やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第十九問 唐突に、鶴見留美と出かけることになる。 (2)

 休みの日で、しかも俺しかいないという状況下において、家から出るということは俺にとって相当珍しいことである。しかも茹だるような暑さの中、体力を削るようなことをするなんて我ながらどうかしていると思う。これがもし留美とかではなく吉井や坂本、材木座からの呼び出しだったとしたならば、問答無用で断り文句を入れていたことだろう。小町がいるせいもあるのか、どうにも俺は歳下に弱い気がしてならない。もう少し強い意思を抱かなくてはならないと心の中で決意した。

 さて、そんな細やかながらの現実逃避はともかくとして、今俺は千葉駅に来ている。留美と二人きりとかいう、彼女にとっては罰ゲーム以外の何物でもない状況を打破する為に呼んだ……というか、俺の精神衛生を保つ為に呼んだといっても過言ではない人物達。目には目を、歯には歯を、女の子には女の子。そんな考えのもと、うってつけの人選をしたと我ながら思っている。こうすれば俺の負担は激減し、かつ、留美の目的も果たせるに違いない。

 

「それでウチらだったのね……」

「お兄ちゃんに留美お姉ちゃんこんにちわですー!」

 

 俺が助っ人として呼んだのは、島田と葉月の二人だった。

 葉月がいれば留美が相手せざるを得ないし、そんな二人の保護者役として島田はうってつけだ。下の妹を持つ姉として、十分過ぎる働きをしてくれることだろう。つまり俺は何もしなくて済むということだ。これで俺はゆっくりすることが出来るという寸法だ。完璧な流れであると俺は思っている。計画性の高さに自分で震えているところだ……そんなに震えてないが。

 

「……八幡。これは一体」

 

 当の本人である留美は、何処となく不満そうであった。え、なんで? 歳の近い女の子がいればいいと思ったんだが……主に俺の精神衛生安定の目的ではあるが。

 

「知らない仲ってわけでもないだろ?」

「そうだけど……むぅ」

 

 頬を膨らませてむくれている。何故だ、これが最適解だと思ったのだが……どうにも解せぬ。

 

「久しぶりね、留美ちゃん。元気だった?」

「……うん。元気だった」

 

 それでも、島田の質問にはしっかりと答えるあたり、素の人間性はしっかりしているのだろう。

 留美のようなタイプの女の子の場合、島田のようなタイプの方が案外話しやすいのかもしれない。雪ノ下とは同族嫌悪というか、何処となく互いを牽制し合う未来が見えてくるからな……気のせいだと信じたいが。

 ちなみに、吉井がくると面倒臭そうだから除外した。

 

「それで、千葉を案内して欲しいってことだったわよね? 正直、千葉と言ったらウチよりもハチの方が詳しそうな気がするけれど……」

 

 待て。

 早速出鼻くじくようなことはしないでくれ。

 というか俺は道案内というよりは楽をしたいんだ……。

 

「ほら、八幡の方が詳しいって」

「なんでお前が自信満々なんだよ……」

「だって、八幡が楽しようとするから」

 

 ぐうの音も出なかった。

 

「お兄ちゃん?」

 

 やめて! 

 葉月ちゃんの純粋な目で俺をみるのはやめて! 

 

「……何してるのよハチ」

 

 ため息まじりに島田に呆れられた。

 いや、まぁ……うん。なんというか、反省はしている。後悔はしていないが。

 

「まぁ、たしかにハチが小学生の女の子と二人きりって……ていうかハチじゃなくてもちょっと怪しい目で見られそうね……」

 

 島田がなんとなく理解してくれたように言う。そう、俺一人で留美と歩いていたら、不審者扱いされて通報される可能性すらある。それを察してくれたようで何より。

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃんと並んでいると、なんだか仲良しさんに見えますです!」

「「なっ……」」

 

 葉月ちゃんが純粋無垢な笑顔を向けながらそんなことを言ってくる。俺と島田は思わず声を揃えてしまった。てか、島田の顔がすごい赤くなってる。恥ずかしい……よなぁそりゃ。

 

「……八幡。顔がだらしない」

「えっ、なんで」

 

 何故か留美が怒っていた。

 ていうか俺の顔はそんなにだらしなくなっていたのだろうか。他人に指摘されるほどだらしないって、それは人としてどうなのだろうか……いやそうなってないと俺は思っている。

 

「とにかく八幡は今日一日ガイド役を務める事。いい?」

「お、おう……」

 

 何故か留美に命令された。

 そこまで言われる筋合いが果たしてあるのかどうかは謎だが……。

 

「ところでハチ。千葉を案内するって言っても一体何処に行くつもりなの?」

 

 そうなんだよなぁ……。

 俺が考える千葉訪問ツアーを実施するとなると、第一に速攻帰宅まである。

 

「……ハチ、今帰ろうとか思ったでしょう」

「え、なんで分かったの」

「顔に出てたわよ……」

 

 なんだろう。最近の島田は八幡検定を着々とクリアしてきている気がする。そろそろ小町レベルまでいくのではないかと思われる程理解力が高い。雪ノ下や由比ヶ浜よりもスピードが早いから正直驚かされるばかりだ。別に免許皆伝になったところで何かあるわけでもないが。

 

「……とりあえず、無難なのはあの喫茶店だと思うのだが」

「あー……あそこ、かぁ……」

 

 あ、やべ。

 島田の反応を見て思い出したが、あの喫茶店には清水が居たのか。そうなるとカオスな状況になるのは目に見えている……やばそうな気配が存分に伝わってくるのがアレだ。

 

「あの喫茶店って?」

 

 だが、予想以上に留美が食いついてきた。

 

「ハチが前に一日だけバイトしてた喫茶店なのよ」

「お兄ちゃんが働いてたですか!? 凄いです!」

 

 葉月が目を輝かせながら見てくる。なんだろう、そう言われると少し照れるな。

 戸塚以外にも天使はいたというのか。くっ……だが、俺には小町という妹が……! 

 

「……ハチ。後で小町ちゃんに言いつけておくわね」

「待て。待ってくれ。話せば分かる」

 

 やはり島田も実はシスコンなのではないだろうか。

 

「……あの八幡が、働いていた?」

 

 そして留美。目を大きく見開くな。確かに自分でもバイトしていたという事実が信じられないけれども。

 

「それなら、行ってみたい。八幡が見てきた景色、私も見てみたい」

「お、おう……」

 

 結局、留美のその一言が決定打となって喫茶店に行くことになった。

 それにしても、どうしてそこまで食い付くのだろうか……。

 

「……」

 

 そして島田。そんな微妙そうな表情で見つめないでくれ。勘違いしてしまうだろう。そんなわけないか。




今回は美波と葉月もセットになってルミルミと行動します!
この四人の組み合わせって実はなかなかなかったよなぁ……と思いつつ、書いてみると思いの外しっかり動いてくれるので助かっております。というか、八幡と美波の組み合わせを書くのが久しぶり過ぎて楽しいです。なんだかんだで集団で描かれることの方が多かったので……。

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