やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第二十一問 文化祭は始まり、彼は意外な人気を得る。 (3)

 何故かミスターコンテストへの出場が決定してしまった俺は、憂鬱な気持ちを抱えたままシフトの時間を迎えることとなった。料理は粗方用意出来ているし、朝のうちはそんなに混み合うことはないだろうということで、厨房にはそんなに人数を配置しておらず、ほとんど接客という形をとっている。

 

「この時を待ちわびていたぞ、八幡……ついに我が本気を出す時が来たようだ……!」

「そうか」

 

 何故か妙にテンションが高い材木座。どうした。水を得た魚みたいにむっちゃ動き回ってんぞ。マグロの如き速度で何をしてるんだお前は。本当に元気だな。何かいいことでもあったのか? 

 

「あはは。相変わらず二人とも仲良しさんでいいなぁ」

 

 そう言ってきたのは、青色のチャイナ服を着ている戸塚だ。チャイナドレスじゃないのは本当に残念だが、これはこれで……いい……。服をチョイスした土屋には感謝する他ない。

 

「とりあえず今のところはほとんど外に出てるみたいね。焼きそばとかお好み焼きとか、そう言ったところは盛況そうよ」

「始まってすぐに見るところってやっぱり外だからねー。この時間帯は穏やかでちょうどいいなぁ」

 

 島田と吉井がそんな会話をしているのが聞こえてくる。

 サボっているわけではないが、別段仕事があるわけでもない。そう、こんな時間こそ俺が待ち望んでいたものだ。手が回らない程忙しいところに身を置くなんて、先取り社会人経験なんざしたくもない。祭なんだからこの程度で十分だ。

 

「なんかヒッキーがまたバカっぽいこと考えてる気がする……」

 

 だからそこの由比ヶ浜さん? 俺の思考読み取ろうとするのやめてくれません? あと貴女が来ると自然と視線が一点に集中してしまうんです。万乳引力の法則が働いてしまうからやめてください。

 

「…………ハチ」

 

 島田のその目線も地味にやめてもらいたい。何故かわからないけど心に深く突き刺さる。

 とかなんとかしているうちに、ガラッと扉が開かれる音が聞こえてくる。なんだかんだで客が来たのだろう。

 

「いらっしゃいま……あっ、小町ちゃん!」

 

 すかさず由比ヶ浜が接客しようとして、その人物が小町だったことに気付いてニコニコしながら手を振っていた。

 

「やっはろー、小町ちゃん!」

「やっはろーです、結衣さん! 葉月ちゃんと一緒に遊びに来ちゃいましたー」

「こんにちわです! 馬鹿なお兄ちゃん、お兄ちゃん!」

 

 ナイスだ小町。

 天使が天使を連れてきた……というか三大天使が一つの場所に揃うなんて経験が二度も出来るなんて感動だ……トツカエル、コマチエル、ハヅキエル……見ているだけで癒される。

 

「小町ちゃんが葉月を連れて来てくれてたのね……ありがとう」

「いえいえ! これも未来の義姉ちゃん候補の為ですよ!」

 

 ニヤニヤしながらそんなことを言っている小町。

 

「貴様ぁ! 妹を使って羨まけしからん状況を作ろうとしているとは何事かぁ!!」

「いやそれ俺何もしてないからね? 小町が勝手にやってることだからね?」

 

 激しく暴走する吉井を言葉でねじ伏せておく。暴れられると正直面倒臭いし。

 というか島田や由比ヶ浜がさっきから俺と顔を合わせようとしてくれない。あと材木座。お前は隅に隠れるな。かえって目立つ。

 

「今日一番最初のお客さんがお二人なんて嬉しいなぁ」

「ありがとうございます戸塚さん! ところでうちの愚兄は何処にいるのですか?」

 

 俺の目の前でキョロキョロと辺りを見渡している小町。おいちょっと? それ本気でやってるのん? 妹に気付かれない程のメイクって木下のやつ本気出しすぎてない? 

 

「いや、小町ちゃん……小町ちゃんの目の前にいるよ?」

「へ? …………へ!?」

 

 吉井に指摘されて、わざとらしく驚いている小町。そんなに驚くことか……? 

 

「ま、まさか!? 普段はあんなに目が腐っているごみいちゃんが、ここまでイケメンさんに変わっているなんて……!? 正直、今だけはお兄ちゃんの妹でよかったって思いました」

「待って。いつもはどうなの? お兄ちゃんちょっと怖いよ?」

 

 速報:実の妹に普段は苦労かけさせられていると間接的に伝えられる兄が現れた。というか、俺だった。

 

「お兄ちゃん……とってもかっこいいです……でも、葉月には心に決めた馬鹿なお兄ちゃんが……っ!」

 

 まじ? 葉月にそう想ってもらえるならば俺は今のままで居続けようかな。

 

「……いくらハチでも、それだけは駄目よ……うん、駄目なんだから……かっこいいけど、他の人にもそんな感じで見られると……」

 

 後半何言っているのか聞き取りづらかったが、少なくとも島田の言葉は俺にとって聞いちゃいけない気がする物だった。誤解が生じそうだ……。

 

「とりあえず後がつっかえるのもあれだから、戸塚。席に案内してくれるか?」

 

 この中では冷静に動ける戸塚に対してお願いする。戸塚に願うなんて、何という高尚なことだろうか。

 

「わかったよ、八幡! では二名様、こちらへ!」

 

 戸塚に案内される形で、小町と葉月の二人は席へと着く。それにしても最初の客が身内でよかった。多少のミスがあったとしても、小町と葉月なら笑ってスルーしてくれるのではないだろうか。これが他の人ならば流石にそうもいかない所だからな……。

 後材木座。いい加減お前はそこから出ろ。それか厨房行け。

 

「それじゃあ……このおすすめセットで!」

「私もそれにするですー!」

 

 胡麻団子と烏龍茶のセットで、お品書きには『オススメセット』と書かれている。最初は何故か店の名前を冠して『ヨーロピアンセット』にしようと吉井が言ったのだが、それでは中華なのか洋風なのかわからなくなる為に却下した。そもそも今回の店の名前自体、吉井が書記を勤めた時に意味不明にまとめた、中華喫茶『ヨーロピアン』という名前になっている。一度あいつの思考回路がどうなっているのか調べてみたくなったわ。

 

「そういえばお兄ちゃん。来る途中に張り紙あったけど、ミスターコンテスト出るの?」

 

 小町からそんな話題提供がなされる。

 坂本が二大イベントって言っていただけはあるな……一応しっかりと宣伝はしてるのね。

 

「不本意ながらな……」

「えっ!? あのお兄ちゃんが!? そういうイベント毛嫌いして見ようともしないごにいちゃんが!?」

「流石俺の気持ちを読んでいるだけのことはあるけど、ごみいちゃんはやめような?」

 

 流石我が妹。普段ならば出るはずもないイベントに出ると言っただけでこの反応。俺の妹でなかったら出来ないね。

 

「ということは、優勝して誰かと行こうってことなのかな?」

 

 ニヤニヤしながら尋ねてくる小町。何故か島田や由比ヶ浜が期待の眼差しを向けているが、万が一俺が優勝するという手違いがあった場合、ペアチケットをどうするのかは既に決めている。

 

「安心しろ、小町。俺がもし優勝してしまったら、手に入れたチケットは次の瞬間に俺達の小遣いになってるから」

「……………………はぁ。これだからごみいちゃんは」

 

 解せぬ。

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