そして始まったミスターコンテスト。昨日のミスコン程ではないにしろ、やっぱり目玉企画ということもあって観客は比較的多めである。ミスコンと違って一般参加枠がないのが特徴だ。そもそもどれだけの人達がミスターコンテストに参加するのかまだ分からないから何とも言えないけど、やはりミスコンとは違うのだなぁという感触がある。ちなみに、ミスコンと違ってミスターコンテストでは、アピールするのは自分達となる。特に司会者から質問されるとかではなく、壇上でのアピールについては自由だということだ。ここもやはりミスコンとは違う所だろう。
とはいえ、男子は目立ちたがりも多いからなぁ……わざわざテンプレに沿ったアピールをするよりも、独自のアピールを見せた方が輝くのかもしれない。例えば葉山君なら持ち前のサッカーの実力を発揮するとか、ムッツリーニならば写真テクニックで魅了する……とか?
もし普通に僕が参加するとなれば、僕に合った作戦とか色々考えていたかもしれない。
だけど、僕はこのミスターコンテストでやるべきことがある。まずはそっちの方を考えなければいけない。
「見ていてくださいね、城廻さん! このコンテストで優勝して、良い所見せてやりますよ!」
ん?
考え事をしている内に、僕の耳に聞き慣れた声が飛び込んでくる。
「おい常村。抜け駆けはよくないぞ! 俺だって頑張るから!」
「夏川。男はスピードが命なんだよ!」
「あ、あはは……二人とも、頑張ってね!」
「「は、はい!」」
常夏コンビと、城廻先輩?
そういえば三人はクラスメイトだったっけ。
……待てよ? もしかしたらこれは使えるかもしれない? だけど、もし今僕がやろうとしていることを実現するのなら、協力者が必要になってくる。ある意味八幡からの受け売りではあるけれど、これなら姫路さんを泣かせたあいつらに一矢報いることが出来るかもしれない。そんな事を考えながら、僕は朝に八幡に言われたことを思い出す。
※
「あいつらがやろうとしているのは、吉井の悪い噂を学校中にばら撒こうというもの。恐らくそこに深い理由なんて存在しないんだろう。強いていえば、ストレス発散と……嫉妬だろうな」
文化祭開始前。教室への道のりを歩きながら僕と八幡は会話をしていた。その内容は、さっき姫路さんの前で常夏コンビがやろうとしていたことについて。校門のところでもある程度話したから、あの二人組が何を企んでいるのかは理解したけど、理由の中に嫉妬が入っているというのはどういうことなのだろうか?
「嫉妬って……まさか365度美少年の僕の魅力に!?」
「実質5度の微少年である話は置いておくとして」
「冷静に悲しいツッコミ入れないでよ!」
間違えただけじゃないか!
そんな僕の嘆きなどいざ知らず、八幡は話を続ける。
「お前はたまたま運が悪かったと言ってもいい。例えるなら、青信号でお前が渡ろうとしていた所をトラックが突っ込んできて轢かれた……言うなれば、お前自身は何もしてないのに、相手がお前の行動や状況を見て勝手に嫉妬したんだよ。抑圧された何かを発散する先としては、諸々吉井がうってつけだったんだろう」
「どういうこと?」
何となく、僕は何もしていないってことだけは分かった気がするんだけど……それ以外の情報についてが全く頭に入ってこない。八幡ってば時々難しい言葉を使うんだよなぁ……よく由比ヶ浜さんと僕の二人で首を傾げる場面が増えてきているのはその為だと思う。何故か雪ノ下さんや美波は八幡の言うことを理解出来てるみたいだけど。
「……端的に言えば、お前がとある人物と仲良く話しているのが気に食わないだけだ」
「とある人物?」
「お前にとっては先輩だが、あいつらにとっては同級生。それでいてお前が話したことのある先輩なんてそう多くはいないだろ。他の部活に入っていたらともかく、俺たちの部活は奉仕部。上の学年は存在しないからな……となれば、自ずと答えは見えてくるはず」
えーと、僕にとっては先輩だけど、常夏コンビにとっては同級生……僕の一個上で話したことのある人って言ったら……。
「まさか、城廻先輩?」
「そういうことだ」
つまり僕は、城廻先輩と話していたから常夏コンビに目をつけられた、と?
「馬鹿馬鹿しすぎない?」
「人間なんて案外そんなものだろ。少しでも気に食わない事があるとすぐにコミュニティから排除しようとする。そうして安心感を得ようとするのが人間なんだよ」
「それにしたって、誰が誰と話そうが仲良くしようが勝手じゃないか!」
「だろうな。だが、それと同時に誰がどんな理由で人を憎もうとも止める術はない。そういう意味でお前は事故に遭ったようなものなんだ」
それじゃあつまり、ただそれだけの為に姫路さんはあの二人に流されたということになるのか……?
──許せるわけがない。
「八幡。あいつらに対して反撃する方法ってあるかな?」
「……手段はまだ浮かばないが、どんなことをすればいいのかならば分かる。それでもいいか?」
「構わないよ。手段は後で考える。だから教えて欲しい……どんなことをすればいい?」
もしかしたらこれは、単に僕の自己満足になるのかもしれないけれど、それでも姫路さんを泣かせてしまった事について少しでも報いる事が出来るのならば、構わない。
「あいつらがやろうとしたことは、噂を流すこと。人の噂ってのは、取り消そうとすると一苦労だが……新たな噂で塗り替えるなら手っ取り早い。そして噂というのは、証人が多くいればいる程より確実なものとなる」
そして八幡はこう言った。
「大多数の前でとびきりの噂になり得る何かをする事が出来れば、少しでも奴らに一矢報いる事が出来るんじゃないか」