昼休みのこと。
いつも僕は雄二やムッツリーニ、秀吉と食べる。今日も朝駆け足で作ったおにぎりを鞄の中から出して、雄二の所に行こうとしたその時だった。
「あっ……」
ふと、教室の入り口近くを見た時に、既にもぬけの殻となっている八幡の席と、そんな席を見ながら一人寂しそうに眺めている島田さんの姿があった。
やっぱり島田さんも八幡と仲良くなりたいんだろうなぁ……だけど、八幡が難しく考えすぎてるんだろうなって思う。
せめて少しでも気分が和らげばって思って、僕は先に雄二のところへ行き、
「ねぇ、雄二。今日なんだけど……島田さんも連れて来てもいい?」
と、提案してみた。
すると雄二は、
「ん? あぁ別に構わねぇけど……っ!?」
と言いながら、何故か辺りをキョロキョロと見回した。そして何事もないのを確認すると、
「あぁ、構わないぞ」
何故かもう一度そう言った。
「いや、雄二。今の何の確認?」
流石に気になった僕は尋ねるも、
「なんでもねぇ。ちょっと辺りを見渡しただけだ」
と、はぐらかされてしまった。
「とりあえず、ムッツリーニと秀吉連れて先に屋上で待ってるわ。お前も後から来いよ」
そう言って雄二は、秀吉とムッツリーニに声をかけ、昼ご飯を持って教室を出た。
さて、僕も島田さんのところへ向かうとしよう。
「島田さん!」
僕は昼ごはんの入った袋を持って、島田さんの元まで向かう。声に気付いた島田さんは、僕のことを確認すると少し笑顔になる。うん、やっぱり笑顔が一番だよね。
「どうしたの? 吉井」
あれから島田さんは、日本語を猛勉強しているとのことで、前までより更に日本語が上手くなっていた。それでも漢字とかはまだ弱いみたいで、時々現国の授業で頭を悩ませてるらしい。僕なんて世界史以外はほとんどちんぷんかんぷんなんだけどね!
「よかったら昼ごはんを雄二達と一緒に食べないかなーって思って。島田さんのこと、雄二達にも紹介したいって思ってさ」
「いいの……? ウチが行っても」
少し不安そうな表情を浮かべながら島田さんが尋ねてくる。そんな彼女を安心させるように、僕は言った。
「大丈夫だよ! 島田さんと一緒にご飯食べたいなって思ったから!」
「そ、そうなの……?」
前髪を弄りながら、照れた感じで島田さんは言う。あれ、なんかすごく可愛いぞ。
「あ……吉井。その、比企谷はいる……?」
「あー……」
やっぱり島田さんが気にしてるのは八幡だよね。たしかに八幡とも一緒に食べたいなぁって思うし、それは島田さんも同じことなのだろう。だけど、昼休みになるとすぐ教室を出てしまうのでなかなか誘えない。でも、居る場所は分かってるから声だけかけてみようかな。そしたら島田さんも喜ぶと思うし。
「一応声かけてみるよ。そしたら島田さんは先に屋上行っててもらってもいいかな?」
「うん。分かった」
さっきよりは元気になったかな……?
とりあえず島田さんには先に屋上に行ってもらうとして、僕は八幡を呼びに行かないと。
※
「八幡!」
この前八幡が昼ご飯を食べていた所に行ってみると、やっぱりそこでご飯を食べていた。
八幡は僕の声に気付いて……いない?
無視して黙々とご飯を食べ続けていた。
あれ? 本当に聞こえてないのかな?
「おーい、はちまーん。げんきー? きこえてるー?」
八幡の前に立って、顔の前で手を振ってみる。
「……何してんのお前」
不機嫌そうに、怪訝そうに、八幡は僕をジッと睨みつけて来た。
「いや、呼んだんだけど聞こえてなかったみたいだったから、大丈夫かなーって思って」
「あぁ、俺のこと呼んでたのね……」
「他に誰が居るのさ?」
「いるかもしれねぇだろ?」
「ここには八幡以外いないよ?」
「…………」
八幡は僕とのやり取りを終わらせると、残りのパンを一気に口の中に詰め込んで、マックスコーヒーと共に飲み込んだ。
そしてその場から立ち上がると、
「邪魔したな。それじゃ」
と言って、その場から立ち去ろうとする。
……って!
「ちょっと待ってよ八幡! 一緒にご飯どう? って誘おうと思ったんだよ!」
「……いや、俺たった今飯食べ終わったんだけど」
あれ? 本当だ。
それじゃあ昼ご飯一緒に食べられない?
「せっかくだから一緒に話さない? 島田さんも八幡と話したがってるよ?」
島田さんの名前を出した時の八幡は、少し目を鋭くさせた。
何だろう、八幡の気を悪くするようなこと言ったかな?
「……別に俺がいなくてもいいだろう。飯食い終わってるのに、食ってる奴らに混じって会話する意味も分からないし」
「ただ話をするだけでも面白いよ?」
「なら勝手にやっててくれ……」
そう言うと、八幡はこれ以上話すことはないと言わんばかりにその場から立ち去ってしまった。
うーん……一体どうしたら八幡と仲良くなれるんだろう?