「…………なんでこんなことになった」
八幡が項垂れた感じで呟く。
今の八幡は、黒縁眼鏡をかけて目元をメイクである程度補正をかけている状態だ。傍から見れば八幡だと分からない程に見違えている。浴衣を着ていることからも、インテリ美人って感じがする。八幡でこれだけ変化しているんだから、今回の秀吉は何処まで本気を出したっていうんだ!?
「すまぬのぅ、お主ら……メイクと言われてしまっては、ワシも手加減出来ぬ性なのじゃ。それはそうと、どうしてワシらまで出ることになっておるのじゃ?」
「そりゃ『みんな』で出るわけだからな……なんだよ洪雄麗って! 女装の上に留学生とか設定盛りすぎだろうが! てんこ盛り過ぎてわけわかんねぇぞ!」
雄二が自分に課せられた設定について文句を言っている。
ちなみに僕は吉井明子……なんだか妙にリアルだからそれはそれで辛いものがある。
「……土屋香美って」
ムッツリーニは、ウィッグによって短い髪を長くしている。普段は写真を撮る側のムッツリーニは、今回撮られる側に回るということでなかなかに面白い展開だ。
「ちなみに、八幡はなんて名前で登録されてるの?」
「……比企谷八恵だ。もう俺は一体誰なんだ」
明後日の方向を見ながら、八幡が答える。
うん、その目は普段以上に腐っているんだろうね……メイクのおかげでほとんど目立っていないけど。
「あはは……僕もちょっと、恥ずかしいかな」
そんな中。
一際異彩を放っているのは彩加だった。
名前もそのままで登録可能だし、何よりノーメイクだというのにこの完璧な着こなし!!
もう彩加が優勝でいいんじゃないかな!!
ちなみに秀吉は、演劇部で着慣れているせいかあまり恥ずかしさを出していないのに対して、彩加はかんざしを着けたりと、色々とやり慣れていないことを施されているおかげでもじもじとしている。
くぅ……これは心が揺れる!!
「みんな似合っているわよー」
「とっても可愛らしいですよ、吉井君っ」
「いいねいいね~。ムッツリーニ君も晴れて女装デビューだね♪」
「……その、比企谷君。腐った目が隠れてよかったんじゃないかしら」
「ヒッキー美人さんだ!?」
「おにいちゃんがおねえちゃんになった!?」
「雄二の場合は色気が足りない」
女性陣からの感想はこんな感じ。
何故か霧島さんだけ雄二に対する評価が辛口だった。というか雄二の女装ってやっぱりかなり無理あるよね?
「それじゃあ私達は応援していますからねっ! どうやら私達の出番はまだまだ先みたいですから」
そう言うと、姫路さん達は一度観客席の方へ消えていった。
というかこのままだと、僕達だけ参加する流れになるよね?
他の参加者はみんなきっと女性だというのに、僕等だけ男性ってやっぱりおかしいよね!?
「こうなったら……予選で敗退するしかない」
「それしか僕達に残された道はないみたいだね」
雄二の言葉に僕は同意する。
逃げきれないのだとすれば、いっそのこと予選で派手に散ればいい。そうすれば恥ずかしいのは一瞬で終わるということだ。
「けど、予選ですぐ負けるってどうするの?」
彩加が首を傾げる。
うん、やっぱり可愛い。お持ち帰りしたい。
「男だーってことがバレれば、そもそも参加資格ははく奪されるわけだしそれがいいんじゃないかな?」
「……いや、待て。それは駄目だ」
僕の案を真っ先に否定したのは八幡だった。
一体どうしてだろう?
「そうだな。比企谷の言う通り。それはあまり得策ではない……それは一番比企谷が理解しているだろう」
「どうしてさ? 雄二」
「……昼間、比企谷が話しかけられたのは誰だったか。お前だって聞いただろ?」
そう言えば、美波が八幡に対して不機嫌だった理由って、昼間に女の子に話しかけられたからだったよね。祭の最中で聞いた限りだと、確か……。
「いろはちゃん、だったよね……はっ!?」
そ、そうか!?
そういうことだったのか!?
「流石の明久も気付いたな。つまり、この祭会場には、俺達の知り合いが紛れ込んでいる可能性もある」
「一色がさっきの海に居たってことは、このあたりの旅館に泊まっている可能性もある。最悪、他の奴らだっている可能性も否定出来ない」
「……女装がばれたら、危険」
そ、そうだ。
もしこんな所で女装していることがバレてしまったら――っ!
「女装した上に、コンテストに出る自信がある変態というレッテルを貼られてしまう……!」
「それだけはなんとしても避けなければ……!!」
そんなことになったら、もう学校に行けなくなっちゃうよ!
歩くたびに『変態』って言われちゃうじゃないか!
「だから、女装していることをばれないで、かつ、予選敗退を目指さなければならねぇ……!」
雄二が拳を握りしめながら、悔しそうに言う。
難易度は果てしなく高い。だけど、僕達の明日を守る為には、やり遂げなければならないんだ……!
「ここに居る全員、無事に生きて帰る為に頑張ろう!!」
「「「「「おー!」」」」」
この場に居る六人、全員の意思が団結した瞬間だった。
みんな女装したとばれたくはない……秀吉は女装じゃないけどね!
『それでは次の方!』
と、とうとう呼ばれてしまった……。
「……吉井。何とか生きて帰って来いよ」
普段は絶対そんなことを言わないだろう八幡からの、ありがたいお言葉だった。
それだけ八幡も追い込まれているということが伝わってくる。
「う、うん! 見事予選で散ってみせる!」
そうして僕は、ステージの上に立った。
うわぁ……凄い人だかり。ほとんど男の人じゃないか!
こんな所で女装だとばれたら恥ったらありゃしない!
『それではまず自己紹介からお願いします!』
「よ、吉井明子です……」
男の声だとばれないよう、裏声にしつつ、なるべく小さ目に……。
『特技などはおありでしょうか?』
「し、強いて言うなら料理です。パエリアとか、カルボナーラ、とか」
嘘は言っていない。
まるっきり嘘だとばれちゃう可能性があるから、本当のことを混ぜつつ……。
……けど、なんでだろう。会場の熱気が段々上がってきている気がするんだけど。
『家庭的で素晴らしいですね。では、ご家庭でもお料理はなされるのですか?』
「はい……毎日……」
『毎日ですか!?』
そもそも僕は一人暮らし続行中だからね……たまに姉さんが帰ってきた時だって、僕が料理しないとどんなものを出されるか分かったものじゃないし……。
『彼氏さんはいらっしゃいますか?』
「そ、そんなのいませぇええええええん!!」
彼氏なんているわけないじゃないか!!
って、なんで会場の人達は嬉しそうに叫んでるのさ!?
『これは会場の男性の皆様には嬉しい情報ですね! 審査員にも感想を……』
『携帯番号を教えてくれたら、オジサンがあとでお小遣いをあげよう』
絶対教えません。
『貴方がスポンサーでなければ、ビンタ一発噛ましてましたが、流石にそうはいかないので質問を変えさせていただきます。明子さん、今日の浴衣を着る上で気をつけたポイントはどこですか?』
「あまり、身体のラインが出ないようにしました……」
男性だとばれないようにね。
『なる程……明子さんはかなり恥ずかしがりやさんなんですね。審査員の方、質問ありますか?』
『下着をつけているのかどうかお聞かせ願いたい!!』
それって女性物の下着のことだよね!?
「そんなのつけてませぇえええええええん!!」
「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
なんでウェーブしてるの!?
なんだこれ、なんだこれ!?
結局、僕の予選はなんだか意味不明な感じで幕を下ろしたのだった……。
バカテスサイドのギャグ回は書いていてこう、なんとなく楽しいものがありますね!
しかし、女装して浴衣コンテスト参加とか、普通なら考えられないような異常事態ですね……しかし戸塚の女装浴衣姿は見てみたい。カメラに収めたい。
というか誰かイラスト描いてください!!(懇願)。
絶対戸塚の女装浴衣姿とか可愛いに決まってるじゃないですか!!!!
……失礼、噛みました。