やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第二十三問 会場は熱狂に包まれ、彼の気持ちは冷えていく。 (5)

 男一人に女二人というのは、多くの者達が羨むだろう状況に違いない。実際そういう現場を何度か目撃した際にはリア充爆発しろと何度頭の中で考えたのか分からない。しかしそれは物語の世界の中でのこと。現実にそんなことが──しかも自分の身に降りかかってきたら、ストレスで胃に穴が開きそうになる。何故かよく分からんが、一色と留美の二人にはバチバチとした何かが見えるような気がするし、そもそもこんな光景を知り合いにでも見られたら誤解されかねない。とりあえず隙を見て小町には居場所を連絡しておいたので、早いところ留美を引き取って欲しい。そして一色の友人らしき人物よ。一刻も早くコイツをこの場から離してくれない? 八幡、そろそろ泣いちゃうよ? 

 

「八幡。小町さん達と合流出来るまでは一緒にいて。小町さんと連絡とってる八幡といた方が合流しやすいし、その方が合理的でしょ?」

「せんぱいは私のことを案内するという役目があるので忙しいんですよー。それに、せんぱいから連絡先を聞いて留美ちゃんが連絡取るって手段もあるよね?」

 

 いや何互いに鬩ぎ合ってるの。俺を挟んでキャットファイト始めないで欲しいんだが……どうでもいいけど、キャットファイトって字面可愛いよな。猫の戦いって書くと途端に泥臭く感じるのに、横文字の力というものは不思議だな。

 

「「……」」

「なんだよ」

 

 何故か二人は呆れた表情で俺の顔をじっと見ていた。何、俺の顔に何かついてる? 腐った目を含めた顔のパーツしかついてないはずよ? 

 

「いえ、なんといいますか……今わりとどうでもよくてバカバカしいことを考えていたんじゃないかなーって思いまして」

「八幡、顔に出てた。ちょっと……あまり良くない笑い方してる」

「え、まじ」

「「マジ」」

 

 キャラ忘れてんぞ一色。

 あざとい猫被りキャラで定評のある(出典:俺)一色が素になってしまう程の笑顔って何。そんなに破壊力あるの? 俺のスマイルはアイデンティティクラッシャーなのん? 何それ強そう。今度葉山が突っかかってきたら使おうかな。いや、やめておこう。そもそもそんな状況なんて浮かばないし。

 

「せんぱいって、何考えているのか分かりづらそうに見えて、話していると意外と何考えているのか予想出来るといいますか……いえ、時々かなり予想外なことも飛んでくるのですが……」

「分かる。特に変なこと考えている時はすぐに顔に出る。だけど肝心なことはいつも隠しちゃって分かりづらい。もっと言ってくれてもいいのに……」

 

 待って。待ってください。

 これなんて公開処刑ですか? 

 一色や留美の口から語られることは、一々俺の心をダイレクトに突いてくる。何、この子達は俺のファンか何かなのん? いやそれはないか。一色は葉山のことが好きだと公言しているし、留美に至ってはまだ小学生だ。近しい友人といえる人間が少なくて、距離の詰め方に困惑しているだけだろう。良かった。勘違いしないで済む。いや勘違いも何もないんだが。

 

「……本当、せんぱいって時々、超が付くほどの鈍感なんですから。そんなんじゃいつまで経っても彼女の一人も出来ませんよ?」

「放っておけ」

 

 何故中学生の後輩にそんな心配されなくてはいけないのだろうか。

 

「……大丈夫。もし八幡に彼女が出来なかったとしたら。私が養ってあげるから」

「待ってくれ。それ付き合う以上の問題に発展してるから」

 

 後、留美と俺の歳の差っていくつだよ。いくら俺でも年下の女の子に養ってもらう気は……ないと言ったら今までの生活がおかしいことになってしまう。そもそも現段階で中学生の妹に家事全般をまかせっきりになっているこの体たらく。少しは俺も何とかしなければ、専業主夫の夢も遠のいてしまうか。このままではニート街道まっしぐらである。働きたくないでござる。

 

「留美ちゃん。それはいくらなんでも駄目だよ~。せんぱいはしっかりと自立しなきゃいけないんですから」

「どうして? 八幡の将来の夢は専業主夫。それなら、私がしっかりすればいいだけ」

「その為に留美ちゃんが犠牲になる必要はないって言ってるんですよぉ。その点私ならば、サッカー部のマネージャーやってたりするので誰かのマネジメントをする上では立候補出来ちゃいますね。あ、でも私の本命は葉山先輩なので、その為にもせんぱいに練習台になってもらうのもありかもしれませんね♪」

「練習台なんて八幡が可哀想」

 

 もしもーし? 本人の意思を介さずいきなり喧嘩おっぱじめるのをやめてもらってもよろしいでしょうか? さっきから俺の思考が追い付けなくて困っているのですが。

 

「まぁ、今更せんぱいに何か言った所で無駄に終わりそうな気がするので、ここまでにしておいてあげましょう」

「なんで上から目線なんだよ一色。それに俺達の関係なんざまだ半年も経っちゃいねぇだろ」

「その割には密度が濃い気がしますね♪」

「……気のせいだろ」

 

 一々こうやって核心突こうとしてくるの本当止めて欲しい。心臓に悪いし。

 

「私もそろそろ友達待たせちゃまずいので、失礼させてもらいます~。留美ちゃんのお迎えも来たみたいですし」

「「へ?」」

 

 見ると、確かに小町と葉月がこっちに迫ってきているのが見えた。なる程、ようやっと追いついたって所か。連絡しておいた甲斐があったみたいだ。その様子を確認した一色は、颯爽とその場を後にする。嵐のような時間は過ぎ去ったみたいだ……心労が一つ消え去った。

 

「ごみいちゃんってばこんな所で留美ちゃん待たせちゃって何してるのさ。エスコートの一つもしないで困ったお兄ちゃんだよまったく」

「エスコートってなんだ。一応俺はクラスの方もあるから、そう長く付き合えないんだよ」

「仕事終わったんじゃないの?」

「坂本から手伝えっていう要請入ってんだ。忙しくなってきたんだと」

 

 事実、小町に連絡する時に携帯を確認したら、坂本からSOSが入っていた。シフトは終わったというのに働けなんて……ブラック企業として名前が載るのも間違いなしではないだろうか。

 

「なるほどね。そういうことだったら、任せといてよ。後で三人で様子見に行くから」

「なら手伝ってくれ」

「葉月お手伝いするです?」

「……わりぃ。さっきのはなかったことにしてくれ」

 

 葉月は素直だから、手伝ってくれと言ったら本当に手伝ってしまいそうだ。小学生の女の子相手に、店番を手伝わせたという事実が知れ渡ったら……何より、自分の妹にそんなことを要求したと島田にバレたらただじゃ済まない気がする。アイツ、普段は優しいのに怒る時にはきっちり怒ってくるからな……俺の母親か何かかな?

 

「それじゃあ、いこ? 留美ちゃん!」

「……うん」

 

 葉月の笑顔につられたか、あるいは別の感情からか。留美は葉月の手を取り、しっかりと握った。

 あぁ、なんだか癒されるわぁ……さっきまで殺伐としてたからこんな小さなやり取り一つでもほっこりする。

 

「お兄ちゃん。顔がだらしなくて溶けちゃいそうだよ」

「溶ける顔って何」

「今みたいな顔」

「さいですか」

 

 こうして、文化祭一日目は幕を下ろす。

 

 余談ではあるが、あの後しっかりと雪ノ下さんに捕まり、小一時間ミスコンでのことについて問い詰められた。俺は悪くねぇ。解せぬ。

 




駆け足気味ですが、ようやっと文化祭一日目が終わりました。
……え? 12月中書いていてやっと文化祭一日目が終わった?
この調子で書き続けていたら完結は何年後になるんですかね……。
とりあえず、2019年の更新はこれにて終了となります。
次回は来年1月6日を予定しております。
これからも何卒よろしくお願いいたします!!

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