』

 

 そう言って私は、吉井先輩との電話を終わらせます。

 善は急げ。今度はせんぱいに連絡です♪

 試しに何度かコールしてみますが。

 

「……でない」

 

 全然電話に出てくれません。

 いっそのこと、電話に出てくれるまで電話を鳴らしっぱなしでいましょう……そうすればせんぱいのことですから、五月蠅いのを止める為に電話に出ると思いますし。

 

『……何?』

 

 やっと出たと思ったら、開口一番に『何?』って……こっちが言いたくなりますよ!

 

「駄目ですよせんぱい! かわいい後輩がこうして電話したんですから、もっと気の利いた台詞を言わないといけませんよ?」

『あざとい。やり直し』

「もうそれただ単に言いたいだけですよね!?」

『……で、本当に何の用? 用がないなら切るけど?』

「用がなければ電話しちゃ駄目なんですか~?」

『んじゃ』

「わーわー! 待ってください! 本当に切ろうとしないでくださいってば~!」

 

 ひどい!

 まさか本当に電話を切ろうとしてくるなんて……乙女の純情を弄んでますねこのせんぱいは!

 

『……で、どしたの?』

「実はですね。せんぱいにお願いがありまして……」

『お願い?』

「はい~。葉山先輩とデートした時に、何も出来ないのは困っちゃうなぁ~って思いまして」

『あぁ……なに、葉山呼べばいいのか? それなら俺より吉井にでも頼んだ方がいいぞ。知らんけど』

 

 どうしてそういう風に解釈しちゃうかなぁ……このせんぱいは。

 

「違いますよ。だから実験台になってくださいってことです」

『……なんで』

「だって、せんぱいならこういう時正直に言ってくれそうじゃないですか~。何よりせんぱいは、こんなに可愛い後輩とデート出来るんですから、一石二鳥、Win-Winって奴ですね♪」

『そもそも外に出る時点で俺にとっては苦行でしかねぇから、全然Win-Winじゃないからね。一色一人だけがWinnerになってるからね』

「私の勝ちってことで、せんぱいは私の言うこと聞いてくださいね?」

『どうしてそうなんの……』

「それじゃあ今度の土曜日、朝十時に千葉駅でよろしくで~す」

『あ、お、おい……』

 

 何か言われる前に、私は電話を切っちゃいます。

 こうすればいくらせんぱいでも、無碍には扱えない筈ですからね……まったく、お出かけ一つ誘うにも、ここまで頭使わないといけないんですから難しいですね本当。

 でも、せんぱいとこうして話している時間も……なんとなく嫌いじゃないと思える自分が居ます。

 この気持ちは一体何なのでしょう……。

 

 私が自分の『本当』の気持ちに気付くのは、それからもう少し後になってからのお話です。

 

 


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