文化祭についてのアンケートにご協力ください。
「あなたが今欲しいものはなんですか?」
葉山隼人の答え
「クラスメイトとの思い出」
教師のコメント
流石は葉山君ですね。クラス一丸となって、たくさん思い出を作ってもらいたい所です。
比企谷八幡の答え
「休み」
教師のコメント
文化祭をサボろうとしないでくださいね。
吉井明久の答え
「お金」
教師のコメント
切実過ぎませんか?
学生時代を語る上で一般的に欠かしてはならないイベントとも言えるであろう文化祭。本来的な意味でいえば、普段の生活で培ってきた知識や経験等を活かして発表する場であるというのに、最近ではただ単に夏祭りの延長みたいな感じで盛り上がるだけのものになってしまっている。そう、文化祭とは祭という名前を冠した授業。しかも貴重な土日を費やしてまで行われるイベントだというのに、どうして文化祭を『思い出の一ページ』として残しておけるのだろうか。そう言った考えを持っている輩の気が知れないものである。それこそ本来ならば、夏休みの自由研究を廊下に貼り出して見学してもらうだけでも立派な文化祭になり得るのだ。何が悲しくてわざわざ休日の学校に赴いて喫茶店の真似事をしなければならないというのか。これならば実は土屋考案の写真館にした方が楽だったのではないだろうか……いや、あの場合どんな出し物になるかわかったものじゃなかったし、西村先生権限でやり直しを喰らっていたことだろう(そうでなくとも女子からの票は一票も入っていなかったし)。
前日ギリギリまでサボっていてもステルスヒッキーが発動してどうにかなるだろうと思っていたら、まさかのセコム島田によって引き戻され続ける始末。ついには逃げ出さないようにとシフトまで同じ時間にされる始末だった。あいつどんだけ俺の行動パターン読んでるのん? 俺のこと好きずきるのん?
残りのメンバーにしても奉仕部を含めて戸塚を入れてくる辺り、俺の思考を読んでいるとしか思えない。材木座? そんな名前がシフト表にありましたけど知らない子ですね。
さて、文化祭ももう間も無く始まるであろう時間に長々と語っているわけなのだが、これには立派な理由がある。
「じっとしておるのじゃぞ、八幡。明久に頼まれてしまった以上、ワシも本気を出さざるを得ないのじゃ」
何故か俺は、木下にメイクしてもらっているからである。
こんな事態に陥っているのも、すべては吉井の気まぐれによる。接客担当については全員チャイナ服着用を命じられたわけなのだが、俺についてはそれに加えてメイクもした方がいいのではないかという発想に何故か至ったのだという。確かにそのままの姿で外に出たら、雪ノ下に『あら、ゾンビがチャイナ服を着て接客なんて、キョンシーでも現れたのかしらね。キョンシ谷君』とか罵倒喰らいそうな気がする。何だよキョンシ谷君って。キョンなのか谷口なのかどちらかにしろよ。無意識下に神扱いされちまうのかよ。
「別に目元隠せりゃそれで十分じゃねえのか?」
「そうもいかぬのじゃ。メイクというのはバランスが大事で、目元を加工すれば、それに合わせたメイクをしなければその部分だけ浮いてしまう。頼まれた以上、演劇部としては中途半端な仕事をしたくはないからのぅ」
中途半端な仕事でさっさと解放して欲しいというのは俺のわがままですね、はい。
どうも俺の周りに居る奴らは、なかなか融通の利かない人間が多くて困る。変なところに拘りを持っているせいで、その部分を突き崩すことが難しい。何故ならば、その点はその人物の人生そのもの。いわばソイツ本人の『本物』が形作った結果だからだ。木下秀吉にとってそれは演劇であり、俺はその点だけは馬鹿にすることは出来ない。してはいけないと思っていた。
……が、やられる身となるとどうにもむず痒い。というか対面でメイクされているわけで、木下は男であると言うことは百も承知なのに、何故か表現しづらい感情が俺の中で生まれそうになる。いかん。これではアイツと同じくただのバカになり下がってしまう。俺には戸塚という大切な存在が居るんだ――!
「何か、心の中で変な葛藤をしているようじゃが、後はこの眼鏡をかければ出来上がりじゃ。チャイナ服に合わせたメイクになっておる。明日も同じようにメイクするから、そのつもりでいてくれると助かるのじゃ」
どうやら頭の中で葛藤している最中に木下による改造工事は終わっていたようだ。
一体どんな顔になってしまったのか流石に気になった俺は、近くにあった鏡を手に取って眺めることにする……と。
「どう? ハチのメイクおわ、った……?」
「ヒッキーどんなかん、じ……?」
ちょうどその時、チャイナ服に身を包んでいた島田と由比ヶ浜が顔を出してきた。
いやちょっと待ってほしい。チャイナ服を着ている二人が抜群に似合っていて困る。島田はスラッとしたモデル体型を活かした着こなしをしているし、由比ヶ浜に至ってはとある部分が強調されている。何処とは絶対に言わないが、いつぞやの万乳引力の再来だ。乳トン博士はマジ偉大。ここ重要。
そんな二人だが、俺の顔を見て言葉を失ってしまっているようだ。え、そんなに似合わない?
「……木下。アンタ本当に才能あるわね」
「うん……ヒッキー、いつも以上にかっこいい……」
「お、おう……」
木下様が偉大過ぎた。
由比ヶ浜のその言葉はお世辞ではないのだろう。何せコイツはお世辞とか嘘とか、そういったものを言うのが下手くそだ。ある意味では吉井と同レベルと言ってもいい。
というか由比ヶ浜。『いつも以上に』とかそんなこと言わないでくれ。普段どう思っているのか気になっちゃうだろ。
「ハチ、それでチャイナ服着たら凄い人気出そう……」
「そこまではないだろ。流石に葉山とかが遇を抜く」
このクラスにはスクールカースト上位どころか殿堂入りを果たしそうな人材である葉山がいる。その他にも木下や戸塚、意外なところで言えば坂本とかも人気出るのではないだろうか。ただ、戸塚はチャイナドレス着て俺を接客して欲しい。というかそのまま一生一緒に居てくれや。
「ところでヒッキー。私達のチャイナ服、どう、かな?」
顔を赤くして尋ねてくる由比ヶ浜。
くそっ……今そんな反応されたらまともに返せる自信がない……っ。
「変なところが一つでもあったら、笑い飛ばしてやろうと思ったのに出来なくて残念だ」
「……それって似合ってるってことでしょ」
疑問形じゃなくて核心を突いてくるのはやめてくれ島田。
完全に俺の心読んできているじゃねえか。何なの本当。俺の中での羞恥心がマックスになっちゃうよ? マッ缶も驚きの甘さになってしまうよ?
「とにかく、最初のシフトはお主らじゃ。明久もそろそろ料理の仕込みを終える頃だと言っておる」
吉井と土屋、そして須藤を含めた男性陣をはじめとして、意外な所で海老名さんや三浦も、喫茶店の料理考案係として協力していた。三浦とか絶対料理しなさそうだが……。
そんなわけで、俺の気持ちとは裏腹に、着々と喫茶店の準備は整ってしまっているのだった。
とうとう文化祭開幕です!
喉の痛みはまだ治っておりませんが、体のだるさはなんとか取れましたので更新再開です……久しぶりに本編更新した気がします……。
これからは平日は毎日更新出来る……筈です。