そんなわけで僕たちは今、一年J組の教室の前に居た。コンテストの前だけど、どうしても雪ノ下さんのクラスに訪問したくて、こうして先に来たってわけ。何せメイド執事喫茶だからね。可愛い子はみんなメイドさんやっているわけだから、滾るよね! これで盛り上がらなかったら男が廃るってものだよ!
「……ここが国際教養科の教室か。んで、どうする? 帰る?」
滾るどころか帰りたがっている人が居た。というか八幡だった。八幡ってば相変わらずだ……こうして目的地に着いたっていうのに、入りもせずに回れ右をしようとする人がいようとは……。
「ハチ。流石にそれはないよ……なんの為にここに来たの?」
「え? 見に来るためだろ? そして見たじゃないか。目的は達成したんだし、帰宅でいいのでは?」
「……………………ハチ、それ、本気?」
「ヒッキー……流石にそれはないよ……」
もしかして八幡にとって『見る』というのは建物を見るだけなのかもしれない。何それ悲しすぎない?
「さ、八幡。中に入るよ」
「…………うす」
観念したのか、八幡は渋々といった感じで僕達の後を着いてくる。ちなみに、僕と由比ヶ浜さんが先に入り、八幡の後ろには美波がついているという完璧な布陣。こうでもしておかないと、いつの間にか八幡がいなくなったっていう事態になりかねないからね……。
そうして扉を開けた僕達を待ち受けていたのは……。
「おかえりなさいませ……むむ、君は吉井君じゃないか」
完璧な執事服に身を包みながらも、何故か僕を見て顔を赤くしている久保君だった。
「あれ? ヨッシー知り合いなの?」
そういえば由比ヶ浜さんってなんだかんだで久保君と話したことはなかったよね。
それは美波も同じみたいで、首を傾げている。
唯一、八幡だけは久保君を見つけるとあからさまに嫌そうな表情を浮かべていた。
「君は比企谷君じゃないか……どうして吉井君と一緒に行動している?」
「いや、クラスメイトで同じ部活に入っている奴だからな……俺だって不本意ながらこうして着いてくるしかなかったってわけだ。何故かこの後のミスターコンテストにも出場することになっているしな。吉井も」
「なん……だと……!? 吉井君もあのコンテストに参加するのか!?」
そこまで驚くことなのかなぁ。
久保君の背中に雷が落ちたのが見えた気がするよ。
「まぁ、うん。そうなるかな?」
「なる程……文化祭という行事は思い出を残すという意味でも貴重なもの。是非ともその実力を思う存分発揮するといいよ……ところで衣装はセーラー服とかかい?」
「僕を何だと思っているの!?」
なんで僕がセーラー服を着ることが周りで大前提になっているのさ!?
明らかにおかしいでしょこれ!?
「……今回ばかりは吉井に同情するが、結果的にお前が色物枠なのは変わらないと思うぞ」
「フォローするのか落とすのかどっちかにしてくれないかな!?」
※
兎にも角にも、僕達四人はJ組の執事メイド喫茶に入店することが出来た。
周りには結構多くの客が居て、盛り上がっているように見える。
メイドさんも執事さんも、みんな似合っていて何より。特にメイドさんは古きよき清楚系。ミニスカメイドもエロくて最高だけど、旧式メイド服は美しさと儚さを際立たせるよね。秀吉は当然ミニスカメイドだけどね。姫路さんにはどちらかというと旧式の方を着てもらいたいかもしれない。
「……いらっしゃいませ」
僕達の所に現れたのは、メイド服に身を包んだ霧島さん。
黒と白で彩られたメイド服は、霧島さんのスタイルの良さを存分に際立たせている。まるでそこにお人形さんが居るような美しさ。絵画にしてもいいのではないかと思われる程。
「霧島さん、凄く綺麗……」
「お、おう……」
「いいなぁ……」
そのすごさに、みんな感嘆している様子だった。あの八幡が動揺するレベル。
正直、僕としては雄二が羨ましすぎる。
こんなにも綺麗なメイドさんにご奉仕してもらえる未来が待っているなんて……!!
「……後で雪乃も呼ぶ。今はとりあえずご注文を」
慣れた手つきでメニュー表を差し出す霧島さん。
だけど……。
「……ん?」
何故か、メニュー表の下に更にもう一枚メニュー表を抱えているように見えた。
それも……『坂本雄二様専用メニュー表』と書かれていた気がする。
「霧島さん、そのメニュー表は……?」
「……これは何でもない。吉井、ご注文を」
流されてしまった。
うん、確かに今は雄二が居ないからね……一体どんなことが書かれているのか凄く気になる。
「とりあえず僕は水で」
「アキ……それは注文とは言わないわよ?」
美波が呆れたような眼差しで僕を見てくる。
いや、だってお金ないんだもの。
「私は、ミルクティーとチーズケーキで!」
「珈琲。ここに練乳はあるか……?」
「珈琲二つ。それとショートケーキ……アキの分の珈琲はウチが払うから気にしないで……って、ハチ? 珈琲に練乳って……?」
さり気なく美波が僕に奢ってくれる宣言をした所で、八幡が謎に珈琲に練乳をつけたそうとする所業。
八幡は目を丸くしながらも。
「知らないのか? マックスコーヒーには練乳が入っているんだぞ。少しでもその味に近づけようとだな」
「……ごめんなさい。練乳は置いてない」
八幡の夢は、霧島さんの一言によって打ち砕かれたみたいだった。
「……仕方ない。ミルクと砂糖多めで」
「……少々お待ちください」
八幡、少し悲しそうだったな……仕方ないとは思うけど。
注文を受けた霧島さんは奥の方に引っ込んで、程なくして一人のメイドさんが僕達の所へ品物を届けに来てくれた。そのメイドさんこそ……。
「お待たせいたしました……」
あの、雪ノ下さんだった。
「「「「……」」」」
正直、雪ノ下さんのメイド服姿は完璧だった。
着こなし、見た目、雰囲気。
すべてが清楚系。古き良きメイドとしての出で立ち。
そう、これこそが完璧なメイド……!!
「貴方達本当に遊びに来たのね……三人と……ええと、そちらにいる目の腐った方はどちら様でしょうか」
「おいあからさまに俺だけ除外しているんじゃねえぞ雪ノ下」
やっぱり雪ノ下さんはいつもの調子だった――。