次の日の朝。
僕はいつものように登校した。
「よぅ、明久」
すると、真っ先に話しかけてきたのは雄二だった。
それにしても、雄二はもう学校来てたんだね。早いなぁ。
「おはよう、雄二」
「昨日の呼び出しは一体なんだったんだよ?」
そう言えば結局雄二達には何のことか全然説明してなかったっけ。
「えっとね、部活見学ってところかな?」
「部活見学? 明久が部活に入るのか? ていうか、比企谷もか?」
確かに、雄二が驚くのも無理はないかもしれない。
クラスでの八幡を見る限り、部活に入ろうとするタイプではないもの。少なくとも僕以上に部活動とか入らなそう。というより、集団行動を取ること自体嫌がりそう……。
「雪ノ下さんって知ってる?」
「……あぁ、国際教養科で成績トップの奴だろ?」
何だろう、一瞬間が空いた気がしたけど、気のせいかな?
「その人が部長を務めている『奉仕部』って部活なんだ。多分平塚先生が顧問やってるのかな?」
「奉仕部なんて部活があったのか……俺は初めて知ったぜ」
「僕も昨日初めて知ったよ。どうやら生徒達の悩み事とかを聞いたりするところらしいよ」
「なるほどな。そんで、悩み相談を受けて奉仕活動に従事しろってわけな。鉄人や平塚先生が考えそうなことじゃねえか」
「けど、部活に入るかどうかは自主性に任せるって言ってたよ?」
「そうなのか?」
意外そうな表情を浮かべる雄二。
そんなに意外なことなのかな?
「明久は問題児だからな。てっきり強制的に入れさせられるのかと思ってた」
「僕を何だと思ってるんだよ!?」
「え? バカ」
「酷くない!?」
雄二だって人のこと言えない癖に!
そんな会話をしていると、
「やっはろー!」
今度は由比ヶ浜さんが教室に入ってきた。
「やっはろー! 由比ヶ浜さん」
「おぅ、由比ヶ浜。おはようさん」
「おはよう! 吉井君、坂本君!」
相変わらず元気な挨拶だなぁ。
そんな由比ヶ浜さんは、僕の所に近づいてくる。
そして耳元で、
「ヒッキー、どうだった?」
と、聞いてきた。
そう言えば由比ヶ浜さんは八幡と仲良くなりたいって言ってたもんね。
「えっとね……そもそも八幡は何のことかさっぱり分かってなかったみたいだけど……」
「そうだったんだ……」
確か由比ヶ浜さんは、八幡に何かお礼がしたいって言ってたよね。
けど、八幡自身は何をしたのかさっぱり分かっていない様子。
というか、由比ヶ浜さんが一体誰なのかも分かってないよね多分……あ、そうだ!
「由比ヶ浜さん。もしよければ放課後、一緒に『奉仕部』に行かない?」
「奉仕部?」
由比ヶ浜さんはきょとんとしていた。
そっか、やっぱり奉仕部ってあまり知られてないみたいだね。
「僕と八幡が昨日行った所なんだけど、今日も行こうかなって思ってたんだ。それに、ちょっと相談したいことがあって人数が多い方がいいかなーって思ってさ。どうかな?」
「その部活って、ヒッキーもいるの?」
「うん、今日も行こうねって言ってあるよ」
「なら、行ってみる!」
由比ヶ浜さんは笑顔で返事した。
うん、やっぱり由比ヶ浜さんは可愛いなぁ……こんな可愛い子が八幡にお礼したいだなんて……何だろう、ちょっと羨ましいし、怒りがこみ上げてきそうだ。
八幡ってぼっちじゃないよね!?
「それじゃあまた後でねー!」
由比ヶ浜さんはそう言うと、葉山君や三浦さんのいる所に足を運んで行った。
そんな様子をじっと眺めていた雄二が一言。
「お前、由比ヶ浜と仲良かったっけか?」
「うーん、どっちかって言うと、八幡と仲良くなりたいからって感じ?」
「なるほどなぁ……本当、比企谷も隅に置けない奴だな」
「本当だよ!」
なんて会話をしていると、
「おはよう、吉井、坂本」
今度は島田さんが挨拶してきた。
最近、島田さんとも少しずつ話すようになってきた。島田さんも日本語の勉強を頑張っているみたいで、段々とクラスに馴染めるようになってきている。
「よぅ、島田。なんか少し不機嫌そうじゃねえか」
「別にそんなんじゃないわよ……」
「どうしたの? 島田さん。何か悩み事?」
島田さんが少し元気じゃない。
少し心配だなぁ。
「大丈夫よ。別になんてことないから」
「そっか……なんかあったら教えてね」
「……ありがと」
少し顔を赤くしながら、島田さんは自分の席に着いた。
何だったんだろう?
「……おはよう、明久」
「明久。おはよう」
「ムッツリーニに……秀吉!」
やった!
今日も朝から秀吉と会話することが出来てテンション上がってきたぞ!
「なんだかやけに嬉しそうじゃな……」
「もちろん! 僕にとって秀吉と挨拶するのはとても大切なことだからね!」
「ワシは男じゃぞ!」
「秀吉は秀吉だよ!」
秀吉は必死になって男であるアピールをする。秀吉は秀吉なのに、どうして分かってくれないんだ!?
「ところで明久。昨日の呼び出しは一体何だったのじゃ?」
「……謹慎ではなさそう」
「僕だってそこまで酷いことしてないからね!?」
ムッツリーニと秀吉にも、昨日あったことを説明する。
するとムッツリーニは、
「……国際教養科と言えば、雪ノ下雪乃と、霧島翔子のツートップ」
「あぁ、そう言えば成績トップの三人の内の二人じゃったな……って、どうしたのじゃ? 坂本」
雄二が少し微妙そうな表情を浮かべていた。
「ん? あぁ、何でもねぇよ」
「うーん……?」
雪ノ下さんの時にも引っかかってたけど、どちらかと言うと霧島さんに何か関係あるのかな?
けど、これ以上聞いても雄二は答えてくれなさそうだから後でゆっくり聞くことにしよう。
「お? 噂をすれば何とやら、みたいだぜ」
そんな空気を変えるように、雄二が扉の方を見る。
するとそこには、相変わらず気怠そうに入ってくる八幡の姿があった。
「お、おはよう! 比企谷!」
「お、おう……島田」
島田さんは笑顔で八幡に挨拶する。
八幡は若干どもりながらも席に着いた。
「比企谷、昨日の呼び出しは一体何だったの?」
「お、おう……ちょっとした呼び出しだ」
「それ、答えになってないと思うんだけど……」
「お、おう……」
ちょっと待って八幡。
なんで毎回会話の最初に『お、おう……』がくるの?
「アイツ、もしかして緊張してんのか?」
「……実は純情」
「そういうわけじゃないと思うのじゃが……」
うーん、やっぱり八幡の方から島田さんを避けてる気がする。
何かあるのかなぁ……後で八幡に聞いてみようかな。
考えていても分からなければ、聞いちゃった方が早いからね。
ところで、島田さんと八幡が話している姿を、由比ヶ浜さんがちらちら見ているのが気になる。
「結衣? どうしたし?」
「あ、ううん! なんでもないよ、優美子!」
三浦さんに指摘されて、由比ヶ浜さんは慌てて会話に戻る。
それでも八幡のことが気になってますオーラを消しきれていない気がするよ……。
「……意外にモテている。許すまじ」
「脅迫は辞めるのじゃ……」
秀吉には申し訳ないけど、今の僕はムッツリーニに大賛成だった。
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