「あ、八幡! やっと見つけたよ!」
あの後少し気になって探してみたら、いつも通りの場所で本を読んでいた。やっぱり八幡はよくここに来るよね。お気に入りの場所なのかな?
「…………なんだよ、吉井」
「すごいよ八幡。今物凄く目が腐ってる」
「これはいつもだ。余計なお世話だ」
溜息をつく八幡。
確かにいきなり目が腐ってるって言ったのは割と失礼かなぁって思わなくもないけど、そうでなくてもなんとなく歓迎されてない気がするんだよなぁ。
「HR始まっちゃうよ?」
「その時間くらい分かるっての……」
「どしたの? なんでそんな不機嫌そうなの?」
「なんでもねぇよ……」
それはなんでもある人の発言のような気がするよ。
「鉄人怒らせたら怖いよ?」
「鉄人って、西村先生のことか……?」
「うん。トライアスロンとかやってるんだって」
「マジでやってたのかよ……」
なんかポツリと八幡が呟いている。
「他にも、怒らせたらまずい先生の中には、平塚先生っていう女の先生もいるよ」
「平塚先生? ……てか吉井、お前無駄に教師について知ってんのな」
「雄二と一緒にバカやってたら色々目をつけられちゃってね……平塚先生からも鉄人からも目をつけられちゃってるところだよ……」
「そりゃご愁傷様。大半が自業自得だけどな」
「あ、そういえば平塚先生は八幡のことも気にしてるようだよ?」
「え、なんで」
あ、これマジで嫌そうな表情だ。
見知らぬ先生に『気にされてる』って言われるのは割と嫌なことなのかもしれない。
「なんか、先生方の話を聞いて、『社会に適応出来なさそうだな……』とか言ってたらしいよ」
「別に社会に適応しなくてもいい。俺の夢は専業主夫だからな。外に出なくても普通に生活出来る力があれば、社会に出なくても構わない。故に俺は問題ない」
「ん、んん?」
なんか八幡がドヤ顔しながら難しいこと言ってる気がするぞ。頭から煙が出そうだ!
「……お前、やっぱバカだろ」
「なんでさ!?」
「いや、なんつーか……もう話の最初の方で分からなそうな顔してたぞ」
実際八幡が難しい話をし出したから、ほとんど理解出来なかった。いやぁ流石は八幡。とても頭がいいんだね!
「って、そんなことを言いに来たわけじゃないんだよ!」
「なんだよ……」
面倒臭そうに睨んでくる八幡。
けど、これはどうしても言わなくちゃいけないことなんじゃないかなって思ったから。
「由比ヶ浜さん、八幡と仲良くなりたいって言ってたよ?」
「由比ヶ浜? 誰だそれ」
この人は本気で言っているのだろうか。
「クラスメイトだよ!? 胸の大きな!!」
「お前女子のこと見る時第一に胸で見てるのかよ……」
「そうじゃないけど、おっぱいなんだよ!」
「更に発言がバカになってるぞ」
溜息を吐く八幡。
そんなにおかしなこと言ってるかなぁ。
「つか、仮にそいつがいたとして、なんで俺と仲良くなりてぇんだよ。少なくとも俺はそいつのこと全くしらねぇし、第一俺はぼっちだぞ」
「八幡にお礼がしたいって言ってたよ? 八幡が何かしたんじゃないの?」
「いや何もしてないんだが……」
本当に心当たりがなさそうな八幡。うーん、やっぱりもう少し由比ヶ浜さんから聞かなきゃダメだったかな……。
「仮に何かをしたのだとしても、それで仲良くなりたいっていう理由にはならねぇし、本気で言ってるわけじゃないだろう」
「……?」
何だろう、今の八幡の言葉にはちょっと引っかかりみたいなものを感じる。なんというか、自分から周りを遮断しようとしているような……。
とここで、僕はもう一つ疑問が生まれた。
「ところで、島田さんとは八幡も友達になれたんだよね? 仲良く話してるみたいだしさ」
「…………」
八幡は黙り込んでしまった。
確かに今の話の流れとしてはおかしなものだったかもしれないけど、何となくこの質問はしなくちゃいけない気がしたんだ。
「……どこが仲よさそうに見えるんだ」
「だって毎回挨拶してるし、島田さんはいつも決まって八幡に話しかけてるじゃん」
「……隣の席だし、前にちょっとしたことがあったから、アイツが単に関わろうとしてるだけだろ。俺と島田は友人同士ってわけじゃない」
「そんなことないと思うんだけどなぁ……悔しいけど、僕よりも八幡の方が島田さんと仲良くしてるように見えるよ?」
「……確かに、島田から友達になってくれと言われた」
なんだ、やっぱり友達になってるんじゃないか!
だけど、八幡はどうにも浮かない表情を浮かべている。
「けど、俺はそれを断っている」
「えっ?」
それはあまりにも意外な言葉だった。
島田さんからの言葉を、八幡が断った?
「ただ、俺は思ったことを伝えただけだ。たまたま何かがあった。それで確かに島田は感謝している。ただそれだけの話だ。別に仲良くなりたいとか、そう言ったことを思ってるわけじゃないはずだ。第一俺と仲良くなって何になる? その由比ヶ浜ってやつに関しても同じだ。何があったのかは知らねぇけど、一時的に感謝をしてるだけだ。そんなの押し付けでしかない。それはそいつらのためにはならない。その由比ヶ浜って奴にも伝えておいてくれ。別に気にすることはない、って」
八幡は、今の言葉を本気で言っているのだろう。だけど、なんていうか。
「八幡……友達って言葉を難しく考えすぎてない?」
「は?」
「仲良くなりたいとか、一緒に居たいとか、そんな単純なことでいいと思うんだよ、友達って。損得とかそんなんじゃなくてさ、ありのままでいられることも大事なんじゃないかな」
「……」
八幡は目を丸くしていた。
そしてただじっと、僕の方を見ていた。
「……考えておく」
それだけを告げると、八幡はその場から立ち去っていく。
……って、
「待ってよ! 同じ教室なんだから一緒に戻ろうよ!?」
僕も慌てて八幡の後を追った。
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