やはりバカ達の青春ラブコメはまちがっている。   作:風並将吾

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第三問 そして、彼らは少女と出会う。(3)

「とりあえず、二人とも座ったら?」

 

 しばらくその場に突っ立っていると、雪ノ下から着席の御達しがきた。

 

「お、おう……」

 

 俺はその辺にある椅子を引っ張り出して椅子に座ろうとして、

 

「……いや、何やってんの?」

 

 地べたに座り込んだ吉井の顔を思わずまじまじと見てしまった。

 

「へ? いやだって、雪ノ下さんが座ったらって言ったから座っただけだよ?」

「普通に椅子使えよ……」

「あ、それもそうだね」

 

 吉井は座れと言われたら地面に座ってしまうような環境で過ごしてきたのだろうか。実はとんでもなく劣悪な環境で過ごしてきたとかないよね? 

 ふと前を見ると、雪ノ下も何か可哀想な物を見る目で吉井のことを眺めていた。悩ましいのかこめかみの部分を抑えている。今ならこいつと分かり合えるかもしれない。

 俺の言葉を受けた吉井は、近くにある椅子の山から適当に一つ取り出して、俺の隣に置いた。

 

「……え、何?」

 

 あまりにも当然すぎる行動に、俺は思わず椅子ごと少し横にずれてしまった。

 すると吉井は、

 

「へ? 八幡の隣に座っただけだよ?」

「他にも場所あんだろ……別に俺の隣じゃなくとも……」

「んー、それもそうだね」

 

 と言いつつ、先ほどよりも距離をとって、それでも俺の隣であることは譲らなかった。

 そんな様子を見た雪ノ下が一言。

 

「貴方達は一体どんな関係なの……?」

「ただのクラスメイトだ」

「友達だよ?」

 

 ほぼ同タイミングで、俺と吉井は全く違うことを言った。だからいつ誰が友達になったんだっての。そんな記憶はない。

 

「そう……」

 

 それ以降興味をなくしたのか、雪ノ下は深く聞くことはなかった。

 代わりに、

 

「あの、雪ノ下さん? ここって一体どんな部活なの?」

 

 恐らく俺と吉井が一番気になっていることを尋ねた。

 確かに、俺達は先生から何の説明も受けずにここまで来た。よって、俺達がこれから何をするのかは皆目検討がつかない状態だ。それなら当の本人に聞いてしまった方が早い。

 雪ノ下は読んでいた本を閉じ、

 

「……そうね。ではここが何部か当てるゲームでもしましょうか」

 

 何やらそんなことを言ってきた。

 なる程、ただ単に教えるつもりはないと言うわけね。

 

「他に部員はいないのか?」

「いないわ」

「え、それって本当に部活なの?」

 

 吉井がほぼ条件反射的にツッコミを入れていた。

 確かに一人だけの部活なんて異例中の異例だろう。

 だが、ここまで条件が揃ってくれたならば答えは自ずと見えてくるだろう。

 

「文芸部か?」

「その根拠は?」

「この教室がそこまで整理されておらず、部員が少なくても活動が出来、更にお前は一人読書をしている。以上の条件から文芸部と推察したが、どうなんだ?」

 

 さて、雪ノ下からの返答はと言うと。

 

「はずれ」

 

 ひらがな三文字による不正解宣告だった。

 

「それじゃあ……ぼっち部?」

「そんな部活は存在しないわ……あと私はぼっちじゃないわ」

 

 先程から吉井の発言に対してこめかみを抑える回数が増えてきている雪ノ下。

 いや、まぁ、うん……多少同情はする。

 

「降参だ。ここは一体何部なんだ」

 

 実質、もう俺も吉井も答えを用意できる状態にない。

 故に雪ノ下から答えを聞くしかなかった。

 雪ノ下は、俺達に向かって宣言した。

 

「ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ」

「「奉仕部?」」

 

 名前を聞いた所で、余計に何をする部活か分からなくなる。

 と、ここで吉井が一言。

 

「え、つまり雪ノ下さんがご奉仕するの!?」

「「……」」

 

 このバカは一体何を考えているのだろう。

 

「……比企谷君。この人は一体どんな生き方をしたらここまで愚かになるのか分からないわ」

「俺もたった今、吉井のことが心配になった所だ……」

「二人ともそれどういうこと?!」

 

 本当にコイツは入学試験を通ってきたのだろうかと心配になってくるバカさ加減だった。

 

「迷いし子羊を、善き羊飼いが救済する為の部活……常に結果を与え続けず、方法を教えてあげる。奉仕部というのはそういう部活よ」

「要は解決方法を提示するから後は自分で頑張れってことね」

「そういうことよ」

 

 さらに雪ノ下はこうも続ける。

 

「平塚先生からは、優れた人間は哀れな者を救う義務があると言われたわ」

「なる程。是非吉井を救ってやってくれ」

「なる程。是非八幡を救ってあげて」

 

 どうやらお互いをお互いに、哀れな者と認識しているようだ。

 

「私からしてみれば二人とも哀れな人間よ……」

 

 こめかみを抑えながら雪ノ下は言った。

 

「さて、平塚先生からの依頼は……比企谷君の捻くれ孤独体質の更生と、吉井君のバカさ加減を何とかすること、だったわね……とりあえず吉井君についてはGW明けまでに中間試験の範囲の問題を一通り終わらせなさい。その結果を次回持ってきて見せること」

「いきなり塾の先生みたいなこと言い出したよ!?」

 

 実際、それが定期的に行うことが出来れば吉井のバカさ加減は何とかなるのかもしれない。

 ある意味的確で、かつ、自身が行うことはほとんどない。

 この部活の理念に合ってるわけね。

 

「そして比企谷君の方だけど……貴方、こうして女子と話したのは何年振りかしら?」

「……待て、何年ぶりじゃねえ。ついさっきクラスメイトと会話してきたばかりだ」

 

 すると雪ノ下は、まるで可哀想な物を見る目をしながら、

 

「……可哀想に。頭の中にいるイマジナリ―フレンドとの会話を、『女子との会話』と称するなんて」

「おいそれあまりにも失礼過ぎるぞ」

 

 俺が女子と会話するのはそんなに想像つかないことですかね……俺も想像つかないわ。

 

「雪ノ下さん。八幡は隣に座っている島田さんと今朝話してたよ?」

「……島田さんって、島田美波さんのことね」

「え、知ってんの?」

 

 まさか名前を言い当ててくるとは思ってなかっただけに、少し俺は驚いた。

 

「えぇ。私、学年全員の顔と名前は覚えているわ」

「その割に俺と吉井のことは知らなかったよな……」

 

 深く聞いてはいけない気がした。

 

「それにしても、島田さんって確か帰国子女でクラスに馴染めていないって話だったけれど……まさか貴方がその手助けをしていたなんて……」

「……本当にお前、何でも知ってるんだな」

「……何を言っているのかしら、この男は」

 

 どうやら委員長ネタは通用しなかったようだ。

 いや、逆に通用してたらびっくりするが。

 

「ところで……さっきから更生するとか言ってるが、俺はそんなの別に求めていない」

「……変わらなければ社会的に生きていけないと言われているのに?」

「変わるだの、変われだの、他人に俺の『自分』を語られたくないんだっつの。人に言われた位で変われてしまうのなら、それは最早『自分』じゃない」

「貴方のそれは、ただ単に逃げてるだけよ」

「逃げて何が悪いんだよ。変わるっていうのは、現状からの逃げだ。本当に逃げないのなら、変わらないで立ち止まる方がよっぽどいいに決まっている」

「……それじゃあ悩みは解決しないし、誰も救われない」

「……」

 

 雪ノ下の目が変わった気がした。

 なんとなく、その言葉に重みがあったように思える。

 いきなりこんな所に呼び出されて、勝手に人のこと見定められて、面倒臭いことに巻き込まれて。

 先生も、雪ノ下も、一体何がしたいというのだろうか。

 

「ちょ、ちょっと二人とも! とりあえず一旦落ち着いて……」

 

 吉井が俺と雪ノ下の間に割って入ろうとした、その時だった。

 

「奉仕部という部活は、ここであっておりますの?」

 

 いかにも御嬢様口調をした縦ロールツインテールの女子生徒が、扉を開けて入ってきた。

 

 




ヒロイン登場かと思いきや、次回はバカテスからあのキャラが登場です!!
……いや、どうしてこんな展開になったのか、自分でも分からないんです(白目
そしてお知らせです!

祝!お気に入り登録数250突破!!
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本当にありがとうございます!!
これからも頑張って書いていきます!!

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