最新話です!
「……」
呼び止めた本人である島田は、必死に言葉を選んでいる様子だった。そもそもなんで島田が俺を呼び止めたのかは分からないが。
その姿からも察するに、きっと島田はまだ日本語に慣れていないせいで、普通の日本人が話している位のスピードで話されると混乱してしまうのだろう。日本人が外国行った時に現地の言葉が理解出来なくて混乱するのと同じだ。その上吉井はさらに訳のわからない言語を載せてきたというわけか……通りで島田がパニックになるわけだ。
「吉井が言ったこと、調べた方がいいぞ」
「へ……?」
聞き取れるようにゆっくりと話す。ただしこれだけだと何が何だかわからない筈だから、さらに付け足さなくてはいけない。
「フランス語で、吉井が言ったこと、調べてみろ」
「フランス、ご……?」
案の定キョトンとしている。
そりゃそうだ。事情を聞いた時の俺も『何やってんだこいつ』と思った位だからな。
「アイツバカだから、島田が何処から来たのか、分からなかったらしい」
長くし過ぎても伝わらない。
自分でも何故こんなことしているかはあまりよく分からないけど、島田が勘違いしているのならば直してやらないといけない。
あぁ、吉井に頼まれたからやってるんだろうな。頼まれた以上、責任は遂行しなくてはいけない。
「だから、吉井の言ったこと、調べてみて欲しい」
多分これで伝わっただろう。これで島田や吉井を巡る問題は解決する筈。後は島田がフランス語で調べて、吉井の真意を掴む事が出来ればいい。それで二人は友人同士。めでたしめでたしって話だ。
島田が俺を呼び止めたのも、吉井や坂本と俺が話していたからだろう。しつこく話しかけてくるクラスメイトが、登校初日の俺に話しかけていたのだ。何となく気になっただけなのだろう。
だから勘違いしてはいけない。そこに深い意味なんて存在しないだ。勘違いをして黒歴史を量産するのは間違っている。
「あっ……」
だから、島田が何かを言おうとしたのも勘違いだ。その相手は俺じゃない。俺であってはならない。
結局俺は、島田の制止を振り切ってその場を後にした。
※
長かった一日もようやく終わり、放課後。HRが終わるのとほぼ同時に教室を出た俺は、そそくさと下駄箱の方まで向かっていた。一刻も早く家へ帰って小町に癒されたい。登校初日のくせに色々あって普通に疲れた。
自分の下駄箱から靴を取り出し、履き替えようとしたところで、
「ま、まってクダサイ!」
背後から声が聞こえてきた。何処となく聞き覚えのある声だが、きっと俺のことではないだろう。下校時刻だから周りに生徒はたくさんいるし、ほら、誰か呼ばれてるみたいだぞ。早く足を止めてやれ。
「とまってクダサイ! ヒキガヤ!」
ヒキガヤさん呼ばれてますよ。ん? なんか俺と同じ苗字の奴がいるのか。先ほどよりも声が近くなってるから、きっと呼ばれている本人は俺の近くにいるのかもしれない。
「うぉっ!」
その時、突然腕をグイッと引っ張られた。突然過ぎる事に、俺は身体のバランスを崩しそうになる。なんとか堪えて後ろを振り向いたら、
「お、おう……島田」
そこには、少し怒ったような表情を見せた島田がいた。というか俺のことを呼んでたのな。今までそんな経験なかったものだから、てっきり他の人を呼んでるのかと思って反応出来なかった。面倒だったとかじゃないのよ? 本当だよ? 八幡ウソツカナイ。
「お礼……まだ言えてなかったカラ……」
島田は俺の目をじっと見つめながら言う。
別に俺は、礼を言われるようなことなんで何もしていない。ただ事実を伝えて、行動を促しただけだ。何処ぞの誰かの台詞を借りるのならば、勝手に助かっただけ。
「ありがとう……比企谷」
「……別に俺は何もしてない」
行動を起こしたのはあくまで吉井だ。俺の行動は手助けにすらなってない。
けど、島田がこうして俺に感謝の気持ちを伝えてきたということは、多分吉井の言っていたことを理解して、友達の関係になったのだろう。
俺はそれが、少し羨ましいと思った。そこにあるのは利害関係からくる仮初めの関係ではなく、言葉で言い表すことが難しいが……『本物』であるように感じられた。きっとこいつらは、これから先も友達であり続けるのだろう。それは悪いことなどではなく、むしろ良いことだと思う。
「ううん……ウチね、比企谷がいなければ、ずっとひとりぼっちだった……」
「……それは違う。お前は決してぼっちになんかならなかった」
遅かれ早かれ、手を差し伸べてくれる人がいるのだとすれば、そいつはきっとぼっちにはならないだろう。
だから、コイツと俺は違う。
俺はぼっちだと言い切れる。俺にそんな物好きな奴はいない。
「島田が気付けたから、今の状況を脱しただけだ……それ以外の何物でもない……じゃあな」
「あっ……」
俺はそのまま駐輪場へ向かう。
このままいたところで話は進まない。
島田は一歩前進して、俺はただその場に立っているだけのこと。
これから一体どんな生活が待っているかは知らないが、俺はきっとぼっちであり続けるはずだ。
「あ、あの!」
そんな俺の背中に投げかけられる、島田からの言葉。もう何も言うことはないはずなのに、まだ島田は俺に言葉をぶつけようとする。これで今回の件は終了だと気を抜いていた俺は、完全に油断してしまっていた。
「ウチと! 友達になってくれませんか!?」
その一言をきっかけに、俺の高校生活は当初の予定とずれ始めた。
やはり、俺の高校生活は間違えているのかもしれない。
というわけで、『第一問 こうして、高校生活が始まる。』は終了です。
次回は吉井明久視点での話が始まります。
一応当小説についての予定ですが、エピソード毎に一人、必ず誰視点にするか決めようかと思います。なので、その話の間は、特別な事情が起きない限り視点変更はありません。