以下の問いに答えなさい。
「前に学んだことや古いことを研究して、それによって現代のことを知ることを示す四字熟語を答えなさい」
姫路瑞希の答え
「温故知新」
教師のコメント
正解です。この問題は、姫路さんには簡単過ぎたでしょうか?
土屋康太の答え
「体重測定」
教師のコメント
女性にとってはとてもシビアな問題ですが、古いことは研究出来ても、現代のことを知ることはできませんよ。
吉井明久の答え
「自由研究」
教師のコメント
それは夏休みの宿題です。
色々大変だった海水浴も終わり、残りの休みをだらだらと過ごしていた。やはり夏休みというのはこうでなくちゃ。涼しい部屋でソファに寝転がりながらゲームをしていることこそ、まさしく休みを満喫するというのはこういうことなのだということを体現していると言えるだろう。ここ最近あまり面倒なことも起きていないし、このまま夏休みがあと二ヶ月くらいあれば文句なしなんだがなぁ……。ちなみに小町は本日友人と出かけているとのこと。ただ、そんな小町も実は外に出ていることの方が珍しかったりする。ああ見えて小町は次世代型ハイブリッドぼっち。コミュ力こそ高いものの、やはり比企谷の遺伝子をしっかりと受け継いだ存在なのだ。
「ん?」
そんな時、携帯電話が鳴った気がした。が、こういう時は無視するに限る。大抵はロクでもない連絡が待ち受けているだろうからな……。ただ、一応誰から連絡きているのか位は確認した方がいいだろうか。念のため、画面に表示されている人物が誰なのかを見てみることにする。
「……んん?」
そこに表示されていたのは、およそ予想外の人物だった。
「鶴見、留美……?」
以前、小学校の林間学校におけるボランティアに参加した際、いやがらせに遭った女の子。正直あの段階で俺達の関係は終わりを告げたと思ったのだが、吉井が言った『友達』という言葉で関係が続いた女の子。というか小学生。そういえば俺達が夏休みということは小学生も夏休みだったな。何となくそんなことを考えながら、この電話は何となく無視してはいけない気がし始めていた。もし電話してきているのが一色ならば、問答無用で無視を決め込んでいたことだろう……どうせその後メール地獄に遭うのだろうが。しかし相手は滅多に連絡することのない人物。ましてや小学生だ。スルーを決め込んだら一体何されるか分かったものじゃない。だからこれは自分の保身の為に電話に出るのであって、決して相手のことを想って取るわけではない。絶対にだ。ここ大事な所だから八幡検定に出るから勉強しておくように。一体誰に言ってるんだよ。
「もしもし?」
『あ、八幡……寝てた?』
開口一番で俺が寝ていたかどうか確認するのか。
というか、夏休みだからって俺が惰眠を貪ることを予想しているとは……コイツなかなか出来るな。
「ソファには寝転がっていたけど、目は起きてた。身体は寝ていたけど心は寝ていないから安心しとけ」
『何それ……馬鹿みたい』
相変わらず調子のいい言葉だが、心なしか声が嬉しそうに聞こえるのは気のせいだろう。訓練されたぼっちはこの程度で動じたりしない。さっきから俺は一体誰に言い訳しているのだろうか。
「で、どうしたんだよいきなり。何か用事でもあるのか? ルミルミ」
『ルミルミ言うな……留美』
拗ねたような、しかしどことなく楽しそうな口調。
まさかただ単に暇つぶしで連絡したわけではなさそうだし……留美がそもそもそんな理由で連絡してくるとは思えない。単純に暇だから連絡しようとして来る吉井って奴なら居るが……。
『八幡、今日って暇?』
「今日?」
随分とまたいきなりな連絡だった。その話し方でもし暇じゃなかったらどうするつもりなのだろうか。
「今日はアレがアレで暇じゃない」
『そっか。暇なんだね』
あれれ~? おかしいぞ~?
暇じゃないって言ったのがまるで嘘みたいにスルーされたぞ?
思わず眼鏡をかけた小学生みたいな反応になってしまったぞ。
『実は今日、千葉に遊びに行くことになってるんだけど、お母さんが昼間だけ学校の仕事なの』
「学校の仕事?」
『私のお母さん、高校の先生だから……』
なるほど。
……そういえば鶴見って先生が総武高校にもいたような気がするが……まさかな。しかし、千葉に遊びに行くことになっているというのに、そんな日まで仕事行くことになるとは……やはり社畜にはなりたくない。将来は専業主夫安定だな。誰か仕事してくれる人いねぇかな……。
『なんでも緊急の職員会議って言ってた』
「何かあったのかもしれねぇな……休みの日まで大変だな」
しかし、だからと言って俺に連絡する意図が読めない。それならば家でごろごろしていればそれでいいのではないだろうかと思ってしまう。小学生だからとか色々あるのだろうか。
『それで、八幡達が前に林間学校のボランティアに参加してたことをお母さんが知ってたから……』
あれ? やっぱり留美のお母さんって総武高に勤めてたりする?
……だとしたら色々とやばい気がするんだが。少なくとも留美から林間学校で俺がやったことについては伝わっている筈だから、何か文句言われる可能性もあるし、内申点にも響いたりするのか……?
「あー……お前の母さんに、『すみませんでした』って伝えておいてくれ」
『……何言ってるの?』
デスヨネー。
『とにかく、それで私……今日一人で千葉にいることになっちゃう』
「それは何というか……災難だな」
それを伝えるが為に連絡してきたのだろうか。
だとすれば相当殊勝な心意気だが。
『……八幡。もしかして鈍感?』
「は? いや何言ってんだお前。俺は鈍感じゃねえよ。むしろ敏感過ぎてスルースキルを身に付けるまであるからな」
『……はぁ』
何故俺は小学生に溜め息吐かれているのだろうか。
俺は今何か間違ったことを言ったのか? いや、そんなことはないと思うが。
『だから八幡。私に千葉を案内して』
その一言は、あまりにも唐突過ぎた上に、何故俺でなくてはいけないのか分からなかった。
「……いやお前何言ってんの。俺に休日出勤しろと?」
『八幡こそ何言ってるの。友達が友達と遊びに行きたいっていうのは自然だと思う』
「いや、俺じゃなくてそれこそ島田とか吉井とかの方が適任だろ……俺がそんなこと出来るようなタイプだと思うか?」
『思わない』
即答かよ。
正解だけどさ。
『けど、私は八幡に案内してもらいたい。ダメ、かな……?』
「……」
思わず、俺はその言葉の裏側を読もうとしている自分に気付いた。
いくらなんでも小学生相手に疑いをかけるというのもバカバカしい気がするし、しかし相手は非道なことをした少女だ。恨まれてもおかしくないというのに、そんな相手をまだ『友達』と称している。
思えば、林間学校終了間際に連絡先を交換しようとしていた段階で、何故そんなことをするのか理解出来なかったのだ。
「……で、今何処に居るんだよ」
『今は千葉駅にお母さんと居る。この後少ししたらお母さんが仕事に行っちゃうから、それまでに来てくれると嬉しい』
「……なぁ、それ、ほかの奴も呼んでいいのか?」
『…………いいけど』
何だろう、不思議な間があった気がする。
確かに、俺が提案することとしてはおかしい気はする。だが、いくら小学生とはいえ二人きりで行動するとか俺には難易度高すぎる。
ここは俺が楽をする意味でも、アイツを呼ぶか……。
というわけで、今回はオリジナルエピソードになります。
ルミルミ回です!!
いやぁ、ルミルミ久しぶりに出せていいですね……可愛い子は正義。
八幡が一体誰を呼ぶのか……というか、八幡がそこまでして協力を要請しようとする相手なんてそ多くない気がするんですよね……。